女王候補になりまして

くじら

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脱・引きこもり姫

幽霊退治④

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「恋………………………ですか?」

「うん、恋だ」

 切なそうな瞳でこちらを見てくるルイズ王子に私はただひたすらに固まるばかりだった。

 (攻略対象が恋を知らない…………?)

 実際のルイズルートでは一切出てこなかった内容に頭が真っ白になる。

「何故……私にそのようなことを」

 とりあえず、私にそう告白した真意を探ろうと思ったので、ルイズ王子に質問してみる。

「そうだね………強いて言うなれば、君が部外者だからかな」

「は、はあ……」

 部外者?私が?
 ゲームでは確かに当て馬キャラだったが、どのルートでもストーリーを面白くさせるため、結構な頻度で登場していたと思う。

「分かってないって顔だね。ふふっ、君はご令嬢の中でもかなり珍しいんだよ?僕達王子に媚びを売らず、乗馬大会で優勝してしまう上に、女王候補には興味の無い存在なんだから」

「!」

 なるほど、そういう意味だったのか。

 確かに私の行動は周囲から見れば異質だろう。エイメン様やフラビル様などの行動が普通の状態だ。

「僕は、君が試験の中で一番で遠い存在にある人だと思ってる。だから何にも関与しないし、したいとも思わないだろうから」

「…………お言葉ですがルイズ様。確かに以前の私は女王候補試験に特別興味を持ってはおりませんでした。ですが、今は違います」

 ルイズ様は驚いた様にこちらを見る。私は真っ直ぐルイズ様の瞳を見て、真剣に答えた。

「私は全力を持ってして、女王候補に挑み、これから出されるであろう女王試験全てに参加する所存でございます。なので、ルイズ様のご相談に乗りたいのは山々ですが、私には不適任だと思います」

「…………へぇ。以前はそんな気はしなかったのに、考えを改めたんだね。因みに理由を聞いてもいいかな?」

 ルイズ様は興味ありげに此方を見る。私は彼の興味を引かないように出来るだけ淡々と質問に答える様にした。
 何故かって?そんなの彼の性格上面倒だからに決まっている。ゲームでも彼は主人公に一度興味を持つと粘着するかのように付きまとっていたからだ。

「少々事情ができてしまったからです。そんな大層な理由ではありませんよ」

「なるほねぇ………もしかしてそれって、君のメイドが関与していたりするのかな?」

「っ!?何故それを……!あっ……!」

 私はつい口走ってしまい、慌てて両手で口を抑える。しかし、時すでに遅し。
 彼は図星をついたと思い、口角の端を上げてニッコリと笑った。

「君、あのメイドの状況にようやく気付いたんだね。確かに最近、皇宮のメイドに対してやけに厳しい目を向けていると思ったよ」

「………………」

 私は無言を貫き通すしか無かった。私が女王候補に挑む理由を隠したかった訳では無いのだが、皇宮に関わる者に話すのは少々躊躇われたからだ。

 しかし、第三王子の情報網を舐めていた。外交を任ずる彼にとって、情報収集は得意分野かつ、仕事の一環だというのに。

「大丈夫だよ、そんなに警戒しなくとも、別に誰かに話そうなんてしないし、これを使って脅したりもしない。君の信用は保っておきたいからね。君は存外役に立つ存在だと思ってるから」

「…………今だけは信じることにします」

「あははっ、もしかしてこんな事をせずとも既に手遅れだったりする?それはちょっと痛手だなぁ」

 彼は困ったように笑うと庭園の黄色の薔薇を一本手に取り、棘がある茎を全て折って、私の髪にさした。

「うん、君は高貴な赤い薔薇も似合うけれど、明るい黄色の薔薇も良く似合って可愛いらしいね」

「どうも……」

 辺りに夜風が吹き、薔薇の花弁が数枚舞う。
 ここの薔薇の庭園は赤の薔薇以外にも黄色の薔薇や白色の薔薇。人工的に栽培された青の薔薇までも植えてあった。
 その為、夜風に吹かれる薔薇は色とりどりで美しかった。

「ここの薔薇はね、僕達王子のイメージカラーの薔薇を植えてあるんだよ。だから『未来の薔薇園』と呼ばれているんだ。奥の方に行けば他の色の薔薇も見られると思うよ」

「そうなんですか………」

 私は辺りの美しい庭園を星空と共に見渡しながらそう言った。
 今、この状況でなければ私はゆっくりとお茶でも飲みながら優雅にこの素晴らしい瞬間を過ごしていたことだろう。
 しかし、生憎今はそんな風景を楽しんでいる余裕は無かった。

「じゃあ、ここで問題です。ここの薔薇園は中央の木が植えてある部分だけ、薔薇が植えてありません。さあ、どうしてだと思う?」

「えっ?!え、えっーと………薔薇を植えることで木の栄養がとれなくなってしまうから………ですかね?」

 急なクイズに狼狽えて、私は咄嗟に思いついたことを答えた。

「残念。不正解だ。あの木はただの薔薇を植えない間の埋め合わせにしか過ぎないんだよ」

「そ、そうなんですか……?」

 どうでもいい事かもしれないが、埋め合わせの為だけに植えられて、いつかもぎ取られてしまうあの樹木が可哀想に思えた。

「正解はね、あそこは未来の女王候補の為の薔薇の土地なんだ。だから女王が決まった暁には、女王のイメージカラーの薔薇が植えられるんだ」

「なるほど……それも含めて『未来の薔薇園』……ですか」

「そういうこと。皇宮にはここの薔薇園みたいなものがいくつかあるから気になったら僕に質問しにおいで。職業柄、答えられる自信はあるから」

「ふふっ、じゃあそうさせて頂きますね」

「ああ、是非とも頼ってくれて構わないよ」

 ニコリと笑う彼に悪気は感じなかった。

「…………あの、ルイズ様」

「ん?どうしたの?」

 話が落ち着くと、私は彼に気になっていたことを話そうと思った。

「ルイズ様は先程、恋を教えて欲しいと頼みましたよね」

「ああ、そういえば頼んでたね」

「そういえばって………あの、私、きっとルイズ様のご要望には添えないと思いますので、勇気を振り絞って教えてくれたのは重々承知しておりますが、私ではその悩みを解決することは無理だと思い───」

「それは僕がついたただの嘘だよ」

「………………………………え?」

 ルイズ様は可笑しそうにクスクスと笑ってごめんごめんと、謝ってきた。

「恋心を知らないなんて嘘だよ。確かに僕は人に恋をしたことはないけれど、どんなものかぐらいかは知ってるし恋に落ちたら自覚する自信もあるよ。男女の付き合いも教育の一環としてそれなりに心得ているつもりだし………」

「えっ、えっ、えっ?じゃ、じゃあどうしてそんな嘘を私に……??」

 私は頭がパニックになり、礼儀も忘れて困惑する。

「ただの興味本位だよ。僕、実は好奇心を何よりも大切にする少年でね。君に少しイタズラしただけだよ。ごめんね?」

 彼はわざとらしく舌を出し、両手を合わせてまるで子供の様に笑う。あざとさが増してよりイケメン力が上がって、目を塞ぎたくなった。

「こ、今度からはしないで下さいよ!?ほ、ホントに会話をしている間、ずっと悩んでいたんですから!!」

「ふふふっ、それは本当に申し訳ない。お詫びに今度美味しい料理店やスイーツ店でも一緒に行こう。きっと退屈させないよ」

 確かに美味しい料理店やスイーツ店には行きたいが、なんだか食べ物で釣れるご令嬢になるのははばかられる。しかも、第三王子と共に行くなんてデートのようなものではないか。
 そんな場面を主人公に目撃されたらたまったものでは無い。

「え、ええと……そうして機会を作って下さるのは大変嬉しいのですが、生憎予定が取れそうも無く今回はお気持ちだけ頂き……」

「大丈夫だよ、エマ。僕は待てる男だからね。君の心配はいらない。待たすことが嫌なら別の案を考えよう。僕に任せて」

「いや、そういう問題では無くてですね……!!」

 私があわあわしている姿を面白そうに見つめるルイズ様。
 どうしたら良いのか分からず、私はとにかく今成すべきことをしようと思った。

「と、とりあえず!今はシーティアラを探しましょう。早くこの試験を終わらせる為にも!」

「そうだね。君との会話が楽しくて、つい忘れそうになってしまったよ」

「そうですか………」

 確かに、こんなキザな台詞、恋愛事を知っていないと絶対に出てこない台詞だ。しかも、今の台詞以外に以前からも似たようなことを言われた記憶はある。
 なんでそのことに早く気が付かなかったんだ私……!

 悶々とした状態のまま、私はルイズ様とシーティアラの捜索を続けた。











「これで、皇宮は一通り見たかな」

「うーん……姿は一向に現さなかったですね……」

 皇宮の広い部屋を重点的に探したが、シーティアラを確認することは出来なかった。
 時刻はもう、日を跨いでいる頃となっていた。

「シーティアラって確か幻覚を見せる魔獣でしたよね?まさかとは思いますが、もう既に幻覚の中に取り込まれちゃってたりして………」

「確かに、その路線は無くはない。だけど、僕は幻覚にかかったことは無いし掛かったらどう解くのかも知らないんだ。だから例え幻覚に掛かっているとしても、それを自覚することは難しいんじゃないかな?」

 確かに、それもそうだ。私もシーティアラという生き物をつい先程知ったのだ。シーティアラの幻覚にかかったことなど、以ての外だ。

「じゃあ……どうすれば………」

 また行き止まりに着いてしまい、私は頭を抱えてしまった。
 うんうんと思考を巡らせていると、ルイズ様が「ふむ……」と言いながら地面に落ちていた枝を掴む。

「……?どうされたんですか?」

 ルイズ様は枝を掴むと、先の尖った方を自分の手の甲に思い切り刺した。

 そう、刺したのだ。

「!?ルイズ様!?一体何をして───!」

「エマ、どうやら僕達は現実にはいないみたいだよ」

「え?」

ルイズ様がこちらを振り返り、刺したはずの手の甲にはなんの傷も付いていなかった。
今もルイズ様は皮膚が凹む程枝を突き刺しているというのに、痕すら付かなかった。

「これは………!」

私が息を呑むのと同時にルイズ様は私の反応を楽しむかのように問いかけてきた。

「───さぁ、女王候補。この状況をどう打開する?」












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