番を喪ったオメガは夜毎狂い啼く

胡麻堂腐

文字の大きさ
上 下
7 / 7
2章 嵐

7.くるしい たすけて

しおりを挟む
呼吸が早くなって息があがる。
発情ヒートが暴走しすぎて制御できない。

そういえば発情を抑える抑制剤を、もう長い事飲んでいない。
高校生の時に初めて発情期を迎えてから卒業するまでの間は、まだ体が安定していなかったから抑制剤を常に持ち歩いていたけれど――


アメリカに来て結婚してからは二人共子供が欲しかったし、僕は外出することもほとんどなかったから、抑制剤を使用する事は止めて、すべての発情ヒート期を貴臣たかおみと巣ごもりして過ごして来た。


発情なのに、まだ巣を作っていない事に気付いて、僕は周りのシーツを引き寄せた。
突然だったから、周りに何も貴臣の匂いのするものがない。


Ωオメガは本能で、子供を身ごもり、出産するための準備として巣作り行動をする。
つがい相手のαアルファの匂いがする衣類などを寝室などに円形に積み上げて、その中心の窪みで相手を迎え入れ、交わりを求める。


この部屋には、寝具のほか余分な布はほとんどなかった。
貴臣の匂いのするものが無い事に、不安になる。
こんな頼りない薄いシーツじゃ全然足りない。


巣がみすぼらしくて悲しくなる。
オメガとして恥ずかしい。


――貴臣は、こんなみすぼらしい巣でもちゃんと僕を抱いてくれるかしら


理性ではやさしい貴臣がそんなことで僕を責めるわけなんかないと思うのに、
オメガの本能は求愛行動が不完全なことに強いプレッシャーを感じてしまう。


「貴臣――貴臣――」


――早く帰って来て――貴臣の匂いのするものが欲しい。


貴臣が帰ってきてくれないと、貴臣の匂いのする服ももらえない。


この間巣作りした時は、ちゃんと貴臣がたくさん服や寝具を置いていってくれたから、僕は思う存分毛布や貴臣の服を積み上げて、とても満足だった。
帰って来てこんもりと山の様に積み上げた巣の中から頭だけ出して出迎えた僕を見て、貴臣は幸せそうに笑ったのだ。


――寒い。


どうしてこの部屋はこんなに寒々しいんだろう。
どうして貴臣の匂いがしないんだろう。
どうしてこんなに暗いんだろう。
どうしてこんなに不安で寂しいんだろう。


不安で、悲しくて、怖くて、涙があふれる。


――貴臣――貴臣――僕、とても悲しいんだ――とても寂しいんだ――どうしてかな――


両腕で自分の体を抱きしめる。震えがちっとも収まらない。

両腕の中にまだ慣れない、ふっくらとふくらんで来た胸がある。
子どもができてから、少しずつ胸が膨らんで来て、時々胸が張って痛くなる。


貴臣の手でやさしくもみほぐしてもらうのは気持ち良かった。
そうすると段々柔らかくなってきて、痛いのがマシになる。


貴臣に丁寧に愛撫され続けた乳首はすっかり育って、男にしてはやや大きい。
子どもが吸うために大きくなるのだと医者から聞かされた。


体が変化することには戸惑いも大きかったけれど、子どもを身ごもった証のように思えて、嬉しかった。
子どもに乳をあげるのはどんな気持ちになるのだろうと思う。


触れると先端がじわりとしたものが溢れて、指を濡らした。
子どもが生まれるのはまだ大分先の筈なのに、もうお乳が出るのかな。


乳首をつまむようにすると、思いがけないほどたっぷりとした白い液体がにじみ出てくる。
乳房が張ってとても痛い。


「貴臣――貴臣――」


体の奥がうずくのと同時に、胸も疼くようだった。
自分の指で後ろの穴をかき回しながら、同時に胸もいじると、胸からもびしゃびしゃと乳が溢れて寝床を濡らした。


これ以上一人で耐えているのが辛い。
早く貴臣に胸を触って欲しいし、後ろもかき混ぜて欲しい。
前も何もしていなくてもだらだらと透明な液を流してちあがり続けるばかりで射精できなくて痛い。


もう長い間挿入されてしかたっしたことがないから、どんなに自分で性器を握りしめても、前だけでくことができない。



体の熱はこもるばかりで、頭がクラクラしてくる。
息が苦しい。
汗が出るのに、肌は泡立って、寒さを感じてぶるぶると震える。

体中から体液が出て、喉がカラカラになる。
貴臣の愛撫もないのに、勝手に出る喘ぎ声が止まらない。


「ア―ッ……アッアッアッ……アアッ……ッ!」


絶え間なく性的興奮の波が押し寄せて来て、狭い穴が貴臣を欲しがって収縮する。
それに合わせて勝手に体がビクビクと痙攣する度に、記憶が呼び覚まされたように、かつて与えられた貴臣の存在を感じ取るように喘ぎ声がでてしまう。


でも、身体の期待を裏切ってそこはいつまでも満たされる事がなく、実際には達くことができなくてどんどん苦しくなってくる。


「貴臣――貴臣――くるしい――たすけて――」


どうしてこんなにくるしいの。
どうして貴臣はいつまでもしてくれないの。


つらくて、つらくて喘ぎながら泣きじゃくる。


こんなに辛いのならもういっそ死んでしまいたいと思うほどの耐え難い時間。
時々熱でふっと意識が遠のくのに、その度に飢えた体の切なさで意識を引き戻されて再び悲鳴を上げ続ける。


「アアアアアアッ!――アアアアアアアア!!! イヤッ……!もうイヤだ!!なんとかして!!貴臣……!貴臣……!!」















-----------------------------

更新大変お待たせしました!
しおりありがとうございます😊
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

トップアイドルα様は平凡βを運命にする

新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

【完結】可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない

天田れおぽん
BL
劣性アルファであるオズワルドは、劣性オメガの幼馴染リアンを伴侶に娶りたいと考えていた。 ある日、仕えている王太子から名前も知らないオメガのうなじを噛んだと告白される。 運命の番と王太子の言う相手が落としていったという髪飾りに、オズワルドは見覚えがあった―――― ※他サイトにも掲載中 ★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★  「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」  が、レジーナブックスさまより発売中です。  どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

処理中です...