召喚されたのは、最強の俺でした。~魔王の代理となって世界を支配します~

こへへい

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<第五.五章:生きて下山せよ>

良い腕を持っている

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「良い武器持ってんじゃねーか、それに良い腕をしてるぜ。……あ、そうだ、お前戦士になって一緒に魔王を倒しに行こうぜ。丁度戦士枠が空いてるんだよ。勇者パーティーと言えば戦士だよな、魔法は使えないけどちょうどいい時に盾として攻撃を守ってくれる感がさ。あ、いや良い意味でな、良い意味で」

 僕の戦士人生が始まったのは、僕の実家に武器を買いに来た、勇者からのそんな適当な誘い文句からだった。聞いた話、「良い腕をしている」というのは、筋肉的な意味であって、決して僕の、武器職人としての技術を褒めていたわけではないことを、後から知ることになるのだが。

 始まりの町、トースター。そう呼ばれて久しいこの町では、勇者一行に武具を作ってあげる武器職人が常駐している。僕はその一人息子だった。腕が良い(筋肉的な意味で)というのも、父の素材集めの荷物持ちにさせられていたからだ。今思うと虐待なんじゃないかと思うのだが、当時はまだ、コンプライアンスという言葉自体が浸透していなかったので、劣悪な労働環境は影に蔓延りまくっていた。

 虐待は言い過ぎなので、一応釈明させてもらうと(虐待児が親を庇うことがあるそうなのだが、そういう意味でもさらさらなく)荷物持ち以外にもちゃんと仕事はさせてもらえた。鋼材選びや刀の鍛造、熱処理や研磨、柄の作成に至るまで。剣だけではなく、鎧造りも携わっているため、戦うための物を作ったりメンテナンスするにおいては、得意分野だった。

 しかし、勇者パーティーに入ってからは、攻撃を受け、攻撃を受け、メアリーのお願いで焼きそばパンを買い、攻撃を受け、攻撃を受け、勇者のお願いでクリームパンを買ったりと、武器職人としての行動を起こせずにいた。

 そうやっている内に、いつしか、自分のやりたいことが分からなくなってきて言った。周囲の環境に流されて、訳も分からず言うことを聞いて。忙しかったし、皆の役に立っていたから充実感は無くはなかったけれど、でも、それは僕の人生なのかって。そう思っていた。


 今の今までは。魔王の剣を握り、錆や焦げ部分にデスカルゴの表面を触れさせたとき、僕は思った。

 そうだ、僕は、こうやって皆を守る武具を作ることが、楽しいって思える人間だった。

 体が覚えていた。何をすればこの剣を最高のパフォーマンスにすることができるのか。荷物持ちとかを父にずっとさせられていたけれど、それをめげずに泣き言言わず行っていたのは。

 父のような、まるで剣で音楽を奏でるような、そんな武器職人としての姿に憧れていたからだ。

 シャキン! と、僕は魔王の剣を磨ぎ終える。鏡のような、妖しい美しさを放っているその剣は、僕のあの頃の記憶を呼び覚まさせてくれた。

「やはり、貴方はご子息ですね、ナイツ様。確かに受け継がれているようで安心しました」

 隣で見守ってくれていたモモは、僕にそう優しくつぶやく。そういえばモモの包丁、どことなく懐かしい気がしていたけれど。いや、気のせいか。

「ユウ! 受け取って!」

 と、柄を向けて、サナと共にデビルベアに相対するユウに投げる。ノールックで柄を掴むと、そのまま剣を前に構えた。

「やっぱ、良い腕してるぜ、ナイツ!」

 最高の誉め言葉だった。

 * * *

「どいてろサナ! 俺が切る!」

「うっさい私が殴る!」

「いやマジで危ないから! 離れてってマジで!」

 無限の体力で突進してくるデビルベアを無限に殴り飛ばしているが、しかしサナの拳はだんだんと赤黒く滲んできていた。体力こそあるのだろうが、そろそろサナの肉体が持たない。

「なら最後! 俺が最後に斬るから隙を作ってくれ!」

「よっしゃ任せなさいな!」

 と気前よく聞いてくれたと思ったら、サナの体により多くの魔力が放出される。

「身体強化! 10べぇだ!」

「べぇ!?」

 気合いを入れた拍子に滑舌がバグってしまったのだろう、方言でなまったような雄叫びを上げる。女なのに。その気合いのままに足を前に踏み込むと、その地面がベキっとひびが入った。その火力があれば、流石の剛毛を持つデビルベアでも、そのまま倒してしまえるんじゃないかと思えるほど。

「死に晒せ畜生が!」

 力み過ぎて言葉遣いが荒くなっているのはこの際聞いて聞かぬふりをして、まっすぐ飛ばされる拳が、突進してくるデビルベアに。

 デビルベアの頭に。

 当たらなかった。拳は空を殴り、周囲の空気を激しく動く。その風に乗るように、ふわりと軽やかに空中を舞った。あんな重い大きな体を、まるでゆらりと浮く雪のように。

 ズシンと着地し、デビルベアが背後を取る。

 そして、パカリと、血を噴き出して真っ二つに割れた。空を舞うということは、空気に身を乗せるということは、動けなくなるということじゃないか。そんな隙を俺は決して逃さない。
 しっかり地に足を付けて。しぶく血を振り落とす。
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