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<四章:人間の国を調査せよ>
後悔は消えない
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「あの、マオさんこれ何なんですか!?」
「いやーんー、話せば長くなるんじゃがのぉ」
頬をかく。そういえば部外者であるカナタにガッツリ目撃されていたようで、魔王はどう言い訳したものかと思案していた。誤魔化すにも限界がある。偽装家族というのも元々魔王軍であることを隠すためのものだったが、その嘘で貫き通せるのかが不安だった。
なので、後ろのメアリーにアイコンタクトを送る。折れた杖を両手で抱えていたところらしく、目と目が合う。数回パチクリしてから、ピコン! と何か閃いたらしい。
「カナタちゃん、あの人はサンドバッグ屋さんって言ってね、誰かに殴られることで生計を立てるお仕事をしているの。私達はそうしてご飯を食べさせてもらっているのよ」
「サンドバッグ屋さん!?」
カナタは目を丸くする。そんな職業がこの世に存在するなんて知らなかった! という驚嘆の表情を表していた。
魔王も目を丸くする。こいつ絶対後からサンドバッグどころじゃない仕打ちを受けるだろうことを良くもまぁ抜け抜けと言えるな。そんな呆然とした表情を表していた。
「そ、だからあの人の心配は大丈夫」
ピンと指を立てるが、そういうことじゃない。そもそも普通の家族を装っていたのにいつの間にかボコスカ戦闘をしていることに疑問を呈されていたわけで、魔王代理の身を案じているわけではないのだ。とも思っていたのだが、魔王の心配は的外れなものだった。悪い意味で。
「そうでなくとも、あの人とマオちゃん知り合いのようでしたが? 名前呼ばれてましたよね?」
う。魔王の顔が引きつる。ダイレクトに魔王軍関連の話題をひっかけてくる。どう誤魔化したものか考えていると、無駄な起点を効かせてメアリーが言った。
「あれは親戚のおじさんなの。ちょっとストレス溜まっていたらしくって、ここで予約を入れていたのよ。それがこの場所だったってわけ。宿で一泊して明日仕事するつもりだったんだけど、男って本当短気よねぇ」
「は、はぁ、でも警報に応じるとか言ってませんでした? それに魔王軍とかどうとか」
メアリーの起点もカナタには効かなかったようで、疑問はいざ増すばかり。誤魔化すにも限界があるか。腹をくくり魔王が口を開きかけた時。
「ねぇ、毒盛ったの誰だっけ?」
笑顔で怒りマークを額に表しながら、強硬手段に出ていた。そんなことをすれば尚更怪しまれるだろう。魔王のその予想は的中したようで、カナタの表情が難しいものになる。魔王がそこで口を出した。
「ま、まぁそういうこともあるじゃろうて。早く家に行って一晩を明かそうではないか。ホレホレ行った行った!」
とカナタの背中を押す。玄関前では魔王代理が何やら考え事をしているのか、うつむいていた。魔王はそんな魔王代理に言う。
「ちょっと先に行っといてくれんか」
「ん? ああ、そうだな。一言二言あるだろうし。先行ってるぞ」
魔王代理は顔色一つ変えずに、二人を連れて屋内に入っていった。
聡い魔王代理に感心しつつ、振り向く。魔王の視界には血みどろの老人が四つん這いになっており、昔馬乗りになって乗せてもらった事を思い出した。付き合いは良い方なのだ、だから会社という複数人が必須の組織というのを立ち上げることもできたのだろう。
魔王は側に近寄り、小さくつぶやいた。
「すまなんだな、お主を魔王軍に引き入れたばっかりに、お主の可能性を潰してしまおうとは。上司失格じゃ」
「ふ、先代から雇われたのだから、謝る義務があるのはマオちゃんの母君だろう。だが私のミスでもある」
「ミス?」思い当たることがなく、アブさんの方を見下ろす。
「私はかつての魔王軍に疑問を持っていたんだ。おかしいとは思っていた。敵である勇者に手加減をしろと命じられて、命じられるがままに手加減をしたのは、他でもない私だ。本来ならそこで意義を申し立てるべきだった。しかし上からの命令だからと、そういうものだと命じられたまま職務を全うしたのだ。その時点で既に恨む資格なんてなかったのだよ」
その代わりこうやって副業を立ち上げて独立を目論んでいたのだがね、とうそぶく。もうしばらくするとアブさんは魔王軍を止めてこのセキュリティ会社一本に力を注ぐことになるのだろう。
「それでも、手加減をするようにと命じた我が母も、そしてわしも、お主の可能性を潰したことに変わりはない。だから今後そんなことがないように、これから根元を断つ所存じゃ」
「根元を、か。強大だぞ。恐らく歴代魔王でも太刀打ちできん」
「そうか、ありがとう」
雇用契約ギリギリ守れるかどうかの範囲で、アブさんはそう呟いた。魔王はその心遣いに純度100%の本心を伝えた。アブさんを雇った主こそが、その元凶なのかもしれない。魔王はそう直感する。
「良い部下を持ったな、マオちゃん」
「部下っちゅうか、わしの代理なんじゃがな。強いじゃろ?」
「そうだな、もっと若い頃に出会いたかったものだ」
アブさんはどこか満足げにそう呟いた。
魔王はアブさんを後にし、その魔王代理が入った家の中へと続く。
「いやーんー、話せば長くなるんじゃがのぉ」
頬をかく。そういえば部外者であるカナタにガッツリ目撃されていたようで、魔王はどう言い訳したものかと思案していた。誤魔化すにも限界がある。偽装家族というのも元々魔王軍であることを隠すためのものだったが、その嘘で貫き通せるのかが不安だった。
なので、後ろのメアリーにアイコンタクトを送る。折れた杖を両手で抱えていたところらしく、目と目が合う。数回パチクリしてから、ピコン! と何か閃いたらしい。
「カナタちゃん、あの人はサンドバッグ屋さんって言ってね、誰かに殴られることで生計を立てるお仕事をしているの。私達はそうしてご飯を食べさせてもらっているのよ」
「サンドバッグ屋さん!?」
カナタは目を丸くする。そんな職業がこの世に存在するなんて知らなかった! という驚嘆の表情を表していた。
魔王も目を丸くする。こいつ絶対後からサンドバッグどころじゃない仕打ちを受けるだろうことを良くもまぁ抜け抜けと言えるな。そんな呆然とした表情を表していた。
「そ、だからあの人の心配は大丈夫」
ピンと指を立てるが、そういうことじゃない。そもそも普通の家族を装っていたのにいつの間にかボコスカ戦闘をしていることに疑問を呈されていたわけで、魔王代理の身を案じているわけではないのだ。とも思っていたのだが、魔王の心配は的外れなものだった。悪い意味で。
「そうでなくとも、あの人とマオちゃん知り合いのようでしたが? 名前呼ばれてましたよね?」
う。魔王の顔が引きつる。ダイレクトに魔王軍関連の話題をひっかけてくる。どう誤魔化したものか考えていると、無駄な起点を効かせてメアリーが言った。
「あれは親戚のおじさんなの。ちょっとストレス溜まっていたらしくって、ここで予約を入れていたのよ。それがこの場所だったってわけ。宿で一泊して明日仕事するつもりだったんだけど、男って本当短気よねぇ」
「は、はぁ、でも警報に応じるとか言ってませんでした? それに魔王軍とかどうとか」
メアリーの起点もカナタには効かなかったようで、疑問はいざ増すばかり。誤魔化すにも限界があるか。腹をくくり魔王が口を開きかけた時。
「ねぇ、毒盛ったの誰だっけ?」
笑顔で怒りマークを額に表しながら、強硬手段に出ていた。そんなことをすれば尚更怪しまれるだろう。魔王のその予想は的中したようで、カナタの表情が難しいものになる。魔王がそこで口を出した。
「ま、まぁそういうこともあるじゃろうて。早く家に行って一晩を明かそうではないか。ホレホレ行った行った!」
とカナタの背中を押す。玄関前では魔王代理が何やら考え事をしているのか、うつむいていた。魔王はそんな魔王代理に言う。
「ちょっと先に行っといてくれんか」
「ん? ああ、そうだな。一言二言あるだろうし。先行ってるぞ」
魔王代理は顔色一つ変えずに、二人を連れて屋内に入っていった。
聡い魔王代理に感心しつつ、振り向く。魔王の視界には血みどろの老人が四つん這いになっており、昔馬乗りになって乗せてもらった事を思い出した。付き合いは良い方なのだ、だから会社という複数人が必須の組織というのを立ち上げることもできたのだろう。
魔王は側に近寄り、小さくつぶやいた。
「すまなんだな、お主を魔王軍に引き入れたばっかりに、お主の可能性を潰してしまおうとは。上司失格じゃ」
「ふ、先代から雇われたのだから、謝る義務があるのはマオちゃんの母君だろう。だが私のミスでもある」
「ミス?」思い当たることがなく、アブさんの方を見下ろす。
「私はかつての魔王軍に疑問を持っていたんだ。おかしいとは思っていた。敵である勇者に手加減をしろと命じられて、命じられるがままに手加減をしたのは、他でもない私だ。本来ならそこで意義を申し立てるべきだった。しかし上からの命令だからと、そういうものだと命じられたまま職務を全うしたのだ。その時点で既に恨む資格なんてなかったのだよ」
その代わりこうやって副業を立ち上げて独立を目論んでいたのだがね、とうそぶく。もうしばらくするとアブさんは魔王軍を止めてこのセキュリティ会社一本に力を注ぐことになるのだろう。
「それでも、手加減をするようにと命じた我が母も、そしてわしも、お主の可能性を潰したことに変わりはない。だから今後そんなことがないように、これから根元を断つ所存じゃ」
「根元を、か。強大だぞ。恐らく歴代魔王でも太刀打ちできん」
「そうか、ありがとう」
雇用契約ギリギリ守れるかどうかの範囲で、アブさんはそう呟いた。魔王はその心遣いに純度100%の本心を伝えた。アブさんを雇った主こそが、その元凶なのかもしれない。魔王はそう直感する。
「良い部下を持ったな、マオちゃん」
「部下っちゅうか、わしの代理なんじゃがな。強いじゃろ?」
「そうだな、もっと若い頃に出会いたかったものだ」
アブさんはどこか満足げにそう呟いた。
魔王はアブさんを後にし、その魔王代理が入った家の中へと続く。
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