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第66話:や、だから、逆転とかいう次元じゃなくてだな
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セイジュはぽかんとしていた。
ウォルズ王国の国王と王妃が待つ部屋の扉を進んでみると、そこにはどう見ても十代の金髪の少女と、その腕の中に白髪の赤ん坊がおしゃぶりをくわえてこちらを見遣っていたからだ。
——クロイゼンって兄弟いたのかな?
セイジュは首を傾げたが、クロイゼンは彼らにこう声をかけた。
「父上、母上、約束通り私の婚約者を連れて参りました。名はセイジュ、人間です」
「えっ?!」
「セイジュ! 頭をさげんか!」
クロイゼンが少女と赤ん坊に向かってセイジュの後ろ頭をがっと降ろした。
『まあ、そこまでさせるな、クロイゼン。本当の姿の我々を見て悪魔の国王と王妃と看破できる者はそうはおらん』
『そうよ。それよりセイジュさん、お会いできて嬉しいわ』
「え! あ! はい! クロイゼン、さん、の、こここ婚約者、セイジュと申します!!」
『あらあら、こう見るとセイジュさん、口角が鋭いし八重歯はあるし、耳も少し尖ってるから、私たちより世間がイメージする悪魔に近いわね! クロイゼンと並ぶと特に、どっちが悪魔か分からないわ』
『言い得て妙だ! はっはっは!』
——それって笑っていいところなのかなぁ……。
セイジュは内心で涙を拭った。
「婚約の発表に関しましては、まずは我が国の政界財界等のVIPならびに各国大使館の代表者のみを招き、内々に場を設けて先に行い、後日別途、国民に公表しようと考えております。父上、母上、ご同席をお願いできますでしょうか?」
『もちろんよ!』
『愚問だな』
「ありがとうございます。では後ほど——」
『ねぇ、セイジュさん。アヴィくんから聞いたんだけど、戦闘民族でもない貴方が身をていしてクロイゼンの命を救ってくれたそうね?』
「え、あ、はい!」
『素晴らしいわ。そして、心から感謝するわ。人間というだけで、この種族の坩堝・ウォルズ王国内ですら差別があるというのに、貴方はとても勇敢ね』
「い、いえ! あの時は、あの、クロイゼンを助けたい一心で……自分の種族、ですとか、そういうこととは関係なく、ただその、えと、す、すすす好きな人を失いたくないという一心で、それは僕が人間だから、という話ではなく、あの、全ての種族に言えること、だ、と思います!」
『ほぅ……』
『言われてみればその通りね、セイジュさん。失礼をしたわ。それで、クロイゼンのどこがよかったの?』
「は、母上!!」
『わしも興味があるな』
「父上まで!」
「僕を、対等な存在として認め、接してくれたところです」
「……セイジュ?」
『どういう意味か、もう少し具体的に教えてくれるかな、セイジュくん』
「はい。僕は人間です。育った村では庇護対象として扱われ、外に出れば変装しなければ痛い目に遭う存在でした。でもクロイゼンは、僕が人間だと知っても、ひとりのクリーチャーとして、対等に、平等に、同じ立ち位置で僕に接してくれました。初めてだったんです、そんな風に認められ、まして、あ、あい、その、こ、好意を寄せられることは」
『素敵……』
『なかなかやるじゃないか、クロイゼン』
「は、はい! これ以上お時間を取らせるわけには参りません! 失礼いたします!!」
顔を真っ赤にしたクロイゼンは深く、しかし素早く一礼し、セイジュの首根っこをひっつかんで部屋を出た。
するとセイジュは、胸を押さえてその場に膝から崩れ落ちた。
「セイジュ?!」
「あーあーあー緊張、したぁぁあああ!!! っていうか国王様ってあんなルックスじゃなかったよね?! っていうかおしゃぶりしてたよね!? どういうことなの?! んでもって王妃様なんてまだ子供じゃん!! もうわっけ分からない!!」
「逆だ、セイジュ」
「え?」
クロイゼンが真顔で訂正する。
「赤ん坊は母上で、抱いていた少女が父上だ」
これを聞いたセイジュはまた絶叫するのだが、その叫び声は残念ながら誰にも届かない。
ウォルズ王国の国王と王妃が待つ部屋の扉を進んでみると、そこにはどう見ても十代の金髪の少女と、その腕の中に白髪の赤ん坊がおしゃぶりをくわえてこちらを見遣っていたからだ。
——クロイゼンって兄弟いたのかな?
セイジュは首を傾げたが、クロイゼンは彼らにこう声をかけた。
「父上、母上、約束通り私の婚約者を連れて参りました。名はセイジュ、人間です」
「えっ?!」
「セイジュ! 頭をさげんか!」
クロイゼンが少女と赤ん坊に向かってセイジュの後ろ頭をがっと降ろした。
『まあ、そこまでさせるな、クロイゼン。本当の姿の我々を見て悪魔の国王と王妃と看破できる者はそうはおらん』
『そうよ。それよりセイジュさん、お会いできて嬉しいわ』
「え! あ! はい! クロイゼン、さん、の、こここ婚約者、セイジュと申します!!」
『あらあら、こう見るとセイジュさん、口角が鋭いし八重歯はあるし、耳も少し尖ってるから、私たちより世間がイメージする悪魔に近いわね! クロイゼンと並ぶと特に、どっちが悪魔か分からないわ』
『言い得て妙だ! はっはっは!』
——それって笑っていいところなのかなぁ……。
セイジュは内心で涙を拭った。
「婚約の発表に関しましては、まずは我が国の政界財界等のVIPならびに各国大使館の代表者のみを招き、内々に場を設けて先に行い、後日別途、国民に公表しようと考えております。父上、母上、ご同席をお願いできますでしょうか?」
『もちろんよ!』
『愚問だな』
「ありがとうございます。では後ほど——」
『ねぇ、セイジュさん。アヴィくんから聞いたんだけど、戦闘民族でもない貴方が身をていしてクロイゼンの命を救ってくれたそうね?』
「え、あ、はい!」
『素晴らしいわ。そして、心から感謝するわ。人間というだけで、この種族の坩堝・ウォルズ王国内ですら差別があるというのに、貴方はとても勇敢ね』
「い、いえ! あの時は、あの、クロイゼンを助けたい一心で……自分の種族、ですとか、そういうこととは関係なく、ただその、えと、す、すすす好きな人を失いたくないという一心で、それは僕が人間だから、という話ではなく、あの、全ての種族に言えること、だ、と思います!」
『ほぅ……』
『言われてみればその通りね、セイジュさん。失礼をしたわ。それで、クロイゼンのどこがよかったの?』
「は、母上!!」
『わしも興味があるな』
「父上まで!」
「僕を、対等な存在として認め、接してくれたところです」
「……セイジュ?」
『どういう意味か、もう少し具体的に教えてくれるかな、セイジュくん』
「はい。僕は人間です。育った村では庇護対象として扱われ、外に出れば変装しなければ痛い目に遭う存在でした。でもクロイゼンは、僕が人間だと知っても、ひとりのクリーチャーとして、対等に、平等に、同じ立ち位置で僕に接してくれました。初めてだったんです、そんな風に認められ、まして、あ、あい、その、こ、好意を寄せられることは」
『素敵……』
『なかなかやるじゃないか、クロイゼン』
「は、はい! これ以上お時間を取らせるわけには参りません! 失礼いたします!!」
顔を真っ赤にしたクロイゼンは深く、しかし素早く一礼し、セイジュの首根っこをひっつかんで部屋を出た。
するとセイジュは、胸を押さえてその場に膝から崩れ落ちた。
「セイジュ?!」
「あーあーあー緊張、したぁぁあああ!!! っていうか国王様ってあんなルックスじゃなかったよね?! っていうかおしゃぶりしてたよね!? どういうことなの?! んでもって王妃様なんてまだ子供じゃん!! もうわっけ分からない!!」
「逆だ、セイジュ」
「え?」
クロイゼンが真顔で訂正する。
「赤ん坊は母上で、抱いていた少女が父上だ」
これを聞いたセイジュはまた絶叫するのだが、その叫び声は残念ながら誰にも届かない。
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