10 / 29
第9話 クリアできたら教えてやるよ
しおりを挟む「それで結局血まみれかよ!」
「ボスだけですよ……」
ソファの上でお腹を抱えながら笑っているのは、ビシッとしたスーツに身を包んだイケメン。精霊のトップで何百年と生きていると聞いたが、威厳があるどころかその辺の若者と同じノリである。
他のノームや自分と陽葵以外の前では、最初に見た物腰柔らかな青年であるため
「らしい」が、素だとチャラい服とピアスがよく似合うお兄さんだ。
笑いすぎてうっすら涙が見える。馬鹿にされているのが分かるので腹立たしくはあるが、「切り札は使わないで攻略して見せる」と息巻いていた手前、怒るに怒れない。
「まぁでも、五体満足で帰ってこれたんだから上出来だな」
「ありがとうございます」
出されたクッキーと紅茶を頂きながら一息つく。ギルド長はチョコケーキとコーヒー。僕もケーキが良かったんだけど。
ダンジョン攻略の翌日は夕方まで眠り続けていたため、報告は翌々日である今日になった。ちなみに先輩は、陽葵のクエストについて行ってしまったため今日は不在である。
寂しい。
三つ編みちゃんに案内されてギルド長の部屋に案内されたが、お茶セットは既に設置済みだった。選択権はないようだ。
「初級ダンジョンは無事攻略できましたけど、中級・上級とかもあるんですよね」
ダンジョンをクリアしてから、次のクエストが出ていない。しばらくはまた修行期間か。
「ねぇよ?」
イケメンはチョコケーキを口いっぱいに頬張りながら、当然のことのように否定する。
「え、初級しかないんですか?」
「じゃぁなくて、そもそもダンジョンに何級とか存在しない。あるのは口コミの危険度だけだな。あえて言うなら【何ランク推奨ダンジョン】てところか」
「僕がクリアしたのは?」
「角、付いてただろ?」
確かに、ダンジョン……に限らず今まで出会い戦ったモンスターは全てに角があった。オークやゴブリンにまで生えているし、先輩しかり陽葵しかり、この国の生き物共通だと思っていたけど。
「象徴(シンボル)は魔女の魔力を受け取るためのものだ」
「あ……」
魔力を効率よく受け取るアンテナとして【象徴(シンボル)】が発現
オープニングを思い出す。
「街周辺のモンスターは低ランク冒険者向けに用意されたものだし、初級ダンジョンは、まぁ初心者の卒業試験ってところだな」
「用意って誰が……」
「魔女」
ギルド長が教えてくれたのは、オープニングでは語られていなかった「その後」の話だった。
少女たちが真の魔女として生まれ変わった後、変わらず魔力を送り続ける中で気が付いたことがある。
魔力を上手に吸収し扱える人間が僅かであること。魔王を失ったにも関わらず、残された魔獣や魔族の勢力は依然として衰えていないこと。
先導する王がいなくなったことで、人類を滅ぼすために徒党を組む恐れはなくなったが、密かに力を蓄えているようでもあった。魔王復活のその時までに、脅威となる存在を削りつつ人類の力を強くする必要がある。
「それには、当時の人類は弱すぎたってことで魔女同士が対策を立てた」
その結果が、象徴と育成システムらしいが……。
「人に角を生やしたり自力でモンスターを生み出したり出来るなら、その力で直接敵を倒せないものなんですか?」
オープニングでは戦う力は無いと言っていたが、そんな神様みたいな力があるならどうとでも出来そうだけど。
「直接倒せないって設定なんだろ」
「え?」
「ま、とにかくさ、育成システムを完遂して晴れて一人前扱いだ。次のクエストからガチのモンスター相手になるから覚悟しとけよ」
今、すごいメタ発言を聞いた気がするが、確認してはいけない気がする。
「あ、システムと言うと、これも意味があったんですか? 吹けなかったんですけど」
陽葵に返しそびれていた黄色いホイッスルをポケットから取り出し、ギルド長に見せた。実際には使えなかったけど、どんな意味があったんだろうか。
「あー、あのダンジョン内で吹くとギブアップの合図でモンスターの動きが止まるんだが……魔導具だぜ、それ」
「ですよね!鳴りすらしませんでしたから!」
「ではお邪魔しました」
報告も終わり、ギルド長にも仕事があるとのことで部屋を出ようとした。
「そうだ、魔王の話な」
「おわっ」
ドアノブに手をかけるタイミングで背後にギルド長の気配が。細身の長身が僕を覆い、扉に腕を置かれる。これ、壁ドンではないだろうか?
「魔女の夢とか、魔王の復活とか、知ってんのはお前くらいだから」
「それ、どういう……」
耳元で囁かられぞわぞわする。イケメンは声まで良い声だ。
「他の連中は、魔王亡き後も人類を脅かすモンスター共のために力を送り続けてくれてるってくらいの認識しかねぇんだ。だから夢だとか復活だとか口にすんじゃねぇぞ」
まただ。先程のメタ発言と言い、今の忠告と言い……まるでここがゲームの世界であると知っているような、自分が見たオープニングを知っているような……。
どうして疑問に思わなかったんだろうか。ギルド長は「その後」の話をしてくれたけど、そもそも、この国の過去を知っているなんて話したこともない。
「あの、ギルド長って何者……」
「……クリアできたら教えてやるよ。それまではツッコミなしで良い子に冒険してな」
その言葉と同時に部屋の外に放り出された。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる