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第2話:合意の誘拐
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ラストオーダーの時間が過ぎると、客は柳さんだけになっていた。
マスターが厨房の目立たない所を片付け始める。俺はまだ厨房に入ったことがない。というか、マネージャーに禁止を食らっている。理由は言うまでもなく、どんくさい俺が何か破壊しないか心配しているからだ。
「大津くん」
柳さんが片手を挙げたので、俺は何だろうと思いすぐに駆け寄った。この時間だとオーダーは無理だ。なんだろう。
「あの、ラストオーダーもう過ぎてて……」
俺が言いかけると、
「ああ、それは分かってるよ。実はこの後大津くんを誘拐したくて」
「はい?!」
あくまでも爽やかな笑顔でさらりと言ったので、俺は面食らってしまった。
「半分冗談で半分本気。この前映画の話をしただろう? 俺、明日休みでさ、今夜はオールで映画見ようかと思ってたんだけど、なんか独りだとつまらないかな、と思って。で、大津くんを誘いたくなったの。だって前に話した時、滅茶苦茶趣味合ってただろ? 俺たち」
それは確かにそうだった。キューブリックみたいなメジャーなものからドグマ協定まで語れる相手を、俺は初めて見付けたのだ。
「あ、もし予定あったりしたら遠慮なく断って。彼女さんとかいたら迷惑だろうし」
「か、皆無です……」
「素直だなぁ」
柳さんはくすくすと笑った。
俺も明日は空いていたし、オールで誰かと映画鑑賞できるなんて、根暗で陰キャで冴えない俺にとっては夢のような経験だ。
一応マスターに確認したら、本人同士の合意の上であれば構わない、と言われたので、俺は終業後、店の前に立っていた柳さんと合流した。
「七分くらい歩ける? 疲れてない?」
柳さんはそんな気遣いまでしてくれた。やっぱ大人だ。
「疲れてないと言えば嘘になりますけど、俺友達とかいないんで、誰かと映画を、しかも趣味の合う人とオールで見るなんて、内心超エキサイトしてます!」
「そっか。じゃあ徒歩でいいかな? 行こう」
柳さんが歩き始めたので、俺は迷わずその後を追った。
マスターが厨房の目立たない所を片付け始める。俺はまだ厨房に入ったことがない。というか、マネージャーに禁止を食らっている。理由は言うまでもなく、どんくさい俺が何か破壊しないか心配しているからだ。
「大津くん」
柳さんが片手を挙げたので、俺は何だろうと思いすぐに駆け寄った。この時間だとオーダーは無理だ。なんだろう。
「あの、ラストオーダーもう過ぎてて……」
俺が言いかけると、
「ああ、それは分かってるよ。実はこの後大津くんを誘拐したくて」
「はい?!」
あくまでも爽やかな笑顔でさらりと言ったので、俺は面食らってしまった。
「半分冗談で半分本気。この前映画の話をしただろう? 俺、明日休みでさ、今夜はオールで映画見ようかと思ってたんだけど、なんか独りだとつまらないかな、と思って。で、大津くんを誘いたくなったの。だって前に話した時、滅茶苦茶趣味合ってただろ? 俺たち」
それは確かにそうだった。キューブリックみたいなメジャーなものからドグマ協定まで語れる相手を、俺は初めて見付けたのだ。
「あ、もし予定あったりしたら遠慮なく断って。彼女さんとかいたら迷惑だろうし」
「か、皆無です……」
「素直だなぁ」
柳さんはくすくすと笑った。
俺も明日は空いていたし、オールで誰かと映画鑑賞できるなんて、根暗で陰キャで冴えない俺にとっては夢のような経験だ。
一応マスターに確認したら、本人同士の合意の上であれば構わない、と言われたので、俺は終業後、店の前に立っていた柳さんと合流した。
「七分くらい歩ける? 疲れてない?」
柳さんはそんな気遣いまでしてくれた。やっぱ大人だ。
「疲れてないと言えば嘘になりますけど、俺友達とかいないんで、誰かと映画を、しかも趣味の合う人とオールで見るなんて、内心超エキサイトしてます!」
「そっか。じゃあ徒歩でいいかな? 行こう」
柳さんが歩き始めたので、俺は迷わずその後を追った。
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