ロックに沼り音に溺れFXXKに堕ちる少年群(旧「ロック音塊中毒少年群」):RGF side【第一部 完】

十鳥ゆげ

文字の大きさ
上 下
18 / 23

第18話:欠損

しおりを挟む
「しかし凄いよね、甥っ子ながらアキラはそこそこのドラマーだし、ギターと作詞作曲はあの水沢タクトと来た」

 改めて俺はソファに座り、普段は自分で入れるコーヒーをタケルさんに煎れてもらっていた。話によると、この部屋はアキラの名義だが、管理をしているのはタケルさんらしい。



「そしてフロントマンは、失礼ながら言うけど、無名のベース&ヴォーカル・須賀結斗くん。アキラが声に惚れ込んで、ベースも水沢タクトが承認したレベル。その真の実力はまだまだ未知数、みんなの期待も高い」



「ちょ、ちょっとそう言われてしまうと身の置き所が——! もちろん俺もバンドメイトとしては必死であの二人に食らいついてるつもりですけど、あの二人神過ぎて……」



「じゃあユウくんは二人の神に選ばれた天使だね」



 そう言ってタケルさんがアイスコーヒーのグラスを渡しに来てくれた。



「て、天使……」

「シンデレラ・ボーイの方がよかった?」

「どっちも嫌です……」

「そう? 俺の知り合いには漆黒の天使がいるけどね」

「はい?」

「いやいや、とにかく神二名の帰りを待とう。どうせなら結斗くんサイドからの馴れ初めも聞きたいしね。一目惚れだったってホント?」

「ぎあああああああアキラそんなことまで言ってたんですかあああああああああああああああ」

「大丈夫! 夜のドラムスティック云々については詳しく聞いてないから!」

「だああああああああああああああああああきらあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

「なんでストーキングしてたの? ベース弾けるなら気軽に声かければよかったのに」

「え」

 俺は思わず絶叫を停止した。

「例えば、『ドラム上手いね、俺とバンドやんない?』とかってさ」

「いや、レベルが違いすぎて、そんなおこがましいことは——」

「結斗くん」

「え?!」

 俺が大声をあげたのは、タケルさんが大きな手で俺の小さな頭をがっと掴み、自分の方に向けたからだ。

「同じ業界の先輩として言わせてもらうよ。別にナルシシストになれとは言わない。でも表現者たるもの、最低限のナルシシズムと自信、自負が無いと音に説得力が生まれない。だからあまり自己卑下しない方が良い」

 その眼は、先ほどまでのからかいモードとは全く異なる、プロフェッショナルのギタリストの魂が透けて見えるような輝きを宿していた。

 俺は目をそらすことができない。

 そしてさっき気づいた既視感の正体を知る。眼が少しアキラに似ているのだ。



「アキラは——」



 思わず声が出ていた。



「アキラはその辺りの自信やセルフプロデュース能力は高いと思います。でも、恋愛のことになると、その、とても、経験値が低いというか皆無というか、そういった印象を受けるんです。何か事情があるんでしょうか。それって俺がタケルさんに聞いて良いんでしょうか。俺はただアキラに楽になって欲しいだけで——」



「誰だって割れ目や破片やら欠片はあるよ」



 タケルさんは俺の頭から手を離し、立ち上がってキッチンに戻った。



「アキラの場合はたまたまそれが恋愛だっただけ。きみの場合はそれが自己肯定感だっただけ」



 これは遠回しに『聞くな』と言われているな、と感じていたら、タクトからメッセージが届き、『キツネさんち』で練習を開始した、とあったので、二人で向かうことにした。



 廊下で俺の前を歩くタケルさんの背中に問いたかった。



『じゃあ貴方は何が欠けてるんですか?』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...