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少年と少女 それぞれの理由
少年の怒り6
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アトスの後について歩いていくと、その先には一台の黒塗りの馬車が用意されていた。
「ここからは馬車で行くの?」
いつものアトスは、ファルムエイド家の紋章が金色で記された白い魔導車で移動しているはずだ。
「あぁ。身元を知られずに動きたいからな」
馬の代わりに貴秘石を動力源として動く『魔導車』は、まだ生産量が少ない事もあり、当然購入費用も高額だ。しかも、動力源たる貴秘石は、使用すれば当然魔力が切れるので、魔力を持つ者が貴秘石へと魔力を補給するか、貴秘石を購入し直さなければならない。
そのため、魔導車を所有しているのは貴族や富裕層などに限定されるので、魔導車に乗っているだけで身元が特定されやすかった。それ故、貴族や富裕層のお忍びには、時折馬車が使われた。
そして、今回アトスが馬車を用意した理由も、多くのお忍び貴族と同様身元を隠すためだと言われた事で、レイリアはアトスの企みが身元を知られてはならないような、ろくでもない事なのかと考え、頭が重くなった。
それでもここで帰る訳にはいかず、レイリアはアトスにエスコートされ馬車へと乗り込んだ。
馬車はアトス、レイリア、ウィリス、そしてアトスの従者のホーデスを乗せると出発し、リシュラスの街の海沿いを南下して行った。
「ねぇアトス。あなた、私達をどこへ連れて行くつもり?」
馬車がしばらく走ったところで、レイリアは隣に座るアトスへと尋ねた。
「ラシールだ」
ラシールと言えば、リシュラスの港湾地区の事だ。
「港へ行くの?まさか、船に乗る訳では無いわよね?」
泳げないレイリアにとって、船に乗るというのは苦手な事の一つである。もちろんそんな弱みをアトスに知らせるつもりは無いが、それでも顔を僅かに顰ながら尋ねると、
「いや。港の近くにある倉庫だ」
という答えが返ってきた。
「そんな所へ何をしに行くつもり?」
「悪党退治だって伝えただろ?」
「何なのよ、その悪党退治って?」
そのレイリアの問い掛けに対して、待っていましたとばかりにアトスはニヤリと笑った。
「知っているかい?ガトーレの遺跡で見つかった石板が、リシュラスへ輸送途中に盗まれた事件を」
「えぇ、知っているわ。リシュラスに運ばれる予定だったその石板の調査を、私もオルドス様と一緒にさせて頂く事になっていたから」
レイリアは平静を装って答えたものの、心の中はガトーレの石板の話が出て来た事で非常に嫌な予感が渦巻き始めた。そして、どうかこの先のアトスの話が自分の予想とは異なりますように、と祈った。
「へぇー。そうだったのか。それならば丁度良いな」
「何が丁度良いのかしら?」
「今からその石板を取り戻しに行くからさ」
レイリアが想定していた最悪の展開をアトスが自信満々に告げた瞬間、レイリアは頭を抱えたくなった。
だがそこは、何とか自制心を総動員して睨め付けるのみにとどめた。
「奪われた石板の行方は、軍がずっと探しているけれどまだ見つかっていないのよ?それなのに、アトスが取り戻すってどういう事?」
「軍が見つけられないのは、探し方が悪いからだろ?うちの方で手を回したら、直ぐに見つけ出せたよ。だから思ったんだ。折角だし、この石板をレイリアへの贈り物にしようってね。手紙にもそう書いただろ?レイリアが追い求める物を捧げるって」
やはりアトスの言っていた捧げ物とは石板を示していたのだ。
だが、何故アトスはレイリアが石板を欲していると思ったのだろう?もしやアトスは、レイリアが魔族についての情報を集めていることまで知っているのだろうか?
レイリアはアトスが自分の情報を何処まで掴んでいるのか気になった。
「私が石板を探していると、どうして思ったの?私、石板が欲しいだなんてアトスに言った事無かったはずよ」
「君は幼い頃から古代史研究の第一人者であるオルドス様に直接師事しているし、今までもオルドス様の元で何度か石板について調べていると聞いている。君ほど古代史に興味がある者なら、古いにしえの秘密が刻み込まれた石板は、それこそ喉から手が出る程欲しがるはずさ」
そうだろう?とアトスから目で問われるも、レイリアは肯とも否とも答える事が出来ず、ただ無言でアトスを見つめ返した。
「まぁ、理由はどうあれ、レイリアが石板に興味があるのは見ていれば分かるさ」
そう言ってフッと笑ったアトスは、いつもの高慢なアトスでは無く、兄に似た柔らかな面差しをしていた。
そんなアトスに戸惑いを感じたレイリアは、アトスから顔を逸らし、正面へと視線を移した。
するとそこには、目を据わらせ、真っ直ぐにこちらを向いているウィリスがいた。
(お、怒ってる?)
謎の静かな怒りを湛えているウィリスを前に、レイリアは、もしや自分の行動がウィリスと立てた作戦に何らかの支障をきたしたのかと思い、心の中で焦り始めた。
だが、考えてみたものの、ウィリスが怒っている理由が思い浮かばない。
仕方無く、後で聞いてみれば良いかと半分投げ遣りな気持ちになった頃、馬車は動きを止めた。
「ここからは馬車で行くの?」
いつものアトスは、ファルムエイド家の紋章が金色で記された白い魔導車で移動しているはずだ。
「あぁ。身元を知られずに動きたいからな」
馬の代わりに貴秘石を動力源として動く『魔導車』は、まだ生産量が少ない事もあり、当然購入費用も高額だ。しかも、動力源たる貴秘石は、使用すれば当然魔力が切れるので、魔力を持つ者が貴秘石へと魔力を補給するか、貴秘石を購入し直さなければならない。
そのため、魔導車を所有しているのは貴族や富裕層などに限定されるので、魔導車に乗っているだけで身元が特定されやすかった。それ故、貴族や富裕層のお忍びには、時折馬車が使われた。
そして、今回アトスが馬車を用意した理由も、多くのお忍び貴族と同様身元を隠すためだと言われた事で、レイリアはアトスの企みが身元を知られてはならないような、ろくでもない事なのかと考え、頭が重くなった。
それでもここで帰る訳にはいかず、レイリアはアトスにエスコートされ馬車へと乗り込んだ。
馬車はアトス、レイリア、ウィリス、そしてアトスの従者のホーデスを乗せると出発し、リシュラスの街の海沿いを南下して行った。
「ねぇアトス。あなた、私達をどこへ連れて行くつもり?」
馬車がしばらく走ったところで、レイリアは隣に座るアトスへと尋ねた。
「ラシールだ」
ラシールと言えば、リシュラスの港湾地区の事だ。
「港へ行くの?まさか、船に乗る訳では無いわよね?」
泳げないレイリアにとって、船に乗るというのは苦手な事の一つである。もちろんそんな弱みをアトスに知らせるつもりは無いが、それでも顔を僅かに顰ながら尋ねると、
「いや。港の近くにある倉庫だ」
という答えが返ってきた。
「そんな所へ何をしに行くつもり?」
「悪党退治だって伝えただろ?」
「何なのよ、その悪党退治って?」
そのレイリアの問い掛けに対して、待っていましたとばかりにアトスはニヤリと笑った。
「知っているかい?ガトーレの遺跡で見つかった石板が、リシュラスへ輸送途中に盗まれた事件を」
「えぇ、知っているわ。リシュラスに運ばれる予定だったその石板の調査を、私もオルドス様と一緒にさせて頂く事になっていたから」
レイリアは平静を装って答えたものの、心の中はガトーレの石板の話が出て来た事で非常に嫌な予感が渦巻き始めた。そして、どうかこの先のアトスの話が自分の予想とは異なりますように、と祈った。
「へぇー。そうだったのか。それならば丁度良いな」
「何が丁度良いのかしら?」
「今からその石板を取り戻しに行くからさ」
レイリアが想定していた最悪の展開をアトスが自信満々に告げた瞬間、レイリアは頭を抱えたくなった。
だがそこは、何とか自制心を総動員して睨め付けるのみにとどめた。
「奪われた石板の行方は、軍がずっと探しているけれどまだ見つかっていないのよ?それなのに、アトスが取り戻すってどういう事?」
「軍が見つけられないのは、探し方が悪いからだろ?うちの方で手を回したら、直ぐに見つけ出せたよ。だから思ったんだ。折角だし、この石板をレイリアへの贈り物にしようってね。手紙にもそう書いただろ?レイリアが追い求める物を捧げるって」
やはりアトスの言っていた捧げ物とは石板を示していたのだ。
だが、何故アトスはレイリアが石板を欲していると思ったのだろう?もしやアトスは、レイリアが魔族についての情報を集めていることまで知っているのだろうか?
レイリアはアトスが自分の情報を何処まで掴んでいるのか気になった。
「私が石板を探していると、どうして思ったの?私、石板が欲しいだなんてアトスに言った事無かったはずよ」
「君は幼い頃から古代史研究の第一人者であるオルドス様に直接師事しているし、今までもオルドス様の元で何度か石板について調べていると聞いている。君ほど古代史に興味がある者なら、古いにしえの秘密が刻み込まれた石板は、それこそ喉から手が出る程欲しがるはずさ」
そうだろう?とアトスから目で問われるも、レイリアは肯とも否とも答える事が出来ず、ただ無言でアトスを見つめ返した。
「まぁ、理由はどうあれ、レイリアが石板に興味があるのは見ていれば分かるさ」
そう言ってフッと笑ったアトスは、いつもの高慢なアトスでは無く、兄に似た柔らかな面差しをしていた。
そんなアトスに戸惑いを感じたレイリアは、アトスから顔を逸らし、正面へと視線を移した。
するとそこには、目を据わらせ、真っ直ぐにこちらを向いているウィリスがいた。
(お、怒ってる?)
謎の静かな怒りを湛えているウィリスを前に、レイリアは、もしや自分の行動がウィリスと立てた作戦に何らかの支障をきたしたのかと思い、心の中で焦り始めた。
だが、考えてみたものの、ウィリスが怒っている理由が思い浮かばない。
仕方無く、後で聞いてみれば良いかと半分投げ遣りな気持ちになった頃、馬車は動きを止めた。
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