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第二章
006 疑う理由①
しおりを挟むすっかり疲れて眠ってしまったリラを抱き上げ、ペジットはライムの隠れ家の前で家主と何かを話していた。
「お前が国王を……シルヴァリーを疑う理由はなんだ」
「俺の口から言っても信じないだろ」
ぶっきらぼうにライム。シルヴァリーが本当の国王ではないよそ者だということを説明しているようだった。しかしライム自身この正義心の塊に訴えかけたところで考え方が変わるとは毛頭思ってないようだが。
「当たり前だ。そもそも悪党の言うことなんて聞く前から切り捨ててる」
「だろ。でもアンタは俺たちを斬らなかった。リラを守ったセラルフィに恩があるからな」
当の本人であるセラルフィはここから少し離れた川の前で座り込んでいる。酷く疲れた様子だった。トトはセラルフィの元に行こうとしていたが、ライムが「そっとしておけ」の一言で留守番役を任されることとなった。
「……お前はストレートにモノを言うな」
「遠回しに言っても面倒だからな」
ライムの言った通り、ペジットは相手が誰であれ恩を仇で返すような人間ではなかった。妹であるリラをたった一人で守ってくれたのだ。だからライムの話も仕方なく聞いている。
「証拠は割と持ってるんだが、たぶんアンタの耳で直接シルヴァリーに訊いた方がいいだろ。俺が過去にあったことを全部言ったら『暗示をかけられた』とか言って言いくるめられそうだからな」
「訊くって何をだ? 俺はもともとシルヴァリーの下で動いてる一般兵だぞ」
首を振ってため息を吐く。もともと疑いを一枚挟んでこちらの話を聞いているのだから、否定的な態度を取るのは分かっていた。
ライムも適当に返す。
「逆に訊くが、その一般兵であるアンタはいつからそのシルヴァリーの下で働いてるんだ? どういう人間なのか知ってるのか? どうやってあいつが国王になったのか説明できるか? 俺の持ってる証拠品の中では国王とよく接触していたみたいだったぞ」
「…………」
「例えばアレだ。アンタと国王はだいぶ親しい間柄らしいから、国の後ろめたいこととか一つや二つあるだろ。そういうのは急に国王に成り代わった人間じゃ知らないことだ。後は自分で考えるんだな」
そう言って壁に体をあずける。腕を組んで諦め気味に笑った。
「ま、自分の社会的立ち位置も大事だからな。怖いなら無理に訊けとは言わないさ。どうするかは自分で決めてくれ」
しばし沈黙。ふと腕の中で眠っているリラを見やる。その腕に出来たアザに眉根を寄せた。
「……助けてくれたことは礼を言う。ただ、指名手配犯をかばうような真似はできないな」
「じゃあやっぱりシルヴァリーに付くんだ」
ライムは組んだ手を後頭部にあてがい、つまらなそうに言った。
「そんなことは言っていない。オレはもう上の奴らに顎で使われるつもりはなくなった。ライム。お前にあれこれ言われる前からな。だいたい想像はついてる。お前ら悪党は国王の首を取って何かしらの手段で国の主導権を握るつもりなんだろう? もっとも、その国王が悪党だったようだがな。だったら俺は俺のやり方で悪党共を根絶やしにするだけだ」
「……何をする気なんだ?」
「決まってる。シルヴァリーを討つんだ」
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