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脱・引きこもり姫
救出作戦①
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馬車で移動した場所は薄気味悪い路地裏だった。
あからさまにジメジメしていて、臭いも鼻を刺す臭いだった。人通りも少なく、私たち以外、誰もいなかった。
「アテナはここに連れ去られて行ったの?」
私は馬車の中で隣に座っているテアに尋ねる。
「はい………アテナはここに連れ去られて行きました。たくさんの男の人に袋の中に入れられて………それで……」
「なるほどね。分かったわ。ごめんね、辛いことを思い出させてしまって」
そう言って、落ち着かせる為にも私は彼女の頭を撫でた。
幸い涙は引っ込めたようで、服の裾で目元を拭っていた。
「それじゃあ、どうやって中に侵入する?僕とアルビーが最前で突破して、エマが後方支援をするのが妥当だと僕は思うんだけど。二人はどう?」
「………俺もルイズの作戦に異論は無い。その方がこいつも安全だしな。ルイズがヘマやらかさない限り大丈夫だろ」
「アルビー?流石に君よりは失敗するほどバカじゃないよ」
「おい!誰がバカだ」
「ちょ、二人とも!子供の前で大人気ないですよ!前線は私が行きます。私を囮として使って、油断させた後にお二方が攻め込んできて下さい」
すると、二人同時に私の方へ向いて
「ダメだ!」
「ダメに決まってるでしょ」
と声を揃えて即答した。
(なんでここだけハモるんだ………)
私は呆れつつ、二人に理由を尋ねることにした。
「何故ダメなんです?たしかに私は女ですが、そこらの騎士よりかは剣技は断然劣っておりません。それに、地位で言えば私の命よりもお二人の命の方が遥かに重いです。紳士的なのは大変結構ですが、ご自分の身の安全を考慮できるようになってからお考え下さい」
「んな………」
「エマ………それでも、君を囮にするなんて感化できないよ。強い君も好きだけれど、君を失うような真似はしたくない」
アルビー様は黙ってしまったが、ルイズ様は尚も反論した。私も負けじと反論しようとしたが、ふいにルイズ様が手を叩き、まるで名案を思いついたとでも言いたげな様子でこちらを見てきた。
そして、ルイズ様から爆弾発言が投下された。
「エマが囮になるなら、僕達も女装して一緒に囮になれば良いんだよ」
「「………………………………………は?」」
今度は私とアルビー様の声が重なった。
「うおぉ…………女っていつもこんなヒラヒラな服を着てたのか………邪魔じゃないのか?これ」
「ふむ。いつもより軽い生地だね。軽やかに飛び跳ねられそうだ。それにとても美しいレースだね。気に入ったよ」
「……………………」
今私の目の前にいるのは、ヒラヒラのワンピースに可愛らしいピンクのリボンやキラキラなネックレスを付けた十八歳と十九歳の青年男性だ。
男性の女装というのは余程上手くないと体つき的に角張ったり少しごつかったりなどで違和感が出るのが当たり前なのだが、目の前の二人は元気な明るい美少女と優雅で気品のある美女だった。
攻略対象だからなのか、この国の王子たちはずば抜けて顔が良い。それはそれは惚れ惚れするほど良い。
だから、例え王子が女装をしたとしても、違和感を感じることなく、しっかりと定着してしまうのだ。何なら似合っているまである。
「どうだ?エマ。俺かわいーか?」
「ええはい………とても素敵だと思いますよ」
だからそうやって、顎に手を当ててぶりっ子ポーズをしながら上目遣いをしてくるのはやめて欲しい。女としての自信が無くなってしまう。
「ふふ、エマ。僕はどう?女装なんて今までしたこと無かったんだけど」
「ルイズ様もとてもよくお似合いだと思います………」
ルイズ様は腰をくねらせて、口元を扇子で隠している。男なのに女の色気を纏わせているのは気の所為だろうか。………気の所為だと思いたい。
「わぁ!お兄ちゃんたち、すっごく可愛いよ!」
「そうか!?ありがとな~テア!」
嬉しそうにテアを抱き上げるアルビー様といい子いい子と言いながら頭を撫でるルイズ様。
「なんで女の私が負けているのよ………」
世の中は顔ということを再認識させられた。
因みに、ルイズ様とアルビー様のせいで、女装萌えに耐性のなかった若いメイドたちは次々に気絶していった。
騎士団の人までも頬を赤らめていた程だ。
女装しただけでこんなに攻撃力が上がるのだ。攻略対象はどこまでも恐怖の対象である。
「よぉし!準備は出来たことだし、とっとと突入致しますかね」
準備運動を始めたアルビー様にルイズ様が女性らしい行動をとるんだよと注意しつつ、私は一抹の不安を覚えながらも建物の中へ侵入していった。
建物は古い酒場で、今は使われておらず、壊れかけの樽や割れたガラスがそのまま放置された状態だった。
「薄暗いな………アジトは一体どこにあるんだ?」
私は周囲を探索していると、ルイズ様に肩をトントンと叩かれた。
「?どうしましたか?」
「ねぇ、エマ。これ見て」
「っ!これは────!」
ルイズ様が樽の一つを傾けると床から地下通路へと続く扉が開いた。
「お!でかしたぞルイズ!さぁ、行くぞ!」
「す、すごいですねルイズ様。どうして分かったんですか?」
「他の樽は壊れていたり汚れていたりするのに対して、この樽だけ異様に綺麗だったからね。怪しいと思って動かしてみたら、ご覧の通りだったって訳」
「なるほど………流石です!」
「ふふ、ありがとうエマ」
そんなこんなで、私たちは地下へと進んで行った。
一方その頃、酒場の外では───。
「全く、王子様方もお転婆なんですから。何を言い出すかと思えば女装だなんて。腰が抜けるかと思いましたよ」
「同感です。たまたま近くに服屋があったから良かったけど………」
「気にするのはそこですか………」
アルビーの専属執事とルイズの専属執事が二人で愚痴を言い合っていた。
「ルイズ様からはこの魔道具が光ったら助けに来いって言われたけど………全く本当に無茶するんですから………」
「うちのアルビー様もすぐに無茶をしがちで………馬車を追いかけるのはまだしも、お二人のお出かけを邪魔していたとは思いませんでしたから」
「………馬車を追いかける方も異常だと思いますけどね」
二人が話し込んでいると、後ろから一人の影が近づいて来た。
「あ、あの……………」
「ん?」
「はい?」
ミディアムヘアの美しい金髪にアザーブルーの大きな瞳を持った少女が不思議な顔で問いかけた。
「王家の馬車があるのですが、一体どうされたのですか?…………あっ、申し遅れました。私の名前はリル・キャロメでございます」
「!これはこれはキャロメ嬢!礼儀を欠いた状態で申し訳ありません。ええっと、これはですね、ただ今アルビー様とルイズ様、そしてエマ様が調査中の任務がありまして………」
「………?任務、ですか……?何か危険なことをされていらっしゃるのですか?」
「ああいえ!そんなことはございません。我々が命にかえてでも彼らを守りますから」
アルビーの執事であるゾイがそう言って胸を張り、拳で叩く。
「ふふ、そうなんですね。でも、ご自分の命を大切にして下さい。いつもご苦労さまです」
「あ、ありがとうございます………」
優美な様子でリルはお辞儀をした。普通、貴族はプライドが高く、目上の人にしか頭を下げない。それなのに、簡単に頭を下げたリルにゾイは戸惑いつつも嬉しさを覚えた。
「あの、良ければここで御三方が帰ってくるのを待ってもよろしいですか?」
「え!?ですが、いつ帰ってくるかも………」
「大丈夫です。私も皆さんとお出かけをしたいなと丁度思っていたところなので。あっ、任務の邪魔になるのでしたら、全然断って貰っても………」
「いえいえ!どうぞおくつろぎ下さいませ」
リルのシュンとした表情に負け、ゾイは思わずと言ったように許してしまった。
その様子を見ていたルイズの執事のセラはゾイの背中を何してんだ、というように小突いた。
そんなことを露も知らないエマは女装した王子たちと共に中へ進んで行くのだった。
あからさまにジメジメしていて、臭いも鼻を刺す臭いだった。人通りも少なく、私たち以外、誰もいなかった。
「アテナはここに連れ去られて行ったの?」
私は馬車の中で隣に座っているテアに尋ねる。
「はい………アテナはここに連れ去られて行きました。たくさんの男の人に袋の中に入れられて………それで……」
「なるほどね。分かったわ。ごめんね、辛いことを思い出させてしまって」
そう言って、落ち着かせる為にも私は彼女の頭を撫でた。
幸い涙は引っ込めたようで、服の裾で目元を拭っていた。
「それじゃあ、どうやって中に侵入する?僕とアルビーが最前で突破して、エマが後方支援をするのが妥当だと僕は思うんだけど。二人はどう?」
「………俺もルイズの作戦に異論は無い。その方がこいつも安全だしな。ルイズがヘマやらかさない限り大丈夫だろ」
「アルビー?流石に君よりは失敗するほどバカじゃないよ」
「おい!誰がバカだ」
「ちょ、二人とも!子供の前で大人気ないですよ!前線は私が行きます。私を囮として使って、油断させた後にお二方が攻め込んできて下さい」
すると、二人同時に私の方へ向いて
「ダメだ!」
「ダメに決まってるでしょ」
と声を揃えて即答した。
(なんでここだけハモるんだ………)
私は呆れつつ、二人に理由を尋ねることにした。
「何故ダメなんです?たしかに私は女ですが、そこらの騎士よりかは剣技は断然劣っておりません。それに、地位で言えば私の命よりもお二人の命の方が遥かに重いです。紳士的なのは大変結構ですが、ご自分の身の安全を考慮できるようになってからお考え下さい」
「んな………」
「エマ………それでも、君を囮にするなんて感化できないよ。強い君も好きだけれど、君を失うような真似はしたくない」
アルビー様は黙ってしまったが、ルイズ様は尚も反論した。私も負けじと反論しようとしたが、ふいにルイズ様が手を叩き、まるで名案を思いついたとでも言いたげな様子でこちらを見てきた。
そして、ルイズ様から爆弾発言が投下された。
「エマが囮になるなら、僕達も女装して一緒に囮になれば良いんだよ」
「「………………………………………は?」」
今度は私とアルビー様の声が重なった。
「うおぉ…………女っていつもこんなヒラヒラな服を着てたのか………邪魔じゃないのか?これ」
「ふむ。いつもより軽い生地だね。軽やかに飛び跳ねられそうだ。それにとても美しいレースだね。気に入ったよ」
「……………………」
今私の目の前にいるのは、ヒラヒラのワンピースに可愛らしいピンクのリボンやキラキラなネックレスを付けた十八歳と十九歳の青年男性だ。
男性の女装というのは余程上手くないと体つき的に角張ったり少しごつかったりなどで違和感が出るのが当たり前なのだが、目の前の二人は元気な明るい美少女と優雅で気品のある美女だった。
攻略対象だからなのか、この国の王子たちはずば抜けて顔が良い。それはそれは惚れ惚れするほど良い。
だから、例え王子が女装をしたとしても、違和感を感じることなく、しっかりと定着してしまうのだ。何なら似合っているまである。
「どうだ?エマ。俺かわいーか?」
「ええはい………とても素敵だと思いますよ」
だからそうやって、顎に手を当ててぶりっ子ポーズをしながら上目遣いをしてくるのはやめて欲しい。女としての自信が無くなってしまう。
「ふふ、エマ。僕はどう?女装なんて今までしたこと無かったんだけど」
「ルイズ様もとてもよくお似合いだと思います………」
ルイズ様は腰をくねらせて、口元を扇子で隠している。男なのに女の色気を纏わせているのは気の所為だろうか。………気の所為だと思いたい。
「わぁ!お兄ちゃんたち、すっごく可愛いよ!」
「そうか!?ありがとな~テア!」
嬉しそうにテアを抱き上げるアルビー様といい子いい子と言いながら頭を撫でるルイズ様。
「なんで女の私が負けているのよ………」
世の中は顔ということを再認識させられた。
因みに、ルイズ様とアルビー様のせいで、女装萌えに耐性のなかった若いメイドたちは次々に気絶していった。
騎士団の人までも頬を赤らめていた程だ。
女装しただけでこんなに攻撃力が上がるのだ。攻略対象はどこまでも恐怖の対象である。
「よぉし!準備は出来たことだし、とっとと突入致しますかね」
準備運動を始めたアルビー様にルイズ様が女性らしい行動をとるんだよと注意しつつ、私は一抹の不安を覚えながらも建物の中へ侵入していった。
建物は古い酒場で、今は使われておらず、壊れかけの樽や割れたガラスがそのまま放置された状態だった。
「薄暗いな………アジトは一体どこにあるんだ?」
私は周囲を探索していると、ルイズ様に肩をトントンと叩かれた。
「?どうしましたか?」
「ねぇ、エマ。これ見て」
「っ!これは────!」
ルイズ様が樽の一つを傾けると床から地下通路へと続く扉が開いた。
「お!でかしたぞルイズ!さぁ、行くぞ!」
「す、すごいですねルイズ様。どうして分かったんですか?」
「他の樽は壊れていたり汚れていたりするのに対して、この樽だけ異様に綺麗だったからね。怪しいと思って動かしてみたら、ご覧の通りだったって訳」
「なるほど………流石です!」
「ふふ、ありがとうエマ」
そんなこんなで、私たちは地下へと進んで行った。
一方その頃、酒場の外では───。
「全く、王子様方もお転婆なんですから。何を言い出すかと思えば女装だなんて。腰が抜けるかと思いましたよ」
「同感です。たまたま近くに服屋があったから良かったけど………」
「気にするのはそこですか………」
アルビーの専属執事とルイズの専属執事が二人で愚痴を言い合っていた。
「ルイズ様からはこの魔道具が光ったら助けに来いって言われたけど………全く本当に無茶するんですから………」
「うちのアルビー様もすぐに無茶をしがちで………馬車を追いかけるのはまだしも、お二人のお出かけを邪魔していたとは思いませんでしたから」
「………馬車を追いかける方も異常だと思いますけどね」
二人が話し込んでいると、後ろから一人の影が近づいて来た。
「あ、あの……………」
「ん?」
「はい?」
ミディアムヘアの美しい金髪にアザーブルーの大きな瞳を持った少女が不思議な顔で問いかけた。
「王家の馬車があるのですが、一体どうされたのですか?…………あっ、申し遅れました。私の名前はリル・キャロメでございます」
「!これはこれはキャロメ嬢!礼儀を欠いた状態で申し訳ありません。ええっと、これはですね、ただ今アルビー様とルイズ様、そしてエマ様が調査中の任務がありまして………」
「………?任務、ですか……?何か危険なことをされていらっしゃるのですか?」
「ああいえ!そんなことはございません。我々が命にかえてでも彼らを守りますから」
アルビーの執事であるゾイがそう言って胸を張り、拳で叩く。
「ふふ、そうなんですね。でも、ご自分の命を大切にして下さい。いつもご苦労さまです」
「あ、ありがとうございます………」
優美な様子でリルはお辞儀をした。普通、貴族はプライドが高く、目上の人にしか頭を下げない。それなのに、簡単に頭を下げたリルにゾイは戸惑いつつも嬉しさを覚えた。
「あの、良ければここで御三方が帰ってくるのを待ってもよろしいですか?」
「え!?ですが、いつ帰ってくるかも………」
「大丈夫です。私も皆さんとお出かけをしたいなと丁度思っていたところなので。あっ、任務の邪魔になるのでしたら、全然断って貰っても………」
「いえいえ!どうぞおくつろぎ下さいませ」
リルのシュンとした表情に負け、ゾイは思わずと言ったように許してしまった。
その様子を見ていたルイズの執事のセラはゾイの背中を何してんだ、というように小突いた。
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