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ゲームスタート
プロローグ
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嫌だ。嫌だ。嫌だ……!
何で、何でこんなことに……!!
「───ここが、乙女ゲームの、せかい……?」
目が覚めると私の脳内には二つの記憶があった。
一つは、私がこの世界で今日を迎えるまで生きてきた記憶。
そしてもう一つは私の前世の記憶だった。
だが、前世と言っても全てを思い出した訳では無い。前世の私の名前は分からないし、どうやって、こんなゲームの中に入り込んでこのような状態になったのかも分からない。
しかし、この世界に無いもの……つまり、車や飛行機なんかを糸も簡単に想像出来てしまう、また、それを認識している、という事は前世の記憶であるということは間違い無いだろう。
おそらく、前世の私はこの世界をゲームとして楽しんでいたのだと思う。
そう考えられる理由としては、私の記憶の中にこちらの世界とほぼ同一の風景や人物がゲーム機の画面に映しだされているからだ。
しかも、ただのゲームじゃない。女性が素敵な恋をする為に作られた乙女ゲームの世界なのだ。
そこで私は自分が起きてから、一度も呼吸していないことに気付いた。
すぅぅー、と肺一杯に空気を取り入れ、落ち着きを取り戻すと、最初に現状を理解する事にした。
……にしても、思い出したことが衝撃的過ぎて自分の今の状態をすっかり忘れていた。
私の今の体には汗がぐっしょり張り付いていて、額に流れる汗は冷気によって冷たくなっている。
私は不快感に覆われながら、キングサイズのシルクのベッドから降りる。
私の寝間着である、白いネグリジェは私の動作に伴い、ゆったりと裾を動かす。
私はベッドから降り立つと、その行動で目の前のドレッサーの鏡に自分の姿が一瞬写り、その瞬間私は冷水をかけられたかのように青ざめた。
「は………………?」
理解が追いつくより早く私は、ドレッサーの前に立ち、自分の顔を確認した。
「な、んで…………!」
私の顔は前世で遊んでいた乙女ゲームの当て馬キャラの顔と瓜二つだった。
ドレッサーの前で立ちすくむ、青い顔をした私ことエマ・フロンティアはなんと、乙女ゲームのキャラクターであった。
嘘であって欲しい。そう願って何度もどの角度からでも自身の姿を確認するが、やはり、どこからどう見てもあの"エマ・フロンティア"だった。
暫くの間、私がドレッサーの机に手をついて軽く絶望していると、ドアのノック音が聞こえてきた。
そのすぐあとに「エマ様。入ってもよろしいでしょうか」と、とても澄んだ女性の声が聞こえた。
その美しい声から、今世の記憶から私の専属侍女である"レイア"だと察せられる。
「どうぞ、入って」
「失礼します」
私が返事をすると扉が開き、美しい女性が一礼をして入ってきた。
腰まで伸びたサラサラの黒髪にまるでアメジストの様にキラキラ輝く美しい紫の瞳。
雰囲気はどこか冷たくて、静けさを感じさせるも、立ち居振る舞いは完璧で高嶺の花を連想させた。
まさに天から舞い降りた天使。それしか思い付かない。
私がしばらくぼーっとしていると、レイアは私に向かって今日の予定をつらつら述べ始めた。
「本日のご予定は山ほどございます。まず、今日はお嬢様が楽しみにしていらした女王候補開催式の日でございます。なので普段でしたら、当主様と奥方様と一緒に朝食をなさりますが、本日はお嬢様が王宮に出席される為、朝早からお出掛けになりました。そのため、本日は自室での朝食となります」
「え、と…………ん?なんて?」
今日の予定とやらを述べられたが、話の中に爆弾が紛れていた気がする。
「何かご質問がありますか」
レイアは真顔のまま、私に質問の時間を与えてくれた。
「あ、う、うん。あるよ」
「何でしょう」
私はそれに乗り、戸惑い気味に尋ねた。
「…………今日ってさ………女王候補開催式、なの…………?」
「そうです」
「……………………………」
即答だった。
私は瞬間で黙った。現実逃避の猶予も無かった。
「………まさか、お忘れになったのですか?」
「ううん!そんなこと!全然!」
レイアが怪しげな顔をするので慌てて誤魔化した。
レイアは私の様子を一瞥すると、すぐにまた無表情な顔に戻る。
「そうですか。昨夜もあれ程楽しみにしていた事をお忘れになったのかと、流石に困惑致しました」
「あはは」
無意識に乾いた笑いが出たが、どうやら誤魔化せたようなので良かった。
突然中身がもう一人増えました、なんて絶対に信じてもらえないだろうし。この事は墓場まで秘密にしておこう。私のこれからの安寧の為にも。
「さて、お嬢様。談笑はこれぐらいにして、朝食とお着替えを済ませましょう」
「あ、はい。」
レイアはテキパキと朝食の準備をし始めた。
流石専属侍女というか、所作から準備の素早さまで、全て設定されていたかのように美しい。
前世でメイドを生で見た事が無かった為、ちょっと見入ってしまう。
そういえば、レイアは私が物心ついた時から一緒にいた記憶が今世である為、彼女と私は深い信頼関係が生まれている。
ゲームでも、姿こそは登場しなかったが、エマが『うちのメイドがメイドが~』って言っていた気がする。
おそらく、ゲームでは仲が良かったのだろう。
幼少の頃から一緒にいるのだし、歳もそれ程遠くない。距離が近くなるのは必然的だ。
この"現実"でもそれは同じなのかもしれない。
「エマ様」
「ん?」
「朝食の準備が整いました。どうぞ、席へ」
「ありがとう、レイア」
レイアは恭しく礼をした。
机に並べられた朝食はパンやスープ、おかずにはスクランブルエッグなどの定番朝ごはんが、美味しそうな匂いを漂わせながら配置されていた。
(どれも美味しそう)
この世界が乙女ゲームで、私は近い未来に死ぬかもしれないというのに、その不安を緩和させるような料理だ。
机に並べられた朝食を私は今世で山ほど練習した礼儀作法で食べる。
私は仮にも女王候補なのだ。これくらい朝飯前なのだ。
「今日も凄く美味しいよ。料理長のゼフェルさんが作る料理はやっぱり絶品だね」
「それを聞いたらゼフェルさん、とても喜ぶと思いますよ」
レイアが優しさを含めた笑みを浮かべる。天使かな。
「じゃあ伝える!今すぐにでも!!」
「それはなりませんお嬢様」
朝食を済ませた私はズバッと立ち上がって、料理長のもとへ行こうと思ったのだが、レイアがそれをすかさず阻止する。
そして再度無表情でこう言った。
「先程も申し上げた通り、本日のお嬢様のご予定は山の様にあります。なので、料理長に会いに行き、帰るまでの往復時間すら惜しいのです。本来であれば、この様に和やかな朝食を過ごすのですら惜しいのですが、お嬢様の為を思って私が無理やり支度時間を本日のご予定にこじ開けたのです。つまり、既に溢れかけている時間をお嬢様は溢れさせ、零し、破壊しようとおっしゃっていることと同義なのです。ご理解して頂けましたか?時間が惜しいのでお嬢様、朝食がお済みになられたのでしたら、今度はお着替えに入りましょう」
「ハイ」
何も言え無かったのはレイアの目がマジだったことと、罪悪感が私を潰しにきたからだ。
私はされるがまま、レイアとお手伝いの三名のメイドの方々にドレスを着替えさせてもらった。
「お嬢様、私が代わりに料理長へ感謝を伝えて参りますから、そんなに顔を下へ向けないで下さい。折角の美しさが台無しです」
レイアは優しい。私が落ち込んでいたら、すぐにフォローしてくれる。
まあ、今回の場合はレイアが望みそうだったから言っただけで、流石に普段であればに出向いてまで伝えようとはしなかっただろう。
「本日のドレスはあまり派手さを出さず、素朴さを主軸にしたドレスに致しました。今回は厳かな場ですので、装飾も抑えましたが...いかがでしょうか」
私は鏡の前でくるりと回って自身の姿を確認した。
抑えめ、と言ってもこことは似ても似つかない場所にいた私から見れば、とても美しいし、とても目立つように見える。
しかし、淡い黄緑色のドレスはゆったりとしていて、とても可愛いらしかった。
装飾は胸元に小柄なリボンが一つ。そして、袖の部分にもリボンが付いており、髪飾りは美しいペリドットがあしらわれた花形の小ぶりなものだった。
髪型はゲーム内のエマと同じ、ハーフアップになっている。結び目に装飾が付けられているのだ。
薄茶の髪によく映える。地味さが一瞬でふわりと愛らしいものになった。
皮肉なことに、ゲームのオープニングのエマと全く一緒な姿だけれど。
「うん、すごく素敵だよ。ありがとう、四人とも」
私が笑顔で四人にお礼を言うとレイア達は嬉しそうな顔をして、失礼しましたと、レイア以外の三名は去っていった。
「お嬢様。本当にお綺麗です。……………こんなにもご立派になられたのですね」
「レイア…………」
何だろう。ついさっきもう一つの自我が芽生えたばかりなのに、今までずっと一緒に歩んできたかの様な錯覚に陥ってしまう。
レイアの表情が今世で過ごしてきた記憶の中で最も優しさと淋しさが表れた顔をしているからだろうか。
なんか、泣けてきた。
私の涙腺が崩壊する寸前でレイアはシャキッとと表情を変え、真面目な顔をした。
そのお陰か、私の涙も引っ込んだ。元々流す涙なんて無いはずなんだけど。
「では、お嬢様。出発致しましょう」
「…………あ、あのさ、レイア」
「はい。何でしょう」
私は今の今まで心の奥にしまい込んでいた心配を吐露した。
「………レイアも女王試験の間、一緒に居るんだよね……?」
「はい」
「あーっ!よかったああっ!!」
私は安堵に包まれた。
本当に良かった。レイアが居るなら、ゲームが始まっても大丈夫な気がする。
ゲームの中ではエマしか登場しなかった為、レイアの存在が王宮内にあるのか心配だったのだ。
エマのメイド発言が多いから、一緒には居るのだろうと思っていたが、いざ自分が過ごすとなると色々と判断が鈍るのだ。
一応尋ねておいてよかった。これでもう安心だ。怖いものは無い。
「ふぅー………」
私は深呼吸してから、レイアに告げた。
「………………行こう」
その声が震えていることに、私は知らないフリをした。
何で、何でこんなことに……!!
「───ここが、乙女ゲームの、せかい……?」
目が覚めると私の脳内には二つの記憶があった。
一つは、私がこの世界で今日を迎えるまで生きてきた記憶。
そしてもう一つは私の前世の記憶だった。
だが、前世と言っても全てを思い出した訳では無い。前世の私の名前は分からないし、どうやって、こんなゲームの中に入り込んでこのような状態になったのかも分からない。
しかし、この世界に無いもの……つまり、車や飛行機なんかを糸も簡単に想像出来てしまう、また、それを認識している、という事は前世の記憶であるということは間違い無いだろう。
おそらく、前世の私はこの世界をゲームとして楽しんでいたのだと思う。
そう考えられる理由としては、私の記憶の中にこちらの世界とほぼ同一の風景や人物がゲーム機の画面に映しだされているからだ。
しかも、ただのゲームじゃない。女性が素敵な恋をする為に作られた乙女ゲームの世界なのだ。
そこで私は自分が起きてから、一度も呼吸していないことに気付いた。
すぅぅー、と肺一杯に空気を取り入れ、落ち着きを取り戻すと、最初に現状を理解する事にした。
……にしても、思い出したことが衝撃的過ぎて自分の今の状態をすっかり忘れていた。
私の今の体には汗がぐっしょり張り付いていて、額に流れる汗は冷気によって冷たくなっている。
私は不快感に覆われながら、キングサイズのシルクのベッドから降りる。
私の寝間着である、白いネグリジェは私の動作に伴い、ゆったりと裾を動かす。
私はベッドから降り立つと、その行動で目の前のドレッサーの鏡に自分の姿が一瞬写り、その瞬間私は冷水をかけられたかのように青ざめた。
「は………………?」
理解が追いつくより早く私は、ドレッサーの前に立ち、自分の顔を確認した。
「な、んで…………!」
私の顔は前世で遊んでいた乙女ゲームの当て馬キャラの顔と瓜二つだった。
ドレッサーの前で立ちすくむ、青い顔をした私ことエマ・フロンティアはなんと、乙女ゲームのキャラクターであった。
嘘であって欲しい。そう願って何度もどの角度からでも自身の姿を確認するが、やはり、どこからどう見てもあの"エマ・フロンティア"だった。
暫くの間、私がドレッサーの机に手をついて軽く絶望していると、ドアのノック音が聞こえてきた。
そのすぐあとに「エマ様。入ってもよろしいでしょうか」と、とても澄んだ女性の声が聞こえた。
その美しい声から、今世の記憶から私の専属侍女である"レイア"だと察せられる。
「どうぞ、入って」
「失礼します」
私が返事をすると扉が開き、美しい女性が一礼をして入ってきた。
腰まで伸びたサラサラの黒髪にまるでアメジストの様にキラキラ輝く美しい紫の瞳。
雰囲気はどこか冷たくて、静けさを感じさせるも、立ち居振る舞いは完璧で高嶺の花を連想させた。
まさに天から舞い降りた天使。それしか思い付かない。
私がしばらくぼーっとしていると、レイアは私に向かって今日の予定をつらつら述べ始めた。
「本日のご予定は山ほどございます。まず、今日はお嬢様が楽しみにしていらした女王候補開催式の日でございます。なので普段でしたら、当主様と奥方様と一緒に朝食をなさりますが、本日はお嬢様が王宮に出席される為、朝早からお出掛けになりました。そのため、本日は自室での朝食となります」
「え、と…………ん?なんて?」
今日の予定とやらを述べられたが、話の中に爆弾が紛れていた気がする。
「何かご質問がありますか」
レイアは真顔のまま、私に質問の時間を与えてくれた。
「あ、う、うん。あるよ」
「何でしょう」
私はそれに乗り、戸惑い気味に尋ねた。
「…………今日ってさ………女王候補開催式、なの…………?」
「そうです」
「……………………………」
即答だった。
私は瞬間で黙った。現実逃避の猶予も無かった。
「………まさか、お忘れになったのですか?」
「ううん!そんなこと!全然!」
レイアが怪しげな顔をするので慌てて誤魔化した。
レイアは私の様子を一瞥すると、すぐにまた無表情な顔に戻る。
「そうですか。昨夜もあれ程楽しみにしていた事をお忘れになったのかと、流石に困惑致しました」
「あはは」
無意識に乾いた笑いが出たが、どうやら誤魔化せたようなので良かった。
突然中身がもう一人増えました、なんて絶対に信じてもらえないだろうし。この事は墓場まで秘密にしておこう。私のこれからの安寧の為にも。
「さて、お嬢様。談笑はこれぐらいにして、朝食とお着替えを済ませましょう」
「あ、はい。」
レイアはテキパキと朝食の準備をし始めた。
流石専属侍女というか、所作から準備の素早さまで、全て設定されていたかのように美しい。
前世でメイドを生で見た事が無かった為、ちょっと見入ってしまう。
そういえば、レイアは私が物心ついた時から一緒にいた記憶が今世である為、彼女と私は深い信頼関係が生まれている。
ゲームでも、姿こそは登場しなかったが、エマが『うちのメイドがメイドが~』って言っていた気がする。
おそらく、ゲームでは仲が良かったのだろう。
幼少の頃から一緒にいるのだし、歳もそれ程遠くない。距離が近くなるのは必然的だ。
この"現実"でもそれは同じなのかもしれない。
「エマ様」
「ん?」
「朝食の準備が整いました。どうぞ、席へ」
「ありがとう、レイア」
レイアは恭しく礼をした。
机に並べられた朝食はパンやスープ、おかずにはスクランブルエッグなどの定番朝ごはんが、美味しそうな匂いを漂わせながら配置されていた。
(どれも美味しそう)
この世界が乙女ゲームで、私は近い未来に死ぬかもしれないというのに、その不安を緩和させるような料理だ。
机に並べられた朝食を私は今世で山ほど練習した礼儀作法で食べる。
私は仮にも女王候補なのだ。これくらい朝飯前なのだ。
「今日も凄く美味しいよ。料理長のゼフェルさんが作る料理はやっぱり絶品だね」
「それを聞いたらゼフェルさん、とても喜ぶと思いますよ」
レイアが優しさを含めた笑みを浮かべる。天使かな。
「じゃあ伝える!今すぐにでも!!」
「それはなりませんお嬢様」
朝食を済ませた私はズバッと立ち上がって、料理長のもとへ行こうと思ったのだが、レイアがそれをすかさず阻止する。
そして再度無表情でこう言った。
「先程も申し上げた通り、本日のお嬢様のご予定は山の様にあります。なので、料理長に会いに行き、帰るまでの往復時間すら惜しいのです。本来であれば、この様に和やかな朝食を過ごすのですら惜しいのですが、お嬢様の為を思って私が無理やり支度時間を本日のご予定にこじ開けたのです。つまり、既に溢れかけている時間をお嬢様は溢れさせ、零し、破壊しようとおっしゃっていることと同義なのです。ご理解して頂けましたか?時間が惜しいのでお嬢様、朝食がお済みになられたのでしたら、今度はお着替えに入りましょう」
「ハイ」
何も言え無かったのはレイアの目がマジだったことと、罪悪感が私を潰しにきたからだ。
私はされるがまま、レイアとお手伝いの三名のメイドの方々にドレスを着替えさせてもらった。
「お嬢様、私が代わりに料理長へ感謝を伝えて参りますから、そんなに顔を下へ向けないで下さい。折角の美しさが台無しです」
レイアは優しい。私が落ち込んでいたら、すぐにフォローしてくれる。
まあ、今回の場合はレイアが望みそうだったから言っただけで、流石に普段であればに出向いてまで伝えようとはしなかっただろう。
「本日のドレスはあまり派手さを出さず、素朴さを主軸にしたドレスに致しました。今回は厳かな場ですので、装飾も抑えましたが...いかがでしょうか」
私は鏡の前でくるりと回って自身の姿を確認した。
抑えめ、と言ってもこことは似ても似つかない場所にいた私から見れば、とても美しいし、とても目立つように見える。
しかし、淡い黄緑色のドレスはゆったりとしていて、とても可愛いらしかった。
装飾は胸元に小柄なリボンが一つ。そして、袖の部分にもリボンが付いており、髪飾りは美しいペリドットがあしらわれた花形の小ぶりなものだった。
髪型はゲーム内のエマと同じ、ハーフアップになっている。結び目に装飾が付けられているのだ。
薄茶の髪によく映える。地味さが一瞬でふわりと愛らしいものになった。
皮肉なことに、ゲームのオープニングのエマと全く一緒な姿だけれど。
「うん、すごく素敵だよ。ありがとう、四人とも」
私が笑顔で四人にお礼を言うとレイア達は嬉しそうな顔をして、失礼しましたと、レイア以外の三名は去っていった。
「お嬢様。本当にお綺麗です。……………こんなにもご立派になられたのですね」
「レイア…………」
何だろう。ついさっきもう一つの自我が芽生えたばかりなのに、今までずっと一緒に歩んできたかの様な錯覚に陥ってしまう。
レイアの表情が今世で過ごしてきた記憶の中で最も優しさと淋しさが表れた顔をしているからだろうか。
なんか、泣けてきた。
私の涙腺が崩壊する寸前でレイアはシャキッとと表情を変え、真面目な顔をした。
そのお陰か、私の涙も引っ込んだ。元々流す涙なんて無いはずなんだけど。
「では、お嬢様。出発致しましょう」
「…………あ、あのさ、レイア」
「はい。何でしょう」
私は今の今まで心の奥にしまい込んでいた心配を吐露した。
「………レイアも女王試験の間、一緒に居るんだよね……?」
「はい」
「あーっ!よかったああっ!!」
私は安堵に包まれた。
本当に良かった。レイアが居るなら、ゲームが始まっても大丈夫な気がする。
ゲームの中ではエマしか登場しなかった為、レイアの存在が王宮内にあるのか心配だったのだ。
エマのメイド発言が多いから、一緒には居るのだろうと思っていたが、いざ自分が過ごすとなると色々と判断が鈍るのだ。
一応尋ねておいてよかった。これでもう安心だ。怖いものは無い。
「ふぅー………」
私は深呼吸してから、レイアに告げた。
「………………行こう」
その声が震えていることに、私は知らないフリをした。
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