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第19話:いつもより二割増しな幼稚園児
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「すごい数」
俺とタケルさんが『キツネさんち』に入るなり、ちょうどギターを抱えて立ち上がったタクトが、タケルさんを見るなりそう言った。
「数?」
タケルさんが聞き返したが、タクトは珍しく背筋を伸ばし、ギターのシールドをぶらぶらさせたまま近寄ってきたので、俺は一歩引いた。
そして、まるで世界で一カ所の鉱山でしかとれない石を鑑定するような眼で、タケルさんの顔やら両手のひらやら指やらをなめるようにガン見していった。
「えっとー……」
「あ、タケルさん、気にしないでください。この生物は幼稚園児です。子供は興味を持ったものには歯止めが利かなくなります。そのうち飽きます」
「すごーい!」
俺が言い終えた瞬間、タクトは両手を挙げて例のごとく軟体動物のダンスを踊り出した。
「色の話? どんな色が見えたの?」
と聞いてみると、
「カラフルカラフル! こんなにいっぱい色持ってる人初めて見たあああ!! 凄いね! 僕の次に多い!!!」
なんか最後にマウント取ったか?
俺はタケルさんに、改めて水沢タクトと彼の共感覚を説明した。
「なるほど、興味深いね。実は俺、水沢タクトくんとは、会うのは初めてだけど、これまで何度か関わってるんだ」
「え?!」
これには俺も驚き、タクトもぽかーんとした。
「全部で五曲、一曲は採用されなかったけど、水沢タクト作詞作曲の曲を、ギターでレコーディング参加したことがある。一番最近だと、ムジナ村ブラザーズの『ケイオティック・トウキョウ・ナイトメア』、アレは最高だったね」
「ええええええ!!! アレってギターが超絶技巧で『弾いてみた』系の動画が全然ついていけなかったやつですよね?! アレ、タケルさんが弾いてたんですか?!」
「まあ、俺は七弦で弾くから六弦使いの奴らとは違うだろうけど、あんなに弾き甲斐のあるギターは久々だった。だから会えて嬉しいよ、タクトくん」
余裕の笑みを浮かべるタケルさんの爽やかさがまぶしさがまたかっこよかった。もう何なのこの人。
一方で、そんな超絶技巧曲の作曲家は、またじいいいいいいいっと音がしそうなほどタケルさんを見詰め始めた。
「……んと、結斗くん、これも幼稚園児モード?」
「……お、おそらくは……」
「はい! ありがとーございます!!」
突然タクトが叫んだ。
俺とタケルさんはもうついていけない。
「嬉しいです~、あの曲、ムジナ村の人たち全然弾けなくて、『もっと簡単にしてくれ』とかふざけたことを言ってきて、でも、も~う、そんなの僕は許せなくて、サポート雇ってでも完璧に再現しろって言ったんです~。それで完パケ上がってきた時にタカルさんのギター聞いてやっと満足できて~」
「タカルな! タケルさんだ!」
「だから、凄く感謝っていうかありがとうです~、うわぁ嬉しい~!」
タクトは酷く興奮した様子で、ギターを置いて部屋中を縦横無尽に踊り歩いた。
「かわいいね、タクトくんも。それにこの表だけど」
タケルさんはタクトの共感覚を表す例の画用紙の方へと歩み寄った。
「ここまで来ると圧倒的だね。俺の倍はある」
「え」
「うん、俺もちょっと共感覚あるから。でもタクトくんのとはほぼ真逆の色合いだね。それに俺のは和音しか色が出ないし、こんな複雑なコードまで見えない。水沢タクト、本当に天才的だよ。アキラと結斗くんに巡り会えて、ようやく自分の音楽を形にできるようになった。ますます進化するだろうね」
「ターカルさん! ここでは結斗くんではなくユウくんです!!」
「ん?」
「だから彩瀬タケルさんだぞ! タクト!!」
「早弾き勝負、勝った方が勝ち!!」
タクトはテンションが爆上がりしているに違いない。
あの七弦SG使いのギタリスト・彩瀬タケルに早弾き挑戦状?! アホか!!
しかし俺が思わずタケルさんを見遣ると、彼は口角を嫌み無くきゅっと上げ、
「俺、七弦でいいの?」
と乗り気で応えた。
——アキラ、早く帰ってきてくれ、お願いだ! 夜多少キツい体位でも耐える! このフリーダムな二人を止められるのはおまえしかいない!!!
「たーだいまー、あれ? タケ兄来てんの?」
「おう、今からタクトくんと早弾き勝負」
「へぇ、じゃあ俺カウントするわ。あ、結斗、ただいまー」
——止めろや!!
俺とタケルさんが『キツネさんち』に入るなり、ちょうどギターを抱えて立ち上がったタクトが、タケルさんを見るなりそう言った。
「数?」
タケルさんが聞き返したが、タクトは珍しく背筋を伸ばし、ギターのシールドをぶらぶらさせたまま近寄ってきたので、俺は一歩引いた。
そして、まるで世界で一カ所の鉱山でしかとれない石を鑑定するような眼で、タケルさんの顔やら両手のひらやら指やらをなめるようにガン見していった。
「えっとー……」
「あ、タケルさん、気にしないでください。この生物は幼稚園児です。子供は興味を持ったものには歯止めが利かなくなります。そのうち飽きます」
「すごーい!」
俺が言い終えた瞬間、タクトは両手を挙げて例のごとく軟体動物のダンスを踊り出した。
「色の話? どんな色が見えたの?」
と聞いてみると、
「カラフルカラフル! こんなにいっぱい色持ってる人初めて見たあああ!! 凄いね! 僕の次に多い!!!」
なんか最後にマウント取ったか?
俺はタケルさんに、改めて水沢タクトと彼の共感覚を説明した。
「なるほど、興味深いね。実は俺、水沢タクトくんとは、会うのは初めてだけど、これまで何度か関わってるんだ」
「え?!」
これには俺も驚き、タクトもぽかーんとした。
「全部で五曲、一曲は採用されなかったけど、水沢タクト作詞作曲の曲を、ギターでレコーディング参加したことがある。一番最近だと、ムジナ村ブラザーズの『ケイオティック・トウキョウ・ナイトメア』、アレは最高だったね」
「ええええええ!!! アレってギターが超絶技巧で『弾いてみた』系の動画が全然ついていけなかったやつですよね?! アレ、タケルさんが弾いてたんですか?!」
「まあ、俺は七弦で弾くから六弦使いの奴らとは違うだろうけど、あんなに弾き甲斐のあるギターは久々だった。だから会えて嬉しいよ、タクトくん」
余裕の笑みを浮かべるタケルさんの爽やかさがまぶしさがまたかっこよかった。もう何なのこの人。
一方で、そんな超絶技巧曲の作曲家は、またじいいいいいいいっと音がしそうなほどタケルさんを見詰め始めた。
「……んと、結斗くん、これも幼稚園児モード?」
「……お、おそらくは……」
「はい! ありがとーございます!!」
突然タクトが叫んだ。
俺とタケルさんはもうついていけない。
「嬉しいです~、あの曲、ムジナ村の人たち全然弾けなくて、『もっと簡単にしてくれ』とかふざけたことを言ってきて、でも、も~う、そんなの僕は許せなくて、サポート雇ってでも完璧に再現しろって言ったんです~。それで完パケ上がってきた時にタカルさんのギター聞いてやっと満足できて~」
「タカルな! タケルさんだ!」
「だから、凄く感謝っていうかありがとうです~、うわぁ嬉しい~!」
タクトは酷く興奮した様子で、ギターを置いて部屋中を縦横無尽に踊り歩いた。
「かわいいね、タクトくんも。それにこの表だけど」
タケルさんはタクトの共感覚を表す例の画用紙の方へと歩み寄った。
「ここまで来ると圧倒的だね。俺の倍はある」
「え」
「うん、俺もちょっと共感覚あるから。でもタクトくんのとはほぼ真逆の色合いだね。それに俺のは和音しか色が出ないし、こんな複雑なコードまで見えない。水沢タクト、本当に天才的だよ。アキラと結斗くんに巡り会えて、ようやく自分の音楽を形にできるようになった。ますます進化するだろうね」
「ターカルさん! ここでは結斗くんではなくユウくんです!!」
「ん?」
「だから彩瀬タケルさんだぞ! タクト!!」
「早弾き勝負、勝った方が勝ち!!」
タクトはテンションが爆上がりしているに違いない。
あの七弦SG使いのギタリスト・彩瀬タケルに早弾き挑戦状?! アホか!!
しかし俺が思わずタケルさんを見遣ると、彼は口角を嫌み無くきゅっと上げ、
「俺、七弦でいいの?」
と乗り気で応えた。
——アキラ、早く帰ってきてくれ、お願いだ! 夜多少キツい体位でも耐える! このフリーダムな二人を止められるのはおまえしかいない!!!
「たーだいまー、あれ? タケ兄来てんの?」
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——止めろや!!
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