67 / 87
<第五.五章:生きて下山せよ>
良い腕を持っている
しおりを挟む
「良い武器持ってんじゃねーか、それに良い腕をしてるぜ。……あ、そうだ、お前戦士になって一緒に魔王を倒しに行こうぜ。丁度戦士枠が空いてるんだよ。勇者パーティーと言えば戦士だよな、魔法は使えないけどちょうどいい時に盾として攻撃を守ってくれる感がさ。あ、いや良い意味でな、良い意味で」
僕の戦士人生が始まったのは、僕の実家に武器を買いに来た、勇者からのそんな適当な誘い文句からだった。聞いた話、「良い腕をしている」というのは、筋肉的な意味であって、決して僕の、武器職人としての技術を褒めていたわけではないことを、後から知ることになるのだが。
始まりの町、トースター。そう呼ばれて久しいこの町では、勇者一行に武具を作ってあげる武器職人が常駐している。僕はその一人息子だった。腕が良い(筋肉的な意味で)というのも、父の素材集めの荷物持ちにさせられていたからだ。今思うと虐待なんじゃないかと思うのだが、当時はまだ、コンプライアンスという言葉自体が浸透していなかったので、劣悪な労働環境は影に蔓延りまくっていた。
虐待は言い過ぎなので、一応釈明させてもらうと(虐待児が親を庇うことがあるそうなのだが、そういう意味でもさらさらなく)荷物持ち以外にもちゃんと仕事はさせてもらえた。鋼材選びや刀の鍛造、熱処理や研磨、柄の作成に至るまで。剣だけではなく、鎧造りも携わっているため、戦うための物を作ったりメンテナンスするにおいては、得意分野だった。
しかし、勇者パーティーに入ってからは、攻撃を受け、攻撃を受け、メアリーのお願いで焼きそばパンを買い、攻撃を受け、攻撃を受け、勇者のお願いでクリームパンを買ったりと、武器職人としての行動を起こせずにいた。
そうやっている内に、いつしか、自分のやりたいことが分からなくなってきて言った。周囲の環境に流されて、訳も分からず言うことを聞いて。忙しかったし、皆の役に立っていたから充実感は無くはなかったけれど、でも、それは僕の人生なのかって。そう思っていた。
今の今までは。魔王の剣を握り、錆や焦げ部分にデスカルゴの表面を触れさせたとき、僕は思った。
そうだ、僕は、こうやって皆を守る武具を作ることが、楽しいって思える人間だった。
体が覚えていた。何をすればこの剣を最高のパフォーマンスにすることができるのか。荷物持ちとかを父にずっとさせられていたけれど、それをめげずに泣き言言わず行っていたのは。
父のような、まるで剣で音楽を奏でるような、そんな武器職人としての姿に憧れていたからだ。
シャキン! と、僕は魔王の剣を磨ぎ終える。鏡のような、妖しい美しさを放っているその剣は、僕のあの頃の記憶を呼び覚まさせてくれた。
「やはり、貴方はご子息ですね、ナイツ様。確かに受け継がれているようで安心しました」
隣で見守ってくれていたモモは、僕にそう優しくつぶやく。そういえばモモの包丁、どことなく懐かしい気がしていたけれど。いや、気のせいか。
「ユウ! 受け取って!」
と、柄を向けて、サナと共にデビルベアに相対するユウに投げる。ノールックで柄を掴むと、そのまま剣を前に構えた。
「やっぱ、良い腕してるぜ、ナイツ!」
最高の誉め言葉だった。
* * *
「どいてろサナ! 俺が切る!」
「うっさい私が殴る!」
「いやマジで危ないから! 離れてってマジで!」
無限の体力で突進してくるデビルベアを無限に殴り飛ばしているが、しかしサナの拳はだんだんと赤黒く滲んできていた。体力こそあるのだろうが、そろそろサナの肉体が持たない。
「なら最後! 俺が最後に斬るから隙を作ってくれ!」
「よっしゃ任せなさいな!」
と気前よく聞いてくれたと思ったら、サナの体により多くの魔力が放出される。
「身体強化! 10倍だ!」
「べぇ!?」
気合いを入れた拍子に滑舌がバグってしまったのだろう、方言でなまったような雄叫びを上げる。女なのに。その気合いのままに足を前に踏み込むと、その地面がベキっとひびが入った。その火力があれば、流石の剛毛を持つデビルベアでも、そのまま倒してしまえるんじゃないかと思えるほど。
「死に晒せ畜生が!」
力み過ぎて言葉遣いが荒くなっているのはこの際聞いて聞かぬふりをして、まっすぐ飛ばされる拳が、突進してくるデビルベアに。
デビルベアの頭に。
当たらなかった。拳は空を殴り、周囲の空気を激しく動く。その風に乗るように、ふわりと軽やかに空中を舞った。あんな重い大きな体を、まるでゆらりと浮く雪のように。
ズシンと着地し、デビルベアが背後を取る。
そして、パカリと、血を噴き出して真っ二つに割れた。空を舞うということは、空気に身を乗せるということは、動けなくなるということじゃないか。そんな隙を俺は決して逃さない。
しっかり地に足を付けて。しぶく血を振り落とす。
僕の戦士人生が始まったのは、僕の実家に武器を買いに来た、勇者からのそんな適当な誘い文句からだった。聞いた話、「良い腕をしている」というのは、筋肉的な意味であって、決して僕の、武器職人としての技術を褒めていたわけではないことを、後から知ることになるのだが。
始まりの町、トースター。そう呼ばれて久しいこの町では、勇者一行に武具を作ってあげる武器職人が常駐している。僕はその一人息子だった。腕が良い(筋肉的な意味で)というのも、父の素材集めの荷物持ちにさせられていたからだ。今思うと虐待なんじゃないかと思うのだが、当時はまだ、コンプライアンスという言葉自体が浸透していなかったので、劣悪な労働環境は影に蔓延りまくっていた。
虐待は言い過ぎなので、一応釈明させてもらうと(虐待児が親を庇うことがあるそうなのだが、そういう意味でもさらさらなく)荷物持ち以外にもちゃんと仕事はさせてもらえた。鋼材選びや刀の鍛造、熱処理や研磨、柄の作成に至るまで。剣だけではなく、鎧造りも携わっているため、戦うための物を作ったりメンテナンスするにおいては、得意分野だった。
しかし、勇者パーティーに入ってからは、攻撃を受け、攻撃を受け、メアリーのお願いで焼きそばパンを買い、攻撃を受け、攻撃を受け、勇者のお願いでクリームパンを買ったりと、武器職人としての行動を起こせずにいた。
そうやっている内に、いつしか、自分のやりたいことが分からなくなってきて言った。周囲の環境に流されて、訳も分からず言うことを聞いて。忙しかったし、皆の役に立っていたから充実感は無くはなかったけれど、でも、それは僕の人生なのかって。そう思っていた。
今の今までは。魔王の剣を握り、錆や焦げ部分にデスカルゴの表面を触れさせたとき、僕は思った。
そうだ、僕は、こうやって皆を守る武具を作ることが、楽しいって思える人間だった。
体が覚えていた。何をすればこの剣を最高のパフォーマンスにすることができるのか。荷物持ちとかを父にずっとさせられていたけれど、それをめげずに泣き言言わず行っていたのは。
父のような、まるで剣で音楽を奏でるような、そんな武器職人としての姿に憧れていたからだ。
シャキン! と、僕は魔王の剣を磨ぎ終える。鏡のような、妖しい美しさを放っているその剣は、僕のあの頃の記憶を呼び覚まさせてくれた。
「やはり、貴方はご子息ですね、ナイツ様。確かに受け継がれているようで安心しました」
隣で見守ってくれていたモモは、僕にそう優しくつぶやく。そういえばモモの包丁、どことなく懐かしい気がしていたけれど。いや、気のせいか。
「ユウ! 受け取って!」
と、柄を向けて、サナと共にデビルベアに相対するユウに投げる。ノールックで柄を掴むと、そのまま剣を前に構えた。
「やっぱ、良い腕してるぜ、ナイツ!」
最高の誉め言葉だった。
* * *
「どいてろサナ! 俺が切る!」
「うっさい私が殴る!」
「いやマジで危ないから! 離れてってマジで!」
無限の体力で突進してくるデビルベアを無限に殴り飛ばしているが、しかしサナの拳はだんだんと赤黒く滲んできていた。体力こそあるのだろうが、そろそろサナの肉体が持たない。
「なら最後! 俺が最後に斬るから隙を作ってくれ!」
「よっしゃ任せなさいな!」
と気前よく聞いてくれたと思ったら、サナの体により多くの魔力が放出される。
「身体強化! 10倍だ!」
「べぇ!?」
気合いを入れた拍子に滑舌がバグってしまったのだろう、方言でなまったような雄叫びを上げる。女なのに。その気合いのままに足を前に踏み込むと、その地面がベキっとひびが入った。その火力があれば、流石の剛毛を持つデビルベアでも、そのまま倒してしまえるんじゃないかと思えるほど。
「死に晒せ畜生が!」
力み過ぎて言葉遣いが荒くなっているのはこの際聞いて聞かぬふりをして、まっすぐ飛ばされる拳が、突進してくるデビルベアに。
デビルベアの頭に。
当たらなかった。拳は空を殴り、周囲の空気を激しく動く。その風に乗るように、ふわりと軽やかに空中を舞った。あんな重い大きな体を、まるでゆらりと浮く雪のように。
ズシンと着地し、デビルベアが背後を取る。
そして、パカリと、血を噴き出して真っ二つに割れた。空を舞うということは、空気に身を乗せるということは、動けなくなるということじゃないか。そんな隙を俺は決して逃さない。
しっかり地に足を付けて。しぶく血を振り落とす。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活
mio
ファンタジー
なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。
こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。
なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。
自分の中に眠る力とは何なのか。
その答えを知った時少女は、ある決断をする。
長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!
駆け落ち男女の気ままな異世界スローライフ
壬黎ハルキ
ファンタジー
それは、少年が高校を卒業した直後のことだった。
幼なじみでお嬢様な少女から、夕暮れの公園のど真ん中で叫ばれた。
「知らない御曹司と結婚するなんて絶対イヤ! このまま世界の果てまで逃げたいわ!」
泣きじゃくる彼女に、彼は言った。
「俺、これから異世界に移住するんだけど、良かったら一緒に来る?」
「行くわ! ついでに私の全部をアンタにあげる! 一生大事にしなさいよね!」
そんな感じで駆け落ちした二人が、異世界でのんびりと暮らしていく物語。
※2019年10月、完結しました。
※小説家になろう、カクヨムにも公開しています。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ
犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。
僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。
僕の夢……どこいった?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる