8 / 23
第8話:年中さくら組の園児の眼はたまに暗殺者
しおりを挟む
「フレンドウィズベネフィットとかワンナイトスタンドかセックスフレンドとか、まあ言い方は色々あるけど、バンド内でそういうのってどうなの」
近所のファミレスの四人席に落ち着いた俺とアキラの目の前に座る水沢タクトは開口一番そう言った。もちろん俺らは凍り付いた。
「え、水沢くん……? あのー」
「タクト、えと、何の話だ?」
「してきたでしょ。俺、そういうの分かる。匂いと声と息で」
嘘だろ……と俺は喫驚していた。多分アキラも同じだろう。俺は念入りにペーパータオルで全身を拭いたし、アキラも着替えてコロンを付け直していた。
「で、これからスタジオ?」
タクトは糸が切れたみたいに俺らの関係性に興味を失いそう言った。
「そう、タクト。こいつの声を聞いてやってくれ。すげえんだ!」
「俺も水沢くんの曲聴いて感動したんだ。俺ベースもいけるから、音合わせだけでも!」
「ん~」
そううなったタクトは、メロンソーダをちゅるちゅると飲み、その後かなりの音量でゲップをした。
「声が良いからって僕の曲に合うかは分からないじゃん。僕はもう、人のために寄せたり合わせたり僕本来のテイスト以外の曲を書くのはうんざりなんだよ」
「だったら尚更だよ、タクト。こいつの声は聴く価値がある」
アキラが、あの三津屋アキラが俺の声を褒めてくれているのがにわかには信じられないが、そもそも二回寝ている時点で俺は今死ねと言われても喜んで死ねる。
だけど、俺は相当に欲張りのようだ。
水沢タクト。
こいつの曲を、他ならぬ三津屋アキラのドラムと俺のベース、そして俺の声で鳴らせるなんて、最高どころの話じゃない。
「んー、じゃあ条件出す」
タクトは軟体動物のように上半身をゆらゆらと揺らしながら言った。
「もし三津屋くんと須賀くんが快楽だけのためにそういうことしてるんだったら今この場でそういう関係を断ち切って、バンドメンバーとしてちゃんとした仲間になること。もし違うなら、痴話げんかとかそういう面倒でバンド活動に支障が出るようなことは僕のあずかり知らぬところでやって。僕はただでさえ作詞作曲で君たちより仕事量が多い。もし僕にそういう面倒が降りかかったら、僕は容赦なく抜ける」
そう言い放った瞬間、虚空で揺れていたタクトの視線が俺とアキラを静かに捉えた。
——正直、恐怖した。
幼稚園児(年中さくら組)がいきなり冷血無比な暗殺者になったような、まったく別人のような眼をしていたからだ。
「……俺らのことは、ちゃんと二人で良好な関係を築けるようにしたい。俺はもちろん、ってか絶対おまえと組みたいけど、だからって今この瞬間、結斗を切るほど軽薄でもない」
——え。
あの三津屋アキラが、え? 何つった?
ぱっと顔を上げると、タクトは幼稚園児(年中さくら組)の眼に戻った。
「じゃあ行こっか。僕今お金ないから、後払いで良ければ」
言うがいなや、水沢タクトは百円玉を二つテーブルに置いてギターケースとエフェクターボードを担いで出口に向かった。ちなみにドリンクバーは三百五十円だ。
近所のファミレスの四人席に落ち着いた俺とアキラの目の前に座る水沢タクトは開口一番そう言った。もちろん俺らは凍り付いた。
「え、水沢くん……? あのー」
「タクト、えと、何の話だ?」
「してきたでしょ。俺、そういうの分かる。匂いと声と息で」
嘘だろ……と俺は喫驚していた。多分アキラも同じだろう。俺は念入りにペーパータオルで全身を拭いたし、アキラも着替えてコロンを付け直していた。
「で、これからスタジオ?」
タクトは糸が切れたみたいに俺らの関係性に興味を失いそう言った。
「そう、タクト。こいつの声を聞いてやってくれ。すげえんだ!」
「俺も水沢くんの曲聴いて感動したんだ。俺ベースもいけるから、音合わせだけでも!」
「ん~」
そううなったタクトは、メロンソーダをちゅるちゅると飲み、その後かなりの音量でゲップをした。
「声が良いからって僕の曲に合うかは分からないじゃん。僕はもう、人のために寄せたり合わせたり僕本来のテイスト以外の曲を書くのはうんざりなんだよ」
「だったら尚更だよ、タクト。こいつの声は聴く価値がある」
アキラが、あの三津屋アキラが俺の声を褒めてくれているのがにわかには信じられないが、そもそも二回寝ている時点で俺は今死ねと言われても喜んで死ねる。
だけど、俺は相当に欲張りのようだ。
水沢タクト。
こいつの曲を、他ならぬ三津屋アキラのドラムと俺のベース、そして俺の声で鳴らせるなんて、最高どころの話じゃない。
「んー、じゃあ条件出す」
タクトは軟体動物のように上半身をゆらゆらと揺らしながら言った。
「もし三津屋くんと須賀くんが快楽だけのためにそういうことしてるんだったら今この場でそういう関係を断ち切って、バンドメンバーとしてちゃんとした仲間になること。もし違うなら、痴話げんかとかそういう面倒でバンド活動に支障が出るようなことは僕のあずかり知らぬところでやって。僕はただでさえ作詞作曲で君たちより仕事量が多い。もし僕にそういう面倒が降りかかったら、僕は容赦なく抜ける」
そう言い放った瞬間、虚空で揺れていたタクトの視線が俺とアキラを静かに捉えた。
——正直、恐怖した。
幼稚園児(年中さくら組)がいきなり冷血無比な暗殺者になったような、まったく別人のような眼をしていたからだ。
「……俺らのことは、ちゃんと二人で良好な関係を築けるようにしたい。俺はもちろん、ってか絶対おまえと組みたいけど、だからって今この瞬間、結斗を切るほど軽薄でもない」
——え。
あの三津屋アキラが、え? 何つった?
ぱっと顔を上げると、タクトは幼稚園児(年中さくら組)の眼に戻った。
「じゃあ行こっか。僕今お金ないから、後払いで良ければ」
言うがいなや、水沢タクトは百円玉を二つテーブルに置いてギターケースとエフェクターボードを担いで出口に向かった。ちなみにドリンクバーは三百五十円だ。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説


百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる