女王候補になりまして

くじら

文字の大きさ
上 下
36 / 44
脱・引きこもり姫

生還

しおりを挟む
「ん…………んん…………」

 ぼやけた視界の中、明るい日差しが私の目に入り込む。

「まぶし…………」

 目をゴシゴシふいて視界をはっきりさせる。
 そして、ベッドに寝たまま背伸びをした。

「ん~っ、ふわぁあ………」

 私は起き上がり、すぐ横を見やると、口をあんぐり開けたレイアがいた。

「あ………あ……………あああ……………」

 レイアは声を震わせながら私を見る。

「えっと…………レイア?おはよう………?」

「エマ様!!!!!!」

「わぁ!!!レイア!?」

 レイアが急に抱きついてきて、わんわん泣き出した。

「ちょ、レイア!?どうかしたの?」

「どうかしたのじゃありません!一体………どれほどの期間寝込んでいたとお思いですか!!どれほど…………どれほど心配したことか…………!!すぐにお医者様を呼んできます。そこで安静にしていて下さいね!」

 バタバタと走り出したレイアに私はぽかんとする。
 どれほどの期間寝ていた……?この世界にカレンダーというものはないが、そんなに長く寝ていたのか。

 ベッドから降りると、額に僅かな痛みが走る。

「いてっ」

 そういえば、シーティアラを捕まえた時、前からナイフが飛んできて間一髪避けたんだった………。

 もしあの時避けられていなければ、私の顔面は大変なことになっていたかもしれない。

 (本当、小さな切り傷で良かった………ご令嬢の顔に傷がついたら、女王になれなかったとき嫁の貰い手がいなくなっちゃうし)

 鏡を見ると、額には丁寧にガーゼが貼られている。若干血が滲んで赤みがかっていた。

「んー………この様子だと、傷はつかないかな。良かった」

 ほっと一息ついて、安心した瞬間───

「エマあああああああああああ!!!!!」

 叫びながらバーンと私の部屋の扉を思いっきり開けて入ってきたアルビー様に私は目を見開いた。

「あ、アルビー様!?一体何故ここに………」

「何故って、お前が起きたという知らせを聞きつけて急いで来たんだ!!お前、一体どれだけこの俺を心配させたと思って………!!!」

 ガシッと肩を掴まれて、アルビー様はこちらを睨みつける。とても苦しそうに。

 掴まれた肩が少し痛い。

 それなのに、振り払わなかったのは、攻略対象だからという理由もあるが、アルビー様の手が震えていたからだ。

「………心配させて申し訳ありません。次からはなるべく気絶するほど無茶はしないようにします」

「…………なるべくなのかよ」

「将来何があるか分からないので…………」

「……………はぁ。確かにそうだな。俺が未来予知出来ていたらこんなことにもならなかっただろうに」

 そう言って落ち込むアルビー様。別に今回は私が無茶しただけであって、アルビー様に責任がある訳ではない。
 なのに、何故そんなに落ち込む必要が………?

「あの、アルビー様?今回の件は私が悪いので、アルビー様が別にお気に召すようなことは…………」

「っ、あのな!エマ、俺はお前が………───!」

「やぁ、お二人さん達」

 アルビー様の背後から聞こえた声に私はまたしても驚いた。

「ルイズ様!?」

「ルイズお前、絶対わざとだろ………」

 アルビー様はルイズ様の姿を確認するや否や顔をしかめた。
 その様子にルイズ様は顔をニコリとさせた。

「わざとだなんて心外だな。僕はエマが起きたと聞きつけてやって来たのに」

「あっ、ルイズ様も心配をお掛けして申し訳ありません」

 私は長時間寝ていたことで皆を心配させたと思い、ルイズ様にも頭を下げた。

「大丈夫だよエマ。僕は君のちょっと無茶なところも好きだから。だから君はもっとはしゃいで。そして僕をもっと楽しませて」

「は、はあ…………」

 これは期待されているのだろうか?微妙に違う気がする。いや、絶対に違う。

「でも、君が無事で良かった。ほんと、作戦が成功したと思ったら気絶して倒れちゃったからね。あ、あと額の傷は大丈夫?止血は急いでしたし、傷は残りはしないと思うけど………」

「あっ、はい!お陰様で大丈夫そうです。顔に傷が付かなくて安心しました。何か今度お詫びをさせて下さい」

「お詫び………か。ふむ」

 おや?紳士かつ優しいルイズ様ならお詫びと言ったら必要ないと言うと思ったのに。しかし、ルイズ様のお陰で助かったのは事実なので、私はそのまま考え込むルイズ様に尋ねた。

「何かありますかね………?」

「じゃあ、今度僕とデートしてよ」

「…………………………………はい?」

 何故私とデートを………?初めて会ったときに似たようなことを言われたけれど、結局一度も出来ていなかったような。

「なっ、デートって、ルイズお前………!」

「ん?どうかしたの?アルビー。エマを守ってここまで運んだのは僕のお陰だよ。言ってしまえば、君は何もしていないじゃないか。そんなアルビーに何の発言権があるの?」

「っ…………」

 黙ってしまったアルビー様。その顔は苦々しく、拳が震えるほど固く握られていた。

 (今のアルビー様にはかなりつらい言い方だったな…………)

「それじゃあエマ、もう少し一緒にいたかったけれど、公務があるから、今度また会いに行くよ。それじゃ」

 ルイズ様は流れるように私の左手を取って、手の甲にキスを落とす。

「なっ!」

「ルイズ!!」

 そして、私の顔───いや耳元に近づいて一言。

「エマ、あの日の夜の出来事は一生忘れないよ」

 ニコリと笑って、そのままルイズ様は去っていった。


「なっ、なっ、なんっ────!!」

「エマ」

 後ろにいたアルビー様に呼ばれて、慌てて振り返る。

「は、はい?」

 アルビー様の顔は見ただけで不機嫌だということが一瞬にして分かった。

「ルイズとはどういう関係なんだ」

「えっ、ただのビジネスパートナーだと思いますけど………」

「…………………………………そうか。俺ももう行く。起きたばかりなんだからしばらくは安静にしてろよ」

「は、はい。お気遣いありがとうございます………」

 珍しく真剣な顔つきでそう言われて、彼は静かに去って行った。

 (アルビー様、ルイズ様にあんなことを言われてプライドが傷ついたのかな……)

 今回の件に関しては確かにルイズ様にも感謝しているが、女王試験に協力してくれた仲間である、アルビー様にも感謝している。
 別にルイズ様だけが頼りになったとか、そういうことでは無いのだが。

 その後、レイアが医者を連れてきて、私の健康が証明された。なんと、私は一週間も寝込んでいたらしい。そりゃみんなが心配する訳だ。

 レイアが不在の間にアルビー様とルイズ様が来ていたことをレイアに伝えると、レイアの雰囲気が明らかに悪くなった。

「なぜあんな方々がのこのこエマ様に………」

 怖いことを呟いていそうだったが、何を言っていたのかまでは把握出来なかった。

 そして、私を危険な目にあわせたことについて、女王試験側から責任として、二週間の休暇を貰った。その間に試験が開かれることも無いし、街への自由なお出かけも許可された。

 レイアはそのことについて、もっと責任をとれと言っていたが、私にとっては十分だった。

 一緒に試験にいたベルジーナ様からも心配の手紙を貰った。

 私は丁寧にその手紙を返して、穏やかな日々を過ごそうと思った。

 しかし、そうはさせてくれなかった。

「エマ。あの時の約束を叶えて貰いに来たよ」

 ルイズ様のご登場である。






















しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスの双子と家族になりました。~俺のタメにハーレム作るとか言ってるんだがどうすればいい?~

いーじーしっくす
恋愛
ハーレムなんて物語の中の事。自分なんかには関係ないと思っていた──。 橋本悠聖は普通のちょっとポジティブな陰キャ。彼女は欲しいけど自ら動くことはなかった。だがある日、一人の美少女からの告白で今まで自分が想定した人生とは大きくかわっていく事になった。 悠聖に告白してきた美少女である【中村雪花】。彼女がした告白は嘘のもので、父親の再婚を止めるために付き合っているフリをしているだけの約束…の、はずだった。だが、だんだん彼に心惹かれて付き合ってるフリだけじゃ我慢できなくなっていく。 互いに近づく二人の心の距離。更には過去に接点のあった雪花の双子の姉である【中村紗雪】の急接近。冷たかったハズの実の妹の【奈々】の危険な誘惑。幼い頃に結婚の約束をした従姉妹でもある【睦月】も強引に迫り、デパートで助けた銀髪の少女【エレナ】までもが好意を示し始める。 そんな彼女達の歪んだ共通点はただ1つ。 手段を問わず彼を幸せにすること。 その為だけに彼女達は周りの事など気にせずに自分の全てをかけてぶつかっていく! 選べなければ全員受け入れちゃえばいいじゃない! 真のハーレムストーリー開幕! この作品はカクヨム等でも公開しております。

執着系逆ハー乙女ゲームに転生したみたいだけど強ヒロインなら問題ない、よね?

陽海
恋愛
乙女ゲームのヒロインに転生したと気が付いたローズ・アメリア。 この乙女ゲームは攻略対象たちの執着がすごい逆ハーレムものの乙女ゲームだったはず。だけど肝心の執着の度合いが分からない。 執着逆ハーから身を守るために剣術や魔法を学ぶことにしたローズだったが、乙女ゲーム開始前からどんどん攻略対象たちに会ってしまう。最初こそ普通だけど少しずつ執着の兆しが見え始め...... 剣術や魔法も最強、筋トレもする、そんな強ヒロインなら逆ハーにはならないと思っているローズは自分の行動がシナリオを変えてますます執着の度合いを釣り上げていることに気がつかない。 本編完結。マルチエンディング、おまけ話更新中です。 小説家になろう様でも掲載中です。

乙男女じぇねれーしょん

ムラハチ
青春
 見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。 小説家になろうは現在休止中。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。

あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!? ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。 ※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

目が覚めたら男女比がおかしくなっていた

いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。 一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!? 「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」 ##### r15は保険です。 2024年12月12日 私生活に余裕が出たため、投稿再開します。 それにあたって一部を再編集します。 設定や話の流れに変更はありません。

処理中です...