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<四章:人間の国を調査せよ>

偽装家族

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 話を戻す。トースターという町に行くにあたって何故変装しなければならないのかと言われれば、それは神官の女子の放送魔法によって面が割れてしまっているからだ。素顔のまま人前に出ようものならば、魔王関連の者だと判断されて摑まることは勿論、『勇者の超冒険』の作者の情報をも聞き出せなくなる。だからこその変装なのだ。

「その変装に当たって人選するのが、俺、魔王、そしてお前だ」

 と、魔王に続いて神官の女子を指さした。

「さて問題です。何故この人選なのでしょうか?」

 神官の女子が手を上げる。肘の曲がっていない良い挙手だった。

「ハーレム?」

「その腐った頭を勝ち割ってやろうか? 良くもまぁそんな一言で俺をロリコンと悪趣味な人間に仕立て上げられるもんだ。その手腕は褒めてやるから今すぐ脱げ、泥水を浴びせてやる」

「ひぃぃぃぃぃ! ごめんなさい!」とクスノの背中に隠れる。それを見て魔王が口を開いた。

「じゃが当たらずとも遠からずじゃろ、わしのような子供姿を連れて行くということは、で行くんじゃな?」

 自慢げに指をさす魔王。流石は魔王、鋭いな。笑みで正解だということを示す。がばっとクスノの背中から顔を出して神官の女子が目を輝かせる。

「それって……私とあんたが夫婦ってこと?」

「偽装夫婦な。またはスパイファミリーともいう」

 いや言わないけれども。それでも家族ならば多少は人間社会に溶け込みやすいと考えたのだ。それに男女という性別や子供という立場は、単純に情報収集の幅を増やす目的もある。

 ――――と、言うわけで。

 俺。シンプルで清潔なスタイルで、薄灰色のスラックスに白いドレスシャツ。眼鏡は黒く、細身の黒いベルトでウエストを締める。足元には黒い皮靴を履き地味目さを演出。これこそ世のお父さんファッションだ、加齢臭がぷんぷんするぜ。

 神官の女子。明るい赤いワンピースを身にまとい、膝までの長さで、腰には茶色の皮製のベルトを巻いている。足元には茶色のヒールの靴を履き、髪は軽やかにカールしています。まさに新妻と言っても過言ではない。

 魔王。快活な子供らしい服装をしていた。鮮やかなピンクのTシャツを着ており、カートゥーンキャラクターがプリントされたデニムのオーバーオールを履いていた。足元には明るい色のスニーカーを履き、髪は一つ結びになっている。角は出し入れ自由なようだった。便利だぜ。

「さぁ行くぞ! で、どこから行けばいい?」


「まずはバス停よ!」


 我が妻、もといガイドはマーチングバンドのドラムメジャーのように、杖をかざした。

 * * *

 魔王城から歩いて一時間ほど。俺の体内時計は十分な睡眠によってかなり精度は回復しただろうから、大体一時間。紫色漂う世界観から緑広がる森林を抜けて舗装された小道に出ると、バスガイドは杖をある方向に指した。それは、背もたれのないベンチと平べったい板が地面に突き刺された場所だった。雨の中、太った大きな生き物が葉っぱを傘にしていることこそなかったが、数人の人が並んでいる。

 そもそもバス停、もといバスと言うのがあることが驚きだった。これも例の、魔神(仮)が言っていた時空の歪みと関係があるのだろうか。そんな思案を他所にバスガイドが声を張る。

「ここからトースターに行けるはずよ」

「詳しいな、流石はバス停ガイドだぜ」

「バス停ガイドって何よ! ……いや本当に何者よそれ、ただのバス停までのガイドじゃないの! お役御免になるの早すぎるでしょ!」

「いやいや本当に感謝だぜ? こういうのは有識者の案内があると本当にストレスなく道程を進められる。だからマジ感謝してんだわ」

 本当に素直に感謝の意を述べると「べ、別にそんなの言っても何も出ないからね」とモジモジしていた。扱いやすすぎるだろ、ユーザビリティがスマートフォンなみだった。説明書なしでも操作できるゲームみたい。ちょっと心配になりつつも、並ぶ人に続く。

 人はそこまで多くない。紙とペンを持つ少女が一人、黒いコートを纏った大柄で目深にシルクハットをかぶった男が一人、おばあちゃんが一人の三人だった。いかにも怪しい奴が一人いるが。そんな人を余所に、ハロウィーンなのか知らないが、紙とペンを持つ少女がクッキーをくれるというので渡してきた。不要な時には高加工の食品は食べないようにしているので断ったのだが、神官の女子と魔王は快くそれをむしゃりと食べてバスを待った。

 そうこう時間を潰しているうちに来たバスに乗り込む。決済は杖によるスマート決済だった、そういえばモモが食料調達の時も素早かったし、そういうワンタップの決済が行き届いているのかもしれない。情報化社会が進行しているようだった。異世界なのに?

 顎に手をやりながら奥の席に向かう。神官の女子と魔王を座らせると(神官の女子が窓際で、魔王が通路側だ)、俺はつり革を掴んでその場で立ち尽くした。そんな中、やはりハロウィーンでもないのにクッキーを配る少女。幸せを振りまいている自分に酔っているのだろうか。その様子を眺めていると、魔王が俺に疑問を呈する。

「お前、座らんのか?」

「人間座ったままだと血行が悪くなるからな、俺はいつもこういう時立つようにしてるんだよ。文句あるか?」

「いやないが、目立つじゃろ」

「子供がそんな変な口調でしゃべる方が目立つだろ、それに目立つ奴は他にもいるから大丈夫だ」

 お菓子配ったり、黒いコートを羽織る奴とかな。彼らを一瞥してから、偽装家族縁起のために、魔王の頭をわしゃわしゃする。それを契機と見てか、腕を伸ばして俺の首をホールドして寄せてきた。何事かと視線だけ魔王を捉えさせた。ひそひそ声でやり取りする。子供に遊ばれるパパという様子だと解釈してほしいものだが。

「ついでじゃ、1つ言っておきたいことがある」

「なんだよ、このタイミングじゃないとダメなのか?」

「ああ、今気づいたことなんじゃが――――」

 ぐらんぐらんと揺れる車内で、それでもしっかりと首根っこ掴まれてその言葉を聞いたが、まるで首筋に刃物でも突きつけられたような気持ちを味わった。

 ――――あの大男、多分バスジャックじゃよ。ナイフを胸に仕込んでおる。

 だって大男は、丁度俺の後ろに座っていたのだから。
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