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第9話 クリアできたら教えてやるよ

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「それで結局血まみれかよ!」
「ボスだけですよ……」

 ソファの上でお腹を抱えながら笑っているのは、ビシッとしたスーツに身を包んだイケメン。精霊のトップで何百年と生きていると聞いたが、威厳があるどころかその辺の若者と同じノリである。
 他のノームや自分と陽葵以外の前では、最初に見た物腰柔らかな青年であるため
「らしい」が、素だとチャラい服とピアスがよく似合うお兄さんだ。
 笑いすぎてうっすら涙が見える。馬鹿にされているのが分かるので腹立たしくはあるが、「切り札は使わないで攻略して見せる」と息巻いていた手前、怒るに怒れない。

「まぁでも、五体満足で帰ってこれたんだから上出来だな」
「ありがとうございます」

 出されたクッキーと紅茶を頂きながら一息つく。ギルド長はチョコケーキとコーヒー。僕もケーキが良かったんだけど。
 ダンジョン攻略の翌日は夕方まで眠り続けていたため、報告は翌々日である今日になった。ちなみに先輩は、陽葵のクエストについて行ってしまったため今日は不在である。
 寂しい。
 三つ編みちゃんに案内されてギルド長の部屋に案内されたが、お茶セットは既に設置済みだった。選択権はないようだ。

「初級ダンジョンは無事攻略できましたけど、中級・上級とかもあるんですよね」

 ダンジョンをクリアしてから、次のクエストが出ていない。しばらくはまた修行期間か。

「ねぇよ?」

 イケメンはチョコケーキを口いっぱいに頬張りながら、当然のことのように否定する。

「え、初級しかないんですか?」
「じゃぁなくて、そもそもダンジョンに何級とか存在しない。あるのは口コミの危険度だけだな。あえて言うなら【何ランク推奨ダンジョン】てところか」
「僕がクリアしたのは?」
「角、付いてただろ?」

 確かに、ダンジョン……に限らず今まで出会い戦ったモンスターは全てに角があった。オークやゴブリンにまで生えているし、先輩しかり陽葵しかり、この国の生き物共通だと思っていたけど。

「象徴(シンボル)は魔女の魔力を受け取るためのものだ」
「あ……」

 魔力を効率よく受け取るアンテナとして【象徴(シンボル)】が発現
 
 オープニングを思い出す。

「街周辺のモンスターは低ランク冒険者向けに用意されたものだし、初級ダンジョンは、まぁ初心者の卒業試験ってところだな」
「用意って誰が……」
「魔女」

 ギルド長が教えてくれたのは、オープニングでは語られていなかった「その後」の話だった。
 少女たちが真の魔女として生まれ変わった後、変わらず魔力を送り続ける中で気が付いたことがある。
 魔力を上手に吸収し扱える人間が僅かであること。魔王を失ったにも関わらず、残された魔獣や魔族の勢力は依然として衰えていないこと。
 先導する王がいなくなったことで、人類を滅ぼすために徒党を組む恐れはなくなったが、密かに力を蓄えているようでもあった。魔王復活のその時までに、脅威となる存在を削りつつ人類の力を強くする必要がある。

「それには、当時の人類は弱すぎたってことで魔女同士が対策を立てた」

 その結果が、象徴と育成システムらしいが……。

「人に角を生やしたり自力でモンスターを生み出したり出来るなら、その力で直接敵を倒せないものなんですか?」

 オープニングでは戦う力は無いと言っていたが、そんな神様みたいな力があるならどうとでも出来そうだけど。

「直接倒せないって設定なんだろ」
「え?」
「ま、とにかくさ、育成システムを完遂して晴れて一人前扱いだ。次のクエストからガチのモンスター相手になるから覚悟しとけよ」

 今、すごいメタ発言を聞いた気がするが、確認してはいけない気がする。

「あ、システムと言うと、これも意味があったんですか? 吹けなかったんですけど」

 陽葵に返しそびれていた黄色いホイッスルをポケットから取り出し、ギルド長に見せた。実際には使えなかったけど、どんな意味があったんだろうか。

「あー、あのダンジョン内で吹くとギブアップの合図でモンスターの動きが止まるんだが……魔導具だぜ、それ」
「ですよね!鳴りすらしませんでしたから!」


「ではお邪魔しました」

 報告も終わり、ギルド長にも仕事があるとのことで部屋を出ようとした。

「そうだ、魔王の話な」
「おわっ」

 ドアノブに手をかけるタイミングで背後にギルド長の気配が。細身の長身が僕を覆い、扉に腕を置かれる。これ、壁ドンではないだろうか?

「魔女の夢とか、魔王の復活とか、知ってんのはお前くらいだから」
「それ、どういう……」

 耳元で囁かられぞわぞわする。イケメンは声まで良い声だ。

「他の連中は、魔王亡き後も人類を脅かすモンスター共のために力を送り続けてくれてるってくらいの認識しかねぇんだ。だから夢だとか復活だとか口にすんじゃねぇぞ」

 まただ。先程のメタ発言と言い、今の忠告と言い……まるでここがゲームの世界であると知っているような、自分が見たオープニングを知っているような……。
 どうして疑問に思わなかったんだろうか。ギルド長は「その後」の話をしてくれたけど、そもそも、この国の過去を知っているなんて話したこともない。

「あの、ギルド長って何者……」
「……クリアできたら教えてやるよ。それまではツッコミなしで良い子に冒険してな」

 その言葉と同時に部屋の外に放り出された。
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