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<四章:人間の国を調査せよ>

偽物よ、模倣せし意思を貫け。

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 説明しよう。あの烏合の執行人を捕まえる際に使った糸は何と、このBJからくすねてきた糸だったのである。糸って色々便利だから素材だけでも調べておこうと少しだけ分けてもらおうと思ったのだが、間違って全部取ってきてしまったのである。ちなみに素材はナイロンだった。舐めてみて分かった。
 早いうちに返そうとしていたので、盗んだついでにBJの服に手紙を忍ばせておいたのだ。

『トースターにて花火打ち上がりし時、盗品が返ってきてほしいなぁ』

「返ってきてほしいなぁじゃない!」

 BJは俺の目の前で手紙を握りつぶしながらそう文句を垂れた。地面に叩き落とし踏みつける。うーむ、言語疎通のポーションのお陰で読み取りはできるようになったが、書き取りはイマイチだったらしい。ネイティブのニュアンスに合わせるのって結構難しいんだよなぁ。

「高かったんだぞ! 医療器具を舐めるんじゃない!」

「何故それを!?」

「おま、舐めたのか!? ばっちぃことをするな! 早く残りを返すんだ!」

 というので、ポケットに入れておいた縫合糸を返す。しかし。

「ビョンビョンじゃないか! 何をしたらこんなになるんだ!」

「ちぇんちぇ~元気らして?」

 小さな看護師さんに慰められる。そんな夫婦のほほえましい情景をいつまでも見ていられるほどではない。こいつを呼んだのは他でもないのだから。

「あー、失礼ついでなんだが、こいつを治してやってはくれないか?」

 指をさしたのは、腕がボロボロになったアブさん。血だらけで神経むき出し状態で、今すぐ然るべき処置をしないと命に係わる。だが俺には治療することはできない。
 命の本質は、生きるか死ぬか。しかし人間の体は俺の住んでいた世界でもまだまだ謎が多い。その本質を究明するには俺はまだ若すぎる。だからプロフェッショナルに頼るしかないのだ。

 そのプロフェッショナル(?)はツギハギメイクの顔を鋭くさせ、俺をねめつけた。

「するわけないだろ、盗みを働く奴が頼むオペなんて御免被るね」

「でもちぇんちぇ~、あのおじちゃん今にも死にそうらよ?」

「良いんだよ、死ぬべき人間ってのは世界には存在するんだ」

 BJは冷たく目を逸らし、俺達の下から立ち去ろうとした。
 だがその足は数歩進んでから止まる。

「……おい、マジで行かせるのか?」

「……え、というと?」

「マジで出ていくぞ、こんな町に用はないんだからな。本当に良いのか、この親父はこのままだったらマジで死ぬぜ?」

「あ、あー。そういう」

 小声で俺は呟いた。分かったぞ、こいつの本当の狙い。というか心のツボと言うべきか。迫真的に膝を突いて、低い姿勢でBJの姿を見上げた。

「ど、どうかお願いしたい。どうしても治してほしいんだ……」

 そういうと、一瞬にやっと笑うBJ。あ、これちょろそうだ。

「ふ、ふふふふ、なら仕方がない。3000万で手を打とうじゃないか」

「さ、3000万!? ……」

 そういえば、さっきペタブヨウという会社の株価を聞いたがそれが高いのか低いのか判断つかなかった。っていうか、この世界のお金って、どういう感じなんだろう? 一応数字の概念は同じっぽいけれど。アブさんに付き添っている魔王に聞いてみた。

「なぁ、3000万ってどれくらいなんだ?」

「30代男性の平均年収がだいたい500万くらいじゃから、6年分くらいじゃの」

「日本とどっこいどっこいだな、おいストリートポールダンサー、お前結構稼いでるだろ払ってやれ」

「それただの露出狂じゃないの! 言っとくけどアンタが脱がすまでそういうの気を遣ってきたんだからね! プリーストックの利用規約厳しいんだから! それにキャッシュなんて持ち歩いてないわよ、このご時世」

 ふむ、そういえばお祭りでもキャッシュレス決済だったよな。無駄に近未来的なんだよなぁ。そう思っていると、BJが何やらスキャンできそうな片手サイズの箱を取り出した。

「クレジットも対応しているぞ」

「よく審査通ったな、お前無免許なんだろ?」

「ふふふ、免許はないが実績はあるのでね。幾度となく治療してきた!」

 いや普通に凄いことしているのは分かる。けど、この世界の医師免許が、なんだろう、中流の大学の授業で取らされる資格レベルのように思えてならない。

「まぁそういうわけだから、訳あって払えないんだ、頼むよ。どうせなんやかんや無料でオペってくれるんだろ?」

「オペるってなんだ! 軽すぎるだろ! もうわかった、貴様の頼みにはびた一文まけてやらん! もう謝っても遅いもんねー!」

 ふん! と、今度は本当にずかずかと立ち去る。だが止めねばならない。

「良いのか?」

「何がだね?」

 俺は俺の世界で名を馳せたBJの事を想起して言った。

「金が無かったら手術しない。確かにそういうところはあった。だが傷つく者を見て助けを求める手を振り払うことが、お前さんにはできるってのかい? それがお前さんが憧れたBJだってんならそうするがいい」

 BJの顔は驚嘆しつつ、しかし怒る表情は変えない。

「だが、金よりも命を尊ぶ彼を、彼のキャラクターを模倣しているというのなら! その志を貫き通してみろよ! それが出来なければ、お前はただのコスプレイヤーだ」

 自己満足の偽物だ。


「ふ、ふふふ」

 笑う。ツギハギが揺れて、黒いマントが揺れて。しかしギリギリと歯と歯が軋む音を立てて、笑って。めっちゃ叫んだ。

「あーそうかい! そこまでコケにされたとあっちゃあ、私にも意地があるんでね。治してやろうじゃないか。その代わりコスプレイヤーとか偽物とかの言動はきっちり訂正してもらおうじゃないか! キノコ! オペの準備だ!」

「あらまんちゅ!」

 あっちょんぷりけ。
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