女王候補になりまして

くじら

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脱・引きこもり姫

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 私はメイドに呼んで貰った馬車に乗り、レイアを横にさせる。
 私は王宮に着くのを今か今かと焦りを積もらせながら待っていた。

 王宮に着くと、私はすぐ様他のメイドや執事に手伝ってもらいながら、自分のベッドにレイアを寝かせる。

 そして、出来る限り身体の汚れをお湯で濡らしたタオルで拭う。

「全然とれない……」

 あまり強く拭いても痛くならないように、綿で出来たタオルで拭いていたのだが、もう少し強く拭わないと、とれないかもしれない。

 お風呂に入れた方が絶対に早いのだが、気絶している人を相手にお風呂に入れさせる事が出来る技術は生憎持っていない。

 私は出来る限り、ベッドに触れない程度に泡をのせて、彼女の腕や足、そして顔などを拭う。

 どこも細々としており、程よい肉付きとはお世辞にも言えない状態だった。

 大分綺麗になった後、私は包帯を持って彼女の傷ついている部分を手当てする。

 消毒液はこの世界に無いため、薬草を塗って出血しないように包帯をキツく巻く。

 痛々しい痣には薬を塗って、カサついた手には美容クリームを塗る。

 彼女の髪は見た目は綺麗だが、触るとパサついていた。痛く感じないように丁寧に髪をといてやると、先程よりは少しマシになった。

 出来れば、ゴミ溜め場所の臭いがこびり付いたレイアの服も脱がせてやりたいが、ここは他のメイドに任せる事にした。
 私一人では、介護のようなことは出来ない。

 可能ならば、他にもレイアを虐めた使用人が潜んでいるかもしれない為、彼ら使用人の力は借りたくなかったが、レイアの為だと思って我慢した。

 そして私は一連の作業中、ずっと泣いていた。
 ようやく作業が終わっても、視界は涙で滲む。

 私はベッドに伏せて、そのままずっと我慢していたように、声を上げて泣き続けた。

(レイア………!!)









 ───朝、目が覚めるとエマ様、と優しい声が聞こえた。

「ん……レイア………?」

「……エマ様、おはようございます。ご気分はいかがですか?」

「……いつも通りだよー……って、それはこっちの台詞!レイア、大丈夫!?どこか痛いところは無い?」

 私はガバりと起き上がり、レイアの顔色を伺う。
 相変わらず傷は付いているが、触れた手は温かかった。

「大丈夫ですよ、エマ様。……ご心配をお掛けして本当に申し訳ございません。メイドの分際で主のベッドまでも使用してしまうなんて……本当に申し訳ありません」

「レイアが謝ることじゃないよ!ベッドだって、そんなに気にすることじゃないよ……それに……何で、こんなことに……」

 私の声は段々と小さくなってしぼんでいく。昨日たくさん泣いたからか、目も腫れていることだろう。瞼が重い。

「…………エマ様のせいではありません。私が悪いのです。私が我慢していれば良かったことなのです」

「レイア!やめて。そんなに自分を卑下しないで。自分のせいで終わらせないで。………私のせいにもさせてよ」

「エマ様…………」

 私はぎゅっとレイアの右手を両手で包む。
 こうでもしないと、レイアがどこかへ消えてしまいそうで不安で仕方なくなる。

「………どうして、どうしてこんな状態になってしまったの?どうしてレイアはあんな酷い暴行を受けていたの……?」

「それは………」

「……私には、言えないこと……?無理させてるなら本当にごめんなさい。でも、私にとってレイアは本当に大事な人だから、大事な人が傷ついているのを見ると、その理由が知りたいし、助けてあげたいの………心配なんだよ」

「っ…………………」

 レイアは泣きそうな顔をして、ぽろりと涙を一つ落とす。
 ベッドの布団が濡れて、また一つ、また一つと布団を少しずつ濡らしていった。

「え、エマ様……!私は、わた、私は………!!貴女が………本当に、本当に………大切なんです、!わ、わたっ、私は………!!」

 レイアはボロボロ泣きながら時折嗚咽を漏らす。
 私はレイアの背中を必死に撫でながら、ハンカチを渡す。私までまた泣きそうだ。
普段無表情の人がこんなに表情豊かに泣いていると、普通の人が泣いているより胸が締め付けられる。

「レイア、大丈夫、大丈夫だよ。私もレイアが大切だよ。これからも、ずっと、ずぅっと大切な人だよ」
 
 落ち着かせる為にも、私はレイアの背中を撫で続ける。私にはそれしか出来なかった。

 しばらくすると落ち着いてきたのか、嗚咽が止まり、涙も止まってきた。

「レイア、大丈夫?落ち着いた?」

「はい……お陰様で落ち着きました。ありがとうございます、エマ様」

「そっか。なら良かった。…………それでどうしてあんなことになってしまったのか、辛くならない範囲で良いから教えられる……?」

 レイアは泣き腫らした瞳で真っ直ぐ私を見て、辛そうに顔を歪めた。
 でもそれは、自分のことではなく、まるで私に対して向けられているようだった。

「……今から私が話すことはエマ様の心に深く傷を付けてしまうかもしれません。それでも……それでも話して欲しいと仰るのであれば、私は話します。………エマ様もそれを知る権利がありますので」

「レイア……」

 私は彼女の瞳を真剣に見返し、こくりと頷いた。
 決心はもう着いてる。大丈夫だ。

「……わかりました。では、私が今まで体験したこと、そして、どうしてこの様な事態になったのかを………全て説明します」

 そうしてレイアは一息吐いて、口を重々しげに開いた。

 これが、私の今の現状を変える大きな出来事ということを私はまだ、知る由もなかった。






























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