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<第五.五章:生きて下山せよ>
デスカルゴの生体
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かまくらの中はとても暖かく、まるでお母さんのお腹の中のようだった。俺とナイツは半裸なので余計にそう感じる。そんな狭い空間で、サナがすすり泣く。
「ううう、酷いよ。私達ここで死ぬんだわ」
そんなサナに、ナイツは仮初の希望のようなことを言う。
「大丈夫だよ、きっと助けは来てくれる。王宮でデスカルゴを食べたことがあっただろう? ということは、少なからず狩りに来る人がここに来ているってことだ。ならば辛抱強く待てば、いつか狩人が見つけてくれるさ」
「確かに! ナイツ賢い!」
サナはぱぁーっと明るい笑顔を取り戻す。言い得て妙な意見だった。しかしデスカルゴは地上では超高級食材なため希少、つまり狩りに来る頻度もそこまで多くないと考えていいだろう。ともすれば「それまでの辛抱」が、どれまでの辛抱なのかが未知数な以上、ここでじっとしているのは低い希望に思えた。
「その狩人が、チョッタカ山にピンポイントでここに来てくれるとは思えない、しかし仮に来る以上、最低限の道くらいは整備しているはずだ。俺が探しに行くから、それまでお前らはここで体力を温存しておいてくれ」
「勇者……」
「ううう、ありがとう」
二人が感極まって目に涙を浮かべている。友達のためならば俺はこんな寒空でも半裸で飛び込んでやるぜ。という空元気で魂をバイブレーションしながら(そうしないと出入口からの風が寒くて死にそうなので)かまくらの出入口を潜ろうとした時。そのかまくらに入ろうとする影があった。しかしそれは狩人ではなく。
「お、お前!」
ピンク色の木の小人、モモだった。デスカルゴを調達しに行ってたものの、しかしその手には何も持っておらず、湿った泥が両手にくっついている。だがデスカルゴの殻一つ持っていなかった。
モモは頭を下げる。
「申し訳ありません、お客様に料理で幸せになっていただくことこそが私の存在意義であるのにも関わらず、食料一つ調達することができないとは」
「いやいいよ、期待していないから。そんなことより俺達は今からここを出る。だからもう邪魔するな」
「いえ、それはおやめになった方がよろしいかと。チョッタカ山の寒さは半裸や軽装で下山できるほど甘くはありません」
「んだと? お前が連れてきておいて!」
自分で山に連れてきておいて、下山するのが難しいから降りるなと言うのか。怒りで体が熱くなる。しかしモモは至って冷静に言った。
「左様、私が連れてきたからこそ、私には、料理を通じて貴方方を幸せにする義務がございます。そしてそれはお食事後の帰路もその範疇にと考えております」
その眼差しには、確かな真剣さを孕んでいた。確固たる意志を。その目を見て、サナが思わず口を出した。
「じゃ、じゃあ早く帰してよ!」
「いえ、それは今のままでは叶いません。先ほども申しあげたとおり、このチョッタカ山は極寒の地でございます。その寒さを乗り越えて下山するためには、デスカルゴが必要不可欠なのでございます」
「デス、カルゴ?」
話の脈絡なく急にデスカルゴが出てきて拍子抜けする。寒さを耐えるためにデスカルゴとは、どういうことだろうか?
「デスカルゴは確かにこの極寒の地に生息する生物でございますが、一体どのようにしてこの寒さを凌いでいると思いますか?」
疑問に思っているところから、逆に疑問を投げかけられた。その問いにはナイツが答える。
「デスカルゴの殻は特殊な材質の殻で、鎧に耐久性と柔軟性を加えることができると言われているんだ。だからそれが寒さから身を守っているんじゃないのかな?」
そうだったのか、よくそんなことを知っているな。とナイツを感心したものの、しかしモモは首を横に振った。
「よくご存じですね、確かにデスカルゴの殻に含まれるデスカルシウムという材質は、よく武具屋に重宝されていると言われています。しかしデスカルゴが寒さを乗り越えるために利用しているのは、その身に宿す寄生虫でございます」
「き、寄生虫!?」
あんなに美味しい食べ物に実は寄生虫がいたのか? と、サナはぎょっとして体をきゅっと抱いた。モモは紳士に言葉を返す。
「ご安心ください、調理されているデスカルゴはしっかりと過熱してるものがほとんどなので、基本的には全ての寄生虫は死滅します。しかし生きているデスカルゴには数万の寄生虫をその身に宿し、共存しているのでございます」
「共存? 規制されているのにか?」
「はい。デスカルゴの体は実は体温をその身に留めやすい性質を持っており、体液は保温効果があると言われています。しかしそれだけではこの厳しいチョッタカ山の寒さを越えることができません。そこで重要になるのが、寄生虫から発せられるエネルギーです。デスカルゴの栄養素を吸収して生きながらえる寄生虫は、その栄養素を燃やすことで対外に熱を放出するのでございます」
「なるほど、その熱を保温効果のある体液が留めるから、デスカルゴも寄生虫も生息できるのか」
ナイツは感心しつつまとめた。そう聞くと面白い雑学だ。だがその寄生虫を人間の体に宿すことで温かくするわけにはいかないのではないか? すかさずその疑問に、モモが答える。
「このデスカルゴに特殊な調理法を施すことで、その保温効果と発熱効果を一時的にその身に宿すことができるのでございます」
「そういうことか、すっげぇなそれは」
と感嘆の声を漏らしたのだが、しかしモモは浮かない顔をしていた。
「ですが、そのデスカルゴが、この一帯から姿をけしているのです」
「えー!? それじゃあ帰れないよぉ!」
とサナ。確かにそれもそうだが、その理由が気になる。狩人が滅多に来られないこんなチョッタカ山のデスカルゴが居なくなる理由とは一体何なのだ?
「そいつはデスカルゴを主食とし、このチョッタカ山の生態系の頂点に君臨する最強の生物」
その名も、デビルベア。
そいつを倒さなければ、私達はこの山で凍死することでしょう。
「ううう、酷いよ。私達ここで死ぬんだわ」
そんなサナに、ナイツは仮初の希望のようなことを言う。
「大丈夫だよ、きっと助けは来てくれる。王宮でデスカルゴを食べたことがあっただろう? ということは、少なからず狩りに来る人がここに来ているってことだ。ならば辛抱強く待てば、いつか狩人が見つけてくれるさ」
「確かに! ナイツ賢い!」
サナはぱぁーっと明るい笑顔を取り戻す。言い得て妙な意見だった。しかしデスカルゴは地上では超高級食材なため希少、つまり狩りに来る頻度もそこまで多くないと考えていいだろう。ともすれば「それまでの辛抱」が、どれまでの辛抱なのかが未知数な以上、ここでじっとしているのは低い希望に思えた。
「その狩人が、チョッタカ山にピンポイントでここに来てくれるとは思えない、しかし仮に来る以上、最低限の道くらいは整備しているはずだ。俺が探しに行くから、それまでお前らはここで体力を温存しておいてくれ」
「勇者……」
「ううう、ありがとう」
二人が感極まって目に涙を浮かべている。友達のためならば俺はこんな寒空でも半裸で飛び込んでやるぜ。という空元気で魂をバイブレーションしながら(そうしないと出入口からの風が寒くて死にそうなので)かまくらの出入口を潜ろうとした時。そのかまくらに入ろうとする影があった。しかしそれは狩人ではなく。
「お、お前!」
ピンク色の木の小人、モモだった。デスカルゴを調達しに行ってたものの、しかしその手には何も持っておらず、湿った泥が両手にくっついている。だがデスカルゴの殻一つ持っていなかった。
モモは頭を下げる。
「申し訳ありません、お客様に料理で幸せになっていただくことこそが私の存在意義であるのにも関わらず、食料一つ調達することができないとは」
「いやいいよ、期待していないから。そんなことより俺達は今からここを出る。だからもう邪魔するな」
「いえ、それはおやめになった方がよろしいかと。チョッタカ山の寒さは半裸や軽装で下山できるほど甘くはありません」
「んだと? お前が連れてきておいて!」
自分で山に連れてきておいて、下山するのが難しいから降りるなと言うのか。怒りで体が熱くなる。しかしモモは至って冷静に言った。
「左様、私が連れてきたからこそ、私には、料理を通じて貴方方を幸せにする義務がございます。そしてそれはお食事後の帰路もその範疇にと考えております」
その眼差しには、確かな真剣さを孕んでいた。確固たる意志を。その目を見て、サナが思わず口を出した。
「じゃ、じゃあ早く帰してよ!」
「いえ、それは今のままでは叶いません。先ほども申しあげたとおり、このチョッタカ山は極寒の地でございます。その寒さを乗り越えて下山するためには、デスカルゴが必要不可欠なのでございます」
「デス、カルゴ?」
話の脈絡なく急にデスカルゴが出てきて拍子抜けする。寒さを耐えるためにデスカルゴとは、どういうことだろうか?
「デスカルゴは確かにこの極寒の地に生息する生物でございますが、一体どのようにしてこの寒さを凌いでいると思いますか?」
疑問に思っているところから、逆に疑問を投げかけられた。その問いにはナイツが答える。
「デスカルゴの殻は特殊な材質の殻で、鎧に耐久性と柔軟性を加えることができると言われているんだ。だからそれが寒さから身を守っているんじゃないのかな?」
そうだったのか、よくそんなことを知っているな。とナイツを感心したものの、しかしモモは首を横に振った。
「よくご存じですね、確かにデスカルゴの殻に含まれるデスカルシウムという材質は、よく武具屋に重宝されていると言われています。しかしデスカルゴが寒さを乗り越えるために利用しているのは、その身に宿す寄生虫でございます」
「き、寄生虫!?」
あんなに美味しい食べ物に実は寄生虫がいたのか? と、サナはぎょっとして体をきゅっと抱いた。モモは紳士に言葉を返す。
「ご安心ください、調理されているデスカルゴはしっかりと過熱してるものがほとんどなので、基本的には全ての寄生虫は死滅します。しかし生きているデスカルゴには数万の寄生虫をその身に宿し、共存しているのでございます」
「共存? 規制されているのにか?」
「はい。デスカルゴの体は実は体温をその身に留めやすい性質を持っており、体液は保温効果があると言われています。しかしそれだけではこの厳しいチョッタカ山の寒さを越えることができません。そこで重要になるのが、寄生虫から発せられるエネルギーです。デスカルゴの栄養素を吸収して生きながらえる寄生虫は、その栄養素を燃やすことで対外に熱を放出するのでございます」
「なるほど、その熱を保温効果のある体液が留めるから、デスカルゴも寄生虫も生息できるのか」
ナイツは感心しつつまとめた。そう聞くと面白い雑学だ。だがその寄生虫を人間の体に宿すことで温かくするわけにはいかないのではないか? すかさずその疑問に、モモが答える。
「このデスカルゴに特殊な調理法を施すことで、その保温効果と発熱効果を一時的にその身に宿すことができるのでございます」
「そういうことか、すっげぇなそれは」
と感嘆の声を漏らしたのだが、しかしモモは浮かない顔をしていた。
「ですが、そのデスカルゴが、この一帯から姿をけしているのです」
「えー!? それじゃあ帰れないよぉ!」
とサナ。確かにそれもそうだが、その理由が気になる。狩人が滅多に来られないこんなチョッタカ山のデスカルゴが居なくなる理由とは一体何なのだ?
「そいつはデスカルゴを主食とし、このチョッタカ山の生態系の頂点に君臨する最強の生物」
その名も、デビルベア。
そいつを倒さなければ、私達はこの山で凍死することでしょう。
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