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第五話
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「ハァー……」
オズベルト様はまたため息を吐いた。
今ので何度目だろう?
「オズベルト様。そんなにため息ばかり吐いていたら、幸せが逃げてゆきますよ?」
「分かっている……」
私が人型になった日から一週間が経過した。
オズベルト様はと言うと、無事童貞を卒業して自信に満ちあふれている……と言いたいところだが、私の予想が甘かった。
「ルーン。どうしたらもう一度あの人に会えると思う?」
「さ、さぁ……?」
「会いたいんだ。恋焦がれておかしくなりそうだよ!」
「……」
予想もしなかった。
たった一度身体を重ねただけで、オズベルト様がこんなにも人型の私を愛してしまうとは……!
あの日、蛇に戻った私はオズベルト様が作ってくれた私専用のベッドで寝ていたのだ。朝になり暫くすると、目が覚めたオズベルト様に叩き起こされた。
「ルーン! 昨夜泊まった青年はどこへ行ったか知らないかい!?」
「せ、青年? 知りませんね。私は昨日の夜出掛けてたんで」
「そうなのか? 実は昨夜青年がここに泊まったのだ! その青年が、朝起きたらどこにもいないのだ!」
「そ、そうなんですか」
オズベルト様は、あぁっ! と言って頭を抱えた。
「凄く素敵な人だったんだ!!! もっとちゃんと話したかった!! 俺は何故寝てしまったんだ!?」
「し、仕方ないですよ」
「会いたい!! もう一度彼に会いたい!! 会って話がしたい!! 一晩だけの関係なんて嫌だ!!」
ど、どうしたんだろう。オズベルト様……。そんなに必死になって。……まさか。
まさかとは思うが……。
「オ、オズベルト様……。もしかしてその男の事……」
「あぁ! 愛している! 一晩体を繋げただけなのに、愛してしまったんだ!!」
「!!」
えぇ!? こうなる事を誰が予想できただろうか!?
てっきり、『何か知らんが男が誘惑してきたおかげで童貞捨てられたぜ。ラッキー』くらいに思っていると思ったのに!
……そうだ。
そう言えば、オズベルト様は純粋だった。
純粋ゆえに、たった一晩の出来事をラッキーの一言で片付けられないのだ。
あぁ、どうしよう。困ったな。
私が昨日の青年である事をバラすか?
……い、いや。
それは流石にオズベルト様が気の毒だ。
初めての相手が自分のペットなんて、オズベルト様からしたらトラウマだろう。ここは黙っているのが良策だ。
兎に角オズベルト様が落ち着くのを待とう。
大丈夫だ。一週間もすれば、私の事など忘れてしまうだろう。
後に残るのは童貞を卒業したと言う事実だけ。
『やったぜ! これからは女の子と遊びまくっちゃお』なんて心境に変化するかもしれない。
大丈夫だ。きっとそうなる。
時が過ぎるのを待てばいいのだ。
――そんな事を思ってはや一週間。
オズベルト様は忘れるどころか日に日に人型の私への愛情が増しているようだ。
ここ数日は食欲もない。いつも部屋に閉じこもっていてお風呂にも入らない。
小綺麗になるどころか、言っては悪いが小汚くなってしまった。
これはマズイ……。マズイぞ。
オズベルト様は昼食のスープを一口だけ飲んで目を伏せた。
「あぁ、食欲が無い……。このままでは衰弱死してしまいそうだ」
「そ、そんな! ダメですよ! オズベルト様! 食べて下さい!」
「でも、食べたくないのだ。彼にもう一度会えたなら、食欲も増すのに……」
「!!」
このままじゃオズベルト様は本当に衰弱死してしまう。
私は大いに焦った。
そして、ついこんな事を口走ってしまった。
「わ、分かりました! 私が彼を探してくるから食事はして下さい!」
「ルーンが? 会った事もないのにどうやって?」
「わ、私はこれでも齢五百の蛇の魔獣ですよ!? 何とかして見せます!」
「ルーン……。ありがとう」
オズベルト様は弱々しく笑った。多分期待していないのだろう。
僕はシュルシュルと動いて部屋の窓から外に出た。
「じゃあ、オズベルト様ー!! 必ず連れてきますからねー!!」
それだけ言って外に急いだ。
オズベルト様はまたため息を吐いた。
今ので何度目だろう?
「オズベルト様。そんなにため息ばかり吐いていたら、幸せが逃げてゆきますよ?」
「分かっている……」
私が人型になった日から一週間が経過した。
オズベルト様はと言うと、無事童貞を卒業して自信に満ちあふれている……と言いたいところだが、私の予想が甘かった。
「ルーン。どうしたらもう一度あの人に会えると思う?」
「さ、さぁ……?」
「会いたいんだ。恋焦がれておかしくなりそうだよ!」
「……」
予想もしなかった。
たった一度身体を重ねただけで、オズベルト様がこんなにも人型の私を愛してしまうとは……!
あの日、蛇に戻った私はオズベルト様が作ってくれた私専用のベッドで寝ていたのだ。朝になり暫くすると、目が覚めたオズベルト様に叩き起こされた。
「ルーン! 昨夜泊まった青年はどこへ行ったか知らないかい!?」
「せ、青年? 知りませんね。私は昨日の夜出掛けてたんで」
「そうなのか? 実は昨夜青年がここに泊まったのだ! その青年が、朝起きたらどこにもいないのだ!」
「そ、そうなんですか」
オズベルト様は、あぁっ! と言って頭を抱えた。
「凄く素敵な人だったんだ!!! もっとちゃんと話したかった!! 俺は何故寝てしまったんだ!?」
「し、仕方ないですよ」
「会いたい!! もう一度彼に会いたい!! 会って話がしたい!! 一晩だけの関係なんて嫌だ!!」
ど、どうしたんだろう。オズベルト様……。そんなに必死になって。……まさか。
まさかとは思うが……。
「オ、オズベルト様……。もしかしてその男の事……」
「あぁ! 愛している! 一晩体を繋げただけなのに、愛してしまったんだ!!」
「!!」
えぇ!? こうなる事を誰が予想できただろうか!?
てっきり、『何か知らんが男が誘惑してきたおかげで童貞捨てられたぜ。ラッキー』くらいに思っていると思ったのに!
……そうだ。
そう言えば、オズベルト様は純粋だった。
純粋ゆえに、たった一晩の出来事をラッキーの一言で片付けられないのだ。
あぁ、どうしよう。困ったな。
私が昨日の青年である事をバラすか?
……い、いや。
それは流石にオズベルト様が気の毒だ。
初めての相手が自分のペットなんて、オズベルト様からしたらトラウマだろう。ここは黙っているのが良策だ。
兎に角オズベルト様が落ち着くのを待とう。
大丈夫だ。一週間もすれば、私の事など忘れてしまうだろう。
後に残るのは童貞を卒業したと言う事実だけ。
『やったぜ! これからは女の子と遊びまくっちゃお』なんて心境に変化するかもしれない。
大丈夫だ。きっとそうなる。
時が過ぎるのを待てばいいのだ。
――そんな事を思ってはや一週間。
オズベルト様は忘れるどころか日に日に人型の私への愛情が増しているようだ。
ここ数日は食欲もない。いつも部屋に閉じこもっていてお風呂にも入らない。
小綺麗になるどころか、言っては悪いが小汚くなってしまった。
これはマズイ……。マズイぞ。
オズベルト様は昼食のスープを一口だけ飲んで目を伏せた。
「あぁ、食欲が無い……。このままでは衰弱死してしまいそうだ」
「そ、そんな! ダメですよ! オズベルト様! 食べて下さい!」
「でも、食べたくないのだ。彼にもう一度会えたなら、食欲も増すのに……」
「!!」
このままじゃオズベルト様は本当に衰弱死してしまう。
私は大いに焦った。
そして、ついこんな事を口走ってしまった。
「わ、分かりました! 私が彼を探してくるから食事はして下さい!」
「ルーンが? 会った事もないのにどうやって?」
「わ、私はこれでも齢五百の蛇の魔獣ですよ!? 何とかして見せます!」
「ルーン……。ありがとう」
オズベルト様は弱々しく笑った。多分期待していないのだろう。
僕はシュルシュルと動いて部屋の窓から外に出た。
「じゃあ、オズベルト様ー!! 必ず連れてきますからねー!!」
それだけ言って外に急いだ。
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