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第44話:食べ頃

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 最初に動いたのはシクロフスキだった。
「アヴィ! おまえは王子の護衛! セイジュ様は私が!」
 言うがいなや、シクロはセイジュの腕をがっと握った。
「待って! タゴンさん、何やってるんですか?」
「セイジュ! 何を言っても無駄だ! ひとまず逃げろ!」
 クロイゼンが叫び、素早くセイジュの背後に飛んで、左の手のひらに何かふわふわとしたものを握らせた。
「クロイゼン?」
「これを持っておけ。俺は王都を守る」
「アヴィ! 早く行け!!」
「おうおう、何だか慌ただしいな」
 タゴンはゆっくりと『個室』の方へと歩み寄ってきていた。セイジュが気づいた時は、クロイゼンとアヴィはその場にいなかった。おそらく魔法でどこかにワープしたのだろう。
「タゴンさん、どうやってここまで来られたんですか? この城には兵隊さんがいっぱいいるはずじゃ……」
「セイジュ様!」
 その時初めて、セイジュはタゴンの金棒が真っ赤になっていることに気づいた。
「セイジュ、おまえ、身体変わったな。あの王子が仕込んだのか? 食べ頃ってやつか。他の連中には悪いが、ここは俺が——」
 ニヤリと笑ったタゴンにはあの朗らかで邪気のない鬼の面影は微塵もなく、セイジュの混乱は大きく膨れ上がるばかりだった。
「セイジュ様! お逃げください!」
 シクロがそう叫んだ瞬間、意識が一瞬飛んだかと思いきや、例によってセイジュは自室の天蓋付きのベッドに転がっていた。
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