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<最終章:己が世界を支配せよ>
架けられた石橋は叩き壊せ
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[レコメンドを妨げる障害と判断。異分子を排除します]
烏合の執行人。ミナ。魔術知能。MI。マジカルインテリジェンス。
彼女は、闇夜に紛れる黒いローブを身に纏うも、この病院のように白いドーム状の空間だとよく目立つ。手に持つ大鎌は背丈と同じくらいあり、磔にされている魔王を背にしていた。死神が着ていそうなローブの内からは、二つの光が瞬いていた。恐らく機械の目がより多くの光を目に集めるために光っているのかもしれない。さながらネコ科の狩人の如く。
死の際だからなのだろうか、その一連の動きがゆっくりに見えた。
その狩人は腰を低く深くおろしたと思いきや、地面を激しく蹴って俺の方へと飛び出した。その動作はまさしく「飛び出した」と言っていいだろう。だってコンクリなのか大理石なのか知らないが、固そうなこの地面がひび割れて抉れているのだから。もうここまでくると人間技ではない、機械だ。俺が殴った時もそういえばそういう感触だったような気がする。
ドーム状のこの空間で、俺は円の端にいた。そしてミナと魔王は円の中心という位置で、その距離はおおよそ100メートルほどだ。それほど遠いのにも関わらず奴の声が聞こえてきたところからも、あいつが機械なんだなということを示唆していたのかもしれない。そしてその距離を、奴は一気に詰め寄った。ボルトもびっくりの短距離走である。いや短距離走ではない、これは立ち幅跳びだ。だって地面を抉り蹴ってから、一度も足を地面に付けていなかったのだから。
そんな超スピードで迫りながら、しっかりと大鎌を振りかぶる。天井にある照明の光が鋭い刃に反射し、次第に近づいてくる。
避ける準備をしようと腰を低くした頃には、そろそろ射程圏内という所にまで詰め寄られていた。その鎌は俺から見て左に振りかぶっており、そのまま右に振り切れば俺の体は真っ二つになるという角度だった。
その鎌が振り下ろされる。鎌の角度と降ろされる角度は寸分の狂いもなく、もしこいつが野球選手になったならば大谷翔平を越えるバッターになることだろう。
そんな大鎌を。
俺は両手で挟み、受け止めた。やっとのことでミナが地面に足を付ける。コツンという無機質な音は、人の魂が宿っていない、ただの機械人形であることを思わせた。
プルプルと鎌が振るえるが、その鎌は動かない。鎌が引かれるような力を感じるが、俺は離してあげない。
その事態をどう解釈したのか、慌てるようにミナは、その顔から覗かれる口を開いた。口といっても音声を響かせるスピーカー的な役割しかないのだが。その口が開く。
[けけけ、警戒レベルを8に――
「遅ぇよ!」
何かを言おうとしたのだがしかし、言う暇を与えずに鎌を持つ手を蹴り上げた。しかし流石は機械、鎌を持つ手はがっしりと柄を掴んで離さない。
「お前がオススメされなくたってなぁ! お前が差し出さなくたってなぁ!」
今までの思いを乗せて。
集団心理を乗り越えて。
心細くっても脚を止めないで。
不安で眠れなくても立ち上がって。
皆と違っていても。
後ろ指を指されようとも!
「俺達人間は自分で進んで行けるんだよ! こんにゃろうがああああぁぁぁぁぁ!!」
両手で挟む鎌を地面に振り下ろす。機械仕掛けの体が硬い地面に叩きつけられ、手足があらぬ方向へ捻じ曲がった。バラバラに機械のパーツが散っていく。
[けけ、警戒、レコメンど、皆の、オスス、メ]
最後の言葉を口にして、ミナはその機能を停止させた。目からその光が消えていく。魂というのは特になく、ただ電源が切れただけなのだが、それでも人の形をしたモノが活動を停止する様子というのは、少しだけ心を痛める。
「いやー、流石はラスボスだったぜ、この俺をここまで手こずらせるとはな。鎌の勢いで手が少し皮膚が裂けちまったじゃねぇか。ここまでの相手は異種格闘大会の優勝候補と戦った時以来だな」
感慨もなくそう呟いた。突っ込みがいないと言葉というものはこんなにも空しく響くのか。場所が無駄に広いのも相まって、なかなか死にたくなる。
「んー、まぁよし、とりあえずこれで終わりってことでいいの、かな?」
何か実感ないな、放送されている映像を見られたなら例の円グラフが魔力を集めているかどうかを確認することができるのだが、生憎プリーストックのアカウントを作ったことがないので見ることはできない。ゲストアカウントでも見られるのだろうか?
「そうだ、そろそろ魔王を下ろさないと」
ボロボロの機械から視線を外し、俺は魔王が木片に磔になっている方へと振り向いた。
が。
「あれ、魔王?」
そこには、磔の木片から下ろされていた魔王がぼーっと立ち尽くしていた。木片と横並びにされるとより魔王の小ささが際立つというものだが、そうではなく。
こいつ、自分で降りたのか?
[警戒レベル、最大。拒絶せよ]
足元のガラクタが、小さくノイズ混じりに呟いた。
その瞬間、魔王の目が妖しく光。
烏合の執行人。ミナ。魔術知能。MI。マジカルインテリジェンス。
彼女は、闇夜に紛れる黒いローブを身に纏うも、この病院のように白いドーム状の空間だとよく目立つ。手に持つ大鎌は背丈と同じくらいあり、磔にされている魔王を背にしていた。死神が着ていそうなローブの内からは、二つの光が瞬いていた。恐らく機械の目がより多くの光を目に集めるために光っているのかもしれない。さながらネコ科の狩人の如く。
死の際だからなのだろうか、その一連の動きがゆっくりに見えた。
その狩人は腰を低く深くおろしたと思いきや、地面を激しく蹴って俺の方へと飛び出した。その動作はまさしく「飛び出した」と言っていいだろう。だってコンクリなのか大理石なのか知らないが、固そうなこの地面がひび割れて抉れているのだから。もうここまでくると人間技ではない、機械だ。俺が殴った時もそういえばそういう感触だったような気がする。
ドーム状のこの空間で、俺は円の端にいた。そしてミナと魔王は円の中心という位置で、その距離はおおよそ100メートルほどだ。それほど遠いのにも関わらず奴の声が聞こえてきたところからも、あいつが機械なんだなということを示唆していたのかもしれない。そしてその距離を、奴は一気に詰め寄った。ボルトもびっくりの短距離走である。いや短距離走ではない、これは立ち幅跳びだ。だって地面を抉り蹴ってから、一度も足を地面に付けていなかったのだから。
そんな超スピードで迫りながら、しっかりと大鎌を振りかぶる。天井にある照明の光が鋭い刃に反射し、次第に近づいてくる。
避ける準備をしようと腰を低くした頃には、そろそろ射程圏内という所にまで詰め寄られていた。その鎌は俺から見て左に振りかぶっており、そのまま右に振り切れば俺の体は真っ二つになるという角度だった。
その鎌が振り下ろされる。鎌の角度と降ろされる角度は寸分の狂いもなく、もしこいつが野球選手になったならば大谷翔平を越えるバッターになることだろう。
そんな大鎌を。
俺は両手で挟み、受け止めた。やっとのことでミナが地面に足を付ける。コツンという無機質な音は、人の魂が宿っていない、ただの機械人形であることを思わせた。
プルプルと鎌が振るえるが、その鎌は動かない。鎌が引かれるような力を感じるが、俺は離してあげない。
その事態をどう解釈したのか、慌てるようにミナは、その顔から覗かれる口を開いた。口といっても音声を響かせるスピーカー的な役割しかないのだが。その口が開く。
[けけけ、警戒レベルを8に――
「遅ぇよ!」
何かを言おうとしたのだがしかし、言う暇を与えずに鎌を持つ手を蹴り上げた。しかし流石は機械、鎌を持つ手はがっしりと柄を掴んで離さない。
「お前がオススメされなくたってなぁ! お前が差し出さなくたってなぁ!」
今までの思いを乗せて。
集団心理を乗り越えて。
心細くっても脚を止めないで。
不安で眠れなくても立ち上がって。
皆と違っていても。
後ろ指を指されようとも!
「俺達人間は自分で進んで行けるんだよ! こんにゃろうがああああぁぁぁぁぁ!!」
両手で挟む鎌を地面に振り下ろす。機械仕掛けの体が硬い地面に叩きつけられ、手足があらぬ方向へ捻じ曲がった。バラバラに機械のパーツが散っていく。
[けけ、警戒、レコメンど、皆の、オスス、メ]
最後の言葉を口にして、ミナはその機能を停止させた。目からその光が消えていく。魂というのは特になく、ただ電源が切れただけなのだが、それでも人の形をしたモノが活動を停止する様子というのは、少しだけ心を痛める。
「いやー、流石はラスボスだったぜ、この俺をここまで手こずらせるとはな。鎌の勢いで手が少し皮膚が裂けちまったじゃねぇか。ここまでの相手は異種格闘大会の優勝候補と戦った時以来だな」
感慨もなくそう呟いた。突っ込みがいないと言葉というものはこんなにも空しく響くのか。場所が無駄に広いのも相まって、なかなか死にたくなる。
「んー、まぁよし、とりあえずこれで終わりってことでいいの、かな?」
何か実感ないな、放送されている映像を見られたなら例の円グラフが魔力を集めているかどうかを確認することができるのだが、生憎プリーストックのアカウントを作ったことがないので見ることはできない。ゲストアカウントでも見られるのだろうか?
「そうだ、そろそろ魔王を下ろさないと」
ボロボロの機械から視線を外し、俺は魔王が木片に磔になっている方へと振り向いた。
が。
「あれ、魔王?」
そこには、磔の木片から下ろされていた魔王がぼーっと立ち尽くしていた。木片と横並びにされるとより魔王の小ささが際立つというものだが、そうではなく。
こいつ、自分で降りたのか?
[警戒レベル、最大。拒絶せよ]
足元のガラクタが、小さくノイズ混じりに呟いた。
その瞬間、魔王の目が妖しく光。
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