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第18話:欠損
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「しかし凄いよね、甥っ子ながらアキラはそこそこのドラマーだし、ギターと作詞作曲はあの水沢タクトと来た」
改めて俺はソファに座り、普段は自分で入れるコーヒーをタケルさんに煎れてもらっていた。話によると、この部屋はアキラの名義だが、管理をしているのはタケルさんらしい。
「そしてフロントマンは、失礼ながら言うけど、無名のベース&ヴォーカル・須賀結斗くん。アキラが声に惚れ込んで、ベースも水沢タクトが承認したレベル。その真の実力はまだまだ未知数、みんなの期待も高い」
「ちょ、ちょっとそう言われてしまうと身の置き所が——! もちろん俺もバンドメイトとしては必死であの二人に食らいついてるつもりですけど、あの二人神過ぎて……」
「じゃあユウくんは二人の神に選ばれた天使だね」
そう言ってタケルさんがアイスコーヒーのグラスを渡しに来てくれた。
「て、天使……」
「シンデレラ・ボーイの方がよかった?」
「どっちも嫌です……」
「そう? 俺の知り合いには漆黒の天使がいるけどね」
「はい?」
「いやいや、とにかく神二名の帰りを待とう。どうせなら結斗くんサイドからの馴れ初めも聞きたいしね。一目惚れだったってホント?」
「ぎあああああああアキラそんなことまで言ってたんですかあああああああああああああああ」
「大丈夫! 夜のドラムスティック云々については詳しく聞いてないから!」
「だああああああああああああああああああきらあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
「なんでストーキングしてたの? ベース弾けるなら気軽に声かければよかったのに」
「え」
俺は思わず絶叫を停止した。
「例えば、『ドラム上手いね、俺とバンドやんない?』とかってさ」
「いや、レベルが違いすぎて、そんなおこがましいことは——」
「結斗くん」
「え?!」
俺が大声をあげたのは、タケルさんが大きな手で俺の小さな頭をがっと掴み、自分の方に向けたからだ。
「同じ業界の先輩として言わせてもらうよ。別にナルシシストになれとは言わない。でも表現者たるもの、最低限のナルシシズムと自信、自負が無いと音に説得力が生まれない。だからあまり自己卑下しない方が良い」
その眼は、先ほどまでのからかいモードとは全く異なる、プロフェッショナルのギタリストの魂が透けて見えるような輝きを宿していた。
俺は目をそらすことができない。
そしてさっき気づいた既視感の正体を知る。眼が少しアキラに似ているのだ。
「アキラは——」
思わず声が出ていた。
「アキラはその辺りの自信やセルフプロデュース能力は高いと思います。でも、恋愛のことになると、その、とても、経験値が低いというか皆無というか、そういった印象を受けるんです。何か事情があるんでしょうか。それって俺がタケルさんに聞いて良いんでしょうか。俺はただアキラに楽になって欲しいだけで——」
「誰だって割れ目や破片やら欠片はあるよ」
タケルさんは俺の頭から手を離し、立ち上がってキッチンに戻った。
「アキラの場合はたまたまそれが恋愛だっただけ。きみの場合はそれが自己肯定感だっただけ」
これは遠回しに『聞くな』と言われているな、と感じていたら、タクトからメッセージが届き、『キツネさんち』で練習を開始した、とあったので、二人で向かうことにした。
廊下で俺の前を歩くタケルさんの背中に問いたかった。
『じゃあ貴方は何が欠けてるんですか?』
改めて俺はソファに座り、普段は自分で入れるコーヒーをタケルさんに煎れてもらっていた。話によると、この部屋はアキラの名義だが、管理をしているのはタケルさんらしい。
「そしてフロントマンは、失礼ながら言うけど、無名のベース&ヴォーカル・須賀結斗くん。アキラが声に惚れ込んで、ベースも水沢タクトが承認したレベル。その真の実力はまだまだ未知数、みんなの期待も高い」
「ちょ、ちょっとそう言われてしまうと身の置き所が——! もちろん俺もバンドメイトとしては必死であの二人に食らいついてるつもりですけど、あの二人神過ぎて……」
「じゃあユウくんは二人の神に選ばれた天使だね」
そう言ってタケルさんがアイスコーヒーのグラスを渡しに来てくれた。
「て、天使……」
「シンデレラ・ボーイの方がよかった?」
「どっちも嫌です……」
「そう? 俺の知り合いには漆黒の天使がいるけどね」
「はい?」
「いやいや、とにかく神二名の帰りを待とう。どうせなら結斗くんサイドからの馴れ初めも聞きたいしね。一目惚れだったってホント?」
「ぎあああああああアキラそんなことまで言ってたんですかあああああああああああああああ」
「大丈夫! 夜のドラムスティック云々については詳しく聞いてないから!」
「だああああああああああああああああああきらあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
「なんでストーキングしてたの? ベース弾けるなら気軽に声かければよかったのに」
「え」
俺は思わず絶叫を停止した。
「例えば、『ドラム上手いね、俺とバンドやんない?』とかってさ」
「いや、レベルが違いすぎて、そんなおこがましいことは——」
「結斗くん」
「え?!」
俺が大声をあげたのは、タケルさんが大きな手で俺の小さな頭をがっと掴み、自分の方に向けたからだ。
「同じ業界の先輩として言わせてもらうよ。別にナルシシストになれとは言わない。でも表現者たるもの、最低限のナルシシズムと自信、自負が無いと音に説得力が生まれない。だからあまり自己卑下しない方が良い」
その眼は、先ほどまでのからかいモードとは全く異なる、プロフェッショナルのギタリストの魂が透けて見えるような輝きを宿していた。
俺は目をそらすことができない。
そしてさっき気づいた既視感の正体を知る。眼が少しアキラに似ているのだ。
「アキラは——」
思わず声が出ていた。
「アキラはその辺りの自信やセルフプロデュース能力は高いと思います。でも、恋愛のことになると、その、とても、経験値が低いというか皆無というか、そういった印象を受けるんです。何か事情があるんでしょうか。それって俺がタケルさんに聞いて良いんでしょうか。俺はただアキラに楽になって欲しいだけで——」
「誰だって割れ目や破片やら欠片はあるよ」
タケルさんは俺の頭から手を離し、立ち上がってキッチンに戻った。
「アキラの場合はたまたまそれが恋愛だっただけ。きみの場合はそれが自己肯定感だっただけ」
これは遠回しに『聞くな』と言われているな、と感じていたら、タクトからメッセージが届き、『キツネさんち』で練習を開始した、とあったので、二人で向かうことにした。
廊下で俺の前を歩くタケルさんの背中に問いたかった。
『じゃあ貴方は何が欠けてるんですか?』
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