9 / 23
第9話:天然天才アマデウス、本領発揮
しおりを挟む
「三津屋くん、ここのソロは僕に合わせてよ」
「え?」
「あとフィルが前半もたついた。ちゃんと叩いて」
二十分後、近隣の小さなスタジオの地下ブースで、俺とアキラは水沢タクトという野性の天才アマデウスっぷりに圧倒されていた。
「あと須賀くん、『I’m not the only one』の『the』と『ly』の発音が酷すぎる。もっとちゃんと発声して。それからヴァースはもっと青にして。今のじゃ黄色すぎる。もっと群青色にしたい」
曲はとりあえずさっき俺が口ずさんだ「Rape Me」になったんだが、タクトの指示は全く意味が分からなかった。
「あの、水沢くん、群青色ってどういう意味かな……?」
「聞けば分かるでしょ! この曲はそういう色じゃん! 分からなかったら自分で考えて。頭使って。あと声量あるのは分かったからメリハリ付けて。ずっと大声聞かされると疲れる」
啞然。
後日、俺たちはタクトの『共感覚』について知って、それをタクトから解説してもらい、時間をかけてその指示を理解することになるのだが、初の音合わせでここまで細かく、厳しく、その上意味不明なダメ出しを食らうのは初めてだったから、とにかくタクトの指示に死に物狂いで従うばかりだった。
そして、たった二分四十九秒の「Rape Me」がタクトの納得できるクオリティまで到達した時、時間は既に八十五分経過していた。最後に通しで演奏し、ラストの音がフェイドアウトすると、
「すごーい! 二人とも凄いよ~!」
と、幼稚園児(年中さくら組)に戻ったタクトが背筋を伸ばしてへらへらと笑っていた。
「僕の指示をちゃんと聞いてくれて、実践してくれて、一曲を僕の要望通りに演奏してくれて、しかもそれが二時間未満なんて生まれて初めてだよぉ~! わぁ~!」
タクトはギターをぶら下げたままシールドが足に絡むのも気にせず妙なダンスを始めたが、俺は内心で震えていた。
これほどまでに、クオリティが上がるのか。
繰り返すがわずか二分四十九秒の曲だし、そもそもニルヴァーナはパンクロック、特にグランジと呼ばれる系統のバンドだから演奏のテクニック、技術面はさほど追求されない。
だがタクトの指示で俺たちが三者三様のプレイヤーとしてのクオリティをMAXにした状態で、俺の歌を徹底的にその音にハマるように磨いた結果、「Rape Me」は俺たち三人のオリジナル曲と言っても通じるほど、俺たちらしさが引き出されていた。
改めて、水沢タクトという天然天才児を想う。
今まで、つまり今この瞬間に至るまで、おそらく相当孤独で、相当葛藤していたのではないのか、と。
本人はアキラとハイタッチして未だ踊っていたが、その喜びようからしても、それは想像に難くなかった。そして、俺は自分が水沢タクトの追求する音楽の一躍を担うことができたことを誇りに思っていた。
「え?」
「あとフィルが前半もたついた。ちゃんと叩いて」
二十分後、近隣の小さなスタジオの地下ブースで、俺とアキラは水沢タクトという野性の天才アマデウスっぷりに圧倒されていた。
「あと須賀くん、『I’m not the only one』の『the』と『ly』の発音が酷すぎる。もっとちゃんと発声して。それからヴァースはもっと青にして。今のじゃ黄色すぎる。もっと群青色にしたい」
曲はとりあえずさっき俺が口ずさんだ「Rape Me」になったんだが、タクトの指示は全く意味が分からなかった。
「あの、水沢くん、群青色ってどういう意味かな……?」
「聞けば分かるでしょ! この曲はそういう色じゃん! 分からなかったら自分で考えて。頭使って。あと声量あるのは分かったからメリハリ付けて。ずっと大声聞かされると疲れる」
啞然。
後日、俺たちはタクトの『共感覚』について知って、それをタクトから解説してもらい、時間をかけてその指示を理解することになるのだが、初の音合わせでここまで細かく、厳しく、その上意味不明なダメ出しを食らうのは初めてだったから、とにかくタクトの指示に死に物狂いで従うばかりだった。
そして、たった二分四十九秒の「Rape Me」がタクトの納得できるクオリティまで到達した時、時間は既に八十五分経過していた。最後に通しで演奏し、ラストの音がフェイドアウトすると、
「すごーい! 二人とも凄いよ~!」
と、幼稚園児(年中さくら組)に戻ったタクトが背筋を伸ばしてへらへらと笑っていた。
「僕の指示をちゃんと聞いてくれて、実践してくれて、一曲を僕の要望通りに演奏してくれて、しかもそれが二時間未満なんて生まれて初めてだよぉ~! わぁ~!」
タクトはギターをぶら下げたままシールドが足に絡むのも気にせず妙なダンスを始めたが、俺は内心で震えていた。
これほどまでに、クオリティが上がるのか。
繰り返すがわずか二分四十九秒の曲だし、そもそもニルヴァーナはパンクロック、特にグランジと呼ばれる系統のバンドだから演奏のテクニック、技術面はさほど追求されない。
だがタクトの指示で俺たちが三者三様のプレイヤーとしてのクオリティをMAXにした状態で、俺の歌を徹底的にその音にハマるように磨いた結果、「Rape Me」は俺たち三人のオリジナル曲と言っても通じるほど、俺たちらしさが引き出されていた。
改めて、水沢タクトという天然天才児を想う。
今まで、つまり今この瞬間に至るまで、おそらく相当孤独で、相当葛藤していたのではないのか、と。
本人はアキラとハイタッチして未だ踊っていたが、その喜びようからしても、それは想像に難くなかった。そして、俺は自分が水沢タクトの追求する音楽の一躍を担うことができたことを誇りに思っていた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説


百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる