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第二章
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「ここだ」
体育館内のトイレの横の扉。扉の上には救護室という文字の印字されたプラスチックパネルがあった。救護室は、体育で怪我をした生徒に応急処置を施すための救急箱が置いてある部屋だ。他には担架や備え付けベッドが一台あるだけの、簡素なつくりである。きぃ、と扉を開けるとベッドに座っていた人物がゆっくりと振り返る。いかにも野球部然とした坊主頭は、俺たちの姿を認めると、口を開く。
「あらん、お客さん?」
「………センパイ、ガセじゃないですか? ここ、幽霊いないっぽいですよ?」
「あれ、おかしいな。救護室じゃなくて保健室だったか?」
「じゃないですか? 一回確認しましょうよ」
ね! っと提案するとセンパイは訝しげに俺を見る。
「魚沼、ほんとはいるんじゃないだろうな?」
「いないって言ってんでしょ、センパイのおバカさん!」
「お前話し方おかしくなってるぞ」
グイグイとセンパイを外に押し出そうと格闘していると、ヒヤリと冷気が頬を撫でる。
「……あんた、アタシが見えてるわね?」
「うわぁぁぁあ!!!?」
鼻先が頬につきそうなほどの近さでねっとりと話しかけられ、反射的に声を上げる。オカマの目が狩人のように細められたのを見た俺は、センパイをじっとりと睨みつけた。
「……おネェさん、ここの千堂センパイはあなたに会いにやってきました」
オカマはくわっと目を見開く。
『!? ラブ!? ラブなの!? この色男が!?』
「あなたの噂を聞きつけるや否やここに来るんですからラブですよラブ」
適当に返事をすると、不穏な気配を察知したセンパイが慌てた様子を見せる。
「おい俺を生贄にしようとしてないか!??」
「生贄!? 女性を捕まえてあろうことか生贄!?」
「だってお前のおネェさんって呼び方含みがあるだろ!!!? 結局女性なのか!?」
「なんですか、センパイはマイノリティーに対して不寛容なタイプの人ですか。うわー見損なったわー」
「全力で逃げ出そうとしてた奴に言われたくないんだが」
嫌そうに眉をひそめるセンパイに、オカマはラブじゃないのね……と呟きベッドに舞い戻る。そこ定位置なのか。
『で? そこのナウいボーイたちは何しに来たの?』
「うわー、時代を感じる~」
『犯すわよ』
怖い。
さり気なくセンパイを前に押し出し盾にする。オカマの見えていないセンパイは、複雑そうな顔をしつつも受け入れた。これ、相手がさっきまで自分にロックオンの表情をしてたオカマだって知ったら絶対逃げ出すぞ。
「俺たちはおネェさんを祓いに来ました」
『あらぁ、それなら簡単よぅ。ここで恋バナなさい』
ガールズトークに混じるのが夢だったのよ~と言うオカマ。いや、肝心の女の子がどこにもいないんだが。野郎しかいない。いいのかそれで。
『じゃ、そこの男前からねん』
ビシ、とセンパイを指差すオカマ。状況を飲み込めてないセンパイに、恋バナしてくださいと言えば、センパイは信じられないといった目で俺を見てきた。
「正気か?」
「俺が頼んだみたいな顔しないでくれます? 俺だってあんたの恋愛事情なんて聞きたくないですよ」
そこのオカマが言ってんですよ、と指差すと、センパイはオカマだったのか……と逃げ腰になった。だから早く出ようとしたのに。
『さっ! 早く話しなさいな! あっ、ベッド座る?』
「いや、そこ座ったら押し倒されそうで怖いんで床に座ります」
どうせ触れやしないわよ、と怒ってみせるオカマ。どうだか。このオカマ、思念の強そうな幽霊だしいける気がする。床に座るようセンパイに促す。センパイはよっこら、とジジ臭い声を出しながら俺の隣に座った。
『で?』
「センパイ、おネェさんが早く話せって」
「切り替え早いな……」
せっつかれたセンパイはええっと、と考え込む。
「これは去年の秋頃の話だ」
前置きにふむ、と頷く。だいたい半年前か。オカマはわくわくと目を輝かせる。あんまり期待しないほうがいいと思うけどなぁ。このセンパイ、恋愛偏差値低そうだし。
「まだヒラ風紀だった俺は、委員長と共に校門で毎日風紀検査をしていた」
風紀検査は委員長の仕事のはずだから、次期委員長に見込まれたセンパイは仕事を仕込まれていたのだろう。となるとセンパイも今年の秋頃から次期委員長に指導することになるのだろうか。
「風紀検査をしていると、毎日何かしらチェック項目を入れられる女子生徒がいたんだ」
ちょうどお前みたいに。
センパイは俺を指差す。
「これ、制服ですけど」
「お前にとってはな。それで……、」
こいつ俺の対応に慣れてきやがった。ちくしょう、とよく分からない敗北感を抱きつつ話の続きを聞く。
「その女生徒は、十回風紀検査に引っかかったから、風紀室に呼び出されたんだ」
「センパイ、俺一回目から呼び出しでしたけど」
「お前ほど校則ナメくさったやつ他にいないからな」
「俺はこの学校でオンリーワンの存在になりたいんです」
『やかましいわよチンピラ! さ、男前、続きをどうぞ』
待遇に不満を感じまーす、と訴える俺をスルーし、センパイは続きを話す。だからなんで対応に慣れてきてんだよ。
体育館内のトイレの横の扉。扉の上には救護室という文字の印字されたプラスチックパネルがあった。救護室は、体育で怪我をした生徒に応急処置を施すための救急箱が置いてある部屋だ。他には担架や備え付けベッドが一台あるだけの、簡素なつくりである。きぃ、と扉を開けるとベッドに座っていた人物がゆっくりと振り返る。いかにも野球部然とした坊主頭は、俺たちの姿を認めると、口を開く。
「あらん、お客さん?」
「………センパイ、ガセじゃないですか? ここ、幽霊いないっぽいですよ?」
「あれ、おかしいな。救護室じゃなくて保健室だったか?」
「じゃないですか? 一回確認しましょうよ」
ね! っと提案するとセンパイは訝しげに俺を見る。
「魚沼、ほんとはいるんじゃないだろうな?」
「いないって言ってんでしょ、センパイのおバカさん!」
「お前話し方おかしくなってるぞ」
グイグイとセンパイを外に押し出そうと格闘していると、ヒヤリと冷気が頬を撫でる。
「……あんた、アタシが見えてるわね?」
「うわぁぁぁあ!!!?」
鼻先が頬につきそうなほどの近さでねっとりと話しかけられ、反射的に声を上げる。オカマの目が狩人のように細められたのを見た俺は、センパイをじっとりと睨みつけた。
「……おネェさん、ここの千堂センパイはあなたに会いにやってきました」
オカマはくわっと目を見開く。
『!? ラブ!? ラブなの!? この色男が!?』
「あなたの噂を聞きつけるや否やここに来るんですからラブですよラブ」
適当に返事をすると、不穏な気配を察知したセンパイが慌てた様子を見せる。
「おい俺を生贄にしようとしてないか!??」
「生贄!? 女性を捕まえてあろうことか生贄!?」
「だってお前のおネェさんって呼び方含みがあるだろ!!!? 結局女性なのか!?」
「なんですか、センパイはマイノリティーに対して不寛容なタイプの人ですか。うわー見損なったわー」
「全力で逃げ出そうとしてた奴に言われたくないんだが」
嫌そうに眉をひそめるセンパイに、オカマはラブじゃないのね……と呟きベッドに舞い戻る。そこ定位置なのか。
『で? そこのナウいボーイたちは何しに来たの?』
「うわー、時代を感じる~」
『犯すわよ』
怖い。
さり気なくセンパイを前に押し出し盾にする。オカマの見えていないセンパイは、複雑そうな顔をしつつも受け入れた。これ、相手がさっきまで自分にロックオンの表情をしてたオカマだって知ったら絶対逃げ出すぞ。
「俺たちはおネェさんを祓いに来ました」
『あらぁ、それなら簡単よぅ。ここで恋バナなさい』
ガールズトークに混じるのが夢だったのよ~と言うオカマ。いや、肝心の女の子がどこにもいないんだが。野郎しかいない。いいのかそれで。
『じゃ、そこの男前からねん』
ビシ、とセンパイを指差すオカマ。状況を飲み込めてないセンパイに、恋バナしてくださいと言えば、センパイは信じられないといった目で俺を見てきた。
「正気か?」
「俺が頼んだみたいな顔しないでくれます? 俺だってあんたの恋愛事情なんて聞きたくないですよ」
そこのオカマが言ってんですよ、と指差すと、センパイはオカマだったのか……と逃げ腰になった。だから早く出ようとしたのに。
『さっ! 早く話しなさいな! あっ、ベッド座る?』
「いや、そこ座ったら押し倒されそうで怖いんで床に座ります」
どうせ触れやしないわよ、と怒ってみせるオカマ。どうだか。このオカマ、思念の強そうな幽霊だしいける気がする。床に座るようセンパイに促す。センパイはよっこら、とジジ臭い声を出しながら俺の隣に座った。
『で?』
「センパイ、おネェさんが早く話せって」
「切り替え早いな……」
せっつかれたセンパイはええっと、と考え込む。
「これは去年の秋頃の話だ」
前置きにふむ、と頷く。だいたい半年前か。オカマはわくわくと目を輝かせる。あんまり期待しないほうがいいと思うけどなぁ。このセンパイ、恋愛偏差値低そうだし。
「まだヒラ風紀だった俺は、委員長と共に校門で毎日風紀検査をしていた」
風紀検査は委員長の仕事のはずだから、次期委員長に見込まれたセンパイは仕事を仕込まれていたのだろう。となるとセンパイも今年の秋頃から次期委員長に指導することになるのだろうか。
「風紀検査をしていると、毎日何かしらチェック項目を入れられる女子生徒がいたんだ」
ちょうどお前みたいに。
センパイは俺を指差す。
「これ、制服ですけど」
「お前にとってはな。それで……、」
こいつ俺の対応に慣れてきやがった。ちくしょう、とよく分からない敗北感を抱きつつ話の続きを聞く。
「その女生徒は、十回風紀検査に引っかかったから、風紀室に呼び出されたんだ」
「センパイ、俺一回目から呼び出しでしたけど」
「お前ほど校則ナメくさったやつ他にいないからな」
「俺はこの学校でオンリーワンの存在になりたいんです」
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