女王候補になりまして

くじら

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ゲームスタート

会場にて

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私が会場の中へ入ると、奏でられていた音楽が止まった。
そして、会場の案内人の一人が大声で私の名前を呼び、会場に訪れた事を周囲に知らせる。

 ………何してくれちゃってるんだ。こっそり入ろうとした計画が一瞬で飛散してしまったじゃないか。

会場はまさしく絢爛豪華という名が相応しく、会場の奥の奥には並べられた六つの玉座の様な席に座る五人の男性──つまり攻略対象が座っていた。

ん?五人?攻略対象は全員で六人では?

私は一度思考を巡らそうとするも、彼らの姿を見てしまったら、一瞬で頭が真っ白になった。

遠目でも分かる。凄いイケメンだ。
あそこだけとても光ってるように見える。眩しい。

また、会場にいる沢山の他の参加者達も皆、美しい格好をしていた。
中には特別美しいオーラを出す人達もいるが、おそらく私と同じ女王候補の人達だろう。

会いたくないと思い、私はさっさと自分に集められた視線をとく事にした。
会場の奥へ進み、玉座に座る彼らの前に立つ。
近くで見ると更に全員がイケメンということが分かった。
そんな彼らの前で私は口を開いた。

「女王候補の一人、フロンティア侯爵家のエマ・フロンティアでございます。本日、この様な素晴らしい機会に参加させて頂き、誠に嬉しく思っております。誠心誠意、民の為に女王候補試験に励みたいと思っております。よろしくお願い致します」

慣れない淑女の礼をするも、今世の体は既に染み付いているのか、無意識的に行えた。

普段のパーティー等ではこんな自己紹介みたいなものはいちいち行わないのだが、今回は特別だ。
周囲に自分は女王候補なのだと、周りがそれを知っていても、自分の口から宣言するためらしい。
だから、私の今の精神状態はブレにブレていた。
冷や汗をかきながら、私は頭を上げた。
すると、会場に拍手が沸き起こる。
ゲームのエマが言っていたことを完璧にではないが、ただ真似して言ってみたことを変と思われていないようで良かった。

私は再度、今度は来賓の客に向けて、淑女の礼をした。

すると、中央の玉座に座っていた攻略対象の一人が、私に向かって口を開いた。

「エマ・フロンティア嬢。そなたの意気込み、素晴らしいものだった。告げた言葉を有言実行出来るように、これから女王候補として精進したまえ」

威厳がありながらも、どこか冷めた声。
ゲームでも無機質なキャラとして描かれていたけれど、実際に会うともっと無機質で冷ややかな声に聞こえた。
晴天の青空の様な明るい青の瞳なのに、それとは真逆の冷徹な目線を向けられながら、私は笑顔を取り繕った。

「ありがとうございます。期待に応えられるよう、努力致します」

「─では、式典を再開しよう」

彼の一言でまた会場に音楽が流れ出す。
それに呼応するように他の参加者達はダンスを始めた。
私は彼らにもう一度淑女の礼をして、その場に不敬にならない程度で足速に立ち去る。
 
十分に彼らと距離をとった後に私はふぅ、と一息吐いた。
正直、死ぬかと思った。あんな誰もが見ている場所でいきなりあんな事をさせられるとは。

一度呼吸を落ち着かせ、私は再度、玉座に座る攻略対象を見た。

(確か、中央にいた攻略対象は──)

──レオ・デ・セインティア。

確かそんな名前だった気がする。
我らが誇る、この国の第一皇子。
彼の銀髪はとても美しく、誰をも魅了する整った顔。
文武両道冷静沈着。彼は正しくそうだった。
青空の瞳はどこまでも澄んでいて、どこか冷たさを潜めていて。
 
時期皇帝にレオ様を支持している人は多い。
しかし、亡くなられてしまった先代の皇帝は遺言とともに兄弟全員に平等に継承権を与えたのだ。
つまり、今、次期皇帝を決めてしまうのは血みどろの戦いが貴族間で勃発しかねない。
 
何故、先代の皇帝がそんな事を遺したのかは分からない。
けれど、先代の皇帝はとても平等を重んじるお方だったと聞く。
女王候補試験も女性の皇を決めることで、皇帝と女帝が共に政治を進めるという思惑の基に作られたのだ。

因みに何故"女帝候補試験"では無いのかというと、昔は我が国、セインティアは帝国では無く、王国という立場にあったからだ。
 
その時、残虐な行為を続けた事で帝国という立場にまで上り詰めたが、当時の王を非難する声が多数寄せられ、もう二度と同じ過ちを繰り返さないように、忘れないようにする為に女王候補試験という名前のままで残してあるらしい。

女王候補試験の他にも王国の時から全く変わらない名称のものが沢山ある。

今では平和な国として、過去にあった文化をこれからも残していこうという理由もあるのだとか。
 
まあ、この国の設定はゲームでよく出ていたから、ちゃんと覚えている。
 今世でも歴史に関してはとても勉強させられた記憶があるし。

取り敢えず、レオ様は支持率がとてもあり、私としては絶対に近づいてはいけない存在ということはよく理解した。

私は暫く考えるのを放棄し、ぼーっと壁の花と化していると、よく見知った人達がやってきた。

「!…………お父様!お母様!」

私は驚いたものの、安堵がすぐに心を占めた。

「エマ。先程の挨拶、とても素晴らしかったよ」

 「ええ。流石、わたくし達の愛娘ですわ」

優しく微笑む私の両親は傍にいるだけで安心させてくれる。

「ありがとう。お父様、お母様」

ゲームでは一切登場しなかった二人だけど、エマの容姿によく似ている。
お父様の方は黒髪だけれど、私の深い青の瞳とよく似ていて、お母様は逆に薄茶の髪は全く一緒だけれど、優しい緑色の瞳をしている。

どちらも私の大切で大好きな人達だ。
今世の記憶からでも沢山愛情深く育てられたことがうかがえる。

「でも、無理はしちゃダメよ?エマは溜め込むタイプなんだから、適度に休憩しなきゃ」

「そうだぞエマ。いくらお前が可愛くて優しいと周りから認識されていても、無理な時は無理というんだぞ?」

………そして、親バカということもよく分かった。

「大丈夫だよ、お父様お母様。二人が心配しなくても私はちゃんと休息をとるよ」

「そんな事をいって、ほら、こんなに肩が凝ってるじゃない!もうっ、今すぐ揉んで解さなきゃ。ちょっと、貴方も早く手伝って頂戴」

「あ、ああ。そうだな、ほらエマ。痛くは無いかい?」
 
二人はそう言って私の肩を揉んでくる。
お父様よりお母様の方が揉む力が強いことに笑ってしまった。

「ふふっ、もう二人共、私は大丈夫だって。そんな事よりも肩を揉まなきゃいけないのは二人の方でしょ?いつもお疲れ様。ありがとう」

私が笑いながら言うと、二人同時に顔に手を当てプルプル震えていた。

「え、ちょ、大丈夫?」

「娘が今日も可愛い……!!」

「天使がわたくし達の下に舞い降りた
わ……!!」

どうやら大丈夫なようだ。通常運転。
私が二人をどうどう窘めていると、チリンチリンと甲高い鈴の音が聴こえた。

そのすぐ後に「女王候補の皆様は壇上へお集まり下さい」という声が聞こえた。

「お父様、お母様。私、もう行かなくちゃ」

私は両親に向かって言った。
両親はどちらも鈴の音の方を憎らしげに見て、私に向き合った。

「くっ……!親子の仲を引き裂くというのか……!」
「ああ!時間が惜しいですわ……!!」

 一応、侯爵家の当主とその伴侶なんだけどな。

 何だか二人の様子に気が抜けてしまった。しかし、そのお陰か私も気が楽になる。

「ふふ、お父様、お母様。行ってくるね。屋敷の皆にもよろしく伝えておいてね」

 ──また、戻ってくると。

「勿論よ。屋敷には戻れなくとも、毎日会いに行くわ!」

「毎日は行き過ぎじゃないかな」

「エマが困ったことがあったら、すぐに私に言うんだよ。侯爵家当主である私が全精力を持って、助けるからね」

「怖いよお父様」

 毎日会ったら仕事が成り立たなくなるし、侯爵家の全精力が王宮に襲いかかってしまえば、戦争になりかねないし。
 娘愛が凄い。

 私は苦笑いして、別れを告げようとした。
 しかし、お母様とお父様が急に優しい顔をしたため、立ち止まってしまった。

「エマ。無理はしないで頂戴ね。私はいつでもエマの背中を押しているんだから!」

「エマ、立派に役目を果たしてきなさい。エマが女王にならなくても私達は責めたりなんかしないから。楽しんでいきなさい」

 二人はそう言って背中や頭を撫でてくれた。
 私は手のひらの温かさに泣きそうになった。

「・・・ありがとう。お父様、お母様」

 なんだろう、私はエマであってエマでは無いのに何故だか無性に泣きたくなる。
 私ってこんな涙脆かったのか。あと私、今日泣きそうになり過ぎでは?

 「エマ、そろそろ行った方が良いわ」

「あ...うん。それじゃあ、またね!お父様、お母様!」

 私は両親に手を振り、その場を離れた。





 
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