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<最終章:己が世界を支配せよ>
最強の魔族VSただの人間
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高笑いをする魔王。その高笑いは静かなこのドーム状の空間にはとても空空しく響いていた。なんとも空しく、なんとも不気味で、相容れないような気配を感じさせる。それは異種族間に隔たれた、無意識の壁。いくら言葉を交わそうとも、いくら寝食を共にしようとも、それはただ連れ添っているだけで、分かり合えない。そう突きつけられるみたいだった。
「よく来たな勇者よ、貴様はわしが直々に葬ってやる!」
「ひ、人違いじゃあないのか?」
俺は目を逸らしてそうとぼけてみせた。そうしないと、こいつとの関係が壊れそうになると思ったからだ。関係を壊すことが嫌なのか? そうだ。俺はこいつとの関係を壊したくない。自分の運命に抗ってみせた魔王を守ることは、俺の心、つまり自分の道は自分で決めるというスタンスを守ることとイコールだからだ。こいつを、魔王という肩書に殺させてくなかった。
「人違い? いやいや、人が違えど勇ましければ勇者じゃよ、わしの前に現れていることそのものがその証拠じゃ、わしの前に立っているただそれだけで、貴様は勇者なんじゃ。魔王の立ち向かう人間は勇者だと相場で決まっておる」
「その相場を決めたのは、お前じゃないだろ。物語に感化されるのも良い加減にしろよ、ドラゴンボール愛読者でもかめはめ波が使えないことくらい理解してるぜ」
「その人は人じゃろう? わしは魔王じゃ、魔族を統べる王。人間に仇なす一族の王。それだけで貴様を殺す理由には十分じゃ」
戻っている。かつて勇者に殺されることを当然と思っていた魔王という肩書が、心の底にまで根付いてしまっていた。深層心理が染まっている。
「魔族の王だからって、人間と対立しなくてもいいだろうが、魔族と人間は相容れることができる。他種族でも同盟や条約といった約束事をすれば、俺達は共存できるんだ」
「約束事? 同盟? 条約? そんな紙切れ一枚がエビデンスの契約に何の意味がある? わしには力があり、人間には力がない。あっても少しばかり工夫が効くだけじゃ。圧倒的魔力には誰にも叶わん。わしら魔族はそういう一族なんじゃ。力ある者が力なき者を従わせることに、何の違和感を抱くっ必要がある?」
駄目だ、話を聞いていない。話にならない。常識が塗り替えられている。否、常識を迷いなく信じ、自分の行動指針が明確になっているんだ。それがたとえ、自分の望まざる未来に繋がっていたとしても。これもミナのレコメンドによるものの影響なのか? 心の行動指針をミナにレコメンドされることで、魔王としての役割に忠実になる。
迷いを無くすことは確かに良いことだ。しかし、自分の行いが、自分の望んだ未来に繋がっていることが前提だ。
お前は、そうじゃないだろ。魔族であろうと人間であろうと慮れる、レアアイテムは好きだけど、人の作った物語に直ぐに感化されるような、そういう心が豊かな奴だったはずだ。少なくとも、迷いなく人間を滅ぼす選択ができる奴では、なかったはずだ。
「思い出せ! 魔王だろうと副業を認め、福利厚生に充実した魔族業を生業としていたお前自身を!」
「副業? 何、そんな本業をおろそかにするようなことをしている者がわしの部下におると言うのか? それは聞き捨てならんのぉ、残業なんて当たり前、タイムカードを切ってからが本番じゃろうに」
マジの魔王だった。タイムカードって言葉、今の人分かるかな、この異世界でも多分採用してるところなさそうに思うんだけど。
「まぁそれは貴様を葬ってから抜き打ち検査するとしようかのぉ、そのためにも」
まずは貸しているものを返してもらわんとな。
そう言って魔王は右手を前に出した。すると、俺の腰に縛り付けていた魔王の剣が、一人でに動き出した。カタカタと。まさかと思い、魔王の剣の柄をしっかりと掴む。だがその力を振り払うほどの力で、魔王の剣はクルクルと回転し、魔王の元へ飛んで行った。
その剣を、ブーメランをナイスキャッチするようにがっしり掴む。相棒の如く。
「ちっ、まぁもともとその剣はお前のだったしな、だがその剣があったからなんだってんだよ、弱体化したお前が俺に敵うと思うのか?」
煽ってみたのだが、煽るべきじゃなかっただろう。完全に負け役のセリフを吐いてしまった。流れはまだ魔王にある。ケラケラと笑い、あざけった。
「そんなわけないじゃろ、まだ貸しているもんもあるしのぉ」
ん? まだ借りてたものって、あったっけ? ピンとこないと思っていたが、魔王が左手を前に出し、謎の風が背中から感じられる気がしたとき、直感した。そうだ、あった。魔王からの借り物というより、歴代魔王からの借り物が。
吸い取られる。謎の脱力感が体中を襲う。俺の中の何かが、消えてなくなるような、そんな感じ。と言っても元々俺には備わっていなかったそれは、元のさやに納まるだけなのだ。魔王の貸した魔力は、魔王の元へ。
闇色の魔力は魔王の体を包みこみ、その姿は見えなくなる。地下の密閉空間であるにも関わらずその風は勢いを増し、俺は腕で顔を覆った。
視界が遮られ、より魔王の姿は見えなくなる。そして風が止むと、闇色の魔力は薄くなった。代わりに。俺は嫌気がさすように笑った。
「それが、お前の本当の姿ってわけだ」
「いかにも」
見れば。目の前にいるのは見目麗しい黒髪ロングの角付き女性。シックな漆黒なドレスは夜空のようにキラキラと黒々しく輝き、美人なその容姿をより際立たせている。
「じゃが本来の姿に戻ろうとも、貴様を倒すのは骨が折れよう。なので、キャピタルゲインはしっかりと頂いておるよ」
キャピタルゲイン? 確か、株とかを売却した時に得られる、購入額との差額の利益のことを言うんだっけ?
「さぁとくと味わえ、この魔王の剣の本質を」
本質。その言葉を聞いて、一気に背筋が凍りつく。
恐ろしい笑顔を浮かべて、魔王は呟く。剣を持ち上げて。天にも届くように高らかに。
「その本質は、己の無力と非力と弱さを知らしめる、心を壊す闇と化す」
特別武具
「恐血赤剣」
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「よく来たな勇者よ、貴様はわしが直々に葬ってやる!」
「ひ、人違いじゃあないのか?」
俺は目を逸らしてそうとぼけてみせた。そうしないと、こいつとの関係が壊れそうになると思ったからだ。関係を壊すことが嫌なのか? そうだ。俺はこいつとの関係を壊したくない。自分の運命に抗ってみせた魔王を守ることは、俺の心、つまり自分の道は自分で決めるというスタンスを守ることとイコールだからだ。こいつを、魔王という肩書に殺させてくなかった。
「人違い? いやいや、人が違えど勇ましければ勇者じゃよ、わしの前に現れていることそのものがその証拠じゃ、わしの前に立っているただそれだけで、貴様は勇者なんじゃ。魔王の立ち向かう人間は勇者だと相場で決まっておる」
「その相場を決めたのは、お前じゃないだろ。物語に感化されるのも良い加減にしろよ、ドラゴンボール愛読者でもかめはめ波が使えないことくらい理解してるぜ」
「その人は人じゃろう? わしは魔王じゃ、魔族を統べる王。人間に仇なす一族の王。それだけで貴様を殺す理由には十分じゃ」
戻っている。かつて勇者に殺されることを当然と思っていた魔王という肩書が、心の底にまで根付いてしまっていた。深層心理が染まっている。
「魔族の王だからって、人間と対立しなくてもいいだろうが、魔族と人間は相容れることができる。他種族でも同盟や条約といった約束事をすれば、俺達は共存できるんだ」
「約束事? 同盟? 条約? そんな紙切れ一枚がエビデンスの契約に何の意味がある? わしには力があり、人間には力がない。あっても少しばかり工夫が効くだけじゃ。圧倒的魔力には誰にも叶わん。わしら魔族はそういう一族なんじゃ。力ある者が力なき者を従わせることに、何の違和感を抱くっ必要がある?」
駄目だ、話を聞いていない。話にならない。常識が塗り替えられている。否、常識を迷いなく信じ、自分の行動指針が明確になっているんだ。それがたとえ、自分の望まざる未来に繋がっていたとしても。これもミナのレコメンドによるものの影響なのか? 心の行動指針をミナにレコメンドされることで、魔王としての役割に忠実になる。
迷いを無くすことは確かに良いことだ。しかし、自分の行いが、自分の望んだ未来に繋がっていることが前提だ。
お前は、そうじゃないだろ。魔族であろうと人間であろうと慮れる、レアアイテムは好きだけど、人の作った物語に直ぐに感化されるような、そういう心が豊かな奴だったはずだ。少なくとも、迷いなく人間を滅ぼす選択ができる奴では、なかったはずだ。
「思い出せ! 魔王だろうと副業を認め、福利厚生に充実した魔族業を生業としていたお前自身を!」
「副業? 何、そんな本業をおろそかにするようなことをしている者がわしの部下におると言うのか? それは聞き捨てならんのぉ、残業なんて当たり前、タイムカードを切ってからが本番じゃろうに」
マジの魔王だった。タイムカードって言葉、今の人分かるかな、この異世界でも多分採用してるところなさそうに思うんだけど。
「まぁそれは貴様を葬ってから抜き打ち検査するとしようかのぉ、そのためにも」
まずは貸しているものを返してもらわんとな。
そう言って魔王は右手を前に出した。すると、俺の腰に縛り付けていた魔王の剣が、一人でに動き出した。カタカタと。まさかと思い、魔王の剣の柄をしっかりと掴む。だがその力を振り払うほどの力で、魔王の剣はクルクルと回転し、魔王の元へ飛んで行った。
その剣を、ブーメランをナイスキャッチするようにがっしり掴む。相棒の如く。
「ちっ、まぁもともとその剣はお前のだったしな、だがその剣があったからなんだってんだよ、弱体化したお前が俺に敵うと思うのか?」
煽ってみたのだが、煽るべきじゃなかっただろう。完全に負け役のセリフを吐いてしまった。流れはまだ魔王にある。ケラケラと笑い、あざけった。
「そんなわけないじゃろ、まだ貸しているもんもあるしのぉ」
ん? まだ借りてたものって、あったっけ? ピンとこないと思っていたが、魔王が左手を前に出し、謎の風が背中から感じられる気がしたとき、直感した。そうだ、あった。魔王からの借り物というより、歴代魔王からの借り物が。
吸い取られる。謎の脱力感が体中を襲う。俺の中の何かが、消えてなくなるような、そんな感じ。と言っても元々俺には備わっていなかったそれは、元のさやに納まるだけなのだ。魔王の貸した魔力は、魔王の元へ。
闇色の魔力は魔王の体を包みこみ、その姿は見えなくなる。地下の密閉空間であるにも関わらずその風は勢いを増し、俺は腕で顔を覆った。
視界が遮られ、より魔王の姿は見えなくなる。そして風が止むと、闇色の魔力は薄くなった。代わりに。俺は嫌気がさすように笑った。
「それが、お前の本当の姿ってわけだ」
「いかにも」
見れば。目の前にいるのは見目麗しい黒髪ロングの角付き女性。シックな漆黒なドレスは夜空のようにキラキラと黒々しく輝き、美人なその容姿をより際立たせている。
「じゃが本来の姿に戻ろうとも、貴様を倒すのは骨が折れよう。なので、キャピタルゲインはしっかりと頂いておるよ」
キャピタルゲイン? 確か、株とかを売却した時に得られる、購入額との差額の利益のことを言うんだっけ?
「さぁとくと味わえ、この魔王の剣の本質を」
本質。その言葉を聞いて、一気に背筋が凍りつく。
恐ろしい笑顔を浮かべて、魔王は呟く。剣を持ち上げて。天にも届くように高らかに。
「その本質は、己の無力と非力と弱さを知らしめる、心を壊す闇と化す」
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「恐血赤剣」
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