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<四章:人間の国を調査せよ>

君たちは何故スーツを羽織り制服を来て革靴を履きネクタイを締めるのか。

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 BJ(本名を出すことはできないので、ここからはイニシャルでお送りします)は迷いなき手さばきで妊婦さんの現状を調査する。キノコ(多分驚くと両手でほっぺをむにゅってしそうなやつ)はBJの汗をしきりに脱ぐってあげ、必要な医療器具をBJに渡したりしていた。さながら看護師のようだったが、その手際は子供のような見た目に反し、BJと以心伝心、いや一心同体とも言うべき連携でサポートに徹している。
 
 しかしBJはムムム、っと難しい顔をしていた。

「これは酷いな、もしかしたらガンかもしれん」

「ガン!?」

 ガーンと、洒落にもダジャレにもならないようなリアクションをする男性。BJは女性の腹を露わにさせ、聴診器を当てる。うんうんとうなずき「キノコ、麻酔の準備」と一言サラリと告げた。
 しかし、こういう腹痛を体験したことが一度会ったことを、俺は思い出した。

「待て待て待て、多分これそんな必要ない奴だ」

「素人が首を突っ込むんじゃない! 生死に関わるんだ、悪ふざけは余所でやれ!」

「なら証明すればいいんだな」

 と踵を返す。俺が向かったのは、後ろで腹を抱えて苦しむ神官の女子だった。

「い、痛いいいい、あの時食らったお腹へのダメージが今になって……」

「これ見よがしに俺のせいにしてんじゃねぇ」と言いつつ俺はポケットを漁り、新たなるポケットを取り出した。それは一瞬布切れのようにも見えたが、それは違う。22世紀にも使われる(予定)の、四次元ポケット改め、アイテムボックスだ。さらにそこから大きな水筒を取り出した。4リットルは入るであろう大きさの水筒だった。

 その蓋を開けて、神官の女子に水を突っ込む。
 ガブガブガブガブ。

「かっはぁ!」

 と、水が逆流して吐き出した。その汚い液体からドロドロの茶色い塊のようなものが出てくる。すると、神官の女子が痛みを抑えるために沿えていた手を離す。

「あれ、痛みが」

「ほらな、治っただろ?」

「おぇぇぇぇぇ」

 代わりに吐き気を催していた。しかし本当に腹の痛みは引いていたらしい。驚くBJ。

 続けて魔王にも水筒を差し向けようとしたのだが、魔王はケロっとしていた。

「お前、毒とか平気なの?」

「ほら、わし一応ラスボスじゃから」

「そういう理由なのか、いやいるけどね、ラスボスでそういう状態異常全く効かない奴」

 ため息をついて振り向き歩く。まだ呆気に取られているBJを無視して水筒片手に女性の元へ。ビニールのカーテンでは俺は防がれない。

「止めるんだ!」

「うっせぇな藪が! 黙ってろ!」

 言って、ガブガブガブガブと飲ませる。おろろろろと水をじゃぶじゃぶ口から吐き出すと、中からやはり茶色い泥っとしたものが出てきた。そして腹の痛みが引いていく。

「君! ありがとう! 実はたっかい金払わされそうで不安だったんだ!」

 と、本音をぶちまけて胸をなでおろす旦那さん。そこにBJが、偽物のBJがオロオロと言い訳する。

「いや、後から『お代は結構、愛が見れただけで懐がいっぱいいっぱいさ』って言おうとしたのに……」

「いや信じられないですから、勇者の超冒険のコスプレして物まねしているんでしょうが、本当止めてください」

 冷たくそう言うと、奥さんと共にバスを降りた。ズンと肩を落とす偽物BJに、キノコが心配して身を寄せる。

「ええと、ほら、ちぇんちぇー元気出して」

「ふん」

 と仏頂面を保ったまま、二人は次の駅でバスを降りて行ったのだった。

* * *

「おい魔王、なんだあれ?」

「いやお前もなんじゃあれは、あんな見切り発車でちょっかいかけるとは思わなかったわい」

「それに荒療治過ぎるでしょ、うっぷ」

 バスで揺れてか、嘔吐感がこみ上げる神官の女子を余所に、改めて魔王にあいつは何者なのかを聞いてみた。

「あれは無免許医師さんじゃよ、あの格好は間違いない」

「いやそれは……何となく分かるんだけど、何であんな格好なのかなって」

「無免許医師さんは皆あの格好であのメイクなんじゃ。制服みたいなもんじゃよ」

「無免許医師の制服って何だよ、誰に制されてる服なんだよ」

 じゃあもぐりの医者かどうかは格好を見れば分かるってことか? 潜れよ。とも思ったのだが、結構核心をついたことを魔王が尋ねた。

「お前のとこでは、理由もなく同じ服着てるとかないのか?」

 ……「ある」と天井を仰ぎ答え。今でこそクールビズとかでネクタイを無くして第1ボタンを開けたり、オフィスカジュアルと称して社会人的な服である必要はある程度なくなったが、サラリーマンのスーツというのは最たる例だろう。リクルートスーツとかがそれだな、まぁスーツって少し説得力を上げてくれる効果があるから一概に捨てたもんじゃないらしいんだけれど、本質的に必要ではないのは確かだ。ぐうの音を出ない。

「そういうもんじゃよ、あんまり考えることではあるまい」

 あまり考えること、ねぇ。まだまだ常識を引き剥がすには、この世界の住人は考えてなさすぎるような気がした。

 BJの一件を終えて、トースターまで二人は目を閉じた。揺れるバスは眠気を誘い、乗車する客の意識を奪おうとする。

 揺れる、揺れる。地面が舗装されているおかげかその揺れは小さいものの、たまに小石に乗り上げてその揺れは大きくなった。皆が驚き、しかし再び何事もなかったかのように走り出す。

 振り返らずとも分かる、多分あの小石は、二度と乗り上げられることはない。砕かれたか地面に飲まれたか。
 それでもバスは止まらない。

 そして――――。

「トースター、トースター。お降りの際はお荷物の忘れ物にご注意ください」

「とーーーーおーーーーちゃーーーーく!」

 いつぞやの真似をしてか、はたまた子供であるという役柄を全うしてか、魔王がバスから飛び降り両足を同時に地面に付けた。それに続いて俺、神官の女子が降りる。続いて一人降り、バスは次の駅へと走り出す。

「さてと、取り敢えず宿に行くか」

 振り返り、車窓から見えていた街に向かって体を捻ろうとした。

「待ちなさい!」

 その時。俺たちの同時に降りた一人の女の子が声高に叫んだ。そういえば一緒にバスに乗った客の一人で、紙とペンをずっと手に持っていたから記憶の片隅に残っていた。
 そんな彼女の忠告、待ちなさい。それ聞く者は、この場に俺たちしか居ない。

「誰?」

「あなた、私のネタをよくもぶち壊してくれましたね! 許しませんよ、ええ許しませんとも!」

 キラリと眼鏡を光らせて睨む。一本の大きなお下げが激しく揺れた。
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