上 下
74 / 87
<最終章:己が世界を支配せよ>

逆張りオタクは目立ちたい

しおりを挟む
 魔王軍四天王が一人、竜と人の配合存在にして、女性にして僕っ子。角は生えて大きな翼、長いしっぽ、しかし全体的には女性の体がベースとなっており、階段部分を四角く囲う屋根に座っている。しっぽはひょこひょこと左右に揺れて可愛らしいが、それに弾かれてはなかなか痛そうだった。

「っつーか、俺達を待ち伏せたっていうのか? ビルはここいらにいくらでもあるだろうに、よくここに降りるって分かったな」

「わかってはないさ、多分ここだろうなーって思っただけ。ここじゃなかったら普通に空飛んで行こうとは思ってたよ?」

 リュウコは飄々と言うが、そこにクルミが縛られながら付け足す。

「こいつはこういう奴なんだよ、皆が考えることとは敢えて逆を突く。だが結構それを当てる奴なのさ。僕の真逆だね、確率の外側をタップダンスするような奴だ」

「おほめに預かり光栄~。でも真逆なんて心外だなぁ」

 顔はケロっと笑顔だったが、それでも魔王軍の四天王らしいおぞましさがその顔の裏から感じられる。

「君みたいなつまらない奴と比べられること自体が心外なんだよね~、助けるのやめよっかな?」

「ごめんごめん、助けてくれ」

「了解了解~、僕ちん助けたげる~」

 なんだろう、軽い。この場の人間がその空気感の齟齬に当てられて奴に注目してしまっていた。オンステージと言わんばかりに。
 そんなステージにユウは野次を飛ばした。

「おいおい、この人数相手にして、この人質を助けられると思ってるのか?」

「確かに君たち二人を相手にするのは骨が折れるかもしれないけれど」

 そう言って、リュウコは俺とユウに視線を流す。しかしその表情はまだまだ余裕の笑い顔だった。ニタニタといった感じ。骨が折れると言っている割に余裕そうなのだが。

「そこの後ろの三人はそれほどでもないかな? だってモブで雑魚じゃない?」

 三人、マサトとナイツ、サナはむむっと目を細める。フリーザ軍のスカウターほどには実力を見定めることができるのだろうが、それを公言することでこいつらの怒りを買い、連携を崩そうとしているのか?

「おい、俺の友達を侮辱することは許さねぇぞ、竜人だかなんだか知らないが、ぶった切ってやろうか?」

「おう怖い怖い、友達思いだねぇ良いことだ。僕はそういう勇者を一度倒してみたいと思っていたんだよ。魔族業は絶対にやられる必要があったが、もうその必要はないんだし、倒させてもらおうかな!」

 その掛け声がゴングとなる。
 空高く飛び上がったリュウコは、俺達がいるビルの周りをぐるぐると周回し、そこから俺達に向かって炎を吐き出す。いや正確には、人質であるマサトを縛っている木材に向かってだ。だから俺達は避けることができない、炎を剣で受け止めたり、弾いたりするが、これだと消耗戦だ。

「サナ! これを!」

 ナイツが武器の籠から何かを取り出し、それをサナに渡す。サナが受け取ったのは、ボクシングでよく使われるグローブだった。ナイツの意図を理解したサナはそれを両手にはめて、炎に立ち向かう。

「そぉりゃぁ!」

 そして炎の玉を、殴り返した。たまらずリュウコはそれを避けるために周回するのを一旦辞める。そしてサナを睨んだ。初めて笑顔が崩れた瞬間だった。

「おい、おいおいおいおい、僕の炎を殴り返したのか? お前が? 勇者の腰ぎんちゃくが?」

「特製耐魔グローブだよ、まぁその炎を殴り返すには、サナの力があってこそだけどね」

 ナイツとサナは自慢げに、ドヤ顔をリュウコにぶつける。そして更にリュウコは顔をひきつらせた。しかしはっと我に返り、今度は俺の方を見て突っ込んできた!

「ならまずお前からだ!」

「何が『なら』だよ! 意味分からん!」

 突っ込む両腕を同じく両腕で掴み動きを止める。ドアップになったリュウコの顔の、その口がアングリと開いた。あ、ヤバイ。

「危ない!」

 危機を察知した時には、その顔が上に向いた。顎には魔法の杖のようなものの先が突き立っている。顔の角度を変えることで、炎の軌道を逸らしたのだ。
 マサトは杖を構え直してニヤリと笑む。

「感情が不安定ですね、隙だらけでしたよ」

 手を解き俺から離れ、そのマサトを見てまたもやぐぬぬ~っとイライラするリュウコ。こいつの怒りの沸点、もしかすると。

「僕は魔王の代理君と勇者と戦いたいんだよね、ちょろちょろしないでくれない? 迷惑なんだけど。雑魚でモブの癖に」

「ははーん、なるほど」

 俺は、リュウコのパーソナリティを理解した。強い奴と戦いたいというのは、勝率が低いからこそ敢えてそうしているのかも、との解釈できたが、彼女のリアクションからして、それは違う。
 彼女の本質は、俗世間的な感情と何ら変わらない。

「マサト、ナイツ、サナ! お前らにここは任せる!」

「おい! 何言ってんだよ、流石にきついだろ!」

 ユウが慌てて俺の指示を遮ろうとするが、首を横に振った。

「いいや、逆だ! リュウコの相手には、お前らこそふさわしい。お前らしかいない。お前らだけがあいつを打倒することができる!」

 リュウコは更に逆上した。その顔には余裕は一つもなく、ただ俺の言動に、俺のリュウコに対する評価に、納得いかないようだった。

「ふざけるな! 僕から逃げるのか卑怯者!」

「ユウ、ここはあいつらに任せるぞ! 俺達は早く中心ビルへ!」

 分からない風に戸惑うユウだったが、俺の言葉にマサトが乗っかる。

「二人とも、ここは僕達に任せてください! こんな奴、僕らならやれます!」

 流石はマサト。感情を扇動する魔法に長けているだけはあり、感情の機微に気づいているようだ。俺は安心して、戸惑うユウの腕を引っ張ってビルから降りる。

「ちょ、おまなにしてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「逃がすと思うか!?」

 飛び出そうとするリュウコの翼に矢が飛ぶ。それはナイツが準備していた武器の1つだった。たまらず飛行を中断する。

「仲間置いて無視するなよ、お前の相手なんて、僕らモブで十分なんだから!」

「雑魚が、一瞬で終わらせてやる!」

 四天王とモブたちの戦いの火ぶたが切られた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活

mio
ファンタジー
 なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。  こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。  なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。  自分の中に眠る力とは何なのか。  その答えを知った時少女は、ある決断をする。 長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!

駆け落ち男女の気ままな異世界スローライフ

壬黎ハルキ
ファンタジー
それは、少年が高校を卒業した直後のことだった。 幼なじみでお嬢様な少女から、夕暮れの公園のど真ん中で叫ばれた。 「知らない御曹司と結婚するなんて絶対イヤ! このまま世界の果てまで逃げたいわ!」 泣きじゃくる彼女に、彼は言った。 「俺、これから異世界に移住するんだけど、良かったら一緒に来る?」 「行くわ! ついでに私の全部をアンタにあげる! 一生大事にしなさいよね!」 そんな感じで駆け落ちした二人が、異世界でのんびりと暮らしていく物語。 ※2019年10月、完結しました。 ※小説家になろう、カクヨムにも公開しています。

加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ

犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。 僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。 僕の夢……どこいった?

なんでもアリな異世界は、なんだか楽しそうです!!

日向ぼっこ
ファンタジー
「異世界転生してみないか?」 見覚えのない部屋の中で神を自称する男は話を続ける。 神の暇つぶしに付き合う代わりに異世界チートしてみないか? ってことだよと。 特に悩むこともなくその話を受け入れたクロムは広大な草原の中で目を覚ます。 突如襲い掛かる魔物の群れに対してとっさに突き出した両手より光が輝き、この世界で生き抜くための力を自覚することとなる。 なんでもアリの世界として創造されたこの世界にて、様々な体験をすることとなる。 ・魔物に襲われている女の子との出会い ・勇者との出会い ・魔王との出会い ・他の転生者との出会い ・波長の合う仲間との出会い etc....... チート能力を駆使して異世界生活を楽しむ中、この世界の<異常性>に直面することとなる。 その時クロムは何を想い、何をするのか…… このお話は全てのキッカケとなった創造神の一言から始まることになる……

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...