大魔道士の初恋

チョロケロ

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第十五話

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 オズベルト様は私を肩に乗せてリビングに移動した。椅子に座り私が話し出すのをジッと待ってくれている。
 私は緊張をほぐす為、スゥーッと深呼吸してから話し始めた。

「オズベルト様。申し訳ありません。実は私はルーイなのです」
「……?」

 オズベルト様は、ん? と首をかしげた。
 意味が分からないのだろう。
 私はもう一度同じ言葉を繰り返した。

「私がルーイなのです」
「……どうしたルーン。何を言っている」
「だから私がルーイなのです」
「意味が分からない。お前はルーンだろう?」
「で、ですから――!」

 い、いや。言葉で説明しても分からないか。
 ならば……!
 
 私はオズベルト様の身体からシュルリと降りた。
 そしてオズベルト様の瞳をジッと見つめた。

「……驚かないで下さいね?」
「?」
 
 私はキョトンとしたお顔のオズベルト様の前で、人型に変身した。

「!?」
 
 オズベルト様は目をまん丸くして私を見ている。どうやら驚きすぎて声も出ない様だ。
 そんなオズベルト様を見ながら、私はもう一度同じ言葉を繰り返した。

「分かっていただけましたか? 私がルーイ・・・なのです」
「ど、ど、ど、どう言う事だ!!??」

 オズベルト様の大きな声が、部屋中に響いた。

※※※※

 私は今までの事をオズベルト様に説明した。

 私は人型に変身出来る事。
 童貞である事を嘆いていたオズベルト様に、私で卒業してもらおうと思った事。
 それで終わらせようと思ったのだが、オズベルト様が再び私に会いたいと言ったのでもう一度姿を現した事。
 その後、オズベルト様に告白されて断れなかった事。
 それからも悪いと思いつつオズベルト様とお会いした事。

 私はそれらの事を全て話した。
 話終わりオズベルト様の方を見ると、オズベルト様は呆然としていた。

「おかしいとは思っていたのだ……。ルーイさんと一夜を過ごした数日後に、俺はお前にルーイさんに会いたいと言ったな。お前は探してくると言って家を出た。その数分後にルーイさんが現れたのだ。普通に考えれば数分で探し出すのは不可能だ。あの時にもっと疑問に思っていれば良かったな……」
「……」

 それだけ言うと、オズベルト様は私から顔をそむけた。何やらお顔が赤い。どうしたのだろう?
 
「そ、それよりルーン。何か服を着てくれないか? 実を言うとさっきからお前の姿が気になって気になって、話に集中できないのだ」

 言われてハッとした。
 そういえば私は裸なのだ。こんな姿で今までオズベルト様に必死になって説明していたのか……。考えて見ると、何とマヌケな事だろう……。
 私はオズベルト様に頭を下げた。

「申し訳ございません。お見苦しい姿を」
「い、いや……! 見苦しいどころか眼福だった……! 桃源郷にいるような心地だったぞ? だが、今の俺にその姿は刺激が強過ぎるのだ!」
「刺激……?」
「あぁ! もう兎に角服を着てくれ!」
「はい」

 取り敢えず、オズベルト様の白シャツをお借りした。本当はオズベルト様に買ってもらった素敵なお洋服を着たかったのだが、今は庭にあるので取ってこれなかったのだ。
 白シャツのボタンをきっちり留めてから、オズベルト様の隣に座った。
 オズベルト様はと言うと、ほうけたような表情で私を見ていた。

「それにしてもルーン……。お前は本当に美しいな……」
「そうですか? 普通だと思いますが……」
「普通なものか。輝く銀色の髪に、宝石の様な金色の瞳……。手足はスラリと伸びていて、思わず抱き締めたくなる。美しいと言うより、もはや神々こうごうしい……」
「あ、ありがとうございます。――それより話の続きをしても宜しいでしょうか」
「あ、あぁ。すまない、聞こう」

 私は居住まいを正した。そしてオズベルト様の瞳をジッと見つめてから、深く頭を下げた。

「オズベルト様。今までの事、申し訳ありません」
「……」
「私は貴方を騙していました。それだけでなく、貴方に悲しい思いをさせてしまいました」
「……」
「私は貴方のペット失格です。……罰は受けます。その後はここから去りましょう。二度と貴方の前には現れません」 
「……」

 オズベルト様は私の言葉を静かに聞いていたが、私が話し終わるとゆっくりと口を開いた。

「何も出て行く事はないだろう? ここに居てくれ。ルーン」
「しかし……」
「それとも、本当はもう俺の顔など見たくないのか?」
「そんな事はございません!」
「だったら居てくれよ。俺にはお前が必要なんだ……」
「……」

 オズベルト様は私の頬をそっと撫でた。そのしぐさには、怒りや軽蔑は感じられなかった。

「大体、お前は何も悪くない。お前の行動は全て、俺を思ってやった事だ」
「そんな事……」
「いや、そうだ。本当は、俺と身体を繋げるなど嫌だっただろう? 俺の為にすまなかったな」
「……いいえ」
「それにその後も。俺はお前に夢中になってアプローチしてしまったな。気味が悪かっただろう?」
「そんな事はありません!」

 私は強く否定した。

「本当に、そんな事は微塵みじんも思いませんでした! それどころか、私はとても嬉しかったのです!」
「……!」

 頬を撫でるオズベルト様の動きが止まった。
 探る様な目で私を見てくる。

「本当に、嫌じゃなかったのか?」
「はい!」
「……」

 オズベルト様のお顔が、ジワジワと赤くなっていった。何故赤くなるのだろう? 困惑してオズベルト様を見つめていたら、オズベルト様はモゴモゴと小さな声で話し始めた。

「ルーン。今から口にする事を聞いて、軽蔑しないでくれよ?」
「はい」
「俺はね、お前がルーイさんだと知っても、全然嫌じゃないんだ」
「え?」
「そりゃあ、流石に驚いたがね。だが、嫌じゃない。それどころか、嬉しいんだ」
「!」

 オズベルト様はポリポリと鼻をかきながら話を続けた。

「俺はルーイさんと同じくらいお前の事が好きなんだ。お前がずっとそばに居てくれれたから、今の俺がある。お前はどんな時でも俺を励ましてくれたね。それに話も聞いてくれた。お前の存在に俺はいつも救われていた。お前は俺の心の支えだったんだ」
「……」
「そんな大好きなお前とルーイさんが同一人物だったのだ。嬉しくないわけがないだろう?」
「そうですか……?」
「そうだ。真実を知っても、俺の想いは変わらない。やっぱりルーイさん……いや、ルーンの事を愛している」
「!」

 オズベルト様はそっと私の右手を掴んだ。そしてギュッと力強く握った。

「ルーン。もしお前が嫌じゃなかったら……。俺を受け入れてくれるのならば、俺の恋人になってくれないか? お前と共に生きたいんだ。必ずお前を幸せにする。約束するよ……」
「オズベルト様……」

 私はポカーンと口を開けていた。
 てっきり軽蔑されると思っていたのに。オズベルト様はこんな私でも良いと言ってくださるのか……? まるで夢のようだ。今のオズベルト様は、いつわりの『ルーイ』ではなく、真実の『ルーン』を見て下さっている。

――それならば、私は。

 私は私の右手をギュッと握りしめているオズベルト様の手に、そっと左手を重ねた。

「ありがとうございます。オズベルト様。とても嬉しいです。これからも宜しくお願いします」
「!」

 オズベルト様のお顔がぱあっと明るくなった。
 そして椅子からガタン! と立ち上がった。

「本当に! 本当に俺なんかでいいのか!?」
「はい。私の方こそ、本当に私なんかでいいのですか?」
「勿論だ! あぁ!! 信じられない!! 舞い上がってしまう!!」

 オズベルト様はそう言うと、座っている私の腰に腕を回し、グイッと持ち上げた。
 私を持ち上げながら、その場をクルクルと回り始める。

「ルーン!! 本当にありがとう!! 何よりもお前を大切にする!! あぁ、俺は今とても幸せだ!!」  
「私もオズベルト様を今まで以上に大切にします!」

 私達はニコニコと笑い合った。

 オズベルト様が幸せだと言って下さってとても嬉しい。ずっとこんなお顔のオズベルト様が見たかったのだ。

――私も幸せです。オズベルト様。

 だって、オズベルト様の幸せが、私の幸せでもあるのですから。

 

 


 


 

 
 

 

 
 
 
 


 
 

 
 

 


 
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