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荷馬車

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「お前、馬鹿なの?」



のっけからヒューゴに馬鹿呼ばわりされる。

相談相手を完全に間違えた。



昼も食べ損ない、食堂にも行き辛くなった私は、厨房の裏口からヒューゴに晩御飯を貰った。



今日は私の好きなハッシュドビーフとパンだ。



「いただきます」



熱いハッシュドビーフをフゥフゥ冷ましながら食べる。

トロトロに煮込まれた柔らかいお肉、公爵邸の庭で採れる新鮮なジャガイモ、人参、玉ねぎが煮込まれており美味しい。



カリカリに焼けたフランスパンをハッシュドビーフにつけて食べる。





シャティに命じられた寮の掃除が終わ、り疲れた体にハッシュドビーフが身にしみた。

「生き返る! おかわり」

皿をヒューゴに突き出し三杯目のおかわりを頼んだ。



呆れられつつもヒューゴは厨房から四杯目のハッシュドビーフを私に渡す。



「ありがとう! 優しいのはヒューゴだけだよ」

「食堂のニーナさんにも感謝しろよ。めちゃくちゃ心配してたぜ?」

私はウンウン頷く。



「あまり会ったことないから。ニーナさん、厄介な連中に目をつけられたって」

「忠告されてたんだろ?! だったら、もうちょい上手く立ち回れよ。メイドリーダーのシャティを敵に回したって何も良いことない」



そんなことはわかってる。

私はさっきのやり取りを思い出し目に涙が滲んだ。

口の中のハッシュドビーフの味がしょっぱく感じる。



「泣くか食べるかどっちかにしろよ」

ヒューゴはハンカチを渡してくれて、私は鼻をかんだ。



「それ、絶対に洗って返せよ」



「パン、まだある?」



「ねーよ。食い過ぎ」

ヒューゴが苦笑している。

ヒューゴは冬にも関わらず肌が小麦肌だ。

南国育ちらしく、ブロック公爵邸には出稼ぎで来ていた。



「年末年始は実家に帰省する?」



「いや、船代がかかるから帰らない。それにミアもいるし」



ニカッと笑うヒューゴに私は安心感を覚える。

ラインハルトとは違い、キスしたり体の関係を迫ってこない。



気軽に何でも話せて、厨房の裏口は私にとって唯一安らぎの場所だった。

ヒューゴ、ニーナがいなければ、とっくに野垂れ死になっていたかもしれない。



「私は実家に帰りたい。ラインハルト様のものになってるけど、思い出の写真とか手紙を取りに行きたいんだ」



「休みのときに行けばいいだろ」



「休みのときは雑用押し付けられるわ、帰るお金はないわで取りにいけないの」

私はシャティから一度も給料を受け取ってないことをヒューゴに伝えた。



「どこだ?」

「へ?」

「だから、どこに実家にあるんだよ」

「えっと、確か馬車で三時間くらいかかったかな」

「何だ、意外と近いじゃねーか。なら、荷馬車乗って帰省すればいいだろ?」

「荷馬車?」

「週に一回、街まで荷馬車で食料品を買いに行くんだよ。小麦とか調味料とか」

「それって、私の実家の近くにも行く?」



実家の場所を伝えるとヒューゴは厨房に行ってしまった。



私はお腹いっぱいになり、椅子から立ち上がると裏口周辺を掃除する。

タダ飯は悪いからと時々掃除をした。



ヒューゴは「食堂は全員タダだから気にすんな」って言うけど、何だか申し訳なかった。

落ち葉をはき、ススだらけのカマドの下の掃除をする。

毎回ヒューゴの手助けになればと思い掃除をしていた。



「ミア、お前の実家近く通るみたいだぜ? 荷馬車で座り心地良くねーけど行くか?」

私はコクコク頷く。



ヒューゴはまた厨房に戻って行った。
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