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このハンカチで涙をふいて
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会社員の瑠璃はクラシックのコンサートへ行くのが好きだった。
演奏を聴いていると、心がゆさぶられたり、ゆったりした気分になったり、ヨーロッパの街並みが頭に浮かんだり、いろんな気持ちが味わえるからだ。
瑠璃は会社が休みの日、有楽町で開催されるクラシックのコンサートへ一人で行った。
瑠璃の好きな指揮者が指揮をする第九のコンサートだった。
席について演奏が始まる前、瑠璃は好きな男性のことを想っていた。
大学のときの同級生で、卒業してからも男女混合のグループで遊んでいる仲間のうちのひとりだ。
そろそろ告白しようかと思っているが、ふられたら今までのような仲の良い友達でいられなくなるのがこわかった。
第九の演奏が始まった。
いつものように感動の渦に巻き込まれていると、隣の席に座っている男性が感極まったのか涙を手でぬぐうのがわかった。
男性は潤也といって、会社の同僚の恋人からふられたばかりで、心が弱っていた。
「どうしてあなたとつきあっているのか、わからなくなった」
と恋人に言われて、傷ついていた。
最初に女性が告白し、潤也は彼女をかわいいなと思って、つきあっていた。
今では本当に好きになっていて、かけがえのない存在になっていたのだ。
このコンサートにも彼女の分の席もとっていたのに、なんでひとりで演奏を聴いているのだ、と思うと泣けてきた。
瑠璃は潤也が演奏に感動して泣いていると勘違いし、潤也のことをなんて感受性の強い人なんだろうと思った。
クラシックのコンサートで涙を流している人をみたことが今までなかったのだ。
瑠璃はバックからハンカチを取り出して、潤也の腕をそっとたたいて、ハンカチを渡した。
潤也はびっくりしたが、頭を下げてハンカチを受け取った。
少し恥ずかしくなって、自分で自分のことを「フッ」と笑った。
潤也は頬の涙をハンカチでぬぐいながら瑠璃のことを思った。
なんてやさしい女性なんだろう。
コンサートが終わると、潤也は瑠璃に言った。
「ハンカチありがとう。洗って返しますので、少し預からしてください」
「そのまま返してもらえればいいですよ」
「でも、悪いから。洗濯させてください」
「そうですか。じゃあ、お願いしちゃっていいのかしら」
「はい」
ふたりは連絡を取り合うため、LINEの交換をした。
数日後、潤也は瑠璃に連絡をして、ふたりは会う約束をした。
「あのときのお礼にご馳走しますよ」
と言って、潤也は高級なフレンチレストランに瑠璃を誘った。
瑠璃はレストランの前まで行くと言った。
「ハンカチを貸しただけなのに、こんな高いレストランじゃなくていいです。あっ、あのファミレスにしませんか」
瑠璃は近くにあるファミリーレストランを指さした。
潤也は瑠璃のことをおもしろい子だなと思った。
女性をこのフレンチレストランに連れて行くと、みんな喜ぶのに、断ったのは瑠璃が最初だ。
ファミリーレストランでふたりが話していると瑠璃がお酒を飲むのが好きで、潤也はお酒を飲めないことがわかった。
ふたりは笑った。
普通、女性が涙を流して、お酒に強いのは男性なのに、ふたりは両方とも逆だったからだ。
瑠璃と潤也はまた会うことに決めた。
次に潤也はおいしいカクテルの種類がたくさんある店を見つけて、瑠璃を連れて行った。
店で瑠璃は潤也がジュースを飲んでいる姿を見て思った。
自分はお酒を飲めないのに、お酒のおいしい店に連れて来てくれるなんて、なんてやさしくておもしろい人なんだろう。
瑠璃はその店で潤也に、返事はいつでもいいからつきあってほしいと言われた。
瑠璃は同級生の男性に告白するのをやめた。
彼とは今までどおり友達のままでいようと思った。
瑠璃は潤也とつきあうことに決めた。
潤也はとにかく興味深い人で、瑠璃はもっと会いたい、もっと知りたい気持ちでいっぱいになっていた。
瑠璃と潤也はその後、仲のよい恋人どうしになった。
数年つきあって、ふたりはしあわせな結婚にいたった。
END
演奏を聴いていると、心がゆさぶられたり、ゆったりした気分になったり、ヨーロッパの街並みが頭に浮かんだり、いろんな気持ちが味わえるからだ。
瑠璃は会社が休みの日、有楽町で開催されるクラシックのコンサートへ一人で行った。
瑠璃の好きな指揮者が指揮をする第九のコンサートだった。
席について演奏が始まる前、瑠璃は好きな男性のことを想っていた。
大学のときの同級生で、卒業してからも男女混合のグループで遊んでいる仲間のうちのひとりだ。
そろそろ告白しようかと思っているが、ふられたら今までのような仲の良い友達でいられなくなるのがこわかった。
第九の演奏が始まった。
いつものように感動の渦に巻き込まれていると、隣の席に座っている男性が感極まったのか涙を手でぬぐうのがわかった。
男性は潤也といって、会社の同僚の恋人からふられたばかりで、心が弱っていた。
「どうしてあなたとつきあっているのか、わからなくなった」
と恋人に言われて、傷ついていた。
最初に女性が告白し、潤也は彼女をかわいいなと思って、つきあっていた。
今では本当に好きになっていて、かけがえのない存在になっていたのだ。
このコンサートにも彼女の分の席もとっていたのに、なんでひとりで演奏を聴いているのだ、と思うと泣けてきた。
瑠璃は潤也が演奏に感動して泣いていると勘違いし、潤也のことをなんて感受性の強い人なんだろうと思った。
クラシックのコンサートで涙を流している人をみたことが今までなかったのだ。
瑠璃はバックからハンカチを取り出して、潤也の腕をそっとたたいて、ハンカチを渡した。
潤也はびっくりしたが、頭を下げてハンカチを受け取った。
少し恥ずかしくなって、自分で自分のことを「フッ」と笑った。
潤也は頬の涙をハンカチでぬぐいながら瑠璃のことを思った。
なんてやさしい女性なんだろう。
コンサートが終わると、潤也は瑠璃に言った。
「ハンカチありがとう。洗って返しますので、少し預からしてください」
「そのまま返してもらえればいいですよ」
「でも、悪いから。洗濯させてください」
「そうですか。じゃあ、お願いしちゃっていいのかしら」
「はい」
ふたりは連絡を取り合うため、LINEの交換をした。
数日後、潤也は瑠璃に連絡をして、ふたりは会う約束をした。
「あのときのお礼にご馳走しますよ」
と言って、潤也は高級なフレンチレストランに瑠璃を誘った。
瑠璃はレストランの前まで行くと言った。
「ハンカチを貸しただけなのに、こんな高いレストランじゃなくていいです。あっ、あのファミレスにしませんか」
瑠璃は近くにあるファミリーレストランを指さした。
潤也は瑠璃のことをおもしろい子だなと思った。
女性をこのフレンチレストランに連れて行くと、みんな喜ぶのに、断ったのは瑠璃が最初だ。
ファミリーレストランでふたりが話していると瑠璃がお酒を飲むのが好きで、潤也はお酒を飲めないことがわかった。
ふたりは笑った。
普通、女性が涙を流して、お酒に強いのは男性なのに、ふたりは両方とも逆だったからだ。
瑠璃と潤也はまた会うことに決めた。
次に潤也はおいしいカクテルの種類がたくさんある店を見つけて、瑠璃を連れて行った。
店で瑠璃は潤也がジュースを飲んでいる姿を見て思った。
自分はお酒を飲めないのに、お酒のおいしい店に連れて来てくれるなんて、なんてやさしくておもしろい人なんだろう。
瑠璃はその店で潤也に、返事はいつでもいいからつきあってほしいと言われた。
瑠璃は同級生の男性に告白するのをやめた。
彼とは今までどおり友達のままでいようと思った。
瑠璃は潤也とつきあうことに決めた。
潤也はとにかく興味深い人で、瑠璃はもっと会いたい、もっと知りたい気持ちでいっぱいになっていた。
瑠璃と潤也はその後、仲のよい恋人どうしになった。
数年つきあって、ふたりはしあわせな結婚にいたった。
END
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