ロックに沼り音に溺れFXXKに堕ちる少年群(旧「ロック音塊中毒少年群」):TBP side

十鳥ゆげ

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第5話:音を喰らう身体

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——まあ可愛らしい子! お嬢さん、おいくつ?

——女が男子便入ってくんなよー!

——谷津くんが学ラン着てるのってなんか違和感あるよね~

——谷津先輩、綺麗すぎて女やめたいレベル……



 十三才のあの日、あの男がオレを犯してから、そしてオレが自分の意思で男とばかり関係を持って生きていく中で、こんな言葉ばかり投げつけられるようになった。

 それはコンプレックスでもあった。『表面しか見られていない』、そんな強迫観念があったからだ。だがベネフィットもあった。男を落としやすい。容易く。少しメイクを学び、所作に気を遣うようになってから、オレは女より男と関係を持つ方が楽になった。女のように見られても、女のように振る舞っても、誰も俺を責めないからだ。



 家庭環境こそ悪かったが、オレはそれが良い方向に作用したと、今では考えている。

 真夏や真冬、空調の悪い木造アパートで過ごすことは生死に関わる問題だった。だからオレは近所の図書館に潜り込むようになって、暇つぶしに本を読んだ。それは間違いなく今の作詞作業に活きている。

 

 そして、小学生の頃、オレが唯一殺意を抱かない女、音楽教師のあの女が見出してくれた俺の才。



『いおいくん、きみは絶対に音楽をやった方が良いわ! 絶対音感と正確なリズム感、一度聞いたメロディをすぐ記憶して再現できる能力、私が羨ましいくらい素晴らしいものを、きみは持ってるのよ! しかも、何の教育もなく……!』



 それからというもの、その女は放課後などに、音楽室にある楽器を好きに使って良いと言って、演奏方法を教えてくれた。

 小学校にはブラスバンド部があったが、彼女はオレの親の事情を知ってか、入部は勧めてこなかった。そしてオレは、グランドピアノが一番自分にとって一番馴染むことを発見した。



 中学に上がる前から頭の中で作曲を始め、日々男に犯されながらも、徒歩で隣町にある楽器屋まで赴き、試奏用のピアノやキーボードで曲を形にしていった。

 高校で軽音楽部の様子を見てみたが、オレとは相容れない人種ばかりで幻滅し、オレはすぐさまインターネット上にデモ曲をアップロードするようになった。

 そしてバンドのメンバーを募集すると、神谷が一番に連絡してきたのだ。





 徐々にメンバーが揃い、The Blue Printザ・ブルー・プリントというバンドを結成したのが三年前。

 その頃から、オレは自分の特殊体質に気づく。

 女は無理だが、ミュージシャンの男と寝ると、相手の音が身体に入ってきて、作曲時の音色の幅が広がっていくのだ。

 最初はこれが面白くて、手当たり次第自分の気に入った音を持つバンドマンと関係を持った。どんどん拡張されていく自分のキャンバスが無限に感じられた。

 誤算だったのが神谷の存在だ。俺を独占したがる。恋人を気取る。鬱陶しいことこの上ない。だが皮肉にも、神谷の身体が一番オレの身体に合う。もちろん色んな連中と寝たから快楽の差はあれど、『しっくりくる』とでも言うか、要するに相性が良いのだろう。

 皮肉なことに。
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