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2章覚醒と事件。

13話災厄の日。

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ズカズカと貴族の少女の手を引きながら貴族街を歩く。
その顔には余裕はなく、仮面越しにも焦りが伝わる表情だった。

これは、この本は、人間の皮で出来ている。
それも一般人ではない。
勇者の皮だ。
これは異常事態だ。
尋常じゃない何かが起ころうとしている。

「あ、あの、アンダーさん!?」
「何だっ!?」
「手、手が・・・」
「痛いのか?」
「は、はい」
「ッチ!!」

俺はその手に手早く回復魔法をかけると少女をお嬢様抱っこをして走る。
距離にして数キロも無かっただろう。
少女の家の直ぐ目の前まで到着した。

「此処がこの少女のハウスね・・・!!」
「え?あぁ、はい、そうですけど・・・」
「ワンッ!!」
「入るぞっ!!」

俺は今度はドアノッカーすら使わずにドアを蹴破る。
金具が「おっぱアアアーッ!!」っと音を立てて壊れる。
いや、何でだよ。

「お前の親父の書斎はこっちだったな!?」
「え?あぁ、はい」
「ヴィクトリア!!やれ!!」
「ワンッ!!」

おそらく魔術的な防護がかかっていると思わしき扉にヴィクトリアがその体からは考えられないほどのビームを放つ。

「えぇ!?」

少女は驚いているが、俺も初めてみた時には大層驚いたもんだ。
そんな事はどうでも良い。
ヴィクトリアがビームを打ち終わると、そこには魔術的な防護を破られ、ボロボロに成った扉だけが残されていた。
フルボッコだどん!!

「な、何だね君たちは!?」
「御父様!!」
「メディ!?」
「あんたがこの本を買ってきたのか?」
「あ、あぁ、そうだが?」

俺はこの親父に近寄るとその胸ぐらをつかみ近くの別の部屋に放り込む。

「ゲホッゲホッ!!な、何なんだね!?」

親父は咽ながら俺を睨みつける。

「分からねぇのか?」
「だから一体!?」
「この本は人の皮が使われている!!」
「え?」
「それも勇者の皮だ!!」
「な、なん」
「この本を何処で手に入れた!?」

俺は再び親父の胸ぐらをつかむと顔を近づけて凄む。
出来る限りドスの利いた声で親父にプレッシャーを掛ける。

「こ、この本は、最近この辺りで売れている本で、私は商人からこの本を買っただけだ!!」
「どんな商人だ!?」
「ちゅ、中年の男だ!!」
「・・・まさか」

あのおやっさんか?
確かあのおやっさんの積み荷も本だったはず。
あの本全部があの魔道書だとするとかなりヤバイ。
クソッ!!なんて迷惑なもんを売り捌いてくれたもんだ!!
いや、あのおやっさんも雇い主が居ると言っていたな。
って言う事はその雇い主が今回の黒幕か!!

「他に買っていた奴は分かるか?」
「い、いや、大勢居たから分からん」
「ッチ!!おい、良いか?よく聞け?この魔道書は自動的に周りの魔力を吸って魔法陣を発動させるタイプの魔導書だ。通常なら転移に用いられるタイプの手法だが、今回はこの手法を召喚に利用している」
「召喚・・・?」
「そうだ。このままだと王国中に魔物がバラ撒かれることに成る。もし周りに魔力の少ない環境だったらこの魔方陣は発動しないんだが、通常は人も生きてるだけで魔力を生成している。民家の棚においてあるだけでもこの魔方陣は自動的に魔物を吐き出しちまうってわけだ」
「そ、それはマズイですね!!」
「あぁ、そうだろ?俺は今からギルドに行って緊急事態として知らせてくる。お前は身の回りに居るやつでこの本を持っている奴に知らせて回ってこの本を回収しろ!!良いな?」
「は、はい!!了解しました!!」

親父は一目散に隣家へ飛び出していった。
俺も早くギルドに行かねば。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「えぇ!?魔物ですか!?」
「あぁ、実はカクカクシカジカ」

俺は一目散にギルドに行き、この緊急事態を知らせた。
一応皮の無い魔物の死体も持って行き、証明した。

「成る程、魔導書が原因なんですね?」
「あぁ、そうだ。とにかく早くこの魔導書を集めて燃やすなり何なりして廃棄しなくちゃならねぇ。そして、この魔道書には・・・人の・・・皮が使われている」
「!?」
「それも、勇者の皮だ。はっきり言って異常だ。万が一魔物が出現した時に備えて住民の避難と冒険者の見回りを頼む」
「は、はい!!わかりました!!緊急事態として冒険者全員に行き渡らせます!!」

受付嬢はそう言うと大きな水晶球のようなものに字を書きだした。
その瞬間に冒険者全員のステータスプレートに緊急事態とその内容を伝える旨のメッセージが表示された。
成る程、ステータスプレートにはそういう使い方も在ったのか。

「この街に居る冒険者の数は?」
「それが・・・今は祭りの準備として遠くの国や森に狩りに行っている人が多くて・・・」
「少ないのか?」
「はい、雑用などを得意とする冒険者の方々なら多く居ますけど・・・」
「ッチ!!そいつらも避難させろ。危険だ。この街には黒幕が潜んでいる可能性があるからな」
「では、非戦闘員とみなされた冒険者の方々には避難をお願いします!!」

「おい、『負け犬』!!」
「あ、ゲンさん!!」
「どうなってんだ、この街に魔物が潜んでるってのか!?」
「あぁ、厳密に言うと召喚されるんだが・・・とにかく魔導書が原因の事件なんだ。俺は今からこの魔道書の回収に行ってくる。ゲンさんは?」
「俺は腐っても戦士だからな。避難所の警護に回るぜ!!」
「あぁ、ゲンさんがやってくれるなら助かる」
「おうよ!!任せときな!!」

ゲンさんは戦士だ。
きっとなんとか避難民の警護をやってくれるだろう。
ぶっちゃけ戦力が足りない。
ゲンさん以外でも戦える者は居るが、それでもあの魔道書の数から考えると厳しいかもしれない。

「俺は行って来る!!住民にも知らせておいてくれ!!」
「はい、緊急音声拡散魔法、発動します!!」

受付嬢はまたあの大きな水晶球に向かって何か魔法を詠唱し始めた。
おそらくあの水晶球には魔法を拡散させる効果が有るのだろう。
俺はこの隙に魔道書の回収に当たった。
平民が持っていることも在ったが、主に貴族が持っていた。
おそらく値段的な問題なのだろうが、これなら貴族街を中心に当たったほうが効率が良さそうだ。

「うおおおおおおおおおおおお!!」

俺はホバー移動で移動すると、高速で魔導書を集めていった。
どうしてこう、貴族どもは物珍しさで変なもんをよく確かめもせずに買うかなぁ!?

「此処で最後か!?」

貴族街はあの親父のおかげもあってかスムーズに集め終わった。

「既に住民は避難した後なのか」
「ワンッ!!」
「!?」

いきなり物陰から飛び出してきたのはあの皮の無い魔物だった。
俺はそれを交わしながら蹴りを入れる。
内蔵を砕きながら体の内側にめり込んだ。

「やったか!?」
「ワンッ!?」

やってた。
フラグかと思ってたけど普通に倒せてた。

「後は一旦ギルドに帰るか。受付嬢達の避難もしなくちゃだし・・・」
「ワンッ!!」
「ん?どうした?そっちは裏路地だぞ?」
「ワンッ!!」

ヴィクトリアが俺のローブの裾を噛み、引っ張る。
俺はそっちに何かあるかもしれないと思い走ったのだが・・・。

「おい、此処って・・・」
「ワンッ!!」

ロネースル何でも屋本部だった。
中からは何かが暴れる音がする。

「ぐぅううううううううっ!!」

二階から窓と壁を突き破って何かが落ちてきた。

「ヤスっ!?」
「うぅ・・・」

魔眼に眼帯の男、ヤスだった。

「何でお前がっ!?一体何がっ!?」
「リフィルの野郎が・・・積み荷から買ってきた・・・本が・・・」
「あいつも魔導書を買っていたのか!?」
「そうでさぁ・・・アンダーが頑張ってるんだから私もって・・・」
「っく!!あいつ!!」
「リフィルを責めねぇでやってくだせぇ!!あいつはあいつなりに努力をしようとしてたんでさぁ」
「分かってる!!中の状況は?」
「見た事のねぇ魔物が一匹、リフィルとあっしが戦ってました・・・」
「ズリーとロネースルは!?」
「あいつらなら避難所の方に援護に言ってると思いやす・・・」
「分かった!!お前は此処で休んでいろ。俺がリフィルを助ける」
「任せやした」
「おう、任せな」

俺は戦闘音がなくなり静かになったロネースル何でも屋本部の建物に不安感を覚えながら飛び込んだ。
一回は特に荒らされた形跡もねぇ。
問題はヤスが降ってきた二階だ。
俺はホバー移動で階段を登っていく。
二階の扉を蹴破る。

「うおおおおおおおお!!」

バキッ!!というか湧いた音を響かせ、古いドアは吹き飛ぶ。
そこに居たのは・・・。

「GULLLLLLLLL!!」

一匹の皮の無い魔物と、その魔物に体を食われているリフィルだった。

「リフィル!!」
「ワンッ!!」

俺は素早く魔物に近寄り、その頭を蹴り飛ばした。

「リフィル!!」
「う、あぁ・・・アンダー・・・?」
「まだ生きてるのかっ!?良かったっ!!」
「油断・・・し無いで・・・」
「ワンッ!!」
「え?」
「GULLLLLLLL!!」
「うおぉっ!?」

こいつもまだ生きてたのか。
しつこい奴だ。
首が取れかかっているのにまだ戦う気なのか?

「ヴィクトリア!!」
「ワンッ!!」

俺の掛け声とともに、ヴィクトリアが訓練された動きを見せる。
素早く動きながら相手の体を切り裂く。
相手がその動きに気を取られている内に俺が魔法を詠唱する。

「ミニマム・ファイアボム!!」

俺の詠唱と同時に炎の塊が飛んでいき、取れかかった首から体内に潜り込み、爆発する。
やっとのことで魔物を倒すと俺はリフィルの方へ振り向く。

「リフィル!!大丈夫か!?」
「へへっ・・・ヘマやっちまったす・・・」
「お前・・・体に穴が・・・」
「あいつにちょっと食われちまったすかね・・・?」
「ミニマム・ヒール!!」

俺が魔法を唱えると、少しだけ傷口の様子が良くなる。
しかし

「くっ・・・だめか・・・」

少しだけだ。
少しだけしか効果が無い。
このままではリフィルは死ぬ。
どうする?

「あ、そうだ!!避難所なら治癒術師が居るかもしれない!!」

少なくとも薬屋は居るはずだ。
助かるかもしれない。

「ヴィクトリア!!護衛を頼むぞ!!」
「ワンッ!!ハフッ!!ハフッ!!」
「食っとる場合か!!」

ヴィクトリアは爆発した魔犬の体の一部を食っていた。

「ほら、俺が運んでやる」
「え!?あ、あぁ、お、お願いします!!」
「何か元気じゃない?」
「そ、そんな事ないっす!!死にそうっす!!今すぐお姫様抱っこを所望するっす!!じゃないと今すぐ死ぬっす!!」
「はいはい」

軽くお姫様抱っこをしてやる。

「えぇ!?ほ、本当にやるんすね・・・」
「あ?お前がやれって言ったんじゃないか」
「か、顔!!顔が近いっす!!」
「お前顔が赤いぞ?熱でも在るんじゃないのか?」

おでことおでこをごっつんこさせて熱を測る。
結構熱い。

「おい、何で目閉じてるんだ?」
「ふぇ?あ、いや、何でもないっす!!」
「そうか、じゃあ走るぞ!!」

俺は矢印の力を使いながら移動した。
避難所まではもうすぐそこだ。

「何かいきなり静かになったな、お前」
「え?いや、その・・・」
「後、あんまり下から見られると視線を感じて矢印の操作に集中できないからやめて欲しいんだが・・・」
「え!?バレてたっすか!?」

今度は急に顔を赤くして俯いてしまった。
俺としてはずっと腕の中から顔を見られているよりはソッチのほうが良いんだがな。

「ほら、もうすぐ避難所に着くぞ!!」
「えぇー」
「何でちょっと残念そうなんだよ」
「もうちょっと乗ってたかったっす!!」
「よしっ!!お前もう歩け!!」
「あっー!!死ぬっす!!今手を離されたら間違い無く死ぬっす!!」
「お前なぁ・・・」
「ワンッ!!ワンッ!!」
「ん?どうしたヴィクトリア?」

普段は絶対に慌てないヴィクトリアが慌てている。
一体何が起こっているんだ?
いや、異常事態が起こっているのは分かっているのだが。
正直、あの魔物も俺たちで倒せるレベルだし、あまり脅威では無さそうだ。
これなら王国騎士にでも任せておけばどうにか成るだろう。

「落ち着け、ヴィクトリア。この程度なら王国騎士にでも任せておけばどうにか成る。・・・って、何だあれは?」

避難所の目の前で誰かが戦っている?
・・・あれは・・・ゲンさん?
ゲンさんと・・・誰だ?
覆面・・・?
いや・・・あれは・・・。

「『皮剥ぎ』のカイ!?」

そこに居たのは剣を抜き息も絶え絶えなゲンさんと相対するのはS級賞金首だった。
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