【完結】エルフの喫茶店は、今日も客が一人しか来ない

チョロケロ

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第十話 衝撃の事実

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 俺は呆然とメガネを見つめた。

「メ、メガネ……。お前の前職って魔法研究所職員だったのか……?」  

 メガネは知られたくなかったのか、気まずそうにぽりぽり頬をかいている。
 逆に赤髪はめちゃくちゃ得意げな顔をした。

「職員と言うか、所長だ!! ネル様は魔法研究所の中で一番偉い方だったんだ!!」

 しょ、所長……!? 
 そんな凄い役職についていたのか?
 
 魔法研究所の所長と言ったら、超一流の魔法使いだ。魔法で国一つ滅ぼせるほどの実力を持っていると聞く。
 メガネがそれなのか? うっそだぁ。
 だってメガネって若造じゃん。いくら天才でも、若造に所長は無理だ。
 なぜなら魔法研究所の職員は、一癖も二癖もあるくせ者揃いだからだ。人生経験の乏しい若者が所長じゃ、舐められるだけだ。それゆえ所長には、心身ともに成熟した老人などが望ましいとされている。
 なぜ俺がそんなことを知っているのかと言うと、昔知り合いのエルフと酒を飲んだとき、そんな話をしていたからだ。そいつは魔法研究所で働くことを夢見ていた。今はなにをやっているのかなぁ?
 ……い、いや、今は知り合いのエルフのことはどうでもいい。それよりもメガネだ。赤髪のやろう、嘘付いてんじゃねーか? 俺は疑いの眼差しで赤髪を見つめた。

「メガネが所長なんてあり得ない。若造に所長なんて無理だ」 

 ハッキリ断言すると、今度は青髪が苛立ったような目で俺を睨んだ。

「舐めるな。ネル様は若造などではない。私たちの倍以上は生きている、熟年のお方だ。見た目に騙されるとは、愚かなエルフだな」
「!?」

 青髪も赤髪も見た目は二十代くらいだ。それよりも倍以上生きていると言うことは、メガネは四十代以上ってことか?

「え……? メガネ、おっさんじゃん……。若作りし過ぎだろ……」

 メガネはショックを受けたのか、しょぼーんと肩を落とした。

「おっさんですみません……。俺、本当は今年で五十六歳なんです……。年齢黙っててすみません……。加齢臭漂わせててすみません……。おっさんだと知ったら、フォルンさんに嫌われると思って……」
「そ、そんな落ち込むなよ……。俺なんか千歳だからな。俺からしたらメガネなんて赤ちゃんみたいなもんだ。気にすんなよ」
「!」

 俺の年齢を聞いて、メガネの顔がぱあっと明るくなった。

「嬉しいな! じゃあ、フォルンさんの方が歳上なんですね!? 俺、歳上がタイプなんです! フォルンさんは歳下は好きですか? 赤ちゃんでもいいですか!?」

 おっさん……。テンション爆上がりだな。俺の方が歳上だったの、よっぽど嬉しかったんだな。
 
「でも、やっぱりメガネはそんなおっさんには見えねーぞ? どう見ても二十代だ」

 そうなのだ。
 どう考えてもこれで五十代はおかしい。だって皺もないし、肌もツヤツヤしている。こんなぴちぴちした五十代はいないと思うのだ。
 メガネは俺の問いかけに、ニコニコ笑いながら答えた。

「あぁ、それは時間魔法で年齢を二十代に戻しているからです」
「は!? マジかよ!! お前時間魔法なんて使えるのかよ!!」

 時間魔法を使える者なんて、歴史の教科書に載っている偉人だけだと思っていた。時間魔法はあまりにも高度な魔法のため、今の時代では使える者がいないと言われているのだ。そのため、今は失われた魔法だと教科書に書かれていた。それをメガネが使えるのか!? や、やべー、メガネって本気で凄いやつじゃん。魔法研究所の所長だったって話も、あながち嘘じゃないかも……。

 俺はどんどん明らかになる衝撃の事実に、頭がクラクラした。そんな俺を見ながら、メガネが無邪気に問いかける。

「フォルンさんは何歳くらいの俺がいいですか? 俺、時間魔法で見た目を好きな年齢に変えられますよ?」
「……」

 だったら、実年齢のメガネが見てみたい。俺って結構おっさん好きなのだ。おっさんに刻まれた深い皺とか体臭に色気を感じるタイプなのだ。
 メガネもこう言ってることだし、リクエストしてみようかな。

「じゃあメガネ。五十六歳の姿になれよ」
「え? おっさんですがいいんですか?」
「いいぞ」
「……わ、分かりました。引かないでくださいね」

 そう言ってメガネはパチンと指を鳴らした。
 すると、メガネの身体に変化がおこった。どう変化したのか具体的に言うと、老化現象が始まったのだ。
 す、すげーな。と圧倒されていたら、メガネがあっという間におっさんに変わった。
 ひょろひょろした背はそのままだが、口や目元に深い皺が刻まれている。
 お、おぉ……。温和そうなおっさんって感じだな。良い感じだ。こういうおっさんに甘やかされたい。
 俺はメガネに駆け寄り、肩をバンバン叩いた。

「メガネ、良い感じじゃん! お前老けてもイケメンだな!」
「そうですか? 嬉しいな。ありがとうございます」
 
 俺の言葉を聞いて、メガネはホッとしたように微笑んだのだった。
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