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3章勇者、本格始動。
33話簒奪
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「そこで俺は言ってやった訳よ!!『お前、それじゃ半魚人じゃなくて魚半人じゃねぇか!!』ってな!!」
「なぁカシラ、それってもしかして面白いのか?」
「ガハハハハ!!カシラ!!それもうやめてくれって!!」
「腹痛てー!!」
「お前らマジか?」
探索から帰ってきた一同は剥ぎ取った素材を換金し、その金で酒盛りをしていた。
「俺、自分のギャグセンスに不安を感じてきたよ」
「なーにシケたツラしてんだ?」
「いやまぁ、うん、この辺は湿気が多いからかな」
「「「ガハハハハハ!!」」」
「嘘だろ…?」
割とマジにこの世界のギャグセンスはおかしいのかもしれない。
「お前も中々面白いな!!」
「やめてくれ…!!俺はまだ俺のギャグセンスを信じたいんだ…!!」
だからこそこいつらに面白い認定をされると少し不安になる。
「俺今日はもう寝ようかな……」
「お?そうか?お疲れさん」
「おう……」
「ワフッ?」
「あぁ、平気だよヴィクトリア」
ヴィクトリアに励まされつつ自室に向かい装備を投げ出してベッドに横になる。
ギャグセンスの違いに多少なりともショックを受けたのは事実だが、今考えるべきはもっと別の事だ。
「あの半魚人……」
半魚人の魔物の体に付けられていた謎の模様。
あれが戦士階級だとすればリーダー格もいるはずだしなんなら魔法職やシーフの役割をする個体がいても不思議ではない。
それに加えて一体一体の戦闘力があれだけ高ければ統率の取れた複数体のグループが来ればカシラ達でも歯が立たないだろう。
知能は低いと聞いているが果たして……?
「ワフッ」
「あぁ、まだ寝ないよヴィクトリア。ちょっと時間もあるし考え事してるだけだ」
「?」
「もしかして孤児院に行きたいのか?」
「ワフッ!!」
「まぁあそこではお前は人気者だしな、あの小僧に色々教えてやる約束もしてたしちょうど良いか」
何となく思い出した少年との約束を果たすべく今一度投げ出したローブと仮面、剣を装備して未だ酒盛りをしているカシラ達を通り抜けて孤児院に向かう。
「それにしてもやっぱり路地裏は街灯もないし迷いそうだなぁ……ヴィクトリアの鼻だけが頼りだぜ」
「ワフッ!!」
ヴィクトリアは人語を理解している節があり、任せろと言わんばかりにポメラニアンボディの短い尻尾を千切れそうな勢いで振りながら先導してくれる。
こんな見た目でも魔物の変異種っぽいし謎のビームとか発射するしやはり魔物はよくわからない。
「ワフッ!!ムシャムシャ」
「拾い食いはやめろって!!」
ヴィクトリアは食い意地が張っているのかその辺に落ちているものでも良く食べる。
やめさせた方が良いのだろうがそこはやはり魔物だからなのか何を食べてもケロッとしている。
「ワフッ?……ヴゥウウウウウウ」
「ヴィクトリア?」
「ワフッ!!ワフッ!!」
「おい!!ヴィクトリア!?どうした!?」
ヴィクトリアが突然唸り出した。
何か変なものでも食べたのではと慌てたがどうやら違うらしい。
ヴィクトリアは前方を警戒しつつもこちらをチラチラと振り返る。
「この先で何かあるのか?」
「ワフッ!!」
「わかった!!俺が抱えるからナビゲート頼む!!」
「ワフッ!!」
らしくもなく牙を剥き出しにして唸るヴィクトリアを抱え、矢印を生成して身体に貼り付け宙に浮く。
そのままホバー移動をしヴィクトリアの指示の元孤児院に向かう。
「ワフッ!!」
「こっちか」
ヴィクトリアが唸ってる時は大体碌なことがないのはこれまでの経験に基づいてわかっている事だが、今は行き先が孤児院であるため何となく予想がつく。
「誘拐犯……か?」
最近頻発している孤児の誘拐事件、それが脳裏によぎる。
「くっ、ヴィクトリア!!空に一度浮かぶ!!一気に飛ぶから方角を教えてくれ!!」
「ワフッ!!」
ヴィクトリアを抱え、大きく空に向かって跳躍。
その後ヴィクトリアが示す方向に向かって全力で落下するように飛んだ。
そこには地に伏している少年と、少年を抱き抱えるフローラの姿があった。
「おい!!何があったんだ!!」
「あ、アンダーさん!!」
少年は頭を怪我しているのか血を流していた。
「に、にーちゃん……」
「もう大丈夫だ、喋るな。今治療を」
「違う……にーちゃん……アイツはまだ……」
「ワフッ!!」
「!?」
少年が指差す方角に向かってヴィクトリアが吠える。
しかしそこには何もいない……ように見えた。
が、空間が歪み何かがこちらに向かって腕を振り下ろそうとしているように見えた。
「う、おぉおお!?」
咄嗟にそれを剣で受け止める。
重い、が皮剥ぎや断絶姫に比べれば軽い。
アンダーはそれを全身に力を入れバネのように足を使い弾き返す。
おそらくガラ空きになっているであろう胴体に向かってそのまま前に踏み込み蹴りを叩き込む。
「!?」
「お前!!」
ダメージによって不可視化が途切れたのか、そこにいたのはカシラ達と森で戦った半魚人であった。
「アンダーさん!!」
「ここは良い!!その子を安全な場所へ!!」
「わ、わかりました!!」
「ヴィクトリア!!その2人を守ってやってくれ!!」
「ワフッ!!」
ヴィクトリアは一瞬迷ったようだが、2人を護衛する事を選び、部屋まで先導してくれた。
聞き分けのいい子だ。
ならばこちらもヴィクトリアの信頼に応えなければならない。
「こいよ魚野郎!!三枚おろしにしてやるよ!!」
「グァアアアアアア!!」
黒い肌の半魚人は悍ましい方向を上げ鋭い爪を振るう。
それを剣で受け流し、傾いた身体に足をかけ、今度はその大きな瞳に爪先を叩き込む。
何か生っぽいものを潰す感覚があった。
「うぉっ!?」
それでも半魚人は怯まずに反対の手を横薙ぎに振るった。
「っ!?」
リーチを見誤ったつもりはない、がアンダーの脛には薄く傷跡が残り、血を滲ませた。
「グルォオオオオ」
「ナイフだと!?」
その半魚人の手には体色と同じ色の小さいナイフが握られていた。
森にいたやつはそんなもの持っていなかったが。
「やっぱり仮説は正しかったのかもな」
次は油断せずに一歩飛び退き剣を構える。
動きもそうだがパワーに関してもコイツは森で出会った半魚人より格上だ。
黒い半魚人はアンダーが剣を構えると同時に闇に溶けるように再度不可視化する。
「面倒だな!!」
足運びの問題なのか足音すら聞こえない。
アンダーはそれに対抗するべく地面から水分を奪い、頭上に水球を生成、それを砕くと同時に凍らせ、氷の棘をばら撒く。
当たっているのかいないのかはさほど問題ではない。
「流石にあの硬さだと当たったとしてもダメージは無えよな」
アンダーは四方を警戒しつつ再度魔法を詠唱、乾燥した砂を巻き上げ、自身の周りに小規模な竜巻を発生させる。
自作のコンビネーション魔法、『氷砂の竜巻』だ。
「まだ終わりじゃないぞ!!ライトニング!!」
そこに魔力の消費を厭わずに竜巻の外側に光球を作成。
ライトのフラッシュのように外側から竜巻を照らした。
砂と氷、激しい光により竜巻の一部が不自然に歪んだ。
「そこだ!!」
「!?」
発生した歪みに対し、全力で剣を突き立てる。
確かな手応えを感じた。
竜巻が晴れると同時に、そこには不可視化の解けた半魚人が心臓を1突きにされ息絶えていた。
「中々面倒な相手だったな」
使用したのは初級魔法のみだったとは言え雑魚一体に使うには魔力消費が大きかった。
倒れた死体をまじまじと観察すると、その身体には森で見た半魚人とはまた違う模様が刻まれていた。
「コイツがリーダー格……いや、その線は薄いか?能力と装備的にシーフとかだろうか?」
魔物が持っていたナイフはどうやら不可視化をする事前提で自身の鱗を使って作ったもののようだった。
「そうだ!!アイツらは無事か?」
思えば冷静に分析している場合ではない。
ヴィクトリアと共に避難させた2人の元へ駆け足で向かう。
そこには布団に横たわった少年とその手を握るフローラがいた。
「ミニマム・ヒール」
「うっ」
「大丈夫だ。大丈夫だからな」
アンダーも少年のそばに立ち何度か回復魔法をかける。
これも初級魔法だが、怪我自体も大したことは無いらしく少年の顔色は大分良くなった。
「アンダーさん」
「にーちゃん……」
「おう、ヴィクトリアもありがとう。で、何があったんだ?」
「それが……」
「にーちゃん……おれ…おれ、守れなかった!!また、守れなかった……!!」
「アンダーさん、つい先程なんですが怪しげないきなり何もない所から手が伸びてそれであの子を……」
「あの子ってあの女の子か?」
「ハハッその通りです」
そこには確かにいつも少年と一緒にいた少女の姿がなかった。
「にーちゃん、アイツら、2人いたんだ!!それでアイツを連れ去ろうとして、おれ、飛びかかったのに弾き飛ばされてそれで!!」
「落ち着いて話してくれ……難しいかもしれんが頼む」
「最初は門が開く音がしたからにーちゃんが来たのかと思って俺たちで外に出たんだ。そしたら何もない所から手が出てきてフローラ姉を突き飛ばしてあの子を抱えてどこかに行こうとしたんだ!!」
「何で飛び掛かるなんて危ない事を……!!」
「だって!!おれだって!!無理だってわかってたけど!!」
「……うん」
「守りたかった!!守りたかったんだ!!おれは弱いけど、それでももう何も無くしたくなくて!!勇者なんかになれないなんてわかってるけど!!それでも!!」
少年は涙を流しながら叫ぶように泣いていた。
その姿があまりにも悲痛でかける言葉が見つからない。
「……守れなかった!!おれが弱いから!!頭がわるいから!!良い子じゃなかったから!!だからあの子が殺されちゃうんだ!!」
「それは違う!!」
「違くない!!……おれを捨てたかーちゃんたちも言ってた!!俺がわるい子だからって!!わるいとーちゃんとの子供だから育てたくないって!!」
「お前は……」
「なんでだよぉ……おれもっと良い子になるから!!いうことも聞くし手伝いも頑張るから……もうおれから何も取らないでくれよぉ……」
少年の握りしめた拳からは血が滲んでいた。
「だれか…だれか助けてくれよぉ…おれはどうなっても良いからあの子を助けて……あの子はいつか花屋になりたいって勉強も頑張ってんだ!!それなのに何で親がいないって理由だけでこんな目にばっか遭わなきゃいけねーんだよ!!」
「ひとまずはギルドに依頼をして捜索と討伐を……」
「アンダーさん、すいません」
「何だ?何であやまるんだ?」
……気まずそうなフローラの笑顔を見て察する。おそらくこの孤児院にはギルドに依頼を出すほどの金が無い。
加えて依頼を出したとしてそれを受ける冒険者がここにはいないのだ。
だから、今まで何度も誘拐事件が起きても何も対策が取れていなかったのだ。
カシラ達の話からも孤児が住民から良く思われていないのは知っている。
少年は泣き疲れたのか眠ってしまった。
アンダーは血の滲んだ握り拳をそっと開き、回復魔法をかけてやる。
「と、言うわけです。お恥ずかしい話ですがね…ハハハハ」
「何でこんな時まで笑ってんだ!!」
「ハッ、ハハッ……申し訳ございません」
理由は知っている。
スキルのせいだとも、苦痛から逃れるために笑っている事も。
カシラ達のせいで自分のギャグセンスに不安はあるがそれでもこの笑顔は……笑顔なんかじゃない。
その笑顔はどうしてもアンダーには泣いているようにしか見えなかった。
基本、アンダーは人が笑っている方が好きだ。
自分も周りも笑顔の方が良いに決まってる。
でも、この偽りの笑顔だけは許せない。
「…俺に、任せてくれないか」
「アンダーさん?」
「あの子は必ず生きて返す。この子からももう何も奪わせない」
「しかしですね、相手は何人いるかもわからないですし魔王がいるって噂も……」
「それでも、俺に任せて欲しいんだ。俺は勇者になり損ねた半端者だけど、今だけは退きたくない」
アンダーはヴィクトリアを抱き寄せ立ち上がる。
「俺が、お前に本当の笑顔を教えてやるよ」
目標は決まった。あの子を取り返し、
魔王を打倒する。
「なぁカシラ、それってもしかして面白いのか?」
「ガハハハハ!!カシラ!!それもうやめてくれって!!」
「腹痛てー!!」
「お前らマジか?」
探索から帰ってきた一同は剥ぎ取った素材を換金し、その金で酒盛りをしていた。
「俺、自分のギャグセンスに不安を感じてきたよ」
「なーにシケたツラしてんだ?」
「いやまぁ、うん、この辺は湿気が多いからかな」
「「「ガハハハハハ!!」」」
「嘘だろ…?」
割とマジにこの世界のギャグセンスはおかしいのかもしれない。
「お前も中々面白いな!!」
「やめてくれ…!!俺はまだ俺のギャグセンスを信じたいんだ…!!」
だからこそこいつらに面白い認定をされると少し不安になる。
「俺今日はもう寝ようかな……」
「お?そうか?お疲れさん」
「おう……」
「ワフッ?」
「あぁ、平気だよヴィクトリア」
ヴィクトリアに励まされつつ自室に向かい装備を投げ出してベッドに横になる。
ギャグセンスの違いに多少なりともショックを受けたのは事実だが、今考えるべきはもっと別の事だ。
「あの半魚人……」
半魚人の魔物の体に付けられていた謎の模様。
あれが戦士階級だとすればリーダー格もいるはずだしなんなら魔法職やシーフの役割をする個体がいても不思議ではない。
それに加えて一体一体の戦闘力があれだけ高ければ統率の取れた複数体のグループが来ればカシラ達でも歯が立たないだろう。
知能は低いと聞いているが果たして……?
「ワフッ」
「あぁ、まだ寝ないよヴィクトリア。ちょっと時間もあるし考え事してるだけだ」
「?」
「もしかして孤児院に行きたいのか?」
「ワフッ!!」
「まぁあそこではお前は人気者だしな、あの小僧に色々教えてやる約束もしてたしちょうど良いか」
何となく思い出した少年との約束を果たすべく今一度投げ出したローブと仮面、剣を装備して未だ酒盛りをしているカシラ達を通り抜けて孤児院に向かう。
「それにしてもやっぱり路地裏は街灯もないし迷いそうだなぁ……ヴィクトリアの鼻だけが頼りだぜ」
「ワフッ!!」
ヴィクトリアは人語を理解している節があり、任せろと言わんばかりにポメラニアンボディの短い尻尾を千切れそうな勢いで振りながら先導してくれる。
こんな見た目でも魔物の変異種っぽいし謎のビームとか発射するしやはり魔物はよくわからない。
「ワフッ!!ムシャムシャ」
「拾い食いはやめろって!!」
ヴィクトリアは食い意地が張っているのかその辺に落ちているものでも良く食べる。
やめさせた方が良いのだろうがそこはやはり魔物だからなのか何を食べてもケロッとしている。
「ワフッ?……ヴゥウウウウウウ」
「ヴィクトリア?」
「ワフッ!!ワフッ!!」
「おい!!ヴィクトリア!?どうした!?」
ヴィクトリアが突然唸り出した。
何か変なものでも食べたのではと慌てたがどうやら違うらしい。
ヴィクトリアは前方を警戒しつつもこちらをチラチラと振り返る。
「この先で何かあるのか?」
「ワフッ!!」
「わかった!!俺が抱えるからナビゲート頼む!!」
「ワフッ!!」
らしくもなく牙を剥き出しにして唸るヴィクトリアを抱え、矢印を生成して身体に貼り付け宙に浮く。
そのままホバー移動をしヴィクトリアの指示の元孤児院に向かう。
「ワフッ!!」
「こっちか」
ヴィクトリアが唸ってる時は大体碌なことがないのはこれまでの経験に基づいてわかっている事だが、今は行き先が孤児院であるため何となく予想がつく。
「誘拐犯……か?」
最近頻発している孤児の誘拐事件、それが脳裏によぎる。
「くっ、ヴィクトリア!!空に一度浮かぶ!!一気に飛ぶから方角を教えてくれ!!」
「ワフッ!!」
ヴィクトリアを抱え、大きく空に向かって跳躍。
その後ヴィクトリアが示す方向に向かって全力で落下するように飛んだ。
そこには地に伏している少年と、少年を抱き抱えるフローラの姿があった。
「おい!!何があったんだ!!」
「あ、アンダーさん!!」
少年は頭を怪我しているのか血を流していた。
「に、にーちゃん……」
「もう大丈夫だ、喋るな。今治療を」
「違う……にーちゃん……アイツはまだ……」
「ワフッ!!」
「!?」
少年が指差す方角に向かってヴィクトリアが吠える。
しかしそこには何もいない……ように見えた。
が、空間が歪み何かがこちらに向かって腕を振り下ろそうとしているように見えた。
「う、おぉおお!?」
咄嗟にそれを剣で受け止める。
重い、が皮剥ぎや断絶姫に比べれば軽い。
アンダーはそれを全身に力を入れバネのように足を使い弾き返す。
おそらくガラ空きになっているであろう胴体に向かってそのまま前に踏み込み蹴りを叩き込む。
「!?」
「お前!!」
ダメージによって不可視化が途切れたのか、そこにいたのはカシラ達と森で戦った半魚人であった。
「アンダーさん!!」
「ここは良い!!その子を安全な場所へ!!」
「わ、わかりました!!」
「ヴィクトリア!!その2人を守ってやってくれ!!」
「ワフッ!!」
ヴィクトリアは一瞬迷ったようだが、2人を護衛する事を選び、部屋まで先導してくれた。
聞き分けのいい子だ。
ならばこちらもヴィクトリアの信頼に応えなければならない。
「こいよ魚野郎!!三枚おろしにしてやるよ!!」
「グァアアアアアア!!」
黒い肌の半魚人は悍ましい方向を上げ鋭い爪を振るう。
それを剣で受け流し、傾いた身体に足をかけ、今度はその大きな瞳に爪先を叩き込む。
何か生っぽいものを潰す感覚があった。
「うぉっ!?」
それでも半魚人は怯まずに反対の手を横薙ぎに振るった。
「っ!?」
リーチを見誤ったつもりはない、がアンダーの脛には薄く傷跡が残り、血を滲ませた。
「グルォオオオオ」
「ナイフだと!?」
その半魚人の手には体色と同じ色の小さいナイフが握られていた。
森にいたやつはそんなもの持っていなかったが。
「やっぱり仮説は正しかったのかもな」
次は油断せずに一歩飛び退き剣を構える。
動きもそうだがパワーに関してもコイツは森で出会った半魚人より格上だ。
黒い半魚人はアンダーが剣を構えると同時に闇に溶けるように再度不可視化する。
「面倒だな!!」
足運びの問題なのか足音すら聞こえない。
アンダーはそれに対抗するべく地面から水分を奪い、頭上に水球を生成、それを砕くと同時に凍らせ、氷の棘をばら撒く。
当たっているのかいないのかはさほど問題ではない。
「流石にあの硬さだと当たったとしてもダメージは無えよな」
アンダーは四方を警戒しつつ再度魔法を詠唱、乾燥した砂を巻き上げ、自身の周りに小規模な竜巻を発生させる。
自作のコンビネーション魔法、『氷砂の竜巻』だ。
「まだ終わりじゃないぞ!!ライトニング!!」
そこに魔力の消費を厭わずに竜巻の外側に光球を作成。
ライトのフラッシュのように外側から竜巻を照らした。
砂と氷、激しい光により竜巻の一部が不自然に歪んだ。
「そこだ!!」
「!?」
発生した歪みに対し、全力で剣を突き立てる。
確かな手応えを感じた。
竜巻が晴れると同時に、そこには不可視化の解けた半魚人が心臓を1突きにされ息絶えていた。
「中々面倒な相手だったな」
使用したのは初級魔法のみだったとは言え雑魚一体に使うには魔力消費が大きかった。
倒れた死体をまじまじと観察すると、その身体には森で見た半魚人とはまた違う模様が刻まれていた。
「コイツがリーダー格……いや、その線は薄いか?能力と装備的にシーフとかだろうか?」
魔物が持っていたナイフはどうやら不可視化をする事前提で自身の鱗を使って作ったもののようだった。
「そうだ!!アイツらは無事か?」
思えば冷静に分析している場合ではない。
ヴィクトリアと共に避難させた2人の元へ駆け足で向かう。
そこには布団に横たわった少年とその手を握るフローラがいた。
「ミニマム・ヒール」
「うっ」
「大丈夫だ。大丈夫だからな」
アンダーも少年のそばに立ち何度か回復魔法をかける。
これも初級魔法だが、怪我自体も大したことは無いらしく少年の顔色は大分良くなった。
「アンダーさん」
「にーちゃん……」
「おう、ヴィクトリアもありがとう。で、何があったんだ?」
「それが……」
「にーちゃん……おれ…おれ、守れなかった!!また、守れなかった……!!」
「アンダーさん、つい先程なんですが怪しげないきなり何もない所から手が伸びてそれであの子を……」
「あの子ってあの女の子か?」
「ハハッその通りです」
そこには確かにいつも少年と一緒にいた少女の姿がなかった。
「にーちゃん、アイツら、2人いたんだ!!それでアイツを連れ去ろうとして、おれ、飛びかかったのに弾き飛ばされてそれで!!」
「落ち着いて話してくれ……難しいかもしれんが頼む」
「最初は門が開く音がしたからにーちゃんが来たのかと思って俺たちで外に出たんだ。そしたら何もない所から手が出てきてフローラ姉を突き飛ばしてあの子を抱えてどこかに行こうとしたんだ!!」
「何で飛び掛かるなんて危ない事を……!!」
「だって!!おれだって!!無理だってわかってたけど!!」
「……うん」
「守りたかった!!守りたかったんだ!!おれは弱いけど、それでももう何も無くしたくなくて!!勇者なんかになれないなんてわかってるけど!!それでも!!」
少年は涙を流しながら叫ぶように泣いていた。
その姿があまりにも悲痛でかける言葉が見つからない。
「……守れなかった!!おれが弱いから!!頭がわるいから!!良い子じゃなかったから!!だからあの子が殺されちゃうんだ!!」
「それは違う!!」
「違くない!!……おれを捨てたかーちゃんたちも言ってた!!俺がわるい子だからって!!わるいとーちゃんとの子供だから育てたくないって!!」
「お前は……」
「なんでだよぉ……おれもっと良い子になるから!!いうことも聞くし手伝いも頑張るから……もうおれから何も取らないでくれよぉ……」
少年の握りしめた拳からは血が滲んでいた。
「だれか…だれか助けてくれよぉ…おれはどうなっても良いからあの子を助けて……あの子はいつか花屋になりたいって勉強も頑張ってんだ!!それなのに何で親がいないって理由だけでこんな目にばっか遭わなきゃいけねーんだよ!!」
「ひとまずはギルドに依頼をして捜索と討伐を……」
「アンダーさん、すいません」
「何だ?何であやまるんだ?」
……気まずそうなフローラの笑顔を見て察する。おそらくこの孤児院にはギルドに依頼を出すほどの金が無い。
加えて依頼を出したとしてそれを受ける冒険者がここにはいないのだ。
だから、今まで何度も誘拐事件が起きても何も対策が取れていなかったのだ。
カシラ達の話からも孤児が住民から良く思われていないのは知っている。
少年は泣き疲れたのか眠ってしまった。
アンダーは血の滲んだ握り拳をそっと開き、回復魔法をかけてやる。
「と、言うわけです。お恥ずかしい話ですがね…ハハハハ」
「何でこんな時まで笑ってんだ!!」
「ハッ、ハハッ……申し訳ございません」
理由は知っている。
スキルのせいだとも、苦痛から逃れるために笑っている事も。
カシラ達のせいで自分のギャグセンスに不安はあるがそれでもこの笑顔は……笑顔なんかじゃない。
その笑顔はどうしてもアンダーには泣いているようにしか見えなかった。
基本、アンダーは人が笑っている方が好きだ。
自分も周りも笑顔の方が良いに決まってる。
でも、この偽りの笑顔だけは許せない。
「…俺に、任せてくれないか」
「アンダーさん?」
「あの子は必ず生きて返す。この子からももう何も奪わせない」
「しかしですね、相手は何人いるかもわからないですし魔王がいるって噂も……」
「それでも、俺に任せて欲しいんだ。俺は勇者になり損ねた半端者だけど、今だけは退きたくない」
アンダーはヴィクトリアを抱き寄せ立ち上がる。
「俺が、お前に本当の笑顔を教えてやるよ」
目標は決まった。あの子を取り返し、
魔王を打倒する。
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