女王候補になりまして

くじら

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脱・引きこもり姫

最悪な事態

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 先生から大会に出場することを打ち明けられたその翌日、練習は今までよりも明らかにハードになった。

 私が乗馬大会で披露するのは障害馬術競技というもので、簡単に言えば障害物をジャンプしてどれだけ障害物に当たらず、そして倒さずにするかを競うものらしい。

 女、しかもお嬢様の私にとっては結構ハードな内容だが、先生の教えが上手すぎてわずか三日で慣れた。
 エヴァは他の馬よりも賢ければ足も速く、跳躍力も桁違いということで練習では障害物をほとんど倒さずにやりこなしていた。流石私のエヴァ。

 この調子で行けば優勝も勝ち取れるのではと考えていたある日。

 最悪な事態が私に襲いかかった。

「やぁ。また会ったね。エマ嬢」

「………お久しぶりでございます。第三王子…」

 再びルイズ様と会ってしまったのだ。
 ただ廊下を歩いていただけなのにまるで定められていたかのように出会ってしまった。終わった。

「ごめんね、最近忙しくてこの間送ると言っていた手紙をまだ出せていないんだよ。あ、もうこのまま予定を組もうか?」

 私はルイズ様に手紙を出してと言われた以降、
嫌々ながらもすぐさま手紙を出して送った。もし手紙を送ることが遅いと捉えられ、気分を害してしまい、私が死刑になったらおしまいだからだ。

 私が手紙を送った後、彼は私の予定に合わせて手紙を送ると言っていたが、未だに彼からの手紙は届いていなかった。
 正直、このまま届かなくて良いと思ってる。だって、お茶会に行ったとして待っているのは地獄しか無いから。

 彼も第三王子だ。仕事量は女王候補よりも倍以上あるだろうし、何より彼は攻略対象。ヒロインであるリルを落とさねばならない。
 もういっそのことキャンセルにしてくれないだろうか。

「えっと……予定が詰まっているならそんなに無理に空けなくとも大丈夫ですよ。暫く皇宮にはお世話になりますし…私のせいでルイズ様のお仕事に支障をきたしたくありません」

 ルイズ様は軽く目を見開くと、ふわりと花笑む。イケメンだ。

「……ふふっ、優しいね君は。でも大丈夫だよ、ご令嬢のご気分は害さないのが紳士の務めだから。それに、僕から誘ったんだ。流石に断りはしないよ、僕が君とお茶をしたいからね」

 私がやんわりとキャンセルの話を匂わせたのだが、紳士的な心遣いで否定された。優雅に作戦失敗だ。

「…そういえば、騎士団の人達から聞いた話なんだけど、君、乗馬大会に出場するんだってね」

「よ、よくご存知で……」

 大会参加者には騎士団の人達が出場すること先生から聞いていた。おそらく、上位に上がるのも騎士団の人間からだろうとも。
 しかし、ルイズ様が騎士団との関係があることは知らなかった。
 情報が出回るのが早すぎる。騎士団にはお喋りな奴がいるのか。

「日にちは…確か明後日だったかな?」

「え、は、はい。明後日ですね」

「ふむ……確か大会には観戦席が用意されていたはず……」

 何だか、嫌な予感がする。
 そして、その嫌な予感は見事に的中することとなった。

「──ねぇ、もし良ければ僕もその大会を観戦しに行っても良いかな?君の試合に興味があるんだ。……駄目かな?」

「え…と、それは……」

 予感の通りに最悪な事が起こった。
 ルイズ様は作中では乙女ゲームや少女漫画によくある『興味を持った』発言をするキャラクターとして描かれていた。
 その為、一度興味を持ったら飽きるまでとことん調べる主義の人なのだ。本人が天才肌なので、余計それは加速している。
 ヒロインであるリルにも彼女の言動に興味を持ち、恋愛に発展するのだが。

 現状、興味を持つべきものを間違えていると思う。
 興味を示すべきなのはヒロインであって乗馬大会では無い。変なことに興味を持たないで欲しい。シナリオが狂う。

「どう?駄目だったら無理にとは言わないけど、君のこと、もっと知っておきたいから」

「ええっと……ご公務は大丈夫なのですか?先程忙しいと仰られてましたよね?」

「あぁ、その件に関しては大丈夫だよ。丁度明日は騎士団に用があってね。大会の会場も騎士団の隣だから、仕事終わりに立ち寄れるんだ。だから、公務の心配は無いよ」

「そ、そうですか……」

 あわよくば騎士団の仕事相手が彼の足止めをしてくれないだろうかとも思ったが、彼は紳士的で穏やかな性格、そしてスマートに仕事をこなす人物だ。
 足止めを喰らったとしても、彼ならスマートにそして穏便に受け流すだろう。

「それを聞いた上でどうかな?…行っても良いかな?」

 言い方が狡いと思う。まるで、相手に罪悪感を感じさせるような言い方だ。あと単純にあざとい。

 私はこれからの未来と今の地獄を天秤にかけ、わずか三秒で答えを出した。

「わ…………………………かりました。当日いらっしゃるのを楽しみにしていますね」

「ふふっ、良かった。僕も君の試合を楽しみにしているね。それじゃあ、また明後日に」

 そう言って彼は軽く手を振ってにこやかに去っていく。

 彼が来る時は毎回通知をして欲しい。心の底からそう思い、また私は廊下の床にへたりこんでしまった。


 















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