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<五章:信じよ>

五面楚歌

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「ま、魔王を捕らえることができたんだからそれは良いか、戻ってパーティーの準備でもしようかね」

 そう聞いた時、ハルカは鼻で笑って見せた。その反応に怪訝な視線を眼鏡越しに向ける。

「あら、あんたの未来ってその程度なの? 本当にこれで確実に魔王が捕らえられたとでも?」

 と自慢げに嘲ってみせたものの、これは自嘲も含まれていた。分身とはいえ、全く歯が立たなかったあの魔王代理が、このまま易々と魔王誘拐を許すとは思えない。
 ハルカの思惑通り、ミクルの顔から愉快な表情が消えたものの、しかしその思惑は半分当たりという程度だった。

「そうだな、このまま終わればそれでいい。そしてこのまま終わらない確率は限りなく低いとは言え、その可能性に目をつむるわけにはいかないだろう」

 ハルカの噛みつきを認めたようなセリフだったが、しかしそれが大きな枕言葉であることを理解しているため、ハルカはムスっと口を結んだ。鼻の下のほくろが唇と鼻に挟まれる。

「だが、不確定要素が発生する可能性を加味したからこそ、私は彼女をあてがったのだけどね」

「あんたって、リュウコ結構嫌いだよね。何で?」

 溜息は空に消えて聞こえなかったが、その悪態は大気汚染のように淀んで聞こえた。

「あいつは常に低確率を期待しているガチャ好きなソシャゲ廃人だからだよ。だから低確率であればあるほど、残念ながら頼りになるんだよ」

 * * *

 世の中本質が一本だとは限らない。あらゆる本質を見極めて組み合わせることで、様々な進化を発揮してきた。
 例えば水鉄砲。これは引き金を引くことで水に圧力を加え、さらに力の出口を制限することで狙った方向に力を一点集中させる。
 例えば自転車。ペダルの形状によって効率よく力を伝え、さらに伝えるためのチェーンが歯車に重なり、その歯車はペダルからくわえられた力をタイヤに伝え、タイヤは人を遠くへと導いてくれる。

 2つや3つ以上の力が合わさることで、更なる価値を作り出す。

「その本質は、空気を受けてその身を浮かす。紙飛行機」
「その本質は、火力で空へと飛びあがる。ロケット花火」

 特別武具スペシャライズウェポン


「人間ジャンボジェットだぁぁぁぁ!!!」


 ウルトラマンの飛行やドラゴンボールの部空術では腕を前に伸ばしていたけれど、できる限り空気抵抗を減らしたかったので気を付けの姿勢になる。その状態で、背中に装着したロケットで空を飛び、飛行機の羽によって空気を受けて空を直進していた。

 目指すは、あのドラゴン人間だ!

 だがこの飛行も持って数秒、いや数秒なんて持っていられない。何故なら目が超乾くから。かっぴかぴになって涙で水分をリロードしなければ前を向くことができない。それでも一瞬前を見るというのを繰り返すことで、何とかリュウコという魔王軍四天王の一人を捉えることに成功した。

 だがリュウコ、空を飛ぶのはお手のものなのか、直進する俺を見るやいなや横に逸れて追跡を撒こうとする。

「待てやごらぁーーー!」

「ドッグファイトってこと! いいねぇ! 素晴らしい意外性だ!」

 楽しそうな声が聞こえ、その声の方へと同じ軌道で旋回し追跡する。しかし上に飛ぶことはないようだった。どうやら重量オーバーでこれ以上は飛べないと見た。

 その好機を逃さないために、体をより細くして、ジェット噴射の魔力を強める。曲がりくねりつつも徐々に距離が縮まっていき、長い髪や女性らしい姿を捉えることができた瞬間。

 リュウコは、落とした。魔王を掴んだまま。

 メアリーを落とした。

 
「メアリー!」


 ロケット花火の出力を停止させれば、自由落下に任せて落ちることができる。俺と彼女の重量ならば確実に俺が追いつく。

 しかし、魔王はどうする? 絶対にこいつは囮だ。だからこそ魔王とメアリーを分断させたんだ。しかもこいつは魔王の足を引っ張って落としているんだぜ?

「知るかんなの!」

 一瞬の迷い、その間にメアリーが更に落下していた。ロケット花火の出力を停止させて体を一気に下へ向ける。
 一瞬だけロケット噴射を起動することで勢いのベクトルを下へ向ける。落下するメアリーは全く体を動かさずに、重力に身を任せて、体を仰向けでくの時になり落ちていく。

 追いつけ。

 ビルが視界に流れていく。

 追いつけ!

 手を掴むことに成功した。その体を手繰り寄せて身を起こす。

 そして。

「発射ぁぁぁぁぁ!!!」

 恐ろしい速度になった自分の体を、ロケット花火の逆噴射で強引に勢いを殺す。できるだけ足に当たらないように体を曲げて火傷にならないように努める。爆音が体を震わせて手の力が弱くなるが、メアリーを掴む手に意識を集中させる。絶対に離さない。

「今!」

 勢いがある程度弱まったのを見計らい、ベクトルを地面と平行にする。純粋な縦の力だけだと、重力の力を相殺するのに限界があったので、横に逸らしたのだ。体が地面に叩きつけられることこそなかったが、体がゴロゴロと転がる。メアリーを抱きしめて。だが転がる途中で離れてしまう。

 その勢いが止まり、ふらふらながらもやっとのことで体を起こした。

「おいお前、生きてんだろ。生かすようにしたんだから。どういうつもりなんだ?」

 メアリーはゆらゆらと体を起こし、パンパンと土埃を払う。その表情は揺れ動くことはなく、冷たい視線をこちらに向けた。そして服の隙間から細い杖を一本取り出し、天に向けた。

「ふふ。ふふふふふ。さぁ、バズりましょう」

 杖が光り、いつの間にか集まっていた周囲のストリーマーが、それに呼応して杖を天に向けた。
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