26 / 44
脱・引きこもり姫
引きこもり姫の噂
しおりを挟む
それは、いつもの何気ない早朝のことだった。
エマを起こしに行くため、レイアは朝早くから支度をし、洗面用具を持って皇宮の廊下を歩いていた。
すると、突き当たりの角を右に曲がろうとして、足を動かした途端、メイドたちの囁き声が聞こえてきた。
それはこんな内容のものだった。
「エマ様はまた昨日も女王候補の任務に参加せず、外へ出掛けていたらしいわよ。なんでも、平民街へ出向いたとか」
「聞いた聞いた。しかも、異性と共に行動していたそうよ。女王候補ともあろうお方が、異性交遊だなんて……聞いて呆れてしまうわね」
「ほんとにねぇ……。ベルジーナ様やエイメン様を見習って欲しいわ。全く、ここは宿屋じゃないんだから、余計な仕事を増やして欲しくないわ」
自分の主の名前が聞こえたため、不意に立ち止まってしまったレイアはとても渋い顔をしていた。
耳を塞ぎ込んでしまいたい程にエマを罵倒する言葉の数々。
次第にそれは、一人…二人…と、どんどん増えていき、今では把握しきれないほどに増加してしまっていた。
初めこそ、悪口のみで済んだことなのに、それはどんどん過激になって、エマの食べる朝食に泥を入れようと提案している者もいた。
幸い、あまり使われていない調理室でエマの朝食をレイアが作ったお陰で、泥が入ることは無かった。
だが、時々物が盗まれたり、その盗まれたものが廊下に無造作に転がっていたりなど、嫌がらせは続いていた。
それに耐えきれなくなったレイアはこの状況を打破するために、主犯となってエマをいじめようとしていたメイド達を説得してみることにした。
もちろん、それはエマには伝えなかった。
この程度のこと、自分一人で解決出来ると思ったのと、自分の大切な人をこんなことで傷つかせたく無かったからだ。
しかし、事は既に重大さを帯びていた。
メイド達の説得が失敗に終わったのだ。
しかも、日々のエマに対する鬱憤を晴らすためにレイアをいじめの対象としてきた。
正直、エマが助かるなら自分が犠牲になっても構わないと思っていたレイアは、しばらくの間、いじめに耐え続けていた。
しかし、レイアが何もしないのを良いことにメイドたちは身体に暴力を振るうようになった。
一人では到底片付かないくらいの仕事を押し付けられたり、食事を抜かされたこともしばしばあった。
「……──そして、昨日メイドの一人に説教をされていた時に偶然にもエマ様に出会ってしまった──という訳です……あの、エマ様、大丈夫ですか?ご気分を害しておりませんか?」
レイアは慌てた様子で顔を覗き込んできた。
私はそれにこくりと頷くも、気分はあまり良いものでは無かった。
「………レイア………ごめん、本当にごめんなさい。私のせいで……貴女がこんな酷い暴行を受けて……!本当にごめんなさい……っ!」
レイアの話を聞いて、改めて確信した。
──この状況の元凶は私だということに。
「エマ様!決してエマ様のせいではありません!!私が一人で解決しようとしたからこうなったのです。貴女様のせいでは絶対にありません」
レイアの優しさに私は胸が締め付けられる。こんなにも酷い主なのに。レイアはいつも私を優先して考えてくれる。
でも、ここで頷いてしまってはダメだ。
このままでは私のせいで大切な人が傷ついてしまう。
それは絶対にあってはならないのだ。
私は瞼を閉じて息をすぅっと吸い込んでからゆっくりとそれを吐く。
心を落ち着かせて、またもう一度瞼を開いた。
「………レイア、私、レイアを守ることの出来ない主にはなりたくないんだ。だから私、やり方を変えようと思う」
「え……それはつまり──……」
私はスっと立ち上がって、机の上に置かれていた女王候補のパーティの招待状に参加を希望する節を書いた。
そして、扉の前に仕えさせていた執事の一人にこの手紙をレジックに渡してと伝えて、レイアに向き直った。
「私、今日から女王候補の任務に全て参加することにしたわ。だからレイア、こんなダメな主でも、支えてくれるかしら……?」
レイアは目を見開くと涙を流しながら、こくりこくりと何度も頷いた。
「はい……!はい!貴女様にどこへでもお供いたします……!!」
「……ありがとう、レイア。そう言ってもらえてすごく嬉しい」
──この時から私の運命は少しずつ、変化を見せていった。
まず、朝はレイアに起こされるのでは無く、自分から起きようと思った。この世界には目覚まし時計が無いため、自分で体内時計を設定しなければならなかった。
そして昼は公務に関しての勉強をすることにした。
しかし、馬の世話もしなければならないので、そこそこ勉強したら馬小屋へ向かった。
乗馬大会で優勝したお陰か、私に話しかける人が多くなった。もちろん身分は隠したが、みんな優しくて友好的だった。
夕方になると社交の為にも廊下を徘徊するようになった。度々すれ違うメイドたちにモヤモヤしながらも決して表情には出さず、ニッコリと挨拶をしていった。
夜は早めに晩餐とお風呂を済ませ、身体をゆっくりと解した。
夜更かしはせずに早めに眠る。
これをルーティーンにしていくことにした。
そして、最初は大変だったその生活も体に馴染んで来た頃、先日書いたパーティの正式な招待状が配布された。
場所指定や開催時間などが記載されている。
私は息を吸い込み、覚悟を決めた。
エマを起こしに行くため、レイアは朝早くから支度をし、洗面用具を持って皇宮の廊下を歩いていた。
すると、突き当たりの角を右に曲がろうとして、足を動かした途端、メイドたちの囁き声が聞こえてきた。
それはこんな内容のものだった。
「エマ様はまた昨日も女王候補の任務に参加せず、外へ出掛けていたらしいわよ。なんでも、平民街へ出向いたとか」
「聞いた聞いた。しかも、異性と共に行動していたそうよ。女王候補ともあろうお方が、異性交遊だなんて……聞いて呆れてしまうわね」
「ほんとにねぇ……。ベルジーナ様やエイメン様を見習って欲しいわ。全く、ここは宿屋じゃないんだから、余計な仕事を増やして欲しくないわ」
自分の主の名前が聞こえたため、不意に立ち止まってしまったレイアはとても渋い顔をしていた。
耳を塞ぎ込んでしまいたい程にエマを罵倒する言葉の数々。
次第にそれは、一人…二人…と、どんどん増えていき、今では把握しきれないほどに増加してしまっていた。
初めこそ、悪口のみで済んだことなのに、それはどんどん過激になって、エマの食べる朝食に泥を入れようと提案している者もいた。
幸い、あまり使われていない調理室でエマの朝食をレイアが作ったお陰で、泥が入ることは無かった。
だが、時々物が盗まれたり、その盗まれたものが廊下に無造作に転がっていたりなど、嫌がらせは続いていた。
それに耐えきれなくなったレイアはこの状況を打破するために、主犯となってエマをいじめようとしていたメイド達を説得してみることにした。
もちろん、それはエマには伝えなかった。
この程度のこと、自分一人で解決出来ると思ったのと、自分の大切な人をこんなことで傷つかせたく無かったからだ。
しかし、事は既に重大さを帯びていた。
メイド達の説得が失敗に終わったのだ。
しかも、日々のエマに対する鬱憤を晴らすためにレイアをいじめの対象としてきた。
正直、エマが助かるなら自分が犠牲になっても構わないと思っていたレイアは、しばらくの間、いじめに耐え続けていた。
しかし、レイアが何もしないのを良いことにメイドたちは身体に暴力を振るうようになった。
一人では到底片付かないくらいの仕事を押し付けられたり、食事を抜かされたこともしばしばあった。
「……──そして、昨日メイドの一人に説教をされていた時に偶然にもエマ様に出会ってしまった──という訳です……あの、エマ様、大丈夫ですか?ご気分を害しておりませんか?」
レイアは慌てた様子で顔を覗き込んできた。
私はそれにこくりと頷くも、気分はあまり良いものでは無かった。
「………レイア………ごめん、本当にごめんなさい。私のせいで……貴女がこんな酷い暴行を受けて……!本当にごめんなさい……っ!」
レイアの話を聞いて、改めて確信した。
──この状況の元凶は私だということに。
「エマ様!決してエマ様のせいではありません!!私が一人で解決しようとしたからこうなったのです。貴女様のせいでは絶対にありません」
レイアの優しさに私は胸が締め付けられる。こんなにも酷い主なのに。レイアはいつも私を優先して考えてくれる。
でも、ここで頷いてしまってはダメだ。
このままでは私のせいで大切な人が傷ついてしまう。
それは絶対にあってはならないのだ。
私は瞼を閉じて息をすぅっと吸い込んでからゆっくりとそれを吐く。
心を落ち着かせて、またもう一度瞼を開いた。
「………レイア、私、レイアを守ることの出来ない主にはなりたくないんだ。だから私、やり方を変えようと思う」
「え……それはつまり──……」
私はスっと立ち上がって、机の上に置かれていた女王候補のパーティの招待状に参加を希望する節を書いた。
そして、扉の前に仕えさせていた執事の一人にこの手紙をレジックに渡してと伝えて、レイアに向き直った。
「私、今日から女王候補の任務に全て参加することにしたわ。だからレイア、こんなダメな主でも、支えてくれるかしら……?」
レイアは目を見開くと涙を流しながら、こくりこくりと何度も頷いた。
「はい……!はい!貴女様にどこへでもお供いたします……!!」
「……ありがとう、レイア。そう言ってもらえてすごく嬉しい」
──この時から私の運命は少しずつ、変化を見せていった。
まず、朝はレイアに起こされるのでは無く、自分から起きようと思った。この世界には目覚まし時計が無いため、自分で体内時計を設定しなければならなかった。
そして昼は公務に関しての勉強をすることにした。
しかし、馬の世話もしなければならないので、そこそこ勉強したら馬小屋へ向かった。
乗馬大会で優勝したお陰か、私に話しかける人が多くなった。もちろん身分は隠したが、みんな優しくて友好的だった。
夕方になると社交の為にも廊下を徘徊するようになった。度々すれ違うメイドたちにモヤモヤしながらも決して表情には出さず、ニッコリと挨拶をしていった。
夜は早めに晩餐とお風呂を済ませ、身体をゆっくりと解した。
夜更かしはせずに早めに眠る。
これをルーティーンにしていくことにした。
そして、最初は大変だったその生活も体に馴染んで来た頃、先日書いたパーティの正式な招待状が配布された。
場所指定や開催時間などが記載されている。
私は息を吸い込み、覚悟を決めた。
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
執着系逆ハー乙女ゲームに転生したみたいだけど強ヒロインなら問題ない、よね?
陽海
恋愛
乙女ゲームのヒロインに転生したと気が付いたローズ・アメリア。
この乙女ゲームは攻略対象たちの執着がすごい逆ハーレムものの乙女ゲームだったはず。だけど肝心の執着の度合いが分からない。
執着逆ハーから身を守るために剣術や魔法を学ぶことにしたローズだったが、乙女ゲーム開始前からどんどん攻略対象たちに会ってしまう。最初こそ普通だけど少しずつ執着の兆しが見え始め......
剣術や魔法も最強、筋トレもする、そんな強ヒロインなら逆ハーにはならないと思っているローズは自分の行動がシナリオを変えてますます執着の度合いを釣り上げていることに気がつかない。
本編完結。マルチエンディング、おまけ話更新中です。
小説家になろう様でも掲載中です。
乙男女じぇねれーしょん
ムラハチ
青春
見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。
小説家になろうは現在休止中。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?
ぽんぽこ狸
恋愛
仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。
彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。
その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。
混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!
原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!
ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。
完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。
義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。
あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!?
ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど
ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。
※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。
目が覚めたら男女比がおかしくなっていた
いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。
一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!?
「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」
#####
r15は保険です。
2024年12月12日
私生活に余裕が出たため、投稿再開します。
それにあたって一部を再編集します。
設定や話の流れに変更はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる