召喚されたのは、最強の俺でした。~魔王の代理となって世界を支配します~

こへへい

文字の大きさ
上 下
56 / 87
<五章:信じよ>

どうやら世界がやばいらしいのだが

しおりを挟む
 気付けば俺は、結構喋っていたらしい。と言ってももっと具体的な話をするというのは、それだけで心を抉ることになりかねないと無意識で分かっていたのか、内容は抽象的になってしまった。

 そんな話をマジマジと聞き入っていたオーディエンスは、しばらく黙る。というか、かける言葉を探しているようにも見えた。憐れみにも慣れている。皆の輪に入れずに可哀そうとか、いつも一人とか。しかしそういう憐憫の情を一切感じさせないように、勇者が俺に切り出した。

「んで? その現象はどうすれば解決すると思う?」

 2、3秒、いや23秒ほど頭が固まったと思った。話を聞いていたのかこいつは。呆れてため息が出る。

「あのなぁ、解決は無理なんだって。確かに異世界でならば解決できるかもとか思っていたけれど、あの民衆の圧力を受けて改めて痛感したんだ。あれは治せない」

「それは、お前が一人で立ち向かったらの話だろ?」

 勇者は2秒は愚か、1秒も間を持たせずに返した。その返答によって言葉が詰まる。しかし数秒考えて、やはり俺は首を横に振った。

「ダメだ、確かに1人よりも2人とか、そういうのは聞いたことがあるけれど。お前がやっているのは、海に牛乳をかけ続ければいつか海が牛乳になるって言ってるようなもんだ。圧倒的数の前にはかないっこない」

「やってみなくちゃ分かんねぇだろ、根性出せば、そして乳を、いや知恵を絞れば、いつか海が牛乳になるかもしれねぇだろうが」

「……ごめん、例えが悪いから緊迫感が伝わらない。それと乳は絞らなくていいから」

 と、武闘派魔法使いちゃんは両腕で胸元を隠し、ジト目で勇者と俺を見やる。うーん、確かに海に牛乳をかけるって、思い返すと意味不明な例えだった。そのせいで勇者から親父ギャグを引き出してしまったのだから罪深い。大きな力を前にすれば、小さな力を束ねても意味が無いと言いたかっただけなのだが。

「おほん、とにかく、俺達は根性も知恵も絞って解決に当たらないといけないってことだよ」

 とにかく、と無理やり押し切っているところに違和感を覚えた。なんだか結構こだわるな。いや、こだわるべきところを俺が諦めているからそう感じているだけなのかもしれないけれど。今まで見てきた勇者の印象的に、このジャーナリズムな現象を打ち砕こうとするモチベーションを持っているとはとても思えなかった。

「何か理由でもあるのか?」

「メアリーに決まってるだろ」

 あぁ、納得。そういえば大好きだったな、願いを叶える壺で真っ先に願うくらい。
 しかしそれとは他にあるようで「ただ」と付け加えた。これが本番なのかもしれなかった。

「それだけじゃない、この現象を野放しにしていると、この世界は魔力の圧迫によってぶっ潰れる可能性がある」


「何それ!?」


 いきなり展開がヤバくなっていた。どうしてそうなった!? 勇者は頭をかき、ずっこける俺に言う。

「お前が俺達をチョッタカ山にぶっ飛ばした後、色々あったんだよ」

「色々あり過ぎるだろ、世界が潰れるって、何があったらそういう話になんの?」

「そうだな、せっかくお前が自分の話してくれたんだ。俺達も話してやるよ」

「何話続きそう?」

「体感一章」

「事態が事態なので、一応巻きでお願いします」

 「あれは、冷たい空気の中爆速で飛行している時のことだった」と、勇者は不穏な滑り出しで語りだした。チョッタカ山での出来事を。

 * * *

 この勢いで山肌に激突すれば確実に俺達は死ぬであろうと思った。涙も凍る体感温度の中、やっと飛行する角度が下に傾き、死を覚悟した。

 が、ボフンと柔らかなモノに突っ込んでいた。冷たいものの、確かに俺には意識があり、感覚があり、生きているという実感があった。顔を出すと超絶なる寒さと風、吹雪が肌をビリビリと刺激する。

「さっむ!」

「え! うそ! 生きてる!? ってさむ!」

「う、うーん、寒っ!」

「ゆゆゆ勇者、なんあなんあなななな何があったんだよぉぉぉ……」

 そういえば気を失っていたサナとナイツが、衝撃で覚醒した。よかった、大事ないらしい。しかし何故俺達は生きているのだろうか?

「私の職務は料理を通じてお客様を幸せにすることでございます故、料理を提供する前にお亡くならぬよう、こうして衝撃の少ない新雪を着地点に選ばせていただきました」

 恭しく、そんなセリフを吐いたのは、だれであろう、俺のズボンをひん剥いたピンクアフロの木の小人だった。条件反射で腰に手を当てようとするが、剣がないことに気づく。なので何としても俺の友達を守るために、サナとナイツを背にした。

「そういえば自己紹介がまだでしたね、私はアルクウッドのモモと申します。ジメット湿原近くでシェフを務めております。どうぞお見知りおきを」

 寒さもあり、余計に緊張してしまう。だからあまり言葉が頭に入ってこなかった。

「な、ななな何が目的だ!?」

「魔王代理様より仰せつかっております、貴方方お三方へデスカルゴお料理をご提供させていただきたいだけでございます。王宮で出されるやつよりも超旨いやつとのご要望でございましたのですが、いかがでしょうか?」

 ぐるるる~。

 心は警戒するも、体は正直だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

実家から追放されたが、狐耳の嫁がいるのでどうでも良い

竹桜
ファンタジー
 主人公は職業料理人が原因でアナリア侯爵家を追い出されてしまった。  追い出された後、3番目に大きい都市で働いていると主人公のことを番だという銀狐族の少女に出会った。  その少女と同棲した主人公はある日、頭を強く打ち、自身の前世を思い出した。  料理人の職を失い、軍隊に入ったら、軍団長まで登り詰めた記憶を。  それから主人公は軍団長という職業を得て、緑色の霧で体が構成された兵士達を呼び出すことが出来るようになった。  これは銀狐族の少女を守るために戦う男の物語だ。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

処理中です...