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<第五.五章:生きて下山せよ>
打倒デビルベア作戦会議
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「デビルベアが、今私達がいる周囲のデスカルゴを食いつくす前に倒し、下山分のデスカルゴを確保することが出来なければ、私達はここで凍死することでしょう」
モモは淡々と言った。かまくらは勇者である俺、ナイツ、サナの三人を収容しているので、その室温は人肌並にとても暖かい。しかしそうやってぬくぬくとしているわけにはいかないことは分かっていた。だからモモの言う、デビルベアを倒すという提案には一理ある。
だが、そのミッションを解決するためには、三つの問題を明確にする必要があった。
まずは一つ。
「デビルベアを死力を尽くして戦うとして、そもそもそのデビルベアの場所って分かっているのか? この寒い中半裸で捜索し戦闘するというのは、エネルギーが持たないぞ」
「そこは問題ございません、デビルベアの穴倉までの道は既に調査し確保しております。デビルベアの捜索にはお手間はかかりません。しかし確かにおっしゃる通り、そのお召し物でそれまでの道のりを辿ることは困難を極めるでしょう」
ですので、と言ってモモはポケットからある赤い玉を取り出した。一口サイズのそれを一粒摘まみ説明する。
「これはピッカラ薬という香辛料でございます。いつものお料理にこの丸薬の削り節を数カケ入れれば、そのお料理を激辛料理にしてくれるというモノなのですが、これを丸のみすることで、寒い中半裸状態でもある程度活動可能になるのでございます」
このチョッタカ山を下山するまでには効果が切れてしまいますが、デビルベア討伐までならば持つでしょう。と言って、そのピッカラ薬を三人分くれた。それを二人に配る。このままぐいっと一気飲みしても良かったのだが、まだ問題は残っているため、この丸薬の「ある程度活動可能」と言うのがどの程度か分からない以上、行動指針を確定してから飲み込みたかった。
俺の考えとはまた違い、魔物からもらった薬に警戒していて二人もまた手を付けていない。まだ飲まない俺達を見て、モモは首を傾けた。
「どうかなさいましたか? デスカルゴの数も限りがございます。一刻も早く討伐しに向かいたいのですが」
「そりゃそうなんだが、今見ての通り、サナは服があるから僅かながらましだとしても、全員身ぐるみはがされているんだ。この状態でデビルベアと対峙したとして、何の策も無しに勝てるとは思えない。何か策を今のうちに考えておきたい」
両手をポンと叩き、なるほどと納得するモモ。それについても何か考えがあったようで。
「それならば私に考え、というか、可能性がございます。しかし飽くまで可能性でございます故、皆さまにはこちらをお渡ししておきましょう」
と手渡したのは調理用のナイフや包丁、鍋蓋だった。全員の顔が引きつる。
「ってまさか」
「何もないよりはマシでしょう。本来ならば調理器具を調理以外に利用するなど料理人失格の極みでございますが、この際言ってはいられませんから」
いやそうなのだが、流石に鍋蓋で守ることができるのは蒸発する水分と熱くらいだろう。そんな心配もあったが、モモの言い分が少し気になった。
「お前の言い方だと、飽くまで最低限戦えるようにってことでこれらを渡してくれたじゃないか、何か戦うにおいて、本命の目的があったりするのか?」
「左様でございます。デビルベアがある穴倉に入っていく様子を目撃していたのですが、実はそこはその昔、先代魔王様とデスカルゴ狩りに訪れた場所だったのでございます」
「先代魔王!?」
その言葉に、一気に体が警戒モードに変わる。まさか先代魔王が仕掛けたトラップがあり、それを利用してデビルベアを討伐するとか、そういうことなのか? と邪推したが。
「その先代魔王様がうっかりその穴倉に魔王の剣を置いていってしまったのです。多分それを使えばデビルベア程度楽勝に倒せるかと」
「置いてっちゃったの!? そんな超重要アイテムを!?」
「はい、うっかりさんだったもので」
うっかり過ぎるだろ、道理で今の魔王を倒せたわけだ。いやそれでも辛勝だったが、魔王の剣が受け継がれていたならば勝てなかっただろうと思うと、ナイスうっかりだ。
「となれば大丈夫だな、良し!」
色々と心配することも無くはなかったが、しかし時間が惜しいため、さっさとピッカラ薬を飲み込んだ。それは焦っていたというのもあるのだが、俺が先陣を切らなければ、二人が怖がってこのピッカラ薬を飲んでくれないと思ったので、一気に飲み込んだ。
「うぐ、ううううおおおおおおおお!!!」
飲み込んだ瞬間、というか、口の中に入れた瞬間から、触れる粘膜という粘膜が蒸発してるのではないかと誤認するほどの辛さだった。というか、痛い。辛いのではなく、これはもう痛いと言っていいだろう。だがその感覚を表に出しては二人とも飲んでくれないと思い、我慢して飲み込んだ。全身から汗が噴き出てそのたびに寒くなるが、しかし体外に放出される熱がその寒さをも退けた。
そして辛みは無くなり、放熱状態が続く。自分の体から湯気が出ているような気がして、いちいち自分で自分の体を確認する。
「すげぇ、体中が燃えるようだ」
「へ、平気なのか、勇者?」
「え、ああ、大丈夫、命に別状はない」
ナイツが心配そうに聞いてきたので、気前よく答えた。多分俺の命ではなくどれだけ辛かったのかを聞いていたのかもしれないが、ここは騙されてもらうことにした。
案の定、二人は騙されて飲み込み、地面を転がって激しく暴れた。サナはその暴れ具合が特に顕著で、まるで武道家のような正拳突きをし、そしてかまくらを崩壊させてしまった。
「からーーーーーー!」
「痛い痛いーーーーーー!」
としばらく暴れた後、平静を取り戻した二人はその身の状態を感じて驚きの声を上げた。
「凄い、これならこのチョッタカ山でもなんとかなる!」
「そうね、でも効果時間が限られてる。今すぐデビルベアを倒さないと」
「準備は整われたようですね、では参りましょう、ついてきてください」
そう言うと、足早に目的地へ向かうモモの後を駆け足でついて行くのだった。
モモは淡々と言った。かまくらは勇者である俺、ナイツ、サナの三人を収容しているので、その室温は人肌並にとても暖かい。しかしそうやってぬくぬくとしているわけにはいかないことは分かっていた。だからモモの言う、デビルベアを倒すという提案には一理ある。
だが、そのミッションを解決するためには、三つの問題を明確にする必要があった。
まずは一つ。
「デビルベアを死力を尽くして戦うとして、そもそもそのデビルベアの場所って分かっているのか? この寒い中半裸で捜索し戦闘するというのは、エネルギーが持たないぞ」
「そこは問題ございません、デビルベアの穴倉までの道は既に調査し確保しております。デビルベアの捜索にはお手間はかかりません。しかし確かにおっしゃる通り、そのお召し物でそれまでの道のりを辿ることは困難を極めるでしょう」
ですので、と言ってモモはポケットからある赤い玉を取り出した。一口サイズのそれを一粒摘まみ説明する。
「これはピッカラ薬という香辛料でございます。いつものお料理にこの丸薬の削り節を数カケ入れれば、そのお料理を激辛料理にしてくれるというモノなのですが、これを丸のみすることで、寒い中半裸状態でもある程度活動可能になるのでございます」
このチョッタカ山を下山するまでには効果が切れてしまいますが、デビルベア討伐までならば持つでしょう。と言って、そのピッカラ薬を三人分くれた。それを二人に配る。このままぐいっと一気飲みしても良かったのだが、まだ問題は残っているため、この丸薬の「ある程度活動可能」と言うのがどの程度か分からない以上、行動指針を確定してから飲み込みたかった。
俺の考えとはまた違い、魔物からもらった薬に警戒していて二人もまた手を付けていない。まだ飲まない俺達を見て、モモは首を傾けた。
「どうかなさいましたか? デスカルゴの数も限りがございます。一刻も早く討伐しに向かいたいのですが」
「そりゃそうなんだが、今見ての通り、サナは服があるから僅かながらましだとしても、全員身ぐるみはがされているんだ。この状態でデビルベアと対峙したとして、何の策も無しに勝てるとは思えない。何か策を今のうちに考えておきたい」
両手をポンと叩き、なるほどと納得するモモ。それについても何か考えがあったようで。
「それならば私に考え、というか、可能性がございます。しかし飽くまで可能性でございます故、皆さまにはこちらをお渡ししておきましょう」
と手渡したのは調理用のナイフや包丁、鍋蓋だった。全員の顔が引きつる。
「ってまさか」
「何もないよりはマシでしょう。本来ならば調理器具を調理以外に利用するなど料理人失格の極みでございますが、この際言ってはいられませんから」
いやそうなのだが、流石に鍋蓋で守ることができるのは蒸発する水分と熱くらいだろう。そんな心配もあったが、モモの言い分が少し気になった。
「お前の言い方だと、飽くまで最低限戦えるようにってことでこれらを渡してくれたじゃないか、何か戦うにおいて、本命の目的があったりするのか?」
「左様でございます。デビルベアがある穴倉に入っていく様子を目撃していたのですが、実はそこはその昔、先代魔王様とデスカルゴ狩りに訪れた場所だったのでございます」
「先代魔王!?」
その言葉に、一気に体が警戒モードに変わる。まさか先代魔王が仕掛けたトラップがあり、それを利用してデビルベアを討伐するとか、そういうことなのか? と邪推したが。
「その先代魔王様がうっかりその穴倉に魔王の剣を置いていってしまったのです。多分それを使えばデビルベア程度楽勝に倒せるかと」
「置いてっちゃったの!? そんな超重要アイテムを!?」
「はい、うっかりさんだったもので」
うっかり過ぎるだろ、道理で今の魔王を倒せたわけだ。いやそれでも辛勝だったが、魔王の剣が受け継がれていたならば勝てなかっただろうと思うと、ナイスうっかりだ。
「となれば大丈夫だな、良し!」
色々と心配することも無くはなかったが、しかし時間が惜しいため、さっさとピッカラ薬を飲み込んだ。それは焦っていたというのもあるのだが、俺が先陣を切らなければ、二人が怖がってこのピッカラ薬を飲んでくれないと思ったので、一気に飲み込んだ。
「うぐ、ううううおおおおおおおお!!!」
飲み込んだ瞬間、というか、口の中に入れた瞬間から、触れる粘膜という粘膜が蒸発してるのではないかと誤認するほどの辛さだった。というか、痛い。辛いのではなく、これはもう痛いと言っていいだろう。だがその感覚を表に出しては二人とも飲んでくれないと思い、我慢して飲み込んだ。全身から汗が噴き出てそのたびに寒くなるが、しかし体外に放出される熱がその寒さをも退けた。
そして辛みは無くなり、放熱状態が続く。自分の体から湯気が出ているような気がして、いちいち自分で自分の体を確認する。
「すげぇ、体中が燃えるようだ」
「へ、平気なのか、勇者?」
「え、ああ、大丈夫、命に別状はない」
ナイツが心配そうに聞いてきたので、気前よく答えた。多分俺の命ではなくどれだけ辛かったのかを聞いていたのかもしれないが、ここは騙されてもらうことにした。
案の定、二人は騙されて飲み込み、地面を転がって激しく暴れた。サナはその暴れ具合が特に顕著で、まるで武道家のような正拳突きをし、そしてかまくらを崩壊させてしまった。
「からーーーーーー!」
「痛い痛いーーーーーー!」
としばらく暴れた後、平静を取り戻した二人はその身の状態を感じて驚きの声を上げた。
「凄い、これならこのチョッタカ山でもなんとかなる!」
「そうね、でも効果時間が限られてる。今すぐデビルベアを倒さないと」
「準備は整われたようですね、では参りましょう、ついてきてください」
そう言うと、足早に目的地へ向かうモモの後を駆け足でついて行くのだった。
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