5 / 6
第五話 ディンセント
しおりを挟む
あぁ、面白い。
最近の私は機嫌が良い。理由は自分でも分かっている。ノリアスと言う男のせいだ。
人間は愚かな生き物なので、『敵』を作らなければ生きてゆけない。『敵』がいればそれを倒そうと目標が出来る。『敵』がいればそれに侵略されない日々に感謝ができる。
くだらん。全くくだらんと思うが、それでお前らが幸福を感じるのならば一役買ってやろうと思い、私は自らを『魔王』と名乗っている。
人間の幸福のためにわざわざ『敵役』を買ってやる私は、本当に優しいなと自画自賛してしまう。
まぁ、今は人間のことはどうでも良い。
それよりもノリアスについて語ろうではないか。
ノリアスは典型的な『敵』がいなければ生きてゆけないタイプの人間だった。
最初に会ったとき、私の悪行がどうのこうの言っていたので間違いないだろう。
その時は正義気取りのバカがまた来たのかと薄ら笑いを浮かべたのだが、見た目が可愛かったので話をする気になった。
そう……アレは見た目も可愛いのだ。
クルクルした茶色い巻き毛。チビのくせに気の強そうな眉。それに、自分は正しいことをしていると信じて疑わないキラキラした瞳。あのような風貌に、私は弱いのだ。徹底的にいじめて泣かせたい気持ちと、よしよし。お前は凄いんだなぁと甘やかしたい気持ちが混同した。
どうしようか考えた挙句、結局私はいじめる方を選んだ。なぜならアレの泣き顔が可愛いかったからだ。
ポロリと涙をこぼすのではなく、本当に悔しそうにくしゃっと顔を歪めて泣くのだ。思わず、『良い大人がそんな子供みたいな泣き方をするな』と慰めたくなってしまうほどだ。可愛い。可愛過ぎる。もっと泣かせたい。
私の最近の目標は、アレを子供のようにワンワン泣かせることだ。鼻水を垂らしながら、真っ赤に顔を歪めて泣く姿は、きっとものすごく可愛いぞ? 想像しただけでニヤけてしまう。
そんなことを考えていたある日、アレはまた魔王城にやって来た。
さぁ、今日はどんないじめをしてやろうかと胸をワクワクさせていたのだが、アレが予想斜め下の行動を取ったので、私は困惑せずにいられなかったのだった。
※※※※
「メイリー。今、幸せ?」
いつも通り女を膝に乗せてニヤニヤしていたら、ノリアスがそんな言葉をつぶやいた。
女にはなるべく喋るなと言ってあるのだが、このときは我慢できなかったのか、ハッキリと言葉を口にした。
「えぇ。愛しい魔王様のおそばにいられてこれ以上ない幸福を感じているわ」
「……」
女の言葉を聞いて、ノリアスは諦めたように微笑んだ。
「そっかぁ……。そうだよな。好きな人のそばに居られることって、本当に幸せだよな」
なんだ? なにを納得している。そこは、『魔王なんかといることが幸福なわけないだろう!? 目を覚ませ!!』だろう?
困惑する私をよそに、ノリアスは話を続ける。
「メイリー……。俺、もう君を諦めようと思うんだ。本当は連れて帰りたいけど、そんなのは、俺のエゴだ。俺の気持ちなんてどうでも良くて、君の幸せを優先しようと思うんだ」
「は? バカ!! なぜそうなる!?」
ノリアスがあまりにもバカなことを言うため、思わず叫んでしまった。
バカ……! コイツは本当にバカだ……! 好きな女が悪い男に唆されているのだぞ!? そこは必死になって女の目を醒させてやるのが男だろう!?
「私からこの女を奪い返してみろ! それが、男ってもんだ! 男気を見せろ、ノリアス!!」
なぜ私がノリアスにエールを送らねばならんのだ?
だが……、今日のノリアスは本当に元気がない。
しまった……いじめ過ぎたのだろうか? このままでは本当に女を諦めて立ち去ってしまう! 立ち去ったら、もう二度とここには来ない気がする。
諦めるな! 負けるなノリアス!!
そんな思いを込めてノリアスを見つめていたら、ノリアスの顔がくしゃっと歪んだ。
「だってよぉ……もう辛いよぉ……。メイリーのことだいずきだから、ぼがのおどごに抱かれるどご、もうぞうぞうしだくないんらもん……」
そう言ってグスグスと泣き始めた。
「お、お前……」
可愛過ぎるだろ、バカ!!!
あぁ、ダメだ。いじめたい気持ちより可愛がりたい気持ちが上回ってきた。
今すぐ謝って慰めたい。
よしよしと頭を撫でながら、『大丈夫だぞ。私とこの女には肉体関係などないからな』とフォローしたい!
ノリアスの元に今すぐ駆け寄りたくてウズウズしていたら、今まで黙っていた女がイライラした口調で話し始めた。
「ノリアス。なんですぐ泣くの? そう言うところ、本当鬱陶しいわ。諦めたんならさっさと帰りなさいよ。なぜいちいち諦めたことを報告するの? 私に諦めないでと言って欲しいの? 貴方、かまってちゃんなの? 気持ち悪いし、本当にイライラするわ」
こ、この女……!!!
血も涙もないな!! そんなことを言ってやるな!! 可哀想だろうが!!
あぁ……、ノリアスがまた泣き出してしまった。
私は女に激しい怒りを感じて、ギロリと睨んだ。
「お前……何様だ。勝手に喋るな。ノリアスをいじめて良いのは私だけなのだ。調子に乗るんじゃない」
女はハッとした表情をしたあと、私に向かって頭を下げた。
「も、申し訳ございません! ですが、ノリアスが気持ち悪くてたまらないのです!」
「薄情な女だな。このバカはお前のためにここにいるのだぞ!? 私にいじめられても諦めずに必死にお前を説得しようとしているのだ。それを気持ち悪いなどと称すとは、お前は鬼か!?」
「ですが……! ですが……!」
私たちの言い合いをポカーンとした表情でノリアスが見ている。私は苛立ちがおさまらず、ノリアスに向かって叫んだ。
「ノリアス! こんな女はやめておけ! ただの性悪だ! 私の方がよっぽどマシだ!」
ノリアスは困惑しながらポツリとつぶやいた。
「なんなの? お前……」
最近の私は機嫌が良い。理由は自分でも分かっている。ノリアスと言う男のせいだ。
人間は愚かな生き物なので、『敵』を作らなければ生きてゆけない。『敵』がいればそれを倒そうと目標が出来る。『敵』がいればそれに侵略されない日々に感謝ができる。
くだらん。全くくだらんと思うが、それでお前らが幸福を感じるのならば一役買ってやろうと思い、私は自らを『魔王』と名乗っている。
人間の幸福のためにわざわざ『敵役』を買ってやる私は、本当に優しいなと自画自賛してしまう。
まぁ、今は人間のことはどうでも良い。
それよりもノリアスについて語ろうではないか。
ノリアスは典型的な『敵』がいなければ生きてゆけないタイプの人間だった。
最初に会ったとき、私の悪行がどうのこうの言っていたので間違いないだろう。
その時は正義気取りのバカがまた来たのかと薄ら笑いを浮かべたのだが、見た目が可愛かったので話をする気になった。
そう……アレは見た目も可愛いのだ。
クルクルした茶色い巻き毛。チビのくせに気の強そうな眉。それに、自分は正しいことをしていると信じて疑わないキラキラした瞳。あのような風貌に、私は弱いのだ。徹底的にいじめて泣かせたい気持ちと、よしよし。お前は凄いんだなぁと甘やかしたい気持ちが混同した。
どうしようか考えた挙句、結局私はいじめる方を選んだ。なぜならアレの泣き顔が可愛いかったからだ。
ポロリと涙をこぼすのではなく、本当に悔しそうにくしゃっと顔を歪めて泣くのだ。思わず、『良い大人がそんな子供みたいな泣き方をするな』と慰めたくなってしまうほどだ。可愛い。可愛過ぎる。もっと泣かせたい。
私の最近の目標は、アレを子供のようにワンワン泣かせることだ。鼻水を垂らしながら、真っ赤に顔を歪めて泣く姿は、きっとものすごく可愛いぞ? 想像しただけでニヤけてしまう。
そんなことを考えていたある日、アレはまた魔王城にやって来た。
さぁ、今日はどんないじめをしてやろうかと胸をワクワクさせていたのだが、アレが予想斜め下の行動を取ったので、私は困惑せずにいられなかったのだった。
※※※※
「メイリー。今、幸せ?」
いつも通り女を膝に乗せてニヤニヤしていたら、ノリアスがそんな言葉をつぶやいた。
女にはなるべく喋るなと言ってあるのだが、このときは我慢できなかったのか、ハッキリと言葉を口にした。
「えぇ。愛しい魔王様のおそばにいられてこれ以上ない幸福を感じているわ」
「……」
女の言葉を聞いて、ノリアスは諦めたように微笑んだ。
「そっかぁ……。そうだよな。好きな人のそばに居られることって、本当に幸せだよな」
なんだ? なにを納得している。そこは、『魔王なんかといることが幸福なわけないだろう!? 目を覚ませ!!』だろう?
困惑する私をよそに、ノリアスは話を続ける。
「メイリー……。俺、もう君を諦めようと思うんだ。本当は連れて帰りたいけど、そんなのは、俺のエゴだ。俺の気持ちなんてどうでも良くて、君の幸せを優先しようと思うんだ」
「は? バカ!! なぜそうなる!?」
ノリアスがあまりにもバカなことを言うため、思わず叫んでしまった。
バカ……! コイツは本当にバカだ……! 好きな女が悪い男に唆されているのだぞ!? そこは必死になって女の目を醒させてやるのが男だろう!?
「私からこの女を奪い返してみろ! それが、男ってもんだ! 男気を見せろ、ノリアス!!」
なぜ私がノリアスにエールを送らねばならんのだ?
だが……、今日のノリアスは本当に元気がない。
しまった……いじめ過ぎたのだろうか? このままでは本当に女を諦めて立ち去ってしまう! 立ち去ったら、もう二度とここには来ない気がする。
諦めるな! 負けるなノリアス!!
そんな思いを込めてノリアスを見つめていたら、ノリアスの顔がくしゃっと歪んだ。
「だってよぉ……もう辛いよぉ……。メイリーのことだいずきだから、ぼがのおどごに抱かれるどご、もうぞうぞうしだくないんらもん……」
そう言ってグスグスと泣き始めた。
「お、お前……」
可愛過ぎるだろ、バカ!!!
あぁ、ダメだ。いじめたい気持ちより可愛がりたい気持ちが上回ってきた。
今すぐ謝って慰めたい。
よしよしと頭を撫でながら、『大丈夫だぞ。私とこの女には肉体関係などないからな』とフォローしたい!
ノリアスの元に今すぐ駆け寄りたくてウズウズしていたら、今まで黙っていた女がイライラした口調で話し始めた。
「ノリアス。なんですぐ泣くの? そう言うところ、本当鬱陶しいわ。諦めたんならさっさと帰りなさいよ。なぜいちいち諦めたことを報告するの? 私に諦めないでと言って欲しいの? 貴方、かまってちゃんなの? 気持ち悪いし、本当にイライラするわ」
こ、この女……!!!
血も涙もないな!! そんなことを言ってやるな!! 可哀想だろうが!!
あぁ……、ノリアスがまた泣き出してしまった。
私は女に激しい怒りを感じて、ギロリと睨んだ。
「お前……何様だ。勝手に喋るな。ノリアスをいじめて良いのは私だけなのだ。調子に乗るんじゃない」
女はハッとした表情をしたあと、私に向かって頭を下げた。
「も、申し訳ございません! ですが、ノリアスが気持ち悪くてたまらないのです!」
「薄情な女だな。このバカはお前のためにここにいるのだぞ!? 私にいじめられても諦めずに必死にお前を説得しようとしているのだ。それを気持ち悪いなどと称すとは、お前は鬼か!?」
「ですが……! ですが……!」
私たちの言い合いをポカーンとした表情でノリアスが見ている。私は苛立ちがおさまらず、ノリアスに向かって叫んだ。
「ノリアス! こんな女はやめておけ! ただの性悪だ! 私の方がよっぽどマシだ!」
ノリアスは困惑しながらポツリとつぶやいた。
「なんなの? お前……」
3
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
騎士団で一目惚れをした話
菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公
憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。
兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜
紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。
ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。
そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?
黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
失恋して崖から落ちたら、山の主の熊さんの嫁になった
無月陸兎
BL
ホタル祭で夜にホタルを見ながら友達に告白しようと企んでいた俺は、浮かれてムードの欠片もない山道で告白してフラれた。更には足を踏み外して崖から落ちてしまった。
そこで出会った山の主の熊さんと会い俺は熊さんの嫁になった──。
チョロくてちょっぴりおつむが弱い主人公が、ひたすら自分の旦那になった熊さん好き好きしてます。
独占欲強い系の同居人
狼蝶
BL
ある美醜逆転の世界。
その世界での底辺男子=リョウは学校の帰り、道に倒れていた美形な男=翔人を家に運び介抱する。
同居生活を始めることになった二人には、お互い恋心を抱きながらも相手を独占したい気持ちがあった。彼らはそんな気持ちに駆られながら、それぞれの生活を送っていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる