召喚されたのは、最強の俺でした。~魔王の代理となって世界を支配します~

こへへい

文字の大きさ
上 下
34 / 87
<四章:人間の国を調査せよ>

閑話<祭りだよ>

しおりを挟む
 物事は解釈によって色んな見方をすることができるようで、例えば電車で泣く赤ちゃんに切れるじじい。一見最低に思えるけれど、人生を積み重ねることで脳細胞が壊死していき、赤ちゃんの泣き声を寛大な心で見ることが出来なくなっているのかと考えると、嫌悪ではなく憐憫の情を浮かべたくなる。

 そして本題の祭り。夜の街に提灯の明かりがランランと揺れ動き、出店が色んな食べ物や商品を出して活気があふれている。その活気に煽られて、一玉数十円ほどの中華そばと野菜とソースを絡めた焼きそばを300円で購入してしまった。これをどう解釈するのかというと。

 祭りとは、クソである。

「いきなり何言っちゃってんのよ、さっきまで焼きそば焼いてるところ見てめっちゃ目輝かせてたくせに。ちゃんと全部食べなさいよね」

 神官の女子はジト目でこちらを睨む。物好きな男ならばこれに対してでさえ欲情や劣情やらの感情の高ぶりを覚えるのだろうが、こいつがしているとただなめられているとした思えなかった。解釈の歪めようがない。しかもどこで着替えたのか、ピンクの花がプリントされた浴衣に身を包んでいる。髪をカールして眼鏡を追加でかけている辺り偽装家族の目的は忘れていないようだが。しかし見た目は良いのか、別の意味で周囲の目を引いていた。悪目立ちも良目立ちもするって、人間の国に潜入する人選ミスったかな。

 祭りに行く唯一の目的である焼きそばをすすっていると、俺の視線に返答する。

「絶対失礼なこと考えてたでしょ?」

「失礼ってのは、礼を失うもんだよな。失う礼が無ければ失礼じゃない。よって俺は失礼じゃない」

「一番失礼な奴じゃん! っていうかおめかししたんだから、一言感想お願いしますー」

 むすーっと口を細くして、懇願の言葉を口にした。ほほう、感想が来るのが当然だろ! っという意見が来ると思っていたが、なかなか分を弁えているじゃないか。結構結構。そんな身の程を少しは理解してくれている神官の女子へ、少しは飴をくれてやることにした。

 焼きそばを平らげてから飴を4本購入し、その一本を神官の女子に手渡す。

「んー、飴、1つです」

「微妙!」

「ほれ、子供はいっぱい糖分食べな」

 さっきから祭りの店のありとあらゆるところに目移りしている魔王とカナタに、俺は2本のりんご飴を差し出す。だがその声は聞こえていないようで、お面売り場とかくじ引きに置いてある、勇者グッズは魔王グッズに目を奪われているようだった。そこには、というか全ての店の看板には必ず変なマークのシールが貼られてある。キラッと光り、文字はこの世界の物なので言い表せないが現代語訳すると「AS」と書かれている。あれかな、お祭りに出店を出す許可を自治体から頂いているマークだろうか。

 と、何か変なところに興味が行ってしまっていた隙に、魔王がくじ屋の景品を指さしてカナタを呼んだ。数多ある景品の中で指をさしたのは、見たことのある剣を持った男のフィギュアだった。

「おい見ろ! あれは第36章12話で勇者が四天王の最初の一人と戦うシーンのフィギュアじゃよ! 再現度たっか!」

「本当ですね! ズボンの股間部分にある黄色い染みもちゃんと再現されてます! しかも匂いもアンモニア臭いです! 再現度たっか!」

 そういえばアイテムボックスを切り取る時に、変な匂いがあったという記憶が蘇る。あれ原作再現だったのかよ、リスペクト通り越して逆に失礼だろ。いやマジで。

「んあ? りんご飴か、ちょっと持っといてくれ、今くじ引くために集中したいんじゃ」

 りんご飴がアンモニア臭い勇者のフィギュアに負けた瞬間だった。これを聞いたりんご飴の店主はどう思うだろうか。
 魔王は両手首をひねってがっしりと手と手を掴む。それをねじって、まるで祈るように目を閉じた。じゃんけん必勝法みたいなことしてやがんな。

 箱からびょんびょんと生えている白い紐を一本掴み、どこかに繋がっているであろう景品を引っ張る。

 すると。

「あー、ダメじゃ。神官の痴女ストリーマー引いてしもうた」

「ちょっと! 良いじゃないの神官でストリーマー! ギャップがあって格好いいじゃないの!」

「でも、勇者の超冒険ではあんまり良いキャラしてないですもんね。脱げば人気取れると思ってそうで……」

 両方から言われたい放題だった。本人を見やると、涙を流しながら、甘じょっぱいりんご飴を頬張っていた。流石に見ていて悲しくなったので、俺のりんご飴を渡して肩に手を置く。
 結構俺も、甘い奴だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...