7 / 44
脱・引きこもり姫
暇潰し
しおりを挟む
今日も私は部屋に閉じこもっていた。
相変わらずレイアは忙しそうで、私は邪魔にならないよう、彼女には話し掛けていない。
私は皇宮のふかふかのキングサイズベッドに寝転んで天井をぼーっ、と眺めていた。
天井の小さなシャンデリアがとても綺麗だ。
大きな窓から見える外の天気は晴天でお出かけ日和そのものだ。
おそらく、久々の日光を浴びたら気持ちいいのだろうが、それには大きなリスクが伴ってしまう。
(こんな晴れた日じゃ主人公達も外に出ているだろうなぁ……)
外出している主人公に出会ってしまえば、必ずストーリーに巻き込まれる。そうすれば私の命が危ない。
私はもう何度目かも分からない溜息を吐いた。
(何か抜け穴的なものがあれば、城内の庭ぐらいは行けたのに……………………ん?)
"抜け穴"という言葉に既視感を覚え、私はほとんど無意識的に部屋の扉を開けて外に出た。
「本当にあった……!」
私が見つけたのは茂みの中に隠された人一人が入れる程の壁に掘られた小さな穴だった。
これはゲームで皇宮の人達にバレないように外出するための隠し通路だった。
確か、攻略対象の一人がこの通路の存在を知っていて、主人公に教えていたのだが………。
やはり、誰がこの通路を知って主人公に教えたのかまでは思い出せなかった。
まあ、思い出せなくともこれで外出するためのルートが確保出来た。
私は早速穴をくぐり抜けた。
「おぉ………!」
穴から抜け出すと、城の中とは思えない程の広い草原があった。肌を撫でる風が日光と相まって、とても気持ちがいい。
これも庭の一部なのだろうか。
だとしたら庭師はかなり大変な仕事をしているな。
そのままさくさく歩いていくと、草地が広がっていた地面はいつの間にか砂利道に変わっていた。
すると、遠くの方から動物の鳴き声と地面を力強く駆ける足音が聞こえた。
(何……?)
私は興味本意で音のする方へと歩みを進めた。
「!あれは………」
音のする方へと近くと、見えてきたのは乗馬訓練場だった。
近くには馬小屋らしき小さな建物があり、そこから複数の馬の鳴き声が聞こえてくる。
こんな場所に乗馬が出来る所があるなんて知らなかった。
先程の抜け穴ともそれほど遠くないし、暇潰し程度にやってみても良いかもしれない。
実際、騎士団にも所属していない私が乗馬が出来るか分からないが、一か八かで頼んでみよう。
私は再び、今度は小屋へと歩みを進めた。
小屋へ入ると案の定そこは馬小屋だった。
奥に馬達が飼育されており、手前はカウンターやちょっとしたテーブルなんかもあった。
テーブルにはがっしりとした体格の男性やら、騎士団の制服を着た人達が座っていた。
私はカウンターに向かい、つなぎを着ていた飼育員に話しかけた。
「あの、すみません。乗馬をやりたいのですが……」
「新規の方ですか?」
「あ、はい。新規の登録出来ますか?」
「少々お待ち下さい」
そう言って飼育員は去っていく。
どうやらここは店員の代わりに飼育員が馬と店員を兼用して行っているようだ。
私は近くにあったテーブルに座ってしばらくそのまま待機した。
そのまま待機して数分経った頃、再び先程の飼育員がやってきた。
「お待たせしました。乗馬をお望みですね?ではこちらの契約書に目を通して、サインをお書き下さい」
飼育員から数枚の紙を渡され、全てに目を通す。
「……結構お金がかかるんですね」
「そうですね……ですが、新規の方限定で一頭目の馬は他よりも安くしますよ。レンタルするという手もありますね」
ふむ。安くなるのは悪くない。いくら私が侯爵令嬢だとしても私のポケットマネーはそこまである訳では無い。
皇宮から払わせる訳にはいけないし、私は今女王候補という立場にある。
女王候補としての役目を放り出して乗馬に専念しているなんて知られたら、後ろ指を指される事は間違い無いだろう。
まあ、それを承知でここにいる訳だし、もう過ぎた事だ。
私は契約書にサインし、馬の購入を選んだ。
これから長い間お世話になるのだ。レンタル期間を過ぎてまたお金を上乗せして払うより、安く買えるうちに買ってしまった方がお得だろう。
「ありがとうございます。では早速、馬選びに移りましょうか」
飼育員と共に奥へと進んでいく。
地面は木の床から土に変わり、敷き藁が所々に散らばっていた。
すると、先に中へ入っていたのか、前から男性が歩いてきた。
眉間に皺を寄せ、服は土や藁で大分汚れている。
よく見ると服が所々縺れていた。
そして男性は通りすがる瞬間に
「くそっ…!何なんだよあの暴れ馬!あの見た目に騙されてこんな事になっちまった…!クソっ!!」
と言って苛立たし気に去っていく。
(暴れ馬……?あの見た目って……?)
私は不安になりつつ、飼育員に着いて行った。
「お好きな馬をお選び下さい」
飼育員によって通された飼育部屋は馬が何十頭も並んでおり、どれも大きい。
そんな中でも一際綺麗な毛並みをもった白馬がいた。
(まさか、さっきの男性が言っていた"あの馬"ってあの白馬のこと?)
暴れ馬などと言っていたが、特にそんな気配は無い。
今も静かに、餌であるりんごを食べていた。
「あの、あそこの白馬って……」
私は思い切って尋ねてみた。
すると、飼育員はああ、と声を出して苦笑を浮かべた。
「あの馬、とても綺麗な見た目でしょう?なのであの馬を購入される方が多数いるのですが、皆、僅か一週間で返却されるんですよ。皆様口々に暴れ馬だと仰られていて……」
「それは大変ですね……」
「はい、そうなんです。なので買取手が見つからずにもう三年が経ってしまって……このままだとあの白馬は殺処分になってしまうんですよ」
「はあ……」
飼育員の話は何がトリガーになったのか、どんどんヒートアップしていく。
「流石に殺処分になってしまうのも可哀想ですし、もし、あの子の買取手がいたら、他の馬よりも安い値段にするのですが……」
「…………」
飼育員は困ったように眉を下げ、私を見てくる。
私は似非笑いを作りつつも内心戸惑っていた。
他の馬より安く……その言葉だけが私の心を支配していた。
「あぁ、すみません長々と。お客様、お気に入りの馬は見つかりましたか?」
「あの白馬は……今の値段より安く買えるんですよね?」
「えぇ。そうですよ」
「…………………」
安く、買える。
今の私にとってこれ以上ない良い話だ。このチャンスを逃してはならない気もする。
しかし、私は乗馬初心者。最初から暴れ馬なんて乗れる訳が無い。
でも、安い───!
「あの、お客様?どうなさいますか?」
私は意を決して、飼育員に告げた。
「あの白馬、買います」
侯爵令嬢はお金が無かったのだった。
相変わらずレイアは忙しそうで、私は邪魔にならないよう、彼女には話し掛けていない。
私は皇宮のふかふかのキングサイズベッドに寝転んで天井をぼーっ、と眺めていた。
天井の小さなシャンデリアがとても綺麗だ。
大きな窓から見える外の天気は晴天でお出かけ日和そのものだ。
おそらく、久々の日光を浴びたら気持ちいいのだろうが、それには大きなリスクが伴ってしまう。
(こんな晴れた日じゃ主人公達も外に出ているだろうなぁ……)
外出している主人公に出会ってしまえば、必ずストーリーに巻き込まれる。そうすれば私の命が危ない。
私はもう何度目かも分からない溜息を吐いた。
(何か抜け穴的なものがあれば、城内の庭ぐらいは行けたのに……………………ん?)
"抜け穴"という言葉に既視感を覚え、私はほとんど無意識的に部屋の扉を開けて外に出た。
「本当にあった……!」
私が見つけたのは茂みの中に隠された人一人が入れる程の壁に掘られた小さな穴だった。
これはゲームで皇宮の人達にバレないように外出するための隠し通路だった。
確か、攻略対象の一人がこの通路の存在を知っていて、主人公に教えていたのだが………。
やはり、誰がこの通路を知って主人公に教えたのかまでは思い出せなかった。
まあ、思い出せなくともこれで外出するためのルートが確保出来た。
私は早速穴をくぐり抜けた。
「おぉ………!」
穴から抜け出すと、城の中とは思えない程の広い草原があった。肌を撫でる風が日光と相まって、とても気持ちがいい。
これも庭の一部なのだろうか。
だとしたら庭師はかなり大変な仕事をしているな。
そのままさくさく歩いていくと、草地が広がっていた地面はいつの間にか砂利道に変わっていた。
すると、遠くの方から動物の鳴き声と地面を力強く駆ける足音が聞こえた。
(何……?)
私は興味本意で音のする方へと歩みを進めた。
「!あれは………」
音のする方へと近くと、見えてきたのは乗馬訓練場だった。
近くには馬小屋らしき小さな建物があり、そこから複数の馬の鳴き声が聞こえてくる。
こんな場所に乗馬が出来る所があるなんて知らなかった。
先程の抜け穴ともそれほど遠くないし、暇潰し程度にやってみても良いかもしれない。
実際、騎士団にも所属していない私が乗馬が出来るか分からないが、一か八かで頼んでみよう。
私は再び、今度は小屋へと歩みを進めた。
小屋へ入ると案の定そこは馬小屋だった。
奥に馬達が飼育されており、手前はカウンターやちょっとしたテーブルなんかもあった。
テーブルにはがっしりとした体格の男性やら、騎士団の制服を着た人達が座っていた。
私はカウンターに向かい、つなぎを着ていた飼育員に話しかけた。
「あの、すみません。乗馬をやりたいのですが……」
「新規の方ですか?」
「あ、はい。新規の登録出来ますか?」
「少々お待ち下さい」
そう言って飼育員は去っていく。
どうやらここは店員の代わりに飼育員が馬と店員を兼用して行っているようだ。
私は近くにあったテーブルに座ってしばらくそのまま待機した。
そのまま待機して数分経った頃、再び先程の飼育員がやってきた。
「お待たせしました。乗馬をお望みですね?ではこちらの契約書に目を通して、サインをお書き下さい」
飼育員から数枚の紙を渡され、全てに目を通す。
「……結構お金がかかるんですね」
「そうですね……ですが、新規の方限定で一頭目の馬は他よりも安くしますよ。レンタルするという手もありますね」
ふむ。安くなるのは悪くない。いくら私が侯爵令嬢だとしても私のポケットマネーはそこまである訳では無い。
皇宮から払わせる訳にはいけないし、私は今女王候補という立場にある。
女王候補としての役目を放り出して乗馬に専念しているなんて知られたら、後ろ指を指される事は間違い無いだろう。
まあ、それを承知でここにいる訳だし、もう過ぎた事だ。
私は契約書にサインし、馬の購入を選んだ。
これから長い間お世話になるのだ。レンタル期間を過ぎてまたお金を上乗せして払うより、安く買えるうちに買ってしまった方がお得だろう。
「ありがとうございます。では早速、馬選びに移りましょうか」
飼育員と共に奥へと進んでいく。
地面は木の床から土に変わり、敷き藁が所々に散らばっていた。
すると、先に中へ入っていたのか、前から男性が歩いてきた。
眉間に皺を寄せ、服は土や藁で大分汚れている。
よく見ると服が所々縺れていた。
そして男性は通りすがる瞬間に
「くそっ…!何なんだよあの暴れ馬!あの見た目に騙されてこんな事になっちまった…!クソっ!!」
と言って苛立たし気に去っていく。
(暴れ馬……?あの見た目って……?)
私は不安になりつつ、飼育員に着いて行った。
「お好きな馬をお選び下さい」
飼育員によって通された飼育部屋は馬が何十頭も並んでおり、どれも大きい。
そんな中でも一際綺麗な毛並みをもった白馬がいた。
(まさか、さっきの男性が言っていた"あの馬"ってあの白馬のこと?)
暴れ馬などと言っていたが、特にそんな気配は無い。
今も静かに、餌であるりんごを食べていた。
「あの、あそこの白馬って……」
私は思い切って尋ねてみた。
すると、飼育員はああ、と声を出して苦笑を浮かべた。
「あの馬、とても綺麗な見た目でしょう?なのであの馬を購入される方が多数いるのですが、皆、僅か一週間で返却されるんですよ。皆様口々に暴れ馬だと仰られていて……」
「それは大変ですね……」
「はい、そうなんです。なので買取手が見つからずにもう三年が経ってしまって……このままだとあの白馬は殺処分になってしまうんですよ」
「はあ……」
飼育員の話は何がトリガーになったのか、どんどんヒートアップしていく。
「流石に殺処分になってしまうのも可哀想ですし、もし、あの子の買取手がいたら、他の馬よりも安い値段にするのですが……」
「…………」
飼育員は困ったように眉を下げ、私を見てくる。
私は似非笑いを作りつつも内心戸惑っていた。
他の馬より安く……その言葉だけが私の心を支配していた。
「あぁ、すみません長々と。お客様、お気に入りの馬は見つかりましたか?」
「あの白馬は……今の値段より安く買えるんですよね?」
「えぇ。そうですよ」
「…………………」
安く、買える。
今の私にとってこれ以上ない良い話だ。このチャンスを逃してはならない気もする。
しかし、私は乗馬初心者。最初から暴れ馬なんて乗れる訳が無い。
でも、安い───!
「あの、お客様?どうなさいますか?」
私は意を決して、飼育員に告げた。
「あの白馬、買います」
侯爵令嬢はお金が無かったのだった。
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
6年間姿を消していたら、ヤンデレ幼馴染達からの愛情が限界突破していたようです~聖女は監禁・心中ルートを回避したい~
皇 翼
恋愛
グレシュタット王国の第一王女にして、この世界の聖女に選定されたロザリア=テンペラスト。昔から魔法とも魔術とも異なる不思議な力を持っていた彼女は初潮を迎えた12歳のある日、とある未来を視る。
それは、彼女の18歳の誕生日を祝う夜会にて。襲撃を受け、そのまま死亡する。そしてその『死』が原因でグレシュタットとガリレアン、コルレア3国間で争いの火種が生まれ、戦争に発展する――という恐ろしいものだった。
それらを視たロザリアは幼い身で決意することになる。自分の未来の死を回避するため、そしてついでに3国で勃発する戦争を阻止するため、行動することを。
「お父様、私は明日死にます!」
「ロザリア!!?」
しかしその選択は別の意味で地獄を産み出していた。ヤンデレ地獄を作り出していたのだ。後々後悔するとも知らず、彼女は自分の道を歩み続ける。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
ヤンデレ幼馴染が帰ってきたので大人しく溺愛されます
下菊みこと
恋愛
私はブーゼ・ターフェルルンデ。侯爵令嬢。公爵令息で幼馴染、婚約者のベゼッセンハイト・ザンクトゥアーリウムにうっとおしいほど溺愛されています。ここ数年はハイトが留学に行ってくれていたのでやっと離れられて落ち着いていたのですが、とうとうハイトが帰ってきてしまいました。まあ、仕方がないので大人しく溺愛されておきます。
【ヤンデレ鬼ごっこ実況中】
階段
恋愛
ヤンデレ彼氏の鬼ごっこしながら、
屋敷(監禁場所)から脱出しようとする話
_________________________________
【登場人物】
・アオイ
昨日初彼氏ができた。
初デートの後、そのまま監禁される。
面食い。
・ヒナタ
アオイの彼氏。
お金持ちでイケメン。
アオイを自身の屋敷に監禁する。
・カイト
泥棒。
ヒナタの屋敷に盗みに入るが脱出できなくなる。
アオイに協力する。
_________________________________
【あらすじ】
彼氏との初デートを楽しんだアオイ。
彼氏に家まで送ってもらっていると急に眠気に襲われる。
目覚めると知らないベッドに横たわっており、手足を縛られていた。
色々あってヒタナに監禁された事を知り、隙を見て拘束を解いて部屋の外へ出ることに成功する。
だがそこは人里離れた大きな屋敷の最上階だった。
ヒタナから逃げ切るためには、まずこの屋敷から脱出しなければならない。
果たしてアオイはヤンデレから逃げ切ることができるのか!?
_________________________________
7話くらいで終わらせます。
短いです。
途中でR15くらいになるかもしれませんがわからないです。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる