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プロローグ

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 あぁ、この世の終わりだ。

 足元は血まみれで、四方八方から悲鳴が聞こえてくる。
 いっそ、自分の事も襲ってくれないだろうか。

 悲鳴の元を見やると、暴れ狂う街路樹だった何かと、それに怯える人間が確認できた。

 巻き込まれる形なら……と間に入ってみるけれど、可笑しいほどにこちらを上手に避けていく。
 無傷で血飛沫を浴びながら、断末魔と命の消えゆく音を耳にする。

 見上げる空は、皮肉なくらい青く澄んでいた。

 処理しきれない感情が目から零れ落ちていく。
 にじむ視界に、数刻前の光景が反射する。

 血の海の中で倒れる想い人。
 その傍らで。巨大な黒猫が誇らしげに鮮血を滴らせていた。
 かつて、膝の上で気持ち良さそうに喉を鳴らしていた、あの面影は何処に消えてしまったのだろうか。

 雫を止めようと袖で拭うが、一向に止まる気配はなかった。

「魔女だ……魔女の呪いだ……」
 誰かが叫んだ。
「もう終わりだ……呪われたん」
 言い切る前に声が途絶えた。

 魔女……。
 当に狂っていると思っていた自分の中で、ガシャンッとなにかが壊れる音がした。

 そうだ。
 魔女だ。
 魔女の呪いだ。
 聞こえてきた言葉を繰り返す。
 脳裏に浮かんだのは、憎しみに満ちたあの魔女の瞳だった。
 全てはあの魔女の呪いのせいだ。
 いかなければ。
 終末などにしてなるものか。

 ゆっくり進むだけだった足が、気が付けば速度を上げていた。

 魔女のせいだ
 魔女のせいだ
 魔女のせいだ
 魔女のせいだ
 魔女のせいだ
 魔女のせいだ……!

 頭の中でその言葉が呪文のように繰り返された。
 元凶を取り除けばきっと元通りになる。
 根拠のない結論に脳みそが支配されていく。
 君との思い出の公園を越え、坂道を駆け上がり魔女の家を目指す。

 大丈夫。

 こんな悪夢は、少し時間が経てば笑い話だ。
 枝や根を怒りのままに振り回す大樹なんていない。
 踏み入れる者を拒む花畑なんて存在しない。
 何もかもが元通りになる。

 明日はまたあの公園に行こう。
 木漏れ日は変わらず優しくて、素敵な花の香りに包まれる。

 君に、「怖い夢を見たんだ」と弱音を吐こう。
 そうして、「心配ないよ」って抱きしめてもらうんだ。

 そう、もう一度。

 君に抱きしめてもらうんだ…………。
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