女王候補になりまして

くじら

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試験のシステム

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  「──そなた達、そこで何をしている?」

 聞こえてきたのは冷たい声音だった。
 まあ、この皇宮にそんな声の持ち主は一人しかいないが。

「レオ殿下!」

 エイメン様がすかさず声を出し、レオ殿下に対して淑女の礼をする。
 それを筆頭とし、他の女王候補達も礼をした。

「そなた達、騒がしかったようだが、何かあったのか?」

「いえ、大した事ではございません。ただ、令嬢としての態度を改めなければいけない方を注意していただけでございます」

 エイメン様はレオ様の質問に素早く答えた。
 リルに関しては名前こそ出さなかったが、ほぼ彼女のことを指しているも同義だろう。

  リルもそこに気付いていたたまれなさそうな顔をして俯いていた。
 そんな所もまた魅力に感じてしまうのだから、主人公パワーというのは本当に凄い。

「そうか。ガレッジ嬢、注意をすることは良いが、あまり強く当たり過ぎないように。そなた程のご令嬢になるには、少々理想が高すぎる」

「勿論ですわ。重々承知しております」

「ならよい。では失礼させて頂く」

 そう言ってレオ様は左肩の青のペリースを翻し、そのまま去って行った。
 彼がこの場に来るのはゲーム通りだった。ゲームと同じように、リルが虐められそうになった所を止める意思が無くとも止めるのだ。

 (ゲームと同じ………)

 その後は女王候補達全員の自己紹介が終わったということで、そのまま解散となった。

「おかえりなさいませ。エマお嬢様」

「!レイア!」

 憂鬱とした気分で自室に入ったのだが、レイアの顔を見た瞬間、そんなものは一瞬で吹き飛んだ。
 レイアだ。レイアがいる。大天使レイア様がいる!

「式典、お疲れ様でした。旦那様や奥方様から、お嬢様のご活躍がそれはそれは素晴らしかったとお聞きしました。流石、我が主です」

 レイアはそう言って嬉しそうに微笑む。
 ああ、可愛い。

「お父様とお母様に会ったんだ。ふふっ、レイアが褒めてくれると思って頑張ったんだよ」

 勿論これは嘘だ。完全な嘘では無いが、実際はその場をすぐさましのぎ切る為にやったのだ。
 まあ、レイアが嬉しそうなのでこの事は墓場まで持って行こうと思う。

「お嬢様、レジックさんからの通達はご存知ですか」

「うん、招集が掛かったら第一ホールに向かうんだよね?」

「はい。招集は魔法の効果が付与された呼び鈴で知らせるようです。なので、呼び鈴が鳴るまでその場で休憩していましょう。私も招集が掛かった際にはお嬢様と共に出向きます」

 私はレイアの言葉に喜んで頷き、そのまましばらく自室で休憩するはことになった。
  それにしても、流石皇宮。自室がとても広い。

 風呂場は勿論、軽く料理が出来るようなキッチンや暖炉にキングサイズのふかふかベッドまで備え付けられている。

 床は肌触りの良い絨毯が敷かれていた。
 他にも部屋には簡単に遊べる遊戯までも揃っていた。

 私はレイアと共にチェスをしながらまったりしていると、突然呼び鈴が甲高い音を出し、部屋中に音が響いた。

「お嬢様、招集です。向かいましょうか」

「うん、行こう」

 私はレイアと共に部屋から出て、第一ホールへと歩き始めた。








「女王候補様方、お集まり頂きありがとうございます」

 呼び出しを受けた女王候補達にレジックは恭しく頭を下げた。
 そして、レジックは咳をひとつすると、また女王候補達に向かって話し出した。

「皆様にお集まり頂いたのは、女王候補試験のシステムの説明をする為です。もう既にご存知の方もいらっしゃると思いますが、改めて私が説明させて頂きます。何かご質問等あれば、後程伺います」

 レジックはそう言って深く息を吸った。

「では、最初に投票についての説明を致します。投票というのは王子様方による投票のもと、誰が現時点で最も女王に相応しいかを決める選挙でございます。その票の多さで評価を決めさせて頂きます」

 レジックは続けて話をする。

「王子様方には一人一票保持して頂いておりますが、同数になる回数を減らす為にもレオ殿下には二票保持して頂いております。ですが、あくまで防止の為のものなので、必ずしも同数にならない訳ではございません。王子様方が投票に参加しない場合もございますので、ご理解下さいませ」

 長々と喋ったレジックは一呼吸置いて、また喋り出した。

「投票を決める際には"女王の課題"というものをこなして頂きます。女王になる為の必要な要素をこの"女王の課題"を通して見定め、最終的に王子様方に判定させて頂くというシステムです」

「…………なるほど?つまり、王子様方に私たち女王候補の勇姿を見てもらうのね」

 エイメン様が納得したように笑う。彼女の描いた理想は何となく恋愛要素が入っている気がする。

 エイメン様の言葉にレジックはこくりと頷く。

「はい、そのような認識で構いません。課題の項目としては私の方からランダムに選ばせて頂きます。課題の内容によってはペアを必要とする場合もございますので、ご考慮下さいませ」

 レジックの説明に女王候補達はそれぞれ頷く。

  私もそれに頷いた。

「課題は一定期間の間に行います。課題を行う際は課題の内容が書かれた手紙を女王候補様方の部屋に送りますので、そこに参加される旨を書き、再度私にお送り下さい。参加すればするほど王子様方の判断基準が多くなり、有利になれるので、出来るだけ多く参加する事をお勧め致します」

 ゲームでは"女王の課題"というのをクエストとして行っていた。
 レジックはそこの案内人をしており、現実ではどうなるかと思っていたが、なるほど、手紙での通達になるのか。

 私が一人納得している間にもレジックはすらすらと説明を続けていく。

「また、約一ヶ月に一度、舞踏会が行われますので、そこでも女王らしい振る舞いをなさって下さい。パートナーはこちらで決めさせて頂きましたので心配ご無用でございます。因みにパートナーの変更はご要望がございましたら、変更可能でございます」

 レジックはそこで言葉を区切って、

「ここまでで何かご質問等はございますか」

 と言った。

 レジックの問いに声を出したのはエイメン様だった。

「質問よ。先程課題は貴方達が決めると言っていたけれど、細かく言うと誰が決めるのかしら?」

「最終的な判断を任せられているのは私でございます」

 すると、エイメン様は眉間に皺を寄せる。
  まるで不愉快とでも言うように。

「貴方が?貴方はあくまで執事でしょう?なのに何故、使用人の分際で私たち貴族に命令しようとしているのかしら?そもそも私、貴方にそこまでの信頼を寄せたつもりは無いのだけれど?」

 エイメン様は口元を扇子で隠し、目だけレジックに向ける。
 しかし、口元は見えなくとも全身から不機嫌オーラを出しているのは火を見るより明らかだった。

 エイメン様の態度にレジックは物怖じせず、ただ真っ直ぐに答えた。

「ご安心下さい。課題の内容は過去に行われた女王候補試験の課題に沿って作られたものです。この課題は当時の王様が作られたものですので、決して使用人が貴族に命令をしようとしている訳ではございません」 

 レジックは丁寧に答えると、エイメン様はふんっ、と鼻を鳴らし、

「………そう、分かったわ」

 と静かに言った。

 レジックは再度質問等が無いかを確認した後、無いと判断するとまた話し出した。

「女王候補の皆様は実家への帰省は禁止されておりますが、面会は可能になっております。面会したい場合は私の方にまでご連絡下さい。また、街への外出は基本自由ですが、必ず護衛を付けてお出掛け下さい」

 ゲームでもリルが街へ散策に行っている描写はよく描かれていた。攻略対象とのデートスポットとしてもよく出てきていた。

 私も街には興味が無い訳では無い。
 馬車から見た街の景色も賑やかで活気があり、とても面白そうだった。

 前世でも見たことの無いものや、平民でも使える魔法もちらほらとあってわくわくした。

 だから、出来ることなら行ってみたい。レイアと共にお出掛けしたい。
 しかし、リルの出現率が高い以上、そうそうに出向くことは出来ない。下手したらイベントに遭遇してしまう。

 (迂闊に街に出かけるのはよそう。危険度が高すぎる)

 私はそう結論付け、レジックの言葉に耳を傾けた。

  「大まかな説明は以上になります。勿論、禁止事項として投票に細工をしたり、他の女王候補様に危害を加えるような真似は法に触れますので、ご注意下さい。細やかな説明はその時々にお教え致します。では質問はございますか」

 レジックがそう言うと、挙手をした女王候補、ベルジーナ様がいた。

  「質問です。女王候補は課題の中に他国への干渉もあると聞いているのですが、一体どのようなものでしょうか。私の家族にどのような関連性が?」

 ベルジーナ様の質問に対してレジックはにこりと微笑み、返答した。

「はい。確かに他国への課題もありますよ。詳しくはお伝え出来兼ねますが、必ず危害を加えるような課題ではございませんので、ご安心下さい」

「そう。ならいいの。ありがとう」

 ベルジーナ様もにこりと微笑んだ。

 レジックはもう一度質問を尋ね、二度目の無い確認をするとコホンと一つ咳を零す。

「皇宮の中は王子様方の住む宮以外、自由に出入り可能ですので、暇つぶし程度にご利用下さい。では、これにて以上になります。正式な試験は明日から開始なので、今日は疲れを取るために、ごゆっくりとお休み下さいませ。」

 レジックはそう言ってまた最初と同じように恭しく礼をし去って行った。
 その後、女王候補達は各々自室へ戻ったのだった。










「レイア、今日の夜はあまり皇宮を歩き回らないようにしてね」

「分かりました…………理由を聞いても?」

「会って欲しくない人が歩いているから」

 部屋に戻り、寝る準備を済ませた私はレイアに向かってそう言った。

 会って欲しくない人───それは他でも無い、リルの事だ。

 リルはゲーム通りに行けば、今日の夜、胸が高ぶるあまりに眠れず、皇宮を散策しに行くのだが、そこで全ての攻略対象との出会いを果たす。

 ある意味、自己紹介シーンでもある。
 だから、今日の夜は地獄のようなメンツが集うのだ。絶対に避けなければならない。

 私はレイアに再度強く言って、眠りについたのだった。


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