女王候補になりまして

くじら

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脱・引きこもり姫

幽霊退治③

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「………………足手まといにならないのでしたら構いませんよ」

 リシャーナ様は戸惑いがちに協力することを認めた。

「!本当ですか!!ありがとうございます!頑張って探します!ありがとうございます!!!」

 私は嬉しくてリシャーナ様の手を握る。
 断られると思ったのに、まさかの許可が出て本当に嬉しい。

「…………………ただ捜索することがそんなに嬉しいんですか。僕には分かりません」

「…………確かに捜索することは楽しいと思うことではないかもしれません。でも、私が何より嬉しいのはリシャーナ様が私を頼ってくれたことです。私にとって、誰かの役に立つことはとても嬉しいことですから」

「………………………そうですか。変わった人ですね」

 すると、リシャーナ様は杖を一振して、紫の魔石から光り輝く魔球のようなものを出現させた。
 手のひらサイズのそれは、私が動くと呼応するように動き出す。

「リシャーナ様、これは…………?」

 とても淡い色合いの紫の光なのに、輝きは廊下を照らすランタンの炎よりも強かった。

「シーティアラを誘き寄せる為の光です。シーティアラは光の魔球に惹かれる性質をもつ生き物なので」

「なるほど………じゃあ探索中はこの光と同行して捜索するんですね」

「はい。僕の持っているこの杖が破壊されない限り、光が消えることは無いので安心してください。見たところ、貴女は魔力を持っていないようなので、万が一光が消えてしまった場合は無理をせず、すぐに僕の元へ来て下さい」

「分かりました」

 私が頷くと、リシャーナ様は「最後に一つ……」と言って、ローブの下にある大きめのリュックの中に手を入れてガサゴソと何かを探し出した。

「……………あった。これもどうぞ」

「地図………ですか?」

 古い紙切れかと思いきや、折りたたまれた紙を開くとマップのようになっていた。
 不思議なことに、そのマップには点が取られており、ゆらゆらと動いていた。

「この地図は皇宮内の地図です。あと、この動く点は僕の位置です。先程の魔球もそうですが、シーティアラを捕獲した時などにすぐに僕の元へ持ってこれるように使って下さい」

「わ、分かりました。魔法って便利なんですね………………!」

「そうですね。では、ここで解散という事で。また後ほどお会いしましょう」

 淡々と返され、リシャーナ様は皇宮の奥へと消えて行った。

「あれがこの国の第六王子……………」

「一番可愛がられるポジションにいるのに、一番可愛くない性格なんだよなぁ」

 アルビー様は困ったように頭をポリポリ掻きながらそう言った。

「確かに淡々としていましたね」

「ま、あれでもこの国一魔力を持っている人間だからな。その魔球も通常の人間であれば30分が限界なのに、あいつは無限に使えて、おまけに何個も生成できる。すげぇよなぁ」

「だから魔力が無くなったら消えるのでは無く、杖が壊れたら消えるって言ったんですね………」

 流石攻略対象。ハイスペック過ぎる。

「そんじゃ、あいつからシーティアラを捕まえるために必要なものも貰ったし、捜索するとしますか」

「はい!頑張っていきましょう」










 ────2時間後。

「……………ぜんっぜん見つからねぇじゃねぇか!!」

「ま、まさか姿すら見つけられないなんて………」


 私たちは疲労困憊していた。
 あのアルビー様でさえ、疲れ切った表情をしている。
 そんな姿もイケメンだ。

「そもそも、皇宮が広すぎんだよ………第一庭園があると思ったら第二庭園があるし、第二庭園が終わったら、次は第一噴水広場って………どっちも似たようなもんだろ!」

「アルビー様はここで十八年間過ごしてきたんですよね………?」

「俺は自室と練習場と馬小屋しかほぼ行かねーもん」

「そういえば脳筋でしたね……」

「誰が脳筋だコラ」

 しかし、皇宮が広いのは事実で、私たちが何時間も歩き回っているのに、皇宮は未だに一周すら出来ていない。なんなら塔までもある。

「こんな大変な作業を毎晩していたリシャーナ様はすごいなぁ………」

 私はリシャーナ様を思い出し、感嘆の声をあげる。

「……………あいつ、小さい頃は体が弱かったのに、強がって無理してるんだ。あいつの為にも俺たちが早く見つけてやらないとな」

 そう言ってアルビー様は頬をパチンと叩くと、ニヤリと笑った。

「エマ!俺はもう歩けるぞ。お前は大丈夫か?何ならおぶってやろうか?」

「え!?いやいやいや、大丈夫ですよ。私も歩けます」

 流石に十八でおんぶはキツい。それに、イケメンにさせるのも億劫だ。私の心臓が持たない。

「本当か?無理すんじゃねぇぞ。辛かったら言えよな」

「あ…………はい、ありがとうございます。アルビー様」

 アルビー様は時折兄のように優しく接してくれる。こういう気遣いができる人はきっとモテるんだろうなぁ………。
 流石攻略対象だ。

 そうして、また捜索を再開すると、奇跡的にルイズ様達に出会った。


「ルイズ!こんな所で会うなんて奇遇だな!」

「やぁ、アルビーにエマ嬢。二人こそ、広く皇宮を歩き回っているようだね」

 数時間ぶりに会ったルイズ様は紳士の輝きを失うことも無く、朗らかな笑みで私たちを出迎えた。

「え、どうして広く歩き回っていることを知ってるんですか?」

 確かに私たちは皇宮を広く探索しているが、それを知っているのは共に探索しているアルビー様と護衛を任されている騎士達のみだ。

「ふふっ、それはね、君たちの護衛が疲れきっているのと、僕たちは最初、真反対の方向へ別行動したはずなのに君たちはその真反対の方向へ来ているからね。皇宮を一周するなんて恐怖もあるはずなのにすごいね」

「えっ!ここって私たちが元いた場所と真反対の所なんですか!?」

「そうだよ。僕は国外から来た人達に皇宮を案内したりしているから場所は間違いないよ」

 そうか、彼は外交を務めているからこの皇宮に関してとても詳しいんだ。

「それで、エマ様達は幽霊は見つけられましたか?」

 ベルジーナ様が私たちにそう尋ねてきて、私とアルビー様は顔を向き合わせた。

「えっと…………それが、色々と判明したことがありまして…………」

「?どうかしたの?」

 私とアルビー様は事の顛末を二人に話すことにした。
 本来、彼らと私たちはライバル同士なのだが、今は一時休戦という事で、協力してもらうことにした。

「………───と、言うわけなんです」

「まぁ………そんなことがあったのね」

 ベルジーナ様は口に手を置いて驚いている。
 反対にルイズ様は何かを考えるように顎に手を置いていた。

「つまり、僕達が次に探すべき相手は幽霊ではなく、魔獣、ということかな?」

「はい。そうなります。あっ、でも無理に協力しなくても、これは私のお人好しでやったことなのでこのままレジックに報告しても───」

 私がそんな事を言うとルイズ様は私の唇に指を置いて、「しーっ」と言った。

「そんな心外なことを言わないでおくれ。僕達はそれほど冷酷な人間では無いのだから。それに、僕の可愛い弟が困っているんだ。助けなければいけないのは当たり前だろう」

「ルイズ様………ありがとうございます………!」

 お礼をすると、ルイズ様もベルジーナ様もニコリと微笑んだ。

「じゃ、話もまとまったことだし、作戦会議といきますか」







 アルビー様が考案した作戦は、まず、リシャーナ様から魔道具を貰った魔力無しの私と、魔力探知が得意なルイズ様がペアで魔獣を誘き寄せる為に皇宮を徘徊する。

 そして、魔獣を誘き寄せた私たちが魔力持ち、尚且つ捕獲魔法を得意とするアルビー様と転移魔法を得意とするリシャーナ様がその場で魔獣を魔法で捕まえるという内容だった。

 そして今、私とルイズ様は他二人と別れ、皇宮を隅々まで徘徊していた。
 他二人は魔獣を発見したらリシャーナ様の転移魔法によって自動的にワープ出来るように魔法が施されている為、そこら辺は心配いらない。

 (魔獣を捕まえる為とは言っても、ルイズ様と二人きりはちょっと気まずいな………)

 話題が無いため、私たちはずっと無言のまま歩いているのだ。
 捜索しているとは言えど、流石に居心地が悪い。


 そんな事を考えていると、不意にルイズ様から話しかけられた。

「エマ嬢」

「は、はい!………なんでしょう……?」

 余りにも唐突だった為、少々大袈裟気味に反応してしまった。

「ふふっ……そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。取って食べたりしないから。………それで、実は前々から君に聞きたいことがあったんだけど………」

「………?なんですか?」

「君は、アルビーのことが好きなのかい?」

「…………………………………はい?」

 私は口を開けてポカーンとした。
 もう少し重要な質問をされると思って身構えていたのに、心配して損をした。

「ああ、いや、別にエマ嬢の恋愛の邪魔をしようとか、そういうのでは無いのだけれど、でも───」

「アルビー様のことは好きですけど、それは恋愛としてじゃなくて、友情だったり敬愛だったりとか、そういうのですよ。流石に私も女王候補なので、そこに関してはきちんと分を弁えているつもりです」

「……………あぁ、そうなんだね」

 ルイズ様はホッとした様な、でもどこか困惑した様な顔をした。

「……………あの、何故そのような質問を………?」

 自分の大切な弟が心配だからだろうか。確かにこの二人は歳も近いし気が合う。ゲームでも彼らは他の王子である兄弟よりも一際仲が良かった。

「………………こんなことを言えば、幻滅させるかもしれない………それでも聞きたい?」

 悲しげに言うルイズ様はどこか寂しそうで、何かに揺らいでいる気がした。
 しかし、生憎私は王子に、しかも将来私を殺すかもしれない相手に幻想を抱いているほどロマンチストでも無ければ馬鹿でもない。

 だからこの気持ちを素直に伝える事にした。

「………………こんなことを本人の前で言うのは失礼かもしれませんが………私は王子様方に夢を持っていません。今のルイズ様の姿が例え仮面を被っていても脱いでいても、どちらにせよ、それがルイズ様である事に変わりはありませんから」

………少し、淡々と言い過ぎただろうか。心配になるも、その考えは杞憂で、ルイズ様はすぐに頬を緩ませた。

「…………──ふっ。貴女は変わった人だ。僕は君みたいな人は嫌いじゃないよ」

 そう言って花がほころぶように微笑むと、アルビー様は息を吸ってこう言った。

「単刀直入に言おう。僕に………………………恋を教えてほしいんだ」

 真夜中の赤い薔薇が咲き誇る庭園で真っ直ぐな深緑の瞳を向けながら、彼は苦しげにそう言った。



















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