42 / 87
<四章:人間の国を調査せよ>
偽物よ、模倣せし意思を貫け。
しおりを挟む
説明しよう。あの烏合の執行人を捕まえる際に使った糸は何と、このBJからくすねてきた糸だったのである。糸って色々便利だから素材だけでも調べておこうと少しだけ分けてもらおうと思ったのだが、間違って全部取ってきてしまったのである。ちなみに素材はナイロンだった。舐めてみて分かった。
早いうちに返そうとしていたので、盗んだついでにBJの服に手紙を忍ばせておいたのだ。
『トースターにて花火打ち上がりし時、盗品が返ってきてほしいなぁ』
「返ってきてほしいなぁじゃない!」
BJは俺の目の前で手紙を握りつぶしながらそう文句を垂れた。地面に叩き落とし踏みつける。うーむ、言語疎通のポーションのお陰で読み取りはできるようになったが、書き取りはイマイチだったらしい。ネイティブのニュアンスに合わせるのって結構難しいんだよなぁ。
「高かったんだぞ! 医療器具を舐めるんじゃない!」
「何故それを!?」
「おま、舐めたのか!? ばっちぃことをするな! 早く残りを返すんだ!」
というので、ポケットに入れておいた縫合糸を返す。しかし。
「ビョンビョンじゃないか! 何をしたらこんなになるんだ!」
「ちぇんちぇ~元気らして?」
小さな看護師さんに慰められる。そんな夫婦のほほえましい情景をいつまでも見ていられるほどではない。こいつを呼んだのは他でもないのだから。
「あー、失礼ついでなんだが、こいつを治してやってはくれないか?」
指をさしたのは、腕がボロボロになったアブさん。血だらけで神経むき出し状態で、今すぐ然るべき処置をしないと命に係わる。だが俺には治療することはできない。
命の本質は、生きるか死ぬか。しかし人間の体は俺の住んでいた世界でもまだまだ謎が多い。その本質を究明するには俺はまだ若すぎる。だからプロフェッショナルに頼るしかないのだ。
そのプロフェッショナル(?)はツギハギメイクの顔を鋭くさせ、俺をねめつけた。
「するわけないだろ、盗みを働く奴が頼むオペなんて御免被るね」
「でもちぇんちぇ~、あのおじちゃん今にも死にそうらよ?」
「良いんだよ、死ぬべき人間ってのは世界には存在するんだ」
BJは冷たく目を逸らし、俺達の下から立ち去ろうとした。
だがその足は数歩進んでから止まる。
「……おい、マジで行かせるのか?」
「……え、というと?」
「マジで出ていくぞ、こんな町に用はないんだからな。本当に良いのか、この親父はこのままだったらマジで死ぬぜ?」
「あ、あー。そういう」
小声で俺は呟いた。分かったぞ、こいつの本当の狙い。というか心のツボと言うべきか。迫真的に膝を突いて、低い姿勢でBJの姿を見上げた。
「ど、どうかお願いしたい。どうしても治してほしいんだ……」
そういうと、一瞬にやっと笑うBJ。あ、これちょろそうだ。
「ふ、ふふふふ、なら仕方がない。3000万で手を打とうじゃないか」
「さ、3000万!? ……」
そういえば、さっきペタブヨウという会社の株価を聞いたがそれが高いのか低いのか判断つかなかった。っていうか、この世界のお金って、どういう感じなんだろう? 一応数字の概念は同じっぽいけれど。アブさんに付き添っている魔王に聞いてみた。
「なぁ、3000万ってどれくらいなんだ?」
「30代男性の平均年収がだいたい500万くらいじゃから、6年分くらいじゃの」
「日本とどっこいどっこいだな、おいストリートポールダンサー、お前結構稼いでるだろ払ってやれ」
「それただの露出狂じゃないの! 言っとくけどアンタが脱がすまでそういうの気を遣ってきたんだからね! プリーストックの利用規約厳しいんだから! それにキャッシュなんて持ち歩いてないわよ、このご時世」
ふむ、そういえばお祭りでもキャッシュレス決済だったよな。無駄に近未来的なんだよなぁ。そう思っていると、BJが何やらスキャンできそうな片手サイズの箱を取り出した。
「クレジットも対応しているぞ」
「よく審査通ったな、お前無免許なんだろ?」
「ふふふ、免許はないが実績はあるのでね。幾度となく治療してきた!」
いや普通に凄いことしているのは分かる。けど、この世界の医師免許が、なんだろう、中流の大学の授業で取らされる資格レベルのように思えてならない。
「まぁそういうわけだから、訳あって払えないんだ、頼むよ。どうせなんやかんや無料でオペってくれるんだろ?」
「オペるってなんだ! 軽すぎるだろ! もうわかった、貴様の頼みにはびた一文まけてやらん! もう謝っても遅いもんねー!」
ふん! と、今度は本当にずかずかと立ち去る。だが止めねばならない。
「良いのか?」
「何がだね?」
俺は俺の世界で名を馳せたBJの事を想起して言った。
「金が無かったら手術しない。確かにそういうところはあった。だが傷つく者を見て助けを求める手を振り払うことが、お前さんにはできるってのかい? それがお前さんが憧れたBJだってんならそうするがいい」
BJの顔は驚嘆しつつ、しかし怒る表情は変えない。
「だが、金よりも命を尊ぶ彼を、彼のキャラクターを模倣しているというのなら! その志を貫き通してみろよ! それが出来なければ、お前はただのコスプレイヤーだ」
自己満足の偽物だ。
「ふ、ふふふ」
笑う。ツギハギが揺れて、黒いマントが揺れて。しかしギリギリと歯と歯が軋む音を立てて、笑って。めっちゃ叫んだ。
「あーそうかい! そこまでコケにされたとあっちゃあ、私にも意地があるんでね。治してやろうじゃないか。その代わりコスプレイヤーとか偽物とかの言動はきっちり訂正してもらおうじゃないか! キノコ! オペの準備だ!」
「あらまんちゅ!」
あっちょんぷりけ。
早いうちに返そうとしていたので、盗んだついでにBJの服に手紙を忍ばせておいたのだ。
『トースターにて花火打ち上がりし時、盗品が返ってきてほしいなぁ』
「返ってきてほしいなぁじゃない!」
BJは俺の目の前で手紙を握りつぶしながらそう文句を垂れた。地面に叩き落とし踏みつける。うーむ、言語疎通のポーションのお陰で読み取りはできるようになったが、書き取りはイマイチだったらしい。ネイティブのニュアンスに合わせるのって結構難しいんだよなぁ。
「高かったんだぞ! 医療器具を舐めるんじゃない!」
「何故それを!?」
「おま、舐めたのか!? ばっちぃことをするな! 早く残りを返すんだ!」
というので、ポケットに入れておいた縫合糸を返す。しかし。
「ビョンビョンじゃないか! 何をしたらこんなになるんだ!」
「ちぇんちぇ~元気らして?」
小さな看護師さんに慰められる。そんな夫婦のほほえましい情景をいつまでも見ていられるほどではない。こいつを呼んだのは他でもないのだから。
「あー、失礼ついでなんだが、こいつを治してやってはくれないか?」
指をさしたのは、腕がボロボロになったアブさん。血だらけで神経むき出し状態で、今すぐ然るべき処置をしないと命に係わる。だが俺には治療することはできない。
命の本質は、生きるか死ぬか。しかし人間の体は俺の住んでいた世界でもまだまだ謎が多い。その本質を究明するには俺はまだ若すぎる。だからプロフェッショナルに頼るしかないのだ。
そのプロフェッショナル(?)はツギハギメイクの顔を鋭くさせ、俺をねめつけた。
「するわけないだろ、盗みを働く奴が頼むオペなんて御免被るね」
「でもちぇんちぇ~、あのおじちゃん今にも死にそうらよ?」
「良いんだよ、死ぬべき人間ってのは世界には存在するんだ」
BJは冷たく目を逸らし、俺達の下から立ち去ろうとした。
だがその足は数歩進んでから止まる。
「……おい、マジで行かせるのか?」
「……え、というと?」
「マジで出ていくぞ、こんな町に用はないんだからな。本当に良いのか、この親父はこのままだったらマジで死ぬぜ?」
「あ、あー。そういう」
小声で俺は呟いた。分かったぞ、こいつの本当の狙い。というか心のツボと言うべきか。迫真的に膝を突いて、低い姿勢でBJの姿を見上げた。
「ど、どうかお願いしたい。どうしても治してほしいんだ……」
そういうと、一瞬にやっと笑うBJ。あ、これちょろそうだ。
「ふ、ふふふふ、なら仕方がない。3000万で手を打とうじゃないか」
「さ、3000万!? ……」
そういえば、さっきペタブヨウという会社の株価を聞いたがそれが高いのか低いのか判断つかなかった。っていうか、この世界のお金って、どういう感じなんだろう? 一応数字の概念は同じっぽいけれど。アブさんに付き添っている魔王に聞いてみた。
「なぁ、3000万ってどれくらいなんだ?」
「30代男性の平均年収がだいたい500万くらいじゃから、6年分くらいじゃの」
「日本とどっこいどっこいだな、おいストリートポールダンサー、お前結構稼いでるだろ払ってやれ」
「それただの露出狂じゃないの! 言っとくけどアンタが脱がすまでそういうの気を遣ってきたんだからね! プリーストックの利用規約厳しいんだから! それにキャッシュなんて持ち歩いてないわよ、このご時世」
ふむ、そういえばお祭りでもキャッシュレス決済だったよな。無駄に近未来的なんだよなぁ。そう思っていると、BJが何やらスキャンできそうな片手サイズの箱を取り出した。
「クレジットも対応しているぞ」
「よく審査通ったな、お前無免許なんだろ?」
「ふふふ、免許はないが実績はあるのでね。幾度となく治療してきた!」
いや普通に凄いことしているのは分かる。けど、この世界の医師免許が、なんだろう、中流の大学の授業で取らされる資格レベルのように思えてならない。
「まぁそういうわけだから、訳あって払えないんだ、頼むよ。どうせなんやかんや無料でオペってくれるんだろ?」
「オペるってなんだ! 軽すぎるだろ! もうわかった、貴様の頼みにはびた一文まけてやらん! もう謝っても遅いもんねー!」
ふん! と、今度は本当にずかずかと立ち去る。だが止めねばならない。
「良いのか?」
「何がだね?」
俺は俺の世界で名を馳せたBJの事を想起して言った。
「金が無かったら手術しない。確かにそういうところはあった。だが傷つく者を見て助けを求める手を振り払うことが、お前さんにはできるってのかい? それがお前さんが憧れたBJだってんならそうするがいい」
BJの顔は驚嘆しつつ、しかし怒る表情は変えない。
「だが、金よりも命を尊ぶ彼を、彼のキャラクターを模倣しているというのなら! その志を貫き通してみろよ! それが出来なければ、お前はただのコスプレイヤーだ」
自己満足の偽物だ。
「ふ、ふふふ」
笑う。ツギハギが揺れて、黒いマントが揺れて。しかしギリギリと歯と歯が軋む音を立てて、笑って。めっちゃ叫んだ。
「あーそうかい! そこまでコケにされたとあっちゃあ、私にも意地があるんでね。治してやろうじゃないか。その代わりコスプレイヤーとか偽物とかの言動はきっちり訂正してもらおうじゃないか! キノコ! オペの準備だ!」
「あらまんちゅ!」
あっちょんぷりけ。
1
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

なんでもアリな異世界は、なんだか楽しそうです!!
日向ぼっこ
ファンタジー
「異世界転生してみないか?」
見覚えのない部屋の中で神を自称する男は話を続ける。
神の暇つぶしに付き合う代わりに異世界チートしてみないか? ってことだよと。
特に悩むこともなくその話を受け入れたクロムは広大な草原の中で目を覚ます。
突如襲い掛かる魔物の群れに対してとっさに突き出した両手より光が輝き、この世界で生き抜くための力を自覚することとなる。
なんでもアリの世界として創造されたこの世界にて、様々な体験をすることとなる。
・魔物に襲われている女の子との出会い
・勇者との出会い
・魔王との出会い
・他の転生者との出会い
・波長の合う仲間との出会い etc.......
チート能力を駆使して異世界生活を楽しむ中、この世界の<異常性>に直面することとなる。
その時クロムは何を想い、何をするのか……
このお話は全てのキッカケとなった創造神の一言から始まることになる……
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~
川原源明
ファンタジー
秋津直人、85歳。
50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。
嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。
彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。
白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。
胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。
そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。
まずは最強の称号を得よう!
地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語
※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編
※医療現場の恋物語 馴れ初め編
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる