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<第五.五章:生きて下山せよ>
ぬくぬくぽかぽかリモートワーク
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「私はミナ、プリーストックの産みの親だよ」
わざわざこたつから体を出して、纏った半纏を広げながらそう自己を紹介した。プリーストックの産みの親!? 俺は場違いにもほどがあるような人物との遭遇に目を丸くした。
「な、なんでプリーストックの産みの親が!?」
メアリーとの関係を聞いてみたかったこともすっかり頭から吹っ飛び、超有名会社の社長がこんな辺境の地にいることを問うた。だってこれ、王様が超ど田舎で畑を耕しているくらいの衝撃なので。
「なんでって、そりゃここ私の仕事場だからね、自宅兼仕事場。リモートワークってやつだよ。知らない? って言っても、勇者業はリモートできないか」
と言うので改めてミナの周囲を見ると、こたつの他に、一人用の机や、その上に置いてある薄い板(紐が垂れており、机の下の黒い箱のようなモノに繋がっている)があったり。勇者をするまではそれこそド田舎で平民な生活を送ってきたものだから分からないけれど、確かあれらは最近の仕事道具だったような気がする。
「ま、そこまで仕事はする必要ないんだけどね。今となってはミナが動いてくれるから私はもう動かなくていい、じっくりと己の趣味に専念できるからさ」
ミナが動く? 趣味? 単語の一つ一つが何だか意味を成しているように思えるが、今の俺には意味が分からない。しかし若干の寒気を素肌に感じたことで(だって半裸なので)、本来の目的を思い出した。そうだ、ここが行き止まりだということは、もう片方の道にデビルベアがいるということ。そしてそいつを倒すためには、魔王の剣、これが無いと安全に倒せない。
「あの、俺デビルベアを倒してデスカルゴを食べてここから下山しないといけないんですよ。なのでその剣くれませんか?」
「デスカルゴ? ならここに……あ、ごめんこれで全部食べちゃった。これ美味しいからついつい摘まんじゃうんだよねぇ。運動しなきゃだなぁ」
話が進まない。なんだろう、キャッチボールでボールを投げるのだが、決して投げ返してこないような、そんな感じだった。しかも念願していたデスカルゴが既に食べられているという事実にも少しショックで、いらだたし気に更なるボールを投げる。
「あの、その剣渡してもらえます?」
こたつに戻って体を首から下全て埋もれさせて、露骨に嫌そうな声を上げた。
「えーー! これ結構気に入ってたのにー。魔王ちゃんが来た時に貸してくれたんだけど、これマジで良いの。何がいいかって言うと、ほら見て」
ミナは剣の柄を持って剣先を俺の視線に合わせるように向ける。すると、その剣の構造は少し不思議な形をしていた。剣とは本来、俺の見たことがあるモノに限るが、中心を山のてっぺんとして、両刃が山の麓のようになっている形状をしている。しかしこの剣には山が二つあり、その二つの山が織りなす谷が剣の中心となっていた。
「デスカルゴを焼いているとこの谷間に出汁が出るんだけど、その出汁は放っておくと剣先から垂れてきちゃうのよ。でもその先に器を置いておいて、こに垂らせば出汁だけ抽出できるわけ。それを酒と一緒に呑んだら最高なんだよねぇ」
やはりボールは帰ってこない。終始ミナのペースである。と思ったが、その後でちゃんとボールを返してくれた。
「でもまぁ、そろそろこの剣も返さなきゃねぇ。魔王もちゃんと生きてることだし。ついでに君から彼に返しておいてくれないかい?」
「え、貰っていいんですか?」
「代わりに返しておいてってだけ。君が持っててもイメージに合わないでしょ? ミナも違和感持っちゃうよ。いや、最近はそういう、悪者の肩書で主人公ってのもあるのか。ならその逆も今後のトレンドになるかも?」
また訳の分からないことを言う。ミナの一挙一動一言一言が気になったが、俺達にはピッカラ薬の時間制限がある。それまでにデスカルゴを入手し、調理し、食べなければこの山で凍え死んでしまうのだ。
「そういうの良いですから、受け取りますよ」
「何も聞かないんだね」
俺がこたつに近づき、魔王の剣の柄を握ろうとした時。ミナはキラリと眼鏡を光らせて、俺を見上げた。シチュエーション的には上目遣いと言われているもので、とってもチャーミングでドキドキするはずなのに、まるで首根っこを掴まれたように、心臓がドキドキしていた。
「い、急いでますので」
「勇者なのに、魔王の剣を持っているってことや、魔王についてちょっと親しい感じに話しているところとか。気になってるんじゃないの?」
にじり寄るように、ぬるりと顔が近づいてくる。まるで首を伸ばすカタツムリのようだった。その接近を回避して、俺は首を逸らす。
「今は別にそう言うのは気にしてないですね、あいつ超弱ってますし。強いて言えば、メアリーと何だか親し気なので、それは気になりますが」
そう言うと、ミナは目をぱちくりさせて、俺と目を合わせた。そしてうーんと考える。それから呆れたように言った。
「いや、何でもないよ。何でもね。ほら、剣先部分は熱いからちゃんと柄を持つんだよ。ちょっと重いから気を付けてね」
「いや、ダメだ」
俺は剣から手を離した。今直ぐにでも、倒れているかもしれないサナに駆け寄るべきだとは思う。遠くて聞こえないだけで、実はモモとナイツがデビルベアと遭遇して叫んでおり、今にも中継地点に到達して、俺の戻りを待っているのかもしれない。
けど、この違和感を見て見ぬふりをするのは、絶対におかしい。例えミナが、俺の言葉を聞いてにやりと不敵な笑みを浮かべていたとしても、確認すべきだと思った。
「お前はここで何をしている? 何が目的で、本当は何者なんだ?」
案の定、ミナは満面に笑った。
わざわざこたつから体を出して、纏った半纏を広げながらそう自己を紹介した。プリーストックの産みの親!? 俺は場違いにもほどがあるような人物との遭遇に目を丸くした。
「な、なんでプリーストックの産みの親が!?」
メアリーとの関係を聞いてみたかったこともすっかり頭から吹っ飛び、超有名会社の社長がこんな辺境の地にいることを問うた。だってこれ、王様が超ど田舎で畑を耕しているくらいの衝撃なので。
「なんでって、そりゃここ私の仕事場だからね、自宅兼仕事場。リモートワークってやつだよ。知らない? って言っても、勇者業はリモートできないか」
と言うので改めてミナの周囲を見ると、こたつの他に、一人用の机や、その上に置いてある薄い板(紐が垂れており、机の下の黒い箱のようなモノに繋がっている)があったり。勇者をするまではそれこそド田舎で平民な生活を送ってきたものだから分からないけれど、確かあれらは最近の仕事道具だったような気がする。
「ま、そこまで仕事はする必要ないんだけどね。今となってはミナが動いてくれるから私はもう動かなくていい、じっくりと己の趣味に専念できるからさ」
ミナが動く? 趣味? 単語の一つ一つが何だか意味を成しているように思えるが、今の俺には意味が分からない。しかし若干の寒気を素肌に感じたことで(だって半裸なので)、本来の目的を思い出した。そうだ、ここが行き止まりだということは、もう片方の道にデビルベアがいるということ。そしてそいつを倒すためには、魔王の剣、これが無いと安全に倒せない。
「あの、俺デビルベアを倒してデスカルゴを食べてここから下山しないといけないんですよ。なのでその剣くれませんか?」
「デスカルゴ? ならここに……あ、ごめんこれで全部食べちゃった。これ美味しいからついつい摘まんじゃうんだよねぇ。運動しなきゃだなぁ」
話が進まない。なんだろう、キャッチボールでボールを投げるのだが、決して投げ返してこないような、そんな感じだった。しかも念願していたデスカルゴが既に食べられているという事実にも少しショックで、いらだたし気に更なるボールを投げる。
「あの、その剣渡してもらえます?」
こたつに戻って体を首から下全て埋もれさせて、露骨に嫌そうな声を上げた。
「えーー! これ結構気に入ってたのにー。魔王ちゃんが来た時に貸してくれたんだけど、これマジで良いの。何がいいかって言うと、ほら見て」
ミナは剣の柄を持って剣先を俺の視線に合わせるように向ける。すると、その剣の構造は少し不思議な形をしていた。剣とは本来、俺の見たことがあるモノに限るが、中心を山のてっぺんとして、両刃が山の麓のようになっている形状をしている。しかしこの剣には山が二つあり、その二つの山が織りなす谷が剣の中心となっていた。
「デスカルゴを焼いているとこの谷間に出汁が出るんだけど、その出汁は放っておくと剣先から垂れてきちゃうのよ。でもその先に器を置いておいて、こに垂らせば出汁だけ抽出できるわけ。それを酒と一緒に呑んだら最高なんだよねぇ」
やはりボールは帰ってこない。終始ミナのペースである。と思ったが、その後でちゃんとボールを返してくれた。
「でもまぁ、そろそろこの剣も返さなきゃねぇ。魔王もちゃんと生きてることだし。ついでに君から彼に返しておいてくれないかい?」
「え、貰っていいんですか?」
「代わりに返しておいてってだけ。君が持っててもイメージに合わないでしょ? ミナも違和感持っちゃうよ。いや、最近はそういう、悪者の肩書で主人公ってのもあるのか。ならその逆も今後のトレンドになるかも?」
また訳の分からないことを言う。ミナの一挙一動一言一言が気になったが、俺達にはピッカラ薬の時間制限がある。それまでにデスカルゴを入手し、調理し、食べなければこの山で凍え死んでしまうのだ。
「そういうの良いですから、受け取りますよ」
「何も聞かないんだね」
俺がこたつに近づき、魔王の剣の柄を握ろうとした時。ミナはキラリと眼鏡を光らせて、俺を見上げた。シチュエーション的には上目遣いと言われているもので、とってもチャーミングでドキドキするはずなのに、まるで首根っこを掴まれたように、心臓がドキドキしていた。
「い、急いでますので」
「勇者なのに、魔王の剣を持っているってことや、魔王についてちょっと親しい感じに話しているところとか。気になってるんじゃないの?」
にじり寄るように、ぬるりと顔が近づいてくる。まるで首を伸ばすカタツムリのようだった。その接近を回避して、俺は首を逸らす。
「今は別にそう言うのは気にしてないですね、あいつ超弱ってますし。強いて言えば、メアリーと何だか親し気なので、それは気になりますが」
そう言うと、ミナは目をぱちくりさせて、俺と目を合わせた。そしてうーんと考える。それから呆れたように言った。
「いや、何でもないよ。何でもね。ほら、剣先部分は熱いからちゃんと柄を持つんだよ。ちょっと重いから気を付けてね」
「いや、ダメだ」
俺は剣から手を離した。今直ぐにでも、倒れているかもしれないサナに駆け寄るべきだとは思う。遠くて聞こえないだけで、実はモモとナイツがデビルベアと遭遇して叫んでおり、今にも中継地点に到達して、俺の戻りを待っているのかもしれない。
けど、この違和感を見て見ぬふりをするのは、絶対におかしい。例えミナが、俺の言葉を聞いてにやりと不敵な笑みを浮かべていたとしても、確認すべきだと思った。
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