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喧嘩

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 あれから微妙な空気になってしまい、ギクシャクしながらDVDを鑑賞をした。
 DVDを見終わると、気分を変える為僕は明るく声を上げた。

「尚君尚君。これから外にでも行こうか。何かやりたい事はあるかい? 尚君のやりたい事なら何でもつきあうよ?」
「……セックスがしたい」
「!?」
「何でもやるって言ったじゃん。じゃあ俺、藍沢あいざわさんとセックスがしたい」

 ……そうきたか。
 折角気分を変えようと思ったのにこれじゃあ逆戻りじゃないか。
 僕はうーーんと悩んだ。

「尚君。ちょっとセックスから離れようよ。尚君の頭はそればっかりなのかい? 不健全だよ?」
「ふざけんな! 俺は健全だ! 健全な大学生だからセックスの事しか頭にねーんだよ!」
「な、尚君……」
「藍沢さん酷いよ! 一ヶ月もおあずけしてさ! 藍沢さん、俺の事好きだって言ったのに、あれは嘘だったわけ!?」
「嘘じゃないよ!」
「だったら……!!!」

 尚君は悲しそうな顔で僕を見つめた。

「だったらさぁ……。俺の事こばまないでよ。俺、結構傷付いてるんだけど……」
「ごめん……」

 僕は申し訳なさそうに俯いた。

「でも、やっぱり君とはセックスできない。嫌な訳じゃないんだ。ただ……」
「ただ?」

 俺が童貞だから上手くできる自信がないんだ。

 ……あぁ、そう言えたらどんなにいいか。
 だけど言えない。そんなのカッコ悪すぎる。大人の威厳いげんが台無しだ。尚君だってきっと僕が童貞だと知ったらがっかりするだろう。

 僕は本音を隠して別の言葉を口にした。

「ただ……。子供に手を出すのはいけない事だから……」
「子供……」

 尚君はそれだけ言うと黙り込んだ。
 部屋の中はシーーンと静まり返った。しばらくすると、スクッと尚君がソファから立ち上がった。

「俺帰る」
「!? な、何故だい?」
「何かすげームカついたから」

 尚君はスタスタと玄関に向かって歩いて行ってしまった。慌ててその後を追う。

「尚君! 待ってくれ!」
「どうせ俺は子供だよ。セックスしてーって駄々こねてるワガママなガキだ。大人な藍沢さんから見たら、さぞかし鬱陶うっとうしいだろうな」
「そんな事思ってないよ!」
「もういいよ!」

 尚君は靴を履くとバタン! と乱暴にドアを閉めて出て行ってしまった。

 僕は呆然とその場に立ち尽くす。

「そんなに怒る事ないじゃないか……」

 セックスしないって言っただけじゃないか。
 あぁ、それとも子供って言ったのを怒ったのかな……。分からないよ。だって僕童貞だもん。複雑な男心など、童貞の僕には理解する事ができないのだ。
 
 折角今日は尚君と楽しい一日が過ごせると思ったのに……。自分が悪いのは分かっているけど何だか悲しくて、僕はポロリと涙をこぼした。
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