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第十四話 距離が縮まる
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次の日の朝。
いつも通りに執務室に向かうと、すでに魔王は席に座り仕事をしていた。
そんな魔王に向かって、昨日から言おうと思っていた言葉を口にする。
「魔王様。ずっと言おうと思っていたのですが、一人で仕事をしようとするのは良くないと思います」
親しき者に話すように話せと言われた私は、その言葉を間に受けて、早速魔王に意見してみたのだ。
内心ビクビクだ。
生意気言うなと殺されたらどうしよう……。
だけど、言いたいことを言った方がスッキリすることに昨日気がついてしまったのだ。
殺されそうになったら逃げるとして、とりあえず言うだけ言ってみようと思ったのだ。
魔王は手に持った書類に視線を向けながら、ふむ……とつぶやいた。
「なぜだ? 一人でやった方が早い」
「そうかもしれませんが、みんなでやった方が間違いが少ないと思うのです!」
「いや、俺一人でやった方が間違いが少ない」
私はムーっと口を尖らせた。
確かに魔王が一人でやった方が間違いが少ないのは確かだ。でも――!
「普段からみんなで仕事をこなせば、魔王様が体調不良になったとき、対応しやすいと思うのです!」
「いや、俺は体調不良になどならん」
もう! ああ言えばこう言うんだから!
私は頑固な魔王に腹が立ち、その場でだんだんと地団駄を踏んだ。
「ぶっちゃけ! 私も仕事がしたいんです! いつも魔王様の横に立ちボーっと突っ立っているだけじゃないですか! そんなんじゃ仕事をしているとは言えない!」
「……」
魔王は書類から目を離し、上目遣いでジーッと私を見つめた。
それから口角をあげてニヤリと笑う。
「なんだ。それならそう言えば良かろう?」
「……っ」
魔王は書類の一枚を手に取ると、私に手渡した。
「じゃあ、やってみろ」
「!」
私の表情がパァッと明るくなった。
「その代わり、間違えたら指摘するからな」
なんだ。別に怒らないじゃないか。今まで魔王に意見をしたら殺されると思っていたが、私の思い違いだったようだな。魔王も、ちゃんと話せば聞いてくれるのだ。
こんなことならもっと早く言えば良かった。
少しだけ、見直したぞ。
私は書類を受け取り、ニコッと微笑んだ。
「はいっ!」
※※※※
それから二人で仕事をするようになった。
ハッキリ言って私はお荷物だが、それでも魔王は嫌な顔一つせずに私に仕事を教えてくれた。
ボーっとしていたときとは雲泥の差で、今日は時間が早く過ぎる。気付いたら終業時間になっていた。
私はひたいの汗を拭いニコニコと笑う。
「どうです? 私がお手伝いしたから仕事が早く終わったでしょう?」
本当は魔王一人で片付けた方が早かったかもしれない。でも私は仕事を手伝えたことが嬉しくて、ついそんな軽口を叩いてしまったのだ。
「そうだな。お前のおかげで早く終わった」
「……!」
冗談のつもりで言ったのだが、そんなことを言われると嬉しくなってしまう。
私は喜びを隠せず得意げな表情をしながら仕事の後片付けをした。
それが済むと、二人で執務室を出る。
すると、魔王が話しかけてきた。
「カイネ。一時間後に俺の部屋に来い」
「!」
魔王の部屋に来いだと? ま、まさか……。
私はゴクリと喉を鳴らした。
「まさか……、また監禁するおつもりですか?」
「違う。ただ……、一緒に酒を飲もうと思って」
「お酒?」
私は疑うような眼差しで魔王を睨んだ。
「本当にお酒だけ? そんなこと言ってまた私を鎖で繋ぐんじゃないですか?」
「……」
魔王は立ち止まると、私の顔をじっと見つめた。
なにか言いたそうにモジモジしている。
ど、どうしたんだ、魔王!?
お前はそんな可愛いらしいタイプじゃないだろう!?
困惑しながら見ていたら、魔王が私から目を逸らし、言いづらそうに口を開いた。
「その……、監禁したことは悪かった。あれはやり過ぎたと俺も反省している。もうあんなことしないから、警戒するな」
「!?」
え……!?
あの魔王が謝った!? 天上天下唯我独尊の魔王が!?
私は驚き過ぎて目の玉が飛び出そうになった。
「ど、どうしたのですか、魔王様!? あなたが謝るなんて……! なにか悪いものでも食べたのですか!?」
魔王はムッとした表情をしたあと、ボソボソと口を開いた。
「違う。……ただ、アイツを見習っただけだ。アイツは悪いと思ったらキチンと謝る男だったからな……」
「アイツ?」
「記憶喪失だった頃の俺のことだ」
「!」
彼のおかげで、魔王はちょっとずつ変わってきている。思いやりの心を持ち、人に優しくなったのだ。
それに、少しだけ表情も変化するようになった。
以前は無表情でなにを考えているか分からなかったけど、今は悪いと思ったら気まずそうな表情も出来るようになった。
これは彼のおかげだ。
彼が魔王に足りないものを身を持って教えてくれたのだ。
私は嬉しくなってきてニコッと微笑むと、背伸びして魔王の頭を撫でてあげた。
「ちゃんと謝れたのは偉いですよ。だから許してあげましょう」
私は自分が魔王を殺そうとしたことは棚にあげ、偉そうなことを言った。
すると、途端に魔王はスッと無表情になった。
「貴様に頭を撫でられる筋合いなどないわ。すぐにその手を退けぬと殺すぞ?」
ヒエ……。こわぁ……。
どこが思いやりの心があるだよ!
相変わらず天上天下唯我独尊じゃないか!
「もう殺すとか言っちゃダメです! 魔王様が言うと怖いんですよ~」
「む……。そ、そうか。分かった」
そこは素直なのかよ!
よく分かんねーな、やっぱり。
でも、やっぱり前の魔王よりかはずっと良くなった気がする。
この調子が続けば、いつの日か記憶喪失だった頃の魔王と同じように、仲良くなれるかもしれない。
「じゃあ、一時間後に俺の部屋に来るのだぞ?」
「えー。どうしようかな」
「来なければ殺す……じゃなくて、怒るぞ」
魔王にとって「殺す」って口癖なんだな。
まぁ、「怒る」に言い直したし許してやるか。
「分かりました。一時間後に伺います」
すると、魔王の表情がちょっとだけ明るくなった。
やっぱり昔より分かりやすくなったな。
ちょっと可愛いかも……。
そんなことを思いながら、私は一旦魔王と別れたのだった。
いつも通りに執務室に向かうと、すでに魔王は席に座り仕事をしていた。
そんな魔王に向かって、昨日から言おうと思っていた言葉を口にする。
「魔王様。ずっと言おうと思っていたのですが、一人で仕事をしようとするのは良くないと思います」
親しき者に話すように話せと言われた私は、その言葉を間に受けて、早速魔王に意見してみたのだ。
内心ビクビクだ。
生意気言うなと殺されたらどうしよう……。
だけど、言いたいことを言った方がスッキリすることに昨日気がついてしまったのだ。
殺されそうになったら逃げるとして、とりあえず言うだけ言ってみようと思ったのだ。
魔王は手に持った書類に視線を向けながら、ふむ……とつぶやいた。
「なぜだ? 一人でやった方が早い」
「そうかもしれませんが、みんなでやった方が間違いが少ないと思うのです!」
「いや、俺一人でやった方が間違いが少ない」
私はムーっと口を尖らせた。
確かに魔王が一人でやった方が間違いが少ないのは確かだ。でも――!
「普段からみんなで仕事をこなせば、魔王様が体調不良になったとき、対応しやすいと思うのです!」
「いや、俺は体調不良になどならん」
もう! ああ言えばこう言うんだから!
私は頑固な魔王に腹が立ち、その場でだんだんと地団駄を踏んだ。
「ぶっちゃけ! 私も仕事がしたいんです! いつも魔王様の横に立ちボーっと突っ立っているだけじゃないですか! そんなんじゃ仕事をしているとは言えない!」
「……」
魔王は書類から目を離し、上目遣いでジーッと私を見つめた。
それから口角をあげてニヤリと笑う。
「なんだ。それならそう言えば良かろう?」
「……っ」
魔王は書類の一枚を手に取ると、私に手渡した。
「じゃあ、やってみろ」
「!」
私の表情がパァッと明るくなった。
「その代わり、間違えたら指摘するからな」
なんだ。別に怒らないじゃないか。今まで魔王に意見をしたら殺されると思っていたが、私の思い違いだったようだな。魔王も、ちゃんと話せば聞いてくれるのだ。
こんなことならもっと早く言えば良かった。
少しだけ、見直したぞ。
私は書類を受け取り、ニコッと微笑んだ。
「はいっ!」
※※※※
それから二人で仕事をするようになった。
ハッキリ言って私はお荷物だが、それでも魔王は嫌な顔一つせずに私に仕事を教えてくれた。
ボーっとしていたときとは雲泥の差で、今日は時間が早く過ぎる。気付いたら終業時間になっていた。
私はひたいの汗を拭いニコニコと笑う。
「どうです? 私がお手伝いしたから仕事が早く終わったでしょう?」
本当は魔王一人で片付けた方が早かったかもしれない。でも私は仕事を手伝えたことが嬉しくて、ついそんな軽口を叩いてしまったのだ。
「そうだな。お前のおかげで早く終わった」
「……!」
冗談のつもりで言ったのだが、そんなことを言われると嬉しくなってしまう。
私は喜びを隠せず得意げな表情をしながら仕事の後片付けをした。
それが済むと、二人で執務室を出る。
すると、魔王が話しかけてきた。
「カイネ。一時間後に俺の部屋に来い」
「!」
魔王の部屋に来いだと? ま、まさか……。
私はゴクリと喉を鳴らした。
「まさか……、また監禁するおつもりですか?」
「違う。ただ……、一緒に酒を飲もうと思って」
「お酒?」
私は疑うような眼差しで魔王を睨んだ。
「本当にお酒だけ? そんなこと言ってまた私を鎖で繋ぐんじゃないですか?」
「……」
魔王は立ち止まると、私の顔をじっと見つめた。
なにか言いたそうにモジモジしている。
ど、どうしたんだ、魔王!?
お前はそんな可愛いらしいタイプじゃないだろう!?
困惑しながら見ていたら、魔王が私から目を逸らし、言いづらそうに口を開いた。
「その……、監禁したことは悪かった。あれはやり過ぎたと俺も反省している。もうあんなことしないから、警戒するな」
「!?」
え……!?
あの魔王が謝った!? 天上天下唯我独尊の魔王が!?
私は驚き過ぎて目の玉が飛び出そうになった。
「ど、どうしたのですか、魔王様!? あなたが謝るなんて……! なにか悪いものでも食べたのですか!?」
魔王はムッとした表情をしたあと、ボソボソと口を開いた。
「違う。……ただ、アイツを見習っただけだ。アイツは悪いと思ったらキチンと謝る男だったからな……」
「アイツ?」
「記憶喪失だった頃の俺のことだ」
「!」
彼のおかげで、魔王はちょっとずつ変わってきている。思いやりの心を持ち、人に優しくなったのだ。
それに、少しだけ表情も変化するようになった。
以前は無表情でなにを考えているか分からなかったけど、今は悪いと思ったら気まずそうな表情も出来るようになった。
これは彼のおかげだ。
彼が魔王に足りないものを身を持って教えてくれたのだ。
私は嬉しくなってきてニコッと微笑むと、背伸びして魔王の頭を撫でてあげた。
「ちゃんと謝れたのは偉いですよ。だから許してあげましょう」
私は自分が魔王を殺そうとしたことは棚にあげ、偉そうなことを言った。
すると、途端に魔王はスッと無表情になった。
「貴様に頭を撫でられる筋合いなどないわ。すぐにその手を退けぬと殺すぞ?」
ヒエ……。こわぁ……。
どこが思いやりの心があるだよ!
相変わらず天上天下唯我独尊じゃないか!
「もう殺すとか言っちゃダメです! 魔王様が言うと怖いんですよ~」
「む……。そ、そうか。分かった」
そこは素直なのかよ!
よく分かんねーな、やっぱり。
でも、やっぱり前の魔王よりかはずっと良くなった気がする。
この調子が続けば、いつの日か記憶喪失だった頃の魔王と同じように、仲良くなれるかもしれない。
「じゃあ、一時間後に俺の部屋に来るのだぞ?」
「えー。どうしようかな」
「来なければ殺す……じゃなくて、怒るぞ」
魔王にとって「殺す」って口癖なんだな。
まぁ、「怒る」に言い直したし許してやるか。
「分かりました。一時間後に伺います」
すると、魔王の表情がちょっとだけ明るくなった。
やっぱり昔より分かりやすくなったな。
ちょっと可愛いかも……。
そんなことを思いながら、私は一旦魔王と別れたのだった。
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