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<四章:人間の国を調査せよ>

宿を探して三千里

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 保護石。それは人間を統括する王様が様々な宿にあてがった、勇者のために宿を保護する石のことである。
 特徴1、勇者が一晩休めばたちまちダメージは全回復する。
 特徴2、始まりの町から魔王城付近支店まで、勇者パーティーに限り、逆向きの一方通行で宿の保護石間をワープすることができる。

 特徴3、魔族を退ける。

「だ、大丈夫ですか!?」

 倒れ伏す俺と魔王に、上から心配して声をかけてくれる店員さん。その後ろからチェックインを済ませたのか、カナタがちらとこちらを見る。神官の女子に至っては「これだから言わんこっちゃない」と呆れていた。いや言えよ、と言いたかったが、それは言えない。カナタがいる前でそれを言ってしまうと、それこそ俺達が魔王関連の者であることがバレてしまうからだ。だから言わなかった。
 それでも、言えよ。どっちにしろ現状バレそうになっているんだから。
 だがしかし、早く応答しないとまずい、早く言い訳を思いつかないと。……そうだ、これだ!

「い、いだだだだだ! 足の小指をぶつけてしまったーーーーー!」

「い、いたいよー!」

 二人そろってアホみたいに、足を持って地面に転がる。とりあえずこれで保護石にぶつかったことに関しては誤魔化せたな、多分。

「それはいけません、二人とも早く私の部屋に来てください、救急箱持ってますので」

 く、そうなるよな。どうする、次は宿に入らない言い訳を考えなければならなかった。

「う、うわー、わし人が多いところでは眠れんのじゃー、困ったのー」

「お母さんはチェックインしちゃいましたけど……」

「いやー、俺達再婚だから、まだママはマオのことよく知らなかったんだなー。でもそういう少しずつの躓きを経てこれから家族の絆が深まっていくってもんだよなー!」

 な、なるほど。と引きつった顔をするも納得するカナタ。しめた、取りあえず形式的にでも納得したならば。

「よしマオ、今日はお父さんと野宿だぞ! キャンプだキャンプ!」

「や、やったー!」

 足早に宿から立ち去る後ろから、カナタと神官の女子がついてくる。

* * *

 実は、キャンプするための道具は実は持ち合わせているのだ。そもそもバスなんてあることすら知らなかったので、道中森の中でテントを張ることは覚悟の上だったから。

 しかし町の敷地内には何処かしこもテントを建てられそうにはなく、良い感じの広い場所に建てようとすると、青い制服を着た警備員さんに怒られてしまった。だからテントも建てられない。

「ですから、もうマオさんには我慢して頂いて宿に行きましょうよ」

「イ、イヤー、マオッテマジデソウイウノダメラシクテサ。ナ?」

「ダメジャナァ、蕁麻疹デ死ンデシマウンジャ」

 とカタコトに否定するしかない。つってもこのまま眠れないってのは流石にまずい。一睡もしなくても俺は大丈夫なのだが、寝ないことを子供に強いていると思われることの方がまずい。偽装家族がバレてしまう。

「そうだ、でっかいしゃもじ持って晩御飯に突撃したら、ついでに泊めてもらえないかな?」

「それじゃ!」

「いや、祭りの後なんだから、晩御飯の時間とっくに過ぎてるでしょ」

 との神官による神のお告げ。うーむ的確だ。ならもう素直にご自宅に窺って一晩お邪魔するしかない。

「ん? あれは、何だ?」

 見えたのは、舗装された道が小高い丘のてっぺんまでずーっと真っすぐ進んだところにある、一軒の家。大きな屋根に突き刺さったような煙突から、もくもくと煙が出ている。ワンチャンを狙って泊めてもらえるか聞いてみるか。と向きを変えたところ、袖をぎゅっと握られた。このあざといのは神官の女子か? と眉間に皺を寄せて振り向くと、意外にもカナタだった。俯いて緊張しているのが顔に出ている。

「あそこは、止めておいた方がいいです」

「え、なんで?」

「私達が立ち入るにはとても恐れ多い場所なんですよ。マオさんなら、分かるでしょ?」

 と魔王に聞いた。魔王は一瞬考えて「ま、まさかあそこは……」とあわあわしている。


「そうです、あそこは『勇者の超冒険』を手掛けた作者様がお住まいと言われているおうちなのです。」


 作者のおうち、それは値千金の情報だった。なにせ俺はその作者から事情を聞くためにここにいるのだから。
 否、お前がこの世界を無意識に陥れている犯人なんじゃないかと、突きつけるために。
 勇者は勇者を強いられて、魔王は魔王を強いられる。もしかしたら宿屋は宿屋を経営することを強いられていて、その無意識によって自分の立場というか、アイデンティティーを矯正されているんじゃないかと考えていたからだ。

 『勇者の超冒険』という存在を聞いてから、この世界にいる勇者や魔王の存在が違和感だった。それに、魔王は『勇者の超冒険』を伝記ではなく飽くまでも物語だとも言っていた。その物語を流行させることによって、強制的な矯正というダジャレみたいなことをしているのならば。
 俺はそれを許さない。死をも誘発させかねない、そんな圧力に屈してはならない。

「なら、なおさら行かなくっちゃいけないな。もしかしたらこの旅行、日帰りで終わるかもしれないぜ?」

「だ、ダメですよ! 私なんかが行くなんて恐れ多い」

「ファンなんだろ? 大丈夫大丈夫。本屋さんで知らない作者のサイン会に並ぶのとは違うんだ。なんなら顔にサインしてもらう覚悟で行こうぜ」

「そりゃファンですけど、ですが私は作者様に会うのは、その人のように大成した時って決めていたんです。それまでは私に資格なんて……」

 と、二の足を踏むカナタ。そういう覚悟を持っているとは知らなかった、だからと言って毒を盛るのはやり過ぎだけれど。なら置いていくとしよう。

「んじゃ宿で休んでな。行こうぜお前ら」

 と再び歩みを進める。
 しばらくしたらそろそろ作者の家に到達するというところで。
 庭の柵から半径一メートルくらいのところまで近づき、そろそろインターホンを押せるかもしれない、ポストがあり、それは元の世界と同じく赤色なのか、とそんな牧歌的なことを思っていた時。


「いかん! それ以上は行くな!」


 魔王が叫んだ。それはただの叫びではない、高い壺が取られそうになったあの時とも違う、悲鳴のような警告だった。

 そしてその警告は、同じ警告によって上書きされる。
 闇夜に響く。

 ウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ
 ウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ
 ウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ

『侵入者確認、魔の者の侵入者を感知しました。速やかに殲滅してください。』
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